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第33話 断れない案件

少し進展します。

 一晩ゆっくり寝て、異能を使った疲れは回復していた。


(今日は昨日の続きはあるかしら?)


 スミレは教科書を鞄に詰めながら、これからの予定に思いをはせる。


(あるとしても、ランニング、筋トレが先ね)


 体力作りを本格的に初めてから、食欲が増した。

 これで、トレーニングをやめて、食欲だけがそのままになってしまったらどうなるのか。

 考えるだけで怖い。

 コロコロ転がる自分の姿。

 スミレは振り払うように首を振った。

 トレーニングは続けていかなければ。


(えっ。ずっと?)


 スミレは目を細め、遠くを見やった。


(大丈夫。慣れてきたもの。そのうち苦にならなくなる筈)


 ふふ、と、力なく1人笑っていると、ふいに名が呼ばれた。


「東条院! おお! よかった!まだ教室にいたか!」


 顔を上げた先、教室の前扉から、担任の一之瀬が顔を覗かせていた。


「これから学長室に行ってくれ。学長がお呼びだ」


 どうやら自分の考えに熱中していたらしい。

 教室にはスミレの他、誰もいなかった。各々、部活に行ってしまったらしい。

 この学園で、特に異能を持たない者は、部に参加しなくてはならない。

 それでなくても、この学園の生徒は、自分を磨く努力を惜しまない。

 無駄な時間などないとばかりに、行動をする。

 そのため、終業のベルと共に、教室内から人が引くのが早い。


「東条院? きこえたか?」

「ああ、申し訳ありません。聞こえております。学園長からの呼出ですか? 私、呼ばれるような悪い事はしてないですが」


 鞄を持って担任に近寄る。


「呼び出しの理由は、私にはわからない。とにかく急いで行ってくれ。お待たせしてはいけないからな」


 それにはスミレも同意見だ。

 学費フリーにしてもらっているのだ。機嫌を損ねられたら困る。


「わかりました。すぐに参ります」


 スミレは足早に学長室へと向かった。

 スミレと片桐の初登校日、学園長が所用で外出していた為、挨拶できないまま、今日に至っている。

 したがって、本日が初めての顔合わせだ。


 どんな人物だろうか。とにかく失礼のないようにしなければ。

 好奇心2割、気負い8割で学園長室の前にたどり着いた。


 息を軽く吸った後、扉を叩く。

 ほどなく内側から扉が開き、中へと通された。

 学園長の秘書だろうか。紺のスーツを着た細身の男は、扉を閉めると、部屋の正面にある大きな黒檀の机の横に移動した。

 扉の一歩内側でスミレは立つ。


「失礼致します。お呼びと伺い、参りました。東条院スミレです」

「ああ。急に呼び出してすまない。さあ、ソファにかけて」


 そうスミレに声をかけたのは、執務机の持ち主、学園長と思われる人物だ。

 思われるではない。返答からしてほぼ確定だろう。


(確か名前は、法珠露棋(ほうじゅつゆき)だったわね)


 柔らかな声。髪は男性にしてはかなり長い。思ったよりも若い。30代ではないだろうか。洗練された物腰で、一目で上等な部類に入る人間だとみてとれた。


 スミレは軽く会釈すると、執務机の前にある示されたソファに腰を掛ける。

 自然、テーブルを挟んだ先、真正面にいる人物と対面する。

 20代後半か。背が高くがっしりしている。意思が強そうな眼差しが印象的だ。仕事ができそうな人物。


(あー)


 この手の人物とはあまり関わり合いになりたくない。

 父の近くにいる側近によく似ている。

 スミレが座ったところで、早速学園長が切り出した。


「今日呼んだのは、他でもない、君に力を貸してもらいたいからだ。とはいっても私ではなく、君の正面に座る男性、正確に言えば、彼の主人にだがね」


 初対面で、スミレのような小娘に力を貸して欲しい。

 この学園で。

 百パーセントの確率で、異能の力に関係しているだろう。


「お初にお目にかかります。(さかき)と申します。今学園長が言われた通り、どうか力を貸していただきたい」


 いただきたいときたか。


(十中八句断れないわよね)


 それでもとぼけてきいてみる。


「どういう事でしょうか? 私は一介の生徒に過ぎません。お力にはなれないかと思いますが」

「ご謙遜を。貴女には類いまれなる能力があると伺っております。予知能力いう素晴らしい能力をね。その能力を持っている貴女だからこそ、今回お力を貸していただきたいのです」


 スミレは鋭く学園長に視線を飛ばす。

 いくら援助をしてもらっているとはいえ、個人情報、それも本人のトップシークレットな内容を自分の与り知らぬところでバラされるのは、不快以外の何物でもない。

 今後このような事が続くようなら、何か対策を考えなければならない。


「誤解しているようだが、私は何も話していない。彼が調べたんだ。彼にはそれだけの力と能力がある。私は事情を話されて、君と引き合わせただけだよ」


 スミレはその話が真実かどうか見極めようと目を細めた。

 学園長の顔色からは何も読み取れない。


(はあ)


 今回だけは学長の言葉を信じるしかないようである。

 今後は情報が漏れないよう、工藤に情報の守秘をお願いしよう。


「失礼致しました。よくお調べになっているようですわね。それなら余計にお判りでは?私にはそんな大層な力はないことを」

「予知の力がある、それ自体が重要なのです。力の強弱は、今回関係ございません」


(この男)


 スミレの能力がたいしたことないと、あからさまに言っている。

 内心で感じた苦々しさを押し隠し、笑顔で切り返した。


「私の力を知って、なおもこうしてどうしても、と、頼まれるのであれば、承りますわ」


 榊はピクリと眉尻を動かしたが、それ以外は表情に出ない。


「ありがとうございます。早速、本題に入らせていただいても?」

「はい」


 更に大きく笑顔を作る。

 目の端に、面白そうにしている法珠が憎らしい。


「では、お言葉に甘えてお話させていただきます。難しい事ではありません。貴女のお時間を数時間いただきたいのです。私の主人の為に」

「どういうことでしょう?」

貴船楓(きふねかえで)、という名前に聞き覚えありますか?」

「はい。存じております。同じクラスです」


 榊の口から出たのは、クラスメイトの名前だ。ただし一度も会っていない。

 彼女はスミレが転校して来て以来、いや、明石によるとその前からずっと休んでいるからだ。


「貴船一族は代々異能を持つ者が生まれます。一族すべてが何らかの能力を持って生まれてくるのです。

その中でも本家のご息女である楓さまは、強い予知能力を持っています。近年例を見ないほどの強さの持ち主なのです」


(はいはい。私とは違い、サラブレットのお姫様なのね)


 スミレとは大違いとの言が滲み出ていると感じるのは、自分のひがみだろうか。


「ところが、楓さまのその力が、二ケ月前から使えなくなってしまったのです」


 榊は手のひらを組み、目を伏せた。


「原因がわからないのです。それで楓様はひどく気落ちされて」


 二ケ月前に、能力が使えなくなった。

 口に出して言ったら、怒られそうだが、なくなってしまった。

 スミレだったら、小躍りしていただろう。

 人によって、受け取り方がそれぞれだと思わずにいられない。


「考えられる方法を試したのですが、一向に事態が改善されません。そこで、同じ能力者の方から直接話が聞ければ、もしかしたらその原因の一端が掴めるかもしれないと思った次第です」


 そんな有能な能力者に、話すことなど何もない。こちらのほうが色々聞きたいくらいだ。


(でも、そうね)


 これはスミレとしても、またとない機会かもしれない。

 正当な血筋のお姫さまより話が聞ければ、今後自分の能力を伸ばす大きな足掛かりとなるかもしれない。


「お役に立てるかわかりませんが、お話するだけでしたらぜひ。私もクラスメイトの楓さまと仲良くしたいですし」


 とびきりの作り笑いを浮かべ、スミレは承諾の返事を返した。


「ありがとうございます。では早速移動をお願いします」


 榊はスミレの返事を聞くや、立ち上がった。


「えっ! あの、これからですか?」

「はい。楓様もお待ちしてます」


 そうか。やはり端から断れない前提の話だったのか。


「かしこまりました。これからですと、本日中に帰ってくるのは難しいですわね」


 すると、そこまで黙って成り行きをきいていた学園長が口を開いた。


「問題ない。学園のヘリを使う。遅くなるだろうが、本日中には、寮に帰って来れるだろう」

「ヘリですか!?」

「ああ、これから行くところは、船は使えない」

「いったいどこへ行くのですか?!」


 スミレの悲鳴に近い問いに、答える者はいなかった。


「学園長、失礼致します。お礼はまたのちほど」

 榊は学長に一礼すると、踵を返す。


「さあ、東条院さま、参りましょう」

「深遠館へは連絡しておく。よい報告を待っている」


 学長の声を後ろに聞きつつ、榊に腕を取られて10分後。

 スミレは空の住人となっていた。



運動は一度やり始めると、ずっとやらないとやばいことになりますよね。。

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