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第31話 異能の訓練

遅くなりました!

 翌日。

 今日も片桐は別室で、男性のスタッフに指導を受けている。

 クラスも別、深遠館でも別行動が続いている。

 彼が少し心配になる。


(というより、私が寂しく感じている? まさか。小さな子供でもあるまいに)


 スミレは浮かんだ疑問を否定した。

 と、そこへ内藤が現れた。


「さて、始めましょうか」


 スミレが連れて来られたのは、広さ20畳はあるかと思われる板張りの部屋。

 上座には無限と書かれた掛け軸。下手は障子が開け放たれており、庭には波を表しているだろう白地の砂が見えた。まるでお寺に来たようだ。


 内藤は庭に近い場所まで歩くと、そこに座った。

 自然スミレも彼女の前に習う。

 今は7月の始め。もうすでに昼間は暑い。しかし、ここはクーラーもないのになぜか涼しい。日が差す庭の砂はきっと熱せられて熱い筈なのに、色が白いせいかとても涼しげだ。

 そして何より静かだ。この建物内では何十人ものスタッフが働いているのに、この部屋には届かない。

 内藤と2人きりしかいないように思える。


 自然ここ何日かで身についた瞑想に入る。


「心ってどこにあると思う?」


 突然の質問にスミレは戸惑い、目を開ける。


「ああ。目を瞑ったままで。リラックスしながら、ゆっくりでいいの。質問について考えて」

「わかりました」


 スミレは再び目を瞑り、外界を遮断する。


 心がどこにあるか?

 そんな事考えてみたこともなかった。

 スミレは瞳を閉じたまま口を開く。


「心とは、考える己の思考と考えるならば頭。考えるより衝動で身体を支配すると考えるなら、心臓。どちらかでしょうか」

「そうね。頭と心臓。大概の人はどちらかと答えるでしょうね。それにしてもその理由がとても論理的だわ。素晴らしいわ」

「いえ」

「心は私たちにとって、核とも呼べるものであるはずなのに、その実態はまだまだ謎が多いわ。身体のどこにあるのか。その役割。目に見えないもの、現象の最もたるものだものね。異能の力も、心に似ているわ。身体のどこに宿っているのか。目には見えない。なぜ持っている者と、いない者がいるのか。謎だらけだわ」


 そうかもしれない。

 スミレは頷く。


「けれど似て非なるもの。最もたるものは、異能は人々に、そして持っている本人にも、恐怖をもたらす事でしょうね」

「!」

「心は皆持って感じる事が出来るわ。だから他人の心も受けいれる事ができる。けれど行き過ぎた心の暴走は、やはり恐れを抱かせる。そして人々を遠ざける。異能は持っている者が著しく少ない。だから共感できない。人は知らない事に恐怖を覚える。たとえ暴走していなくてもね」


 未知のものは興味対象になりえるが、脅威にもなりうるという事だろうか。


「だから異能がどういうメカニズムになっているか解明すれば、恐怖の対象ではなくなるでしょう?将来そうなればいいなって思うわ。できれば、誰でも使えるようになればいいと思うのよ。私も使ってみたいし」


 ふふっと内藤は楽しそうに笑う。


「でも、そうなるにはかなりの時間が必要でしょうね。だからね、今持っている人たちが世の中で生きやすいようにできればいいなって、私は思うの。そしてできれば、異能を利用して生計を立てられればいいとも思うのよ。だって一つの才能だもの」


 スミレは大きく目を見開いた。


「才能、ですか?」

「そうよ。人にはまねできないものでしょ。折角持ったものだもの。磨いて活用しないと!」

「でもさっき内藤さんは、異能は恐怖の対象だと言いましたよね。どうやって活用できるとお考えでしょうか?」


 テレビなどで、見世物になるのは御免である。


「だから、今からよく貴方の力をみて、どういった活用ができるかみつけましょうってことなの。その為にこの組織があるんだから」

「そうできれば、良いですね」

「できるわよ。できると信じることが大事よ。ああ。ごめんなさい。少し話がずれたかしら。話をもとにもどすわね。さあ、もう一度目を瞑って」


 内藤の言に従い、スミレは目を瞑る。


「心はどこにあるかわからない。それと同じで、異能もどこに宿っているかわからない。でもどちらもある。だから存在自体をまずは肯定すること。ここから始まります。力は貴方の中にある。ないと否定していたら、力は奥にしまわれたままになってしまうわ。まずは肯定すること」


 力の肯定。ここに来ると決めたから、それは頭ではわかっている事だった。

 それでもなかなか認めるのは難しい。

 スミレはあえて声にだしてみる。


「私の中に力はある」

「そうよ。スミレさん、自分の中を見つめて。内へ内へ。おさえつけてはだめよ。場所は突き止めようとはしなくていいわ。力を感じて。ゆっくりでいいのよ」


 内を見つめる。どうしたらいい?どうやったら感じる?自覚できる?

 本当に自覚なんてできるのだろうか?


「否定してはだめよ。深呼吸して。奥へ奥へ。」


 身体の奥? 心の奥?

 全くわからない。


「貴方が初めて力に気づいた時を思い出してみて。確か4歳くらいの時に、変わった生き物を視たのだったわね?」

「そうです。緑の綺麗なもの」

「お兄さんには視えなかったのね?」

「はい」

「その時の感覚は?」

「別に。花が見えるのと一緒です。私には花も、緑の小さいのも同じように視えただけ」


 アニメやおとぎ話のように、心の奥から力が湧き出るなんて事はなかった。


「そう。スミレさんにとって、視えるのは自然な事なのね」


 そうだ。私にとっては呼吸と同じだった。


「区別がつかないから、困りました」


 私に視えて、周りの人が視えないもの。


「そうね。他人と違う風景が見える。それが違うことすらわからなかった時には、不安だったでしょうね」


 スミレは頷きながらも、心では否と答えた。

 不安ではない。視えるそれらはスミレには害を与えなかったから。

 ただ、視えることによって周囲から向けられる目が怖かっただけ。


「ならば、今までスミレさんが視たもののリストを作りましょう。何か法則があるかもしれない。それが今後スミレさんが過ごしやすい手助けにあるかもしれないし」

「はい」

「では次の質問ね。力を使って何かしようと思った事はない?」

「ないと思います」


 視えるものは、いつだって向こうからやってきた。

 戯れるように。何も知らない時にはとても幸せにしてくれた。


「あ」

「何?」

「はい。一度だけあったかもしれません」


 そう忘れていたけど。小学生の時だ。


「空を飛んでみたいって思ったんです」


 何かのテレビ番組の影響かもしれない。

 空の上から地上を眺めてみたいと思った。


「できたの?」

「わかりません」

「どういうこと?」

「空に手を伸ばして。空へ空へ。行きたい! そう思った時、空が凄い速さで迫ってきたんです。それはもうすごい速さで。空が落ちてきたのかと思ったほどで。怖いって思って、そこで目を瞑ったんです」


 そうだ。あれはきっと自分が空に上がった。


「それで?」

「それで終わりです。胸がどきどきして。もう二度とやりませんでした」

「もしよければ、それを再現してみない?」

「無理です」

「どうして?」

「今は空を飛びたいと思わないですから」


 あの時、精神だけでも空に上がったのなら、それは純粋な気持ち、空を飛びたいという強い欲求があったからだろう。


「それに空なんて飛べる訳ないです」

「その制限そこが能力の発動を妨げているのかもしれないわ。できないと思った時点で、終わり」

「そう言われても、いきなり空を飛んでみろと言われても」

「そうね。いきなりは無理ね。ごめんなさい。でもこれで一つわかったわね。貴方はやろうと思えば、心を飛ばせるのかもない。心を飛ばして視たいものを視れるかもしれないわね。それは現在だけではなく、過去や未来へも行けるのかもしれない。その力に反応して小さき者たちが無自覚なあなたによりわかりやすい形で知らせてるのかもしれないわ」

「彼らがわかるのではなく、私の力が彼らを導いてるという事ですか?」

「そういう可能性があるということよ。本当に貴女は視ることに秀でているのね。そういうことなら」


 内藤は一つの提案をする。


「なんですか?」

「今度は意識を外に外に向けてみて」

「外とは?」

「まずは五感で感じるもの。身体という境界を取り除いて。意識を広げるの。この部屋の外。この屋敷の外へと。片桐君を探してみるのもいいわね。彼は今どこにいるかしら」

「そんな事」

「できない? そう思ったらできないし。貴方の問題も一向に解決しないわよ」

「!」


 スミレはぐっと言葉に詰まった。確かにできないできないと言ってたら何も進展しない。専門家の指示に従うのがベストだろう。

 スミレは一度目を開けて、大きく息を吸い込むと再び目を閉じた。

 今まで、内に受けていた目を、今度は外に向けて行く。


(イメージ、イメージが大切だわ)


 目は塞がれている。目には頼らない。

 耳を澄まそう。

 何が聞こえる。虫の声。風の揺らめき。その他は。

 段々と自分がぼやけて行くのを感じる。

 片桐が何をしているのか知りたい。


(片桐くん。片桐くん)


 心の中で呼びかけてみる。

 答えて欲しい。

 と、心が引かれる。そちらに身体の一部が引かれるようだ。

 いるという感覚だけがある。

 まだ広がるだろうか。

 一旦片桐への注意をなくす。

 意識をより外へ。

 建物の外まで。上も下も左も右も。広がる。広がっていく。

 空間を空気を感じる。

 自分が水のようだ。

 ああ。なんだろう。眠っているような。

 ぼんやりした感覚。


「スミレさん?」


 自分を呼ぶ内藤の声で一気に引き戻される。


「大丈夫?」


 心配そうに見つめてくる内藤の顔。


「大丈夫です」


 スミレは軽く頭を振った。


「どう? できた?」

「はい。ですが、これには限界があるかと思います」

「そう思ったらできないわよ」

「違うんです。意識を伸ばすことはできますが、段々と自分が薄くなるっていうか。なんでしょうか。効率が悪いような気がします」

「効率?」

「何か探すという目的があったほうが、いいような気がします。ないと、自分が溶けてしまう感覚があります。それと今のようにある程度たったら声をかけてもらわないと帰ってこれなくなってしまうような気がします。なので、それを考慮してやり方を替えたほうがいいような気がします。なんですか?」


 内藤が呆けたような顔で、スミレを見つめてくる。


「すごいわ。スミレさん。少しのヒントでここまでできるなんて。初めてなのに。もしかしたら、意識せずに、力を行使していたのかもしれないわ。でないとここまでできないと思うの」

「もう一回やってみてもよいですか?」

「だめよ」

「でも、何か掴めそうな気がします」

「それでもだめ。スミレさん、貴女、顔が真っ青よ」

「えっ!」


 そう言われれば身体がだるいような気がする。

 自覚すると段々身体が重くなってくる。


「今日はこのまま休んで。今日は予想以上に、貴女の能力が分かったわ。無理は禁物。先は長いんだから」


 スミレは力なく頷いた。




瞑想、今、建がやったら、そのまま寝てしまいそうです。。

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