第28話 学園は厳しい
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
今日は少し長めです。
東条院実の死を回避できなかった。
だが、“辺境の地”との契約要件。
スミレの親類知人で死に行く者を特定し、助ける手助けをする。
これは十分に果たしてくれたようと思う。
と、なれば、今度はスミレたちの番である。
2人も契約を果たすため、特待生として、周貴法学園に入学した。
契約を果たす。もちろん、それは一番の理由であるが、スミレ自身、自身の力を知るよい機会だとの打算もあった。
無知のままでいるのは、自分の選択肢をなくしていることだ。これから自分にできる事を広げていくには、自身の能力を知らねばならないとやっと気づいた。逃げてばかりではいられないと、やっと向き合おうと思えた。今は隣にいない、片桐の存在が大きいかもしれない。
この学園、島にある為、基本全寮制で、男子寮女子寮と別れている。
寮とは言ってもかなり豪華な部類に入るだろう。
寝室、リビング、簡易ながらキッチンもある。バストイレ付き。
備え付けの家具も品がよく、広さもそれなりにある。さながらホテルのスイートルーム並みである。
寮の管理人である、広瀬と名乗った女性にスミレは領内の案内を受けながら、学生にここまでの部屋が必要なのかと考えてしまう豪華さであった。
ちなみに広瀬は20代と思われる女性で、この学園出身だという。
今の時間、午後2時を過ぎ。
学生は授業中で不在のため、寮内はひっそりとしている。
気になったので、広瀬に他の部屋も同じような作りかきいたところ、個室ではあるが、基本八畳ほどの部屋で、バストイレなどは共有との事だった。
「部屋の割り振りは個人の能力によります」
そう説明した、広瀬の笑顔がなぜか怖い。
「優れた能力がある者は、授業のほかにその訓練もあるため、部屋ではなるべくリラックスできるようにとの配慮から、よりよい部屋が与えられます」
それだけ期待度が高いという事か。
という事は、スミレを助けるために、あれだけの力を見せた片桐だ、彼も同じような部屋を与えられている可能性大だ。さぞかし落ち着かないだろう。
スミレも同じである。編入して来ただけでも目立つのに、寮でも上位の部屋を与えられては居心地も悪い。
「あの、普通のレベルの部屋に変えてもらないでしょうか?」
「できません」
きっぱりである。その後の笑顔もまた怖い。
こうなったら、部屋の分配がいじめの一端にならない事を祈るばかりである。
学園は中等部と高等部があり、スミレ達は高等部の一年に編入する。
一年は、AからCの3クラスあり1クラス40人。
スミレはAクラス、片桐はCクラスになった。
ちなみに2年、3年になると学ぶ内容によりクラスを分けるため、クラスがもっと増えるらしい。
詳しくはおいおい説明があるとの事だった。
まずは学校と寮生活に慣れなくてはならない。
広瀬による寮内の説明が終わり、スミレは自室へと戻った。
明日からいよいよ学校生活が始まる。
クラスでは無難に。勉学と能力を磨く努力は最大に、をモットーに頑張るつもりだ。
スミレは部屋で簡単な食事をとった後、早めに休んだ。
初日から寝不足、遅刻など避けたかったからである。
「お休みなさい。片桐くん。明日から頑張りましょう」
おそらく自分と同じように落ち着かない夜を過ごしているであろう片桐にむけて挨拶すると、スミレは目を閉じた。
「初めまして、東条院スミレです。よろしくお願いします」
スミレは教師の隣に立ち、お辞儀をした。
教室内、3分の2を占める男子。落胆の色を滲ませている。
(まあ予想通りですわね)
スミレの容貌は平凡だ。可愛い女子を期待したであろう男子たちには、誠に申し訳ない。
本来スミレにとって失礼にあたる視線が、ほっとさせた。
平和な日常を感じさせたからだ。転入生への一般的な反応。特殊な学校と身構えていたスミレの肩の力を抜いてくれた。
「東条院の席は、窓際の一番後ろの席だ」
担任の一之瀬に告げられ、スミレは向かう。
着いてくる視線は好奇の視線。この学校に途中入学してくる意味を、彼らは知っているのだろう。
自分たちの上か下か。
見極めようとしているのか。
途中、教室のほぼ中央あたりの席がぽっかり空いていた。
どうやら欠席者がいるらしい。
クラスメイトの顔と名前は早めに覚えたい。
明日この席の人物をチェックしようと、心に留め、スミレが41番目の席に着くと、一之瀬は出欠を取り始めた。
午前中の授業は滞りなく、終了した。
しかしやはり、前の学校との進み具合違う。自己の補習がかなり必要なようだ。
スミレは天才ではないので、予習復習と日ごろの勉強は必須である。
ただ授業を受けた感触からすると、そのほかにテレビ電話などを通しての家庭教師に教わる必要があるかもしれない。思いの外、高いレベルにスミレは指先が冷たくなった。
香蓮に頼むかどうか悩みつつ、昼食をとるため席を立った。
学食の場所を誰かに聞こうと、顔を動かしたところで、見知った人物と目があった。
瞬間、眉間に力が入る。
相手は構わず、スミレに近づいて来る。
「工藤さんから頼まれている。学食へ行くのだろう? 案内する」
そう感情の籠らない声で告げたのは、碕森からキロと呼ばれていたポニーテールの少女、明石季路だった。
担任の一之瀬が出欠を取った際に、同じクラスに彼女がいると気づいたが、関わり合いになろうとは思わなかった。
なにせ出会いが出会いだったからだ。
スミレが躊躇しているのがわかったからだろう。少女は続けた。
「この前は、すまなかった。命令だった」
少女は、頭を下げた。
この学園、あの組織に属している以上、犯罪すれすれの行為でも、従わざるおえないのかもしれない。
自分も昨日からその一員になったのだ。今後仲間内でギクシャクするのは避けたい。
「謝罪は受け入れました。改めて、東条院スミレです。よろしくお願いします」
「明石季路だ。では行こう」
今度は素直に従い、彼女とともに歩き出した。
学食は全学年が一度に来ても余裕で座れる広さであった。
流石に島というと外界と遮断されているため、施設は充実している。
メニューも豊富で、いくら食べても無料だという。
「それはすごいですわね」
スミレは驚きに目を丸くする。食べ盛りの高校生だ、食費だけでも、随分な支出になるのではないか。
「沢山食べないと、身体が持たない。東条院もしっかり食べたほうがいい」
明石には沈痛な表情を浮かべ、そっと目を逸らされた。
(どういう事ですの?!)
スミレの背中に汗が一筋流れた。
昨日もらった時間割を見た限りでは、普通の学校と変わらないと感じた。
「そんなに大変なの?」
思わず疑問がついて出た。
「ああ。普通の学校でも習う教科については、半年で、一年分を終わらせる。二学期後半から三月にかけては、より高度の知識、特に語学を重点を置いて勉強する。英語だけでなく、他の語学も学ぶ。勿論、体術も習う。柔道や剣道はもちろん武術全般を習う。他にも礼儀作法や、茶道花道、日本舞踊なんかもやる。私たちみたいな能力がない者は、一学期から放課後は身体能力を高める訓練が行われる。それは中等部も同じ」
という事は、中等部から上がって来ている生徒はほとんど、今明石が言ったものの素地は出来ている筈である。
加えて午前中の授業を受ける生徒の態度。
誰一人ふざける者はいない。皆真剣に授業を受けていた。
スミレは顔から完全に血の気が引いた。
手も氷のようだ。
果たして自分はここでやっていけるのか。
明石の話をきいて、今まで自分がどんなにぬるま湯の生活をしていたか。
甘やかされてきたのか痛感する。
編入試験は異能がある者には入りやすく、配慮されていたのかもしれない。
入ってからが本番。やる気がなければ、落ちこぼれる。
特待生として入ったからには、赤点など取るわけにいかない。
死に物狂いでやれと言われているようだ。
平手で顔をひっぱたかれたように目が覚めた。
その時、軽く肩に手を置かれた。
「私たちは能力が高いからまだよい方だ。大丈夫だ、手助けする。あまり気負うな」
明石の男顔負けの凛々しさに、スミレは心がくらりと揺れた。
スミレとキロの会話、もう少し花がある会話をさせてあげたい。




