第24話 香蓮と碕森
少し遅くなりました。すみません。
3日後、“辺境の地”との約束の日。
その日は平日だった為、スミレは学校に行き、通常通り授業を受けた。
“辺境の地”との契約が結ばれれば、この私立糀ケ石高校へ通うのも、今日が最後かもしれない。家に迷惑をかけないレベルの学校、そして自分を誰一人知らない学校で、香蓮の住まいから通える学校などと、それなりに悩んで決定した学校だ。
去りがたい気持ちがすこし湧く。残っても無難に過ごしていただけなのに、何とも不思議である。
その気持ちを抱えつつ、帰宅の途につく。
電車から眺める景色を見ながら、今後に思いをはせる。
この転校は、自分にとって大きな転換になるだろう。無難に目立たずを第一に考えていた自分が、自分を磨いていく方向へと舵を切る。周りからしたら大したことではないだろう。
だが、自分にとってはかなりな変化になる。
それも自分1人ではなく、片桐の人生をも変えてしまうのだ。生半可な気持ちではすまない。
まずは、その第一歩となる碕森との話し合いだ。
新たな門出をスムーズに済ませるために、気を引き締めよう。
スミレはそう気を引き締めた。
家に着くと、すでに片桐がスミレを待っていた。
今日は“辺境の地”との話し合いが、香蓮の執務室で行われるため、トレーニングは休みである。
「行きましょうか」
スミレは自室へとカバンを置くと、再び玄関へと向かった。
片桐がそれに続く。
2人は、最上階へ向かうエレベーターに乗り込む。
今回は事前に用意が整っている。もうすでに“辺境の地”の者が到着しているはずだ。
さあ。新たなステップ。
今回はこちらの陣地だ。
上手く進めて、新天地では、なるべく気持ちよく過ごしたい。
その話し合いが今始まる。
スミレは気合を入れて、香蓮の執務室のドアを叩いた。
すぐに扉が内側から開いた。
スミレが一歩踏み出す。
向かって右側のソファには香蓮。左側には碕森と工藤が座って二人を出迎えた。
(な、なに?)
香蓮から黒い物質が噴出している。顔も怖い。いったい何があったのか。碕森は前回と同じだ。頭にひまわりが生えている。工藤は平常運転。動じていない。
横に立つ黒川をちらりと見上げれば、横に一つ首を振られた。
(はあ)
どうやら、香蓮は碕森を気に入らなかったようである。
いや、敵認定している。
初っ端から、躓いてしまったようである。
(はあ)
スミレは促されるままに、片桐とともに、香蓮の横に座った。
今日は大人数での話し合いの為、大きめのソファに変えられていた。
「やあ、やあ! スミレくん。ご機嫌はいかがかな? 今日はよい天気だね! 新たな出発にふさわしい日だよ!」
部屋に入った途端に、気分が憂鬱になりましたとは言えず、スミレはにこやかに切り返す。
「ええ。本当によい天気ですわね。碕森さん、本日はわざわざご足労願いまして、感謝致しますわ。又、お待たせして申し訳ありません」
「とんでもないよ! この前は大変無礼な訪問をしてしまったからね! 謝罪の意味も含めて、こちらから出向くのは当然さ」
その碕森の言葉に、香蓮がピクリとさせた。
まあ、そうだろう。合理的だとはいえ、拉致するのは、無礼どころか、犯罪だ。
それを言及すれば、隣の香蓮が噴火しそうなので、敢えて触れないでおく。
「スミレたちが来る前に、お2人が早めに来られてね。今後の事もあるし、親交を深めていたのだよ。じっくりとね」
顔は笑っているのに、目が笑っていない、叔母の顔が怖い。
「そうさ。香蓮さんは、とても素敵な女性だね! そしてとても頭も大変切れる!」
「ええ! 貴方も多方面に頭が切れておられますわね! 私もかないません!」
「はは! そう褒められると照れるね!」
「ほほ!」
「ふふ!」
スミレは背中に一筋の汗が流れるのを感じた。
どうやら、碕森と香蓮の相性は最悪らしい。
(触れない。触れないで話を進めましょう)
スミレは、工藤に視線を送った。
「叔母とはどこまで、話を進めたのでしょうか?」
「はい。私どもの組織について、もし契約ができれば、貴女が通う事になる学園の事、こちらの条件についてお話できる事はお話致しました。香蓮様はスミレさんの保護者でいらっしゃいますから、包み隠さずお話しておきませんと、のちのちトラブルになると困りますから」
話すべき事は、どうやらもうほとんど終わっているらしい。
「ただ、最終的なお返事は直接、スミレさんからと、香蓮さまからお話があったところでございます」
「叔母に話した内容は私に話してもらったものと同じでしょうか?」
「はい」
香蓮を見ると、頷く。
3日前スミレの話した内容と、今日話された内容に祖語はないようだ。
「私からも条件に2、3付け加えさせてもらって、了承を得ている。詳しい事は後で話すよ。その上で、保護者としては、反対はしない。スミレのしたいようにしたらいい。どうする?」
ならば、スミレの心は決まっている。
「碕森さんに、お世話になります」
スミレは立ち上がり、頭を下げた。
片桐もスミレに習うようにした気配を感じる。
「うん! よかった! 君は貴重な存在だからね! 僕としてもうれしいよ! これからよろしくね!」
「はい。よろしくお願いします」
「じゃあ、具体的なスケジュールを詰めて行こうか。工藤くん、よろしく」
「はい」
こうしてスミレは新たな第一歩を踏み出す事になった。
と言っても、すぐに引っ越し、即転校という運びにはならなかった。
まず契約条件であるスミレ側の問題解決に、スミレの能力が必要ではなかったからだ。
もし、スミレの能力が必要なら、即日碕森たちと合流しなければならなかったが、スミレが予知を受けた、死に近しい者の特定には、組織の者で事足りる。
ならば、慌てて引っ越し、転向する必要もない。
ただ、人を視る作業はとても体力気力を消耗するらしく、時間が要するとの事だった。
2ケタ、あるいは3ケタの人物を視なくてならないならなおさらである。
資料については、香蓮から工藤にすでに渡っており、結果待ちである。
スミレたちが今できる事は、早く見つかるよう、祈るだけである。
“辺境の地”が頑張ってくれている間、スミレ達も、引っ越し、転校に向けて準備を進める事になった。
碕森たちとの話し合いの3日後、学園の編入試験を受けた。
スミレと片桐は高得点を取り、2人で特待生になる事ができた。
学費と寮の滞在費など、すべて免除される。
ただし、学業の妨げにならない範囲で、“辺境の地”への研究の協力が必須であった。
これは予め条件にあったため、当然である。
寮の受け入れ準備、学園のどこのクラスに入れるかなどの協議があるため、2人の引っ越しは更に1週間後。転校はその2日後に決まった。
引っ越しと転校が決まった時点で、香蓮からまた片桐の親へと連絡し、話し合いが持たれた。
今度は片桐の強い要望により、彼も香蓮と同行することになった。
まだ未成年のスミレは話し合いが上手くいくように、自宅で引っ越しの準備をしながら、待つしかできなかった。
帰って来た後、駆け寄って様子を聞いたスミレに対し、引っ越し、および転校の了承をもらえたとだけ片桐は語った。
香蓮も満足そうに頷いていたので、詳しくは聞かなかった。
スッキリした表情の片桐を見て、彼の中で一つの区切りができたとわかった。
彼が話したくなった時に、聞こう。
彼の中の柔らかい部分にかさぶさができたことだけでよしとする。
時は慌ただしい中過ぎる。
問題も解決に向けて動き出した。
何も出来なかった前の時とは違う。
そうして、いよいよ明日引っ越すという夜。
スミレは第3の死の予告を視る事になったのである。
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