第23話 父への報告
今日は少し早く更新できました。どうぞ。
東条院本邸。
ここはいつみても華やかである。東条院の象徴である薔薇。本邸の屋敷を囲むように整備された広大な庭に、何十種類の薔薇が植えられている。以前は屋敷を手放さなければならないところまで、困窮したというが、今はその片鱗も見えない。どのように立て直したのかはわからない。
(3年ぶりね)
懐かしさよりも苦さが先に立つ。庭に咲く薔薇も、スミレの緊張を和らげてはくれない。
早くすませて帰ろう。
自分を温かく迎えてくれる場所へ。
スミレは玄関に横付けされた車から降りた。
今日はスミレ1人で来た。香蓮が付き添うと言ってくれたが、1人で行きたいと断ったのだ。
父とのやり取りを、香蓮と言えども見られたくない。
片桐は、東条院ビル7でトレーニングに励んでいる。
エントランスホールでスミレを出迎えたのは、永江だった。
「お帰りなさいませ。スミレ様」
「滝はどうしたの?」
家令の滝の姿が見えない。
「滝は只今旦那様の用事で、外しております。その為、私が変わってお嬢様の出迎えを致しました」
「そう。双子の世話はいいの?」
「はい。今日は朝から奥様と外出しておりますから」
「確かこの前双子は、お母様にあまり構ってもらえないと嘆いていた筈だけど」
「‥‥‥今日はお暇ができたからお2人と過ごしたいと、お出かけになられました」
「そうなの。双子にとってはよかったわね」
母はどこまでも自分には会いたくないらしい。
おそらく自分の来訪を父から聞いて、出掛けたのだろう。
(変わっていないのね)
自分は何を期待していたのか。スミレは内心で自嘲する。
「お父様は書斎かしら?」
「いえ。今日は西の和室にいます。ご案内いたします」
「わかったわ」
と、歩き出そうとしたところで、足音が聞こえた。
見上げた先、兄である司が、エントランスを囲うようになっている階段から降りて来たのだ。
「スミレ」
「お久しぶりでございます」
「ああ」
3年ぶりの再会だ。
まさか会えるとは思わなかった。
化け物呼ばわりした妹だ。追い出しに降りて来たのだろうか。
「申し訳ありません。用事が済み次第、お暇を致しますので、それまでお目こぼしください」
そうスミレが言った瞬間、兄の顔が一瞬歪んだ。
(嫌悪? ならば、わざわざ降りて来なければよいのに)
「好きにしろ」
司はそう告げると、また階段を上がって行ってしまった。
訳が分からない。ひとまずは許しが出たのだろうか。
なぜか、永江が首を横に振っている。
「行きましょう」
スミレは一つ息をつくと、歩き出した。
西の和室。その部屋は、10畳ほどの部屋で、父の英が、好んで使う部屋だ。
外観は洋風なのに、内部は和風な部屋が多い。
英は長方形の座卓の上座に座っていた。
スミレが下座につくと、すぐにお茶が出された。
永江は部屋には入らず、そのまま下がる。
「30分だ。それ以上は時間をやれん」
前置きなく、時間が切られる。
司に続き、父も変わっていない。
3年ぶりの親子の対面だというのに、まるで仕事の話を進めるようだ。
(姿も変わってない。白髪もなく、涼やかなお顔。司兄さまと、そっくりだわ)
「わかりました。単刀直入に申し上げます。ある学校へ転校するので、そのご報告へ参りました」
「香蓮から聞いている。どういう学校かという事もな。それを聞いて私が許すと思うのか?」
「はい。叔母の調べでは勉強はもちろん、淑女の立ち居振る舞いも学べるとの事。学校のレベルとしてもかなり高いようです。そして何より力が消えない以上、これから先うまく付き合っていかねばなりません。奇異な目で見られないための心得をきっと学園で学べると思うのです。私にはもっとも必要なものです。それが学べれば、少なくとも社会から除外されない筈です」
この家から追い出されたように。
「よかろう。まともに見えるようになれば、東条院の娘として、披露もできよう。学費は出してやる」
「いえ。心配には及びません。成績優秀な者には学費を免除される制度があるとか。試験で高得点を挙げれば、おそらく選ばれるかと」
「ふむ」
「東条院にはご迷惑をかける事がないように致します。ご心配なきよう」
「お前の管理は香蓮に任せてある。手間をかけさせるな」
「心得ております」
「話はおわったか。この後すぐに仕事がある。帰れ」
そう告げると、英はもう用事は済んだとばかりに立ち去ってしまった。
「少しの温かい言葉もなし」
父の座っていた卓上に残された湯呑を見つめ、スミレは情を断ち切れない自分に口を歪めた。
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