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第21話 もう一つの目標

何とか更新できました。

 “辺境の地”との話し合いが終わった翌日早朝、碕森たちはすんなり二人をマンションへと送ってくれた。

 もちろん叔母への連絡も、すぐに入れさせてくれた。当日に帰宅が難しかったのは、夜に船を出すのは危険だった為だ。

 碕森いわく、


「僕は誘拐犯ではないからね。目的さえ達成されれば、監禁なんてしないよ。これから仲間になってもらう人間には好印象を持ってもらいたいのさ。良好な人間関係を築きたいからね」


 だそうだ。

 自分たちを半強制的に連れて来たくせに、どの口がいうのか。良好な人間関係の建設よりも、合理性を重視したという事か。

 どちらにせよ、スムーズに自宅に戻って来れたのは、ありがたいことだ。相手は返事をそれほど急いではいないが、自分の事情によりリミットを3日と切ったのだ。早急に無駄なく行動しなくてはならない。


 スミレと片桐を待ち受けていた香蓮を含め、東条院警備保障の社員の殺気立った出迎えをなんとか諫めて、事情を説明し、自室へ引き上げて来たのは、マンションへ帰宅後、1時間半後だった。

 香蓮には、碕森たちの調査をお願いした。

 そこまでがスミレの精神力体力の限界だった。

 最終的には碕森たちと和解し、一応の話し合いに決着が着いたとは言っても、拉致られたのだ。

 そんな中で、しかも見知らぬ場所で、眠れる訳がない。

 まずは睡眠をとってから。今後の話はそれからだ。


「眠るわ。片桐くんもそうなさい。4時間後に会いましょう」


 スミレはそう告げると、自室のベッドに倒れ込んだ。


 4時間後。

 スミレと片桐はダイニングで遅めの昼食を取った後、リビングに場所を移した。

 ダージリンの香しい匂いが立ち上るカップを前に、スミレはほっと息をついた。

 コーナーソファの一端に座る、片桐も疲れが幾分かとれたようで、肩の力が抜けているように見える。


(よかった)


 これから重要な話し合いをしなければならない。疲れた頭では、正常な判断ができない可能性がある。疲れが取れて幸いである。

 そして話し合いの前に、スミレはどうしてしなければならない事があった。

 それは。


「ごめんなさい」


 スミレはすっくと立ち上がると、深々と頭を下げた。

 突然のスミレの謝罪に、片桐は目を見開き、固まっている。


「な、なぜ」

「当たり前でしょう。私のせいで、貴方を巻き込み、危険な目に併せてしまったのよ。まずは謝らせて」


 そう。スミレの傍にいたばかりに、もしかしたら大怪我したかもしれなかった。現に軽い打撲をして、島で手当てを受けたのだから。


「いい。2人とも無事だったから」


 彼は音がしそうなほどに首を振る。

 彼はスミレ以外、誰もいない時、ひどく幼いしぐさをする時がある。

 それがスミレをひどく和ませる。

 丁度今のように。


「謝罪を受け入れてくれてありがとう。今回は本当、運がよかったわ」


 改めて実感する。

 今後、自分が自分の能力を見つめていくうちに、またこのような事態に陥る事があるかもしれない。

 とするなら。


「ねえ。私は、貴方にもう傷ついて欲しくないの」


 片桐は警戒するように身を強張らせる。

 スミレは構わず続けた。


「だから、私1人で転校するわ」

「いやだ!」


 予想通りの返事だ。

 加え、不正解を咎めるような責める視線を、片桐は向けてくる。


「だめ。だめよ。そんな顔をしてもだめ。今後、私の傍にいるのは危険なんだから」

「いやだ!」


 彼は膝の上で拳を握り、叫んだ。


「それに! 俺にも力がある! だから、スミレと一緒に行く!」

「だから! だから余計だめなの!」


 スミレも思わず叫び返した。

 彼はわかっていないのだろうか。

 スミレのせいで、彼は違ってしまったのだ。


「私を助けようと必死になってくれて、その必死さが、普通の人とは違う力を貴方の中に目覚めさせてしまったのよ」


 命を脅かす危険な目に合わなければ、目覚めなかった力かもしれない。

 あるいは自分の身近にいなければ。


「私は人とは違う力がある事によって、家族から見放されてしまった。なければ、今頃家族と一緒にいられたと思うわ。友達だって一杯できたかもしれない。いつ力を知られ、恐れられるかと怯えるなんて考える事なんてなくね」


 スミレは膝にある自分の両手の平を見つめた。


「ご両親に顧みられなくても、健康になって、普通の学校に通っていれば、これから友達だってたくさんできるわ。大怪我するなど心配する事なくね」


 そこでスミレは顔をあげ、片桐を見つめた。


「貴方はまだ間に合うと思うわ。昨日の力は、偶発的なものよ。命の危険がなければ、そのまま普通に生活できる筈。それは私の傍ではだめ。また昨日のような事が起こってしまうかもしれない。だから、私から離れなさい。いい?」


 短い間でも、癒しをくれた片桐だ。平和に暮らしてほしい。


「転校したら、私はきっと引っ越さなければならないわ。でも、安心して。貴方はずっとここで暮らしていいの。香蓮姉さまによく頼んでおくから」


 自分と離れれば、彼は安全。

 そう思うのに。なぜこんなにも胸が締め付けられるのか。

 なぜこんなにも視界が揺れるのか。

 スミレはぐっと奥歯を噛み締めた。


「スミレも、俺を捨てるのか」

「なっ!」


 仄暗い光が、片桐の瞳で揺れる。


「俺は、いらない?」


 それはまるで彼と初めて会った時の瞳。

 誰も自分を欲しがらない。認めない。いらない。と、何もかも諦めた顔。


(ああ。貴方ににそんな顔をさせたいんじゃないの)


 ただ、普通に暮らして欲しいから。


「私といたら、また危険な事に巻き込まれるかもしれないのよ!」

「いい! 俺は一緒に行きたい! もう一人になるのはいやだ!」

「!」

「俺は、力が持てて嬉しい。スミレの傍にいられる」


(ああ。そんな風に言われたら、何も言えなくなってしまう)


「‥‥‥私と来くれば、力も固定化してしまうかもしれないわ。そうしたら、もう戻れないのよ。人と違うというのは、貴方が考えるよりずっと辛いわ。人と付き合う時に、どこか一線を引いてしまう。笑っていてもふとした瞬間、孤独を感じてしまう。それはとても苦しいわ。」


 そんな人生、彼に歩んで欲しくなかったのに。


「少なくとも、寂しくない。スミレがいる」

「っ!」

「スミレは俺がこれから先、力を使っても、俺を恐れない、だろう?」

「当たり前よ」


 片桐はふにゃんと顔を緩める。


「だったらいい。一緒に行きたい。スミレと」

「もう」


 なんて極上の殺し文句だ。

 ここまで言われたら、もう断れない。


「わかったわ。拾った責任は最後まで取らないとね」


 片桐は嬉しそうに目を細める。

 大げさかもしれないが、彼の人生を変えてしまった責任はちゃんと取らなければならない。

 今後より一層彼に幸せになってもらう。

 これが、スミレの目標の一つに加わった。



スミレも、燿もまだ恋愛するまで、心が成長してないです。。早く成長するといいなあと思います。

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