第17話 ナイト登場
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「片桐くん!」
ぶわりとスミレの目に涙が浮かぶ。
そんなスミレをちらりと見下ろした片桐は、厳しい顔を侵入者に向ける。
「おお、怖い怖い。ナイトの登場ですか。片桐燿くん、でしたか」
やはり相手は、こちらの情報は調べ済みらしい。
片桐は油断なく、スミレを抱えたまま、ソファを避け、部屋の奥の隅に下がる。
少女はスマホで存分に記録を取ったのか、今度は木の実を回収しているらしい。こちらのやり取りには無関心だ。
「片桐くん、スミレさんを渡してください。何、危害を加える事はしません。ただここより静かなところで、じっくり話がしたいだけです」
「断る!」
「困りましたね。貴方には用はないのですよ。大人しく彼女を渡さないと貴方が怪我をしますよ」
「断ると言っている!」
「しょうがないですね。トール、いつまで寝ているんです。出番ですよ」
「イテテ。いきなりけりを入れがったぜ。あいつ」
男の声に答えて、少年がむっくりと起き上がった。
背中をしきりに気にしている。
「全く。油断してるからですよ」
「へいへい。んで、どうするって?」
「2人を引き離してください」
「はいよ。じゃあ、兄ちゃん。そのお姫さんをしっかり守りなよっ!」
その掛け声とともに、少年は大きく手を振り上げた。
と、同時に、二人に衝撃が来た。
「きゃあ!!」
「っ!」
片桐とスミレの身体が、壁に叩きつけられる
その反動で、片桐の腕からスミレがこぼれ出る。
片桐が咄嗟にかばってくれたおかげで、スミレにはほとんど被害はない。
「おら! もう一丁!」
離れた片桐に2度目の衝撃が襲う。それはかなりなものであったようで、片桐の身体が床に崩れ落ちた。
「ぐぅ!」
「片桐くん!」
駆け寄ろうとしたスミレの腕を男が掴む。
「離して!」
片桐も立ち上がろうとするが、その背中を少年が踏みつける。
「おっと。そのまま動くなよ。これ以上すると。骨が折れるぜ」
軽く足をのせているだけのようなのに、片桐は動けないようだ。
「トール。ばか」
「て!」
「もう少しで研究材料が吹き飛ぶところだった。状況を考えて動け」
いつの間に動いたのか、キロと呼ばれた少女は不機嫌そうに、ぽかりと少年の頭を叩いた。
それから男に向き直り、報告する。
「終わりました」
「ああ、ご苦労だったね。さ、では行きますか。思った以上によい収穫がありましたし。わざわざ出向いた甲斐がありましたね。トール、リミットをつけて、彼を拘束しておいてね」
「わっかりました! じゃあ、片桐くん! 悪いがお姫さんを連れてくよ! 帰って来れるかは、姫さん次第ってね!」
少年が足を離しても、片桐はぴくりとも動かない。いや、動けないのだろう。
身体に力が入っているのがわかるのだから。
(いったい彼は何をしたの?!)
スミレの頭に疑問ばかりが、浮かぶ。
ぎしりと片桐が若い男を睨む。
「おおこわ」
少年は茶化すように両手を上げると、男の後を追う。
「では片桐くん、御機嫌よう。スミレさんとは当分会えないかもしれないけど、悪いようにはしないからね」
「片桐くん!」
スミレは身体をひねり、すがるように動けぬ片桐を見つめる。
勝手な願いと知りつつも、願う。
助けて、助けて片桐くん!
片桐とスミレ。二人の瞳が互いを求める。
「スミレ!」
「ざんねーん! あんたのナイトは役立たずさ。もう捨てちゃいなよ。俺が守ってやってもいいぜ」
「ふざけないでちょうだい! 貴方なんかいらないわ! 私は彼に傍にいて欲しいのよ!」
そうスミレが叫んだ瞬間。
弾けるような軽い音が響いた。
それとともに。ゆらりと起き上がる片桐。
「放せ」
暗い炎を滲ませた瞳で、スミレを掴んだ男を見つめる。
「放せ!」
片桐は片手を床に、強く押し付けた。
刹那。強風が巻き起こる。部屋のもの、すべて巻き上がる。それは立っていられないほど。
そんな中、スミレの身体だけ優しい風に包まれて。片桐の腕に収まった。
それは一瞬の出来事で、風に飛ばされた三人は壁に背中を打ち付け、床に膝をついていた。
いち早く立ち直ったのは、リーダーの男。
「ブラボー! 面白い! スミレくんを取られまいとして、力が覚醒したのか! すばらしい! ならば、君も我らとともに来る資格があるよ! さあ、彼女とともに来るがいいよ。少し時間を掛けすぎた。これが、最後通告だよ。もし来ないなら、このビルの人間がどうなるか? わかるかい?」
スミレは片桐の腕の中から、男の愉悦に満ちた顔を見た。
目的のためなら、何でもやりそうな顔。
「それに今は油断したからやられてしまったけど、2度目はないよ。今の片桐くんでは、トールには勝てない」
スミレを抱きしめる片桐の腕に力が入る。
(今の状況だと、男に従うしかない)
香蓮たちを人質に取られてしまったら、どうしようもない。
スミレは勇気をもらおうと片桐を仰ぎ見た。
いつもの彼からは想像つかないほど、苛烈な瞳。
恐ろしさより頼もしさを感じる。
スミレは覚悟を決めた。
「いいわ。行きましょう」




