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第16話 待ち望んでいた人

文章が、難しいです。読みにくかったら、すいません。

 それからどのくらい時間が経ったのか。

 5分、10分。それとも1時間か。

 スマホを持ったまま、円を見つめていたスミレの耳に、玄関の開閉の音が聞こえた。


(帰って来てくれたのね)


 スミレは、ほっと息をついた。

 少なくとも一人で対処しなくてもいい。

 それだけで心が軽い。今回は1人ではないのだ。

 何とか立ち上がり、片桐を出迎えようとスミレは振り返った。

 と、


「やあ。可愛いらしいお嬢さん。こんにちは」


 そこにいたのは、見知らぬ男。


「誰!?」


片桐かと思っていたのに。

逃げろ! 頭は指令を出す。そう思うのに。身体が動かない。

そんな状態のスミレをわかっているのかいないのか、男はにこやかに挨拶する。


「自己紹介が、遅れて申し訳ありません。私は貴方に助けを乞われた者です」

「してないわ!」


 間髪入れず、スミレは叫ぶ。

 確かに助けは乞うた。けれど、それは片桐に、だ。

 叫んだ事で、強張りが解けた。後ずさりする。


 こんな男知らない。年は20代後半か。茶色の髪を後ろに撫でてつけている。髪と合わせているのか、同色の三つ揃いのスーツ。柔和な顔。邪気のない笑顔にみえるが、どうにもう胡散臭くさすぎる。

 男の後ろに2人の男女。こちらは随分若い。10代に見える。スミレと同じくらいだろうか。

 少女は背が高く、無表情。長い黒髪をポニーテールにしている。

 少年は服と同じ黒いキャップをかぶり、興味津々といったようにスミレを見ている。


「おお! なんと! これは良いタイミングで来たようですね! 妖精のメッセージを見られるとは! それもこんなに大きなものを! なんという幸運!」


 男はスミレのいる床に気づくと、嬉々として近づいて来る。


「来ないで!」


 じりっとまた後退る。


「ああ、動かないでください!」


 鋭い男の制止の声に、スミレは反射的に止まる。

 男は躊躇いもせず、スミレの横に跪く。


「素晴らしい! ここまで完璧でかつ繊細なものは滅多に見られるものではありません。よほどあなたに伝えたいと思ったのでしょう。貴方は愛されているようですね」

「何を言ってるの! 突然人の家に入り込んできて、訳のわからない事を言わないで!出て行ってちょうだい!」

「ええ、ええ。わからないでしょう。だから能力の探究をしたかったのですね。可能なら私たちに助けを求めたかったのでしょう?」

「何を言ってるの」

「まだお分かりにならない?ああ、恐怖が貴方に目隠ししているのですね。我々のウェブサイトにいらしたでしょう?」

「!」

「私は貴方を助けるために来ました。さあ。一緒に参りましょう」


 これですべての説明は済んだとばかりに、男はスミレに手を差し出す。


(何を言ってるの!?)


 スミレは混乱した頭で、必死に考える。


(ウェブサイト? ウェブサイト! まさか!?)


 サッと血の気が引いた。


「やっとわかっていただけましたか?」


 スミレの顔色が変わったのを見て、男は安堵したように頷く。


「そうです。あのウェブサイトの主催者ですよ。あーんな怪しげなウェブサイトにアクセスするなんて、余程お困りだったのではないですか? もしや、この妖精のメッセージに関係がある? よろしいでしょう。私たちが力になりましょう」


 すべて見抜かれている。

 スミレは唇を噛んだ。


 あのサイトには一瞬、接触しただけ。それだけで、この3日でスミレの居場所を突き止めた。

 いや、突き止めただけでなく、おそらくこの男はスミレについてすべて調べ上げているのではないか。


 確かに情報は欲しい。

 だが、こんな不法侵入して来た輩に、ほいほいついていくとこの男は本気で思っているのか。


「ああ、お暇する前に、このメッセージを記録しておかなければ。キロ、頼むよ」


 男の命に、少女が動いた。少女はスミレと男を器用に避け、円に近付き、スマホで写真を撮り始める。


「どうやって、ここに入ったの」


 少女を警戒しながらも、スミレは尋ねる。

 ここは仮にも警備会社の持ちビルである。セキュリティは万全の筈。


「ああ、警備はすべて無効化しましたよ。しかし安心してください。人には危害を加えていませんから。皆さま速やかに眠ってもらいました。キロが、眠りに導いてくれたのです」


 男は大げさなしぐさで、記録をとっている少女を示す。


 どういうことか。少なくともこのビルには常時20人以上いる筈である。それを全員一斉に眠らせたというのか。薬。いや今、男は彼女が、と言った。

 一体どうやって?


「キロはね、歌で人の意識を奪うのです。まるでセイレーンのようでしょう?」

「そんな事できるわけないわ!」

「可能だからこそ、今、私たちはここにいるのではないですか? まあ、本当に全員眠らせたか、今は確認できないでしょうから、信じていただくしかないのですが」


 男は立ち上がって、軽く肩をすくめた。

 スミレも気力を振り絞り、何とか立ち上がる。



「貴方たちがここに来た理由はわかったわ。でも、こんな方法で来た人に着いて行く訳ないでしょう。帰ってください!」

「ああ。やっと信じていただけましたか。よかったです。でも、困りましたねえ。やはり一緒に来てはいただけないと。ん、まあ、想定内です。というより、それが普通ですよね。ただ万が一素直についてきてくれたら、手間が省けるかなと思いまして、聞いてみたのです。やはり、強引にお連れしなければならないみたいですね」

「なっ」

「貴女の家は面倒なのでね。貴女とだけ、お話をしたいのですよ。だからこのまま一緒に来てください」


 男は手を伸ばし、スミレの腕をつかんだ。


「いや! 離して!」


 このまま連れて行かれたら。帰って来れないかもしれない。そんな恐怖がスミレを襲う。

 しかし、もがいても男の手は外れない。

 見かけより強い力でスミレを引っ張る。


(だめ!)


 と思った瞬間。


 重いものが床に投げ出される音。

 と、同時に何か強い力で引っ張られる。


「離せ!!」


 男の腕が、スミレの腕から叩き落される。

 次の瞬間。スミレは彼の腕の中にいた。

 スミレが見上げた先に見た顔。

 待ち望んでいた彼。


「片桐くん!」


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