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第14話 謎のアドレス


 降りた先は、東条院ビル7の2階の一室。

 4人はサイバーセキュリティ課と呼ばれる部屋に入った。

 スミレも入るのは初めてだ。

 当たり前である。きっと警備の心臓部ともいえる部屋だ。

 通常スミレが入っていい部屋ではない。

 今回は特別だろう。


 部屋に入るとまず、目に入るのは、正面の壁一面にある大きなモニター。

 そこを目指すように、配置された机が、10台。

 中央の通路を挟んで、2台づつ。5列並んでいる。

 そのうちの一つ、入口から一番近い左側の席で、軽く手を挙げた人物がいた。


「どうも。一木と申します」


 そう言って頭を下げたのは20代半ばの男性だった。少し太めで、メガネの奥の瞳は好奇心で輝いている。


「一木、このメモにあるサイトにアクセスしてみてくれ」


 黒川がスミレの書いたメモを渡す。


「これは?」

「例のサイトに書いてあったアドレスだ」

「え?! どうやって見たんですか! 何か仕掛けがあるとは思ったけど、僕たちでもまだわからなかったのに! やはり、超能力っすか? そうなんすね? いきなり霊能力だの、超能力だの調べろって言われて、すっげえ、俺、興奮したんすよ! 仕事でそんな楽しい事調べていいなんて言われて、俺この仕事についてよかったなあって、本当もう嬉しくて!」


 一木は興味深々で、黒川の後ろにいるスミレ達に視線を向けてくる。


「で、で、誰がこのアドレス見つけたんですか?! スミレ嬢ちゃんと、片桐くんを連れて来たという事は、二人のどちらかが、あのサイトの中を視れたんすか? あ、もしかして、意表をついて社長が視れたとか? どうやって視れたんすか!?」


 先程の香蓮以上に、一木は興奮しているようだ。

 目が爛々として、正直怖い。


「一木。職を失いたくなければ、口を閉じ、自分の仕事をしろ」

「はい」


 黒川の一声で、一木は夕方の朝顔のようになり、パソコンに向かい座った。

 先程の香蓮といい、この一木といい、黒川の声の威力には感嘆を禁じ得ない。

 ぜひとも身に着けたい能力である。


「スミレ様」


 そんな埒もない事を考えていると、黒川が一木の机の近くに来るように、手招きをしていた。

 スミレは慌てて、すでに一木の後ろに集まっていた香蓮と片桐の近くに寄った。

 一木はすでにキーボードを叩いている。


「さてと何が出るかな! 何がで~るかな!」


 一木という人物は、黙ってはいられない性質らしい。


「申し訳ありません。技術はうちで一番なんですが」


珍しくその後の言葉を飲み込む黒川は珍しい。


「で、何が書いてある?」


 香蓮は慣れているのか、彼の態度など気にした様子もなく、前のめりで尋ねる。


「何もありません」

「え?」

「真っ白いウインドウだけっす」


 一木はスミレたちがよく見えるように、身体をずらした。

 スミレは注意深くその画面を視たが、今回は一木が言うように何も視えないし、聞こえない。


「視えないわ」

「ああ。見えない」


 隣の片桐も、頷いている。


「手の込んだいたずらっすかねえ」


 いたずら。ならば、先のサイトの仕掛けはなんなのか。

 スミレにしか視えなかったアドレス。いたずらならば、もっとマジョリティを相手にするほうがおもしろいのではないだろうか。

 このサイトを作った人物は、一体何の目的で、こんなサイトを作ったのか。


「うお!?」


 と、そこで一木が悲鳴を上げた。


「マルウェアが侵入してきた!」


 マルウェアとはなんだ。


「うお! こりゃ手ごわい! このままだとネットワークが!」


 なんだか大変な事になっているらしい。

 一木のキーの叩く速さが尋常ではない。


 それから20分後。


「ふう」

 

スミレたちの見守る中、一木の戦いは終了したらしい。


「黒川さん、うちのセキュリティを点検したいので、一旦引き上げてもらっていいっすか? 何かわかったら報告しまから!」


 一木は立ち上がると、黒川さんの返事も聞かぬまま、大モニターの方に走って行ってしまった。

 スミレたちは、呆気に取られて、彼の後ろ姿を見送るしかできない。

 それは、香蓮、片桐、黒川まで、同じようだったようで。

 なんだろう。結局どうなったのか。


「どうやら、示されたサイトからは、何も情報を得られなかったようですね」


 黒川が咳ばらいをしつつ、口を開いた。


「そのうえ、マルウェアまで仕掛けれたと。どうやら、相手はうちより技術が上らしいな」


 香蓮も難しい顔をして答える。


「残念ながら、そのようですね」

「あのマルウェアってなんですか?」


スミレはわからず、疑問を香蓮にぶつけた。


「ネットのウイルスだよ。下手をすると、こちらの情報が相手側に筒抜けになる」

「ええっ! 大丈夫ですの?!」


 会社のセキュリティがウイルスに侵されたら、コンピュータを知らないスミレだって、大変な事態だとわかる。


「多分ね。うちも個人情報を多数扱ってるからね。セキュリティは甘くないよ」

「だから、一木さんは慌ててたのですね」


 会社の情報が外部に漏れたら大変だ。


「そういう事。それにしても相手は上手いなあ。情報を少し出しておいて、罠を仕掛けるとはね」

「うちもやる、方法ではありましたね。まんまと引っ掛かってしまいました」


 黒川が苦笑いしている。


「ああ。そのくらい、先に出された情報は、甘美なものだったからね。やられたよ」


 香蓮はため息とともに、天を仰いだ。


「結局何も掴めなかったのですね」


 スミレは肩を落とした。昨日から前に進んでいない。


「まあ。そう落ち込む事はないよ。少なくとも、未知の能力を科学的に研究している者がいるとわかっただけでも、よしとしよう」

「そう、そうですね」


 言われてみればその通りだ。


「今後の一木の報告に期待しよう」


 そうだ。一木が先ほどの出来事を分析して、何かよい情報をもたらしてくれるかもしれない。

 その時、スミレの肩が軽く叩かれた。

 見上げた先には片桐の顔。彼も力付けるように大きく頷く。

 

「そうね。まだ調べ始めたばかりだわ。これから頑張りましょう」


 スミレも応えるように、口角を上げた。


なかなか先に進まないです。すみません。

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