第13話 謎のウェブサイト
インターネットとは本当に便利なものだ。
調べたい事を検索すれば、かなりな確率で答えを導き出せる。
自分とは異なるものの不思議な経験をした体験談をブログやインスタグラムに乗せている人は思いのほか多い。
けれど。肝心のスミレが求める情報というのは、なかなか見つからなかった。
真に必要としているもの、重要な情報というのは、すぐに大衆に触れる情報の中にはないのかもしれない。
得てしてそういう物は昔ながらの方法、口伝、もしくは書物でのみ伝えられるのかもしれない。
探していないものは寄ってくるのに、探しているものは得られない。
学校から戻るとずっとパソコンに向かっていたスミレは、ほうっと息をついた。
もうすぐ片桐がトレーニングを終えて、戻ってくる頃だ。
片桐から緊急時だからトレーニングを休み、ネットで調べるのを手伝いたいとの申し出があったが、断った。身体の回復を優先してくれるよう、スミレは頼んだ。
急に痩せたせいで筋肉も大分落ちてしまった為、以前の身体に戻るまでは、体調を優先して欲しかった。
とはいっても、黒き小さいモノが1つに減っているので、密かにスミレは安心している。
(さて、そろそろ夕食の仕上げをしないといけないわね)
そう思っていた矢先、パソコンの脇にあったスマフォが震えた。
見ると、ラインでの香蓮から呼び出しだ。
昨日の今日である。
まさかもう何か手がかりが掴めたのか。そうならば、香蓮はなんと仕事が早い。
と、そこでタイミングよくノックの音。
「ただいま、東条院」
「片桐くん」
丁度帰ってきた片桐を連れ、スミレは最上階へと向かった。
「お、片桐くんも一緒だね。よかった。二度説明しなくてよいからね。二人とも、座って」
香蓮のオフィスの執務室に入ると、応接セットの一人掛けソファに香蓮が座って待っていた。
黒川が2人をソファへと促し、自分はいつもの定位置香蓮の後ろに立って控えた。
「縁者の近況はまだ調査中だよ。先程うちのサイバー部門の者が、面白いサイトを見つけてね。スミレの能力の解明に役立つかもしれないと思って、こうして来てもらったんだよ。まずはこれを見て欲しい」
香蓮は自分の前においてあったノートパソコンをくるりと回して、画面をスミレたちへと向けた。
シンプルなサイトだ。
誰でも閲覧可能なサイト。
真黒な画面に中央に白地で一文のみ。
<自分の能力を探究したければ、扉を開け>
その下に、入口と書かれたバナーが1つ。
「これは?」
スミレがパソコンの画面から視線をあげ、香蓮に尋ねる。
「わからない。私たちの探している霊能力や超能力といったもののサイトなのか、はたまた別のものを探究するものなのか」
「入ってみなかったのですか?」
「もちろん入ってみたよ」
「それでなんと書かれていたのですか?」
「何も」
「何も? どういう事ですか?」
「入口と同じく真黒な画面だけ。ただ、何も書いていない。秘密の入り口もない。サイバー部門の全員だけでなく、私や黒川も見たけど何も見えない。ただ黒い画面のみだ」
「では、いたずらサイトなのでは?」
「そうかもしれない。でも、君たちにも念のため見てもらおうと思ってね。スミレ、入口クリックして」
香蓮の言に、スミレはマウスを動かした。
画面が切り替わる。
聞いた通り真黒な画面。
と、そこには前と同じように一文。
<ようこそ。歓迎する>
その下には一つのアドレスが、示されている。
(なんだ)
普通に見えるではないか。
と、なんだろう。何か流れている。
音が小さすぎて、微かにしか聞こえない。英語か。
耳を澄ませたスミレの耳に、香蓮と片桐の会話が聞こえる。
「どうだ? 片桐くん、何か見えるかね?」
「見えません」
「やはりか」
「え?!」
そこで音に集中していたスミレが声を上げた。
「見えない? 片桐くんには何も見えないの?」
「真黒な画面にしか見えない」
スミレの横で、パソコンを覗き込んだ片桐は、小さく首を振る。
「なんだか集中しているようだったから、声をかけなかったが、スミレには何か見えるのかい?」
香蓮が2人の会話に割り込むように尋ねた。
「はい。私には前の画面と同じように、1つの文とその下にアドレスが見えます」
「なんと書いてある?」
「ようこそ、歓迎する。と」
「他には何も書いてないかい」
「はい。ただ、音が聞こえます。何かのメッセージかも。小さいので聞き取りづらくて」
スミレは音に集中する。
3分後。スミレは口を開いた。
「どうやら、サイトに書かれているアドレスを繰り返しているだけのようです」
「なるほど。このサイトはビンゴだったようだね」
「どういうことですか?」
「このサイトはどういう仕組みになっているか不明だが、何かしら能力のある者だけが、視えるように仕掛けられているということさ」
「そんなことできるんですか?!」
「実際に今、体験しただろう。スミレ以外、誰もこのサイトの中を見る事ができなかった。スミレだけが文字を読むことができた。つまりはそういう事だろう? ご丁寧に視覚がだめな場合を考えて、音声まで用意してね」
「視覚がだめな場合って?」
「視えないが聞くだけならできる人もいるという事さ」
人には聞こえない音。モスキート音みたいなものだろうか。
「スミレは目も耳もよいみただね」
スミレは無言で、顔を顰めた。
褒められても複雑だ。
「さて、そのアドレスを、ここに書いてくれるかい?」
いつの間に用意されていたのか。テーブルにはペンとメモ用紙があった。
言われるままにスミレは、サイトのアドレスを書き写す。
「疑っていた訳ではないけど、本当に書いてあるんだね」
なぜだか香蓮は、少し興奮しているように見える。
「素晴らしい! 素晴らしい技術を持っている! このサイトを作った人物は! このサイトのおかげで、スミレ、君にはやはり何らかの特殊な能力があると、科学に証明されたんだよ!」
「あの、香蓮姉さま?」
「スミレも喜びたまえ! 今まで君の言葉を疑っていた者達に、君はうそを言っていなかったと証明できるかもしれないよ! ぜひともこのサイトの持ち主に会って、協力をお願いしよう!そしてできれば、今後とも未知への力の研究をともに進めたいと申し出ようではないか!」
「あ、あの、姉さま」
「ハレルヤ!」
もはや香蓮の暴走をとめられない。
と、そこに聞いたこともない低い黒川の声が。
「社長」
ただの一言で、香蓮はぴたりと口を閉じた。
「まずは、示されたサイトの確認を。内容を見て判断しましょう」
「そ、そうだな。すまない。未知の体験につい興奮してしまった」
「いえ。では、悪意あるサイトだと困りますので、サイバー課から1人呼びます」
「ああ。頼む」
黒川は執務机の上の電話を取り上げると、話し始めた。
スミレは目を丸くして、そんな二人のやり取りを見ていた。
秘書というのは、上司のストッパーにもならなくてはならないのか。
スミレの視線に、香蓮はばつが悪そうに視線を逸らした。
「すまない。つい興奮してしまって。どうも新しい出来事に遭遇すると、子供のようにはしゃいでしまうようだ」
「いいえ。そういった香蓮姉さまだからこそ、私を偏見なく受けいれてくれたのですわ」
「ありがとう」
「いいえ」
そんなやり取りをしているうちに、黒川が受話器を置く。
「社長、申し訳ありません。そのサイトへの接触をするなら、用心のため、下に降りてきて欲しいとの事です。ご足労ですが、皆様下の階へと移動をお願いします」
「わかった。そのほうがいいだろうね。スミレ、片桐くん。行こうか」
どうやら、場所を移動しなければならないようだ。
ウイルスなどの侵入を防ぐためだろうか。
「わかりました。片桐くん、行きましょう」
3人は立ち上がり、エレベーターへと向かった。
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