第10話 残酷な事実を告げる使者
「気を抜きすぎだわ」
学校からの帰り道、スミレは1人反省していた。
いくら永江にウイークポイントである家族の事を言われて、ナーバスになっていたとはいえ、片桐に縋りついてしまったのはまずかった。
本来なら自分が彼を支えるべきである筈なのに。
「しっかりしないと」
今は叔母の援助で生活しているが、できるだけ早く独り立ちしたい。
プラス片桐の事も、守らなければならない。
一度手を差し伸べてから中途で手を放せば、片桐は以前より更に落ちてしまう。
「よし!」
両手で思わずガッツポーズをしてしまう。
瞬間。
「あ」
カバンが落ちた。
「何やっているのよ、私」
羞恥で顔が熱くなった。急いで誰かに見られていないかと辺りを見回す。
と、そのスミレの目の端に光るモノ。
予告なく。
それは、淡い黄緑。
葉のような、蝶のような。
平面のようで立体。
軽やかにスミレの目の前を横切る。
が、ひらりと身を翻し、舞い戻る。
「あ、ああ!!」
顔に上がった熱が、一気に下がる。
二度と見たくなかったモノ。
可憐で儚いそれは、残酷な事実を告げる使者。
スミレの心情など知らぬとばかりに、それは、いつまでも軽やかに踊り続けた。
「東条院」
スミレは袖を引っ張られて、はっと我に返った。
横を見ると、無言で問う片桐の視線。
「あ、ああ。ごめんなさい。すぐに食事の用意をするわね」
その視線から逃れるように、スミレは手を動かし始めた。
スミレはあの後、使者から逃げるように家へと戻った。
そして見たものを忘れようと一心不乱に夕食の用意をした。
けれど、忘れるなど当然できる筈もなく。
気づけば、手がとまり、考え込んでしまう。
(あれは警告の第一段階)
今度は誰が?
なぜ私に?
(知らなければ、こんなに不安にならずにいられた。何かしなくてはと、焦燥感にかられずに済んだのに)
「本当に、大丈夫か?」
「え? あ!」
また知らず考えに没頭していたスミレは、片桐の声に手を滑らせ、持っていた皿を床に落としてしまった。
「ごめんなさい! すぐ片づけるわ!」
スミレは急いでしゃがみ、割れた破片に手を伸ばす。
「触るな!」
珍しく鋭い片桐の制止の声に、反射的にスミレは手を引っ込める。
「俺が片づける」
「でも、私が落としたのよ」
「今日、変だ。それじゃケガをする」
そう言われてしまえば、反論できない。
自分が今注意力散漫なのは、自身が痛い程わかっている。
立ち上がり、俯いたスミレを片桐は横抱きにした。
「え!」
ついで、テーブルにスミレを座らせる。
「なっ? 何?!」
驚き、行儀の悪さに降りようとしたスミレを逃げられぬよう、片桐が囲うように、テーブルに手をつく。
そして真っ直ぐ、スミレを見つめた。
「何が、あった?」
スミレは息を飲んだ。
片桐の視線が痛い。
本気で心配してくれているのが分かる。
それでもスミレはまだ足掻くように目を泳がせ、何とか逃げ道を探す。
けれど、彼の真っ直ぐな視線から逃れるすべはなくてー。
観念した。
「話すわ。場所を移しましょう」




