第十一話 装備できるものを探そう
「...ん」
固く冷たいコンクリの床の上で、俺は目を覚ました。まだ少し頭が回らず、しばらくボーと、天井を眺める。むき出しのコンクリに、取って付けたような豆電球。ずいぶんと高い天井の上にはうっすらと光が差し込んでいる。上の方に小窓でもあるのだろう。
あれ、というかここどこだ?確か大道芸を見ようと人混みにはいって...?
俺の頭のなかではまだ大道芸の愉快な音楽が響いている。が、それも徐々に歪なものに変わり、ハッと我に返った。
そうだ俺、途中で気を失ったんだった。というかこれ、誘拐だろっ!?
とたんにパニックになる。いやまぁ、ゾンビだらけの森に比べたら幾分かましだが、だからといって冷静になれるようなものではない。
こうしちゃいられないと勢いよく起き上がったが、まだ薬が残っているらしく頭が激しく揺れた。ヤバイこれ、気持ち悪い。
ぱたり、とまた俺はコンクリの床に横になる。あー、これしばらく動いたらダメなやつだ。子供相手になんて薬品使うんだ全く..。
不幸中の幸いにも俺は手足を拘束されていない。横になった状態で辺りをもう一度観察する。まるで何処かの倉庫のような高い天井。むき出しのコンクリに、赤く塗装された鉄骨が組まれている。横を見ると、何処かの廃材なのか大きな木やら鉄パイプやら、煉瓦がつまれていた。
出口は何処かと頭だけ動かすが壁しかない。おかしい、俺がここにいるなら出口はあるはずだ。左右と目の前に扉はない。となると、扉は俺の頭の位置か。
少し体を転がしてうつ伏せになる。やはり後ろに扉があった。鉄でできた、錆びて冷たい扉だ。厳重そうだが、大人なら蹴破れそうだ。
しばらくしてようやく薬品が少し抜けてゆっくりと起き上がれるようになる。
薬のお陰でパニックになっていた思考が強制停止していたため冷静さを取り戻していた。とりあえず深呼吸。埃が混じった空気を吸って、軽くむせた。
なるほど、ひとつわかった。ここは普段使われていない場所か。埃の溜まり方がすごい。使われてなかったというか、放置されてたのかもしれない。整備されてないしな。
とにかく、まずは現状確認だ。
まずこれは拘束されていないから部屋のなかは自由に動ける。天井は高く、どう頑張ったって上の方にある小窓から逃げることはできない。窓から人混みの音が聞こえるから街の中なのかも知れないが、そもそも街に初めてきた俺には何処かもわかるわけがない。
俺が街にきたのは昼頃。まだ日は夕焼けに変わっていないことからそんなに時間はたっていないかもしれない。まさか丸一日寝てた訳じゃないだろう。たぶん。そう願いたい。
で、肝心の脱出口だが見たところ鉄の扉しかない。
近づいてみてみるが、頑丈そうだ。しかし所々錆びているから大人ならなんとかなるかもしれない...子供の俺じゃお手上げだ。
物は試しに扉を押したり、引いたりしてみた。全く動かない。ギシギシと音をたてるだけだ。やはり俺だけの力じゃどうにもならないな。
...あれ?待てよ。もしも扉の向こうに誰かいたら、俺が起きたと知らせるようなもんじゃないかこれ?
という考えが浮かんで、ゾッとした。誘拐の理由はわからないが身代金なら、俺の生存率はほんの少しだけ上がる。しかし...もしも誘拐犯の目的がただ子供を殺したいとか言う変態だったらどうしようもない。つまり俺が変な行動をしただけで首が飛ぶのだ。即死ならいいが、変態だったらそんな優しいことはしてくれないだろ。
不味い、非常に不味い。昨日に引き続いてかなりヤバイ状況に陥っているぞ俺。
目的も正体も不明な犯人...一人なのか、複数犯なのかそれすらわかっていない。
悲観しても仕方ない。こうなったらゲームに例えてみよう。その方が分かりやすいかもしれない。というかそうしないとパニックになりそうだ。
まず敵は不明。ダンジョン(誘拐場所)のマップもなし。ダンジョンの前情報も取得していない。対する俺の所持品はゼロ。元々なにも持ってきていなかったから当たり前だが。そして俺一人じゃ開けられない扉。
辺りにあるものは何処かの廃材らしき...
○木材(※でかすぎて装備不可)
○煉瓦(※装備できるが使い道がない。敵遭遇時の武器となるが、重いので使いにくい)
○鉄パイプ(※装備可能だが重い。あと壊れそう)
..真面目に詰んでいるぞ。これはどうしようもない。状況を打破するためには何か別のイベントがないと。
とりあえず、扉の向こうに誰かいないか確認するため、耳を当ててみる。
音は聞こえない。人の気配はここからじゃわからない。見張りがいないとしたらありがたいが、自分の生存がかかっているのだ。危うい賭けはできない。
コツッ、コツッ
必死に音を拾おうとしていると、俺の耳に足音らしき音が聞こえてきた。足音は明らかに複数人いるように聞こえる。話し声らしきものも聞こえるがどうにもぐぐもっていてはっきりとは聞き取れない。
何人いるかは断定できないが、そんなに多い数の足音は聞こえない。少なくて二人、多くて四人くらいか。ほかにガチャガチャ聞こえてきているから、何か持っているのか装備しているのか。最悪武装していると考えた方が良さそうだな。
....というか、音がどんどん大きくなってきているぞ。相手の装備品の音が聞こえるくらい近くって、まさか...こっちに近づいていてる?
不味い、不味いぞ。ここで俺が起きてるなんてバレたらまた眠らされるか、どうなるかわかったもんじゃない!
俺の様子を確認しにきたのなら、アニメのごとくどこかに隠れてうまくいけば空いている扉から脱出できる。またとないイベントだ!
しかし、外に出てどうするのだ。下手をしたら捕まってしまう確率の方が大きい。ここで寝たふりをした方が生存率は高い。
どうしたらいいんだっ!
足音はどんどん近づいてくる。間違いなく足取りは俺のいる部屋に向けられていた。
迷っていたら隠れることも寝たふりもできない。
ここは分岐点だ。選択を間違えればゲームオーバー。しかしゲームをやり直すことはできない。一度限りだ。
...イチか、バチかだ!
俺は一度深呼吸をし、慎重に扉から離れた。




