マキも椅子から落ちる
今日のナナのリボンは白色だ。マキは寮の窓からナナを見てそう思った。あれからナナは紫のリボンをつけていない。
先日、マキがナナに紫のリボンを渡したのはなんとなくだった。自分では使いどころがないのは本当で、ナナはいつも白色のリボンをつけていたから、たまには別の色をつけてみたらいいのではないかと思ったのも本当だ。最初はそれだけだった。
ただナナに瞳の色と同じだと言われて、思い出したのだ。瞳の色のものを渡すのは、何かしらの意味を持つ事があると。でもそれはそれでいいかと思った。その意味を知ったとき、ナナがどういう反応をするのは興味があった。結果的に自分の想定と違っていて、マキは最後逃げるように身を引いた。
最近はそういう”なんとなく”が増えているのを、マキは自身でも薄々気付いていた。
「あれマキ、今日も早く出ていかんのか」
「…ああ」
同室の寝起きのカズラがマキに尋ねた。リボンの一件の翌日の朝、マキはナナに挨拶に行くのを”なんとなく”やめた。一回やめてしまうと、再開する口実がなく数日それが続いている。
カズラは、制服に着替えながらぶつぶつと呟く。
「そういえば、一年ってそろそろ合成石の授業だよな。余った石もらえねえかな。砕く練習用にいいんだけどアレ」
合成石の授業は、その辺にある何の変哲もない石を薬剤と魔法で加工して疑似宝石を作る授業だ。
「………宝石か」
”先輩の瞳の色に似てますね”
そう言われた時のことが蘇る。真っ直ぐに、とても綺麗なものを見るような目で見られたあの瞬間。マキはあの朝のことをこれから何度か思い出しそうな予感があった。瞳が紫水晶みたいだと言われるのは初めてではないのに。あの瞬間、確かにマキはナナに、その紫のリボンを付けたいと思ったのだ。すべてに理由はない。全部、”なんとなく”だ。
それからマキがナナに”なんとなく”少し距離を置いてから、特に何かあるわけでもなく数日が過ぎた。
ある日の昼、マキは食堂でナナの姿を見つける。”なんとなく”その近くに空いた席は無いか近寄ると、会話が少し聞こえてくる。ナナとユリー、センカの三人が授業について話をしていた。
「俺の班は翡翠だって!一番難易度高いって聞いたんだけど」
マキははっと気付く。合成石の授業の話だ。
「難易度が高いと成功した時その分加点も多いと聞きますわ。頑張ってくださいまし」
「成功したらでしょ?失敗しそうだから嫌なんだけど。そういうセンカは何?」
「私は金剛石ですわ」
「一番簡単なやつじゃん!ずるい。ナナは?」
マキは立ち止まって耳に集中する。
「紅玉だよ」
「あ!ナナも難しいやつだ」
「そう。一緒に頑張ろうね、ユリー」
マキは空いていたユリーの隣の席に座る。ナナはすぐにマキに気付いて、あっと小さく声をあげた。
「紅玉か、それはいいね」
ユリーがぎょっとマキを見て、センカが驚きと歓喜が入り混じった表情で口に手を当てた。マキはにこやかにナナたちを見る。
「やあ、話の途中ですまないね。合成石の授業の話をしていただろう?」
「…はい」
ナナが少し警戒するようにマキを見る。マキはそんなナナの視線が気に食わなかった。でもそれは顔に出してはいけない。マキは笑顔で続ける。
「授業が終わったら、それを僕に譲ってくれないかい?」
「え」
ぎくりとナナが固まって、マキを見て、ユリーとセンカを見る。マキはナナの警戒を解かそうと、ユリーとセンカにも話しかけるようにする。
「ただでとは言わないよ。そうだね、それに見合うものと交換というところでどうだい?疑似宝石は調剤の生成の練習に丁度いいんだ」
マキの口からすらすらと言葉が出てくる。ナナの瞳は赤い。紅玉も赤い。だから、先日のリボンの件を思い出してナナは躊躇しているのだろう。マキは口を閉じれない。”なんとなく”ナナの作った紅玉が欲しいと思ったからだ。
「我が薬学部のために、と言いたいところだが…駄目だろうか」
マキはこういう言い方をするとナナが弱いのを知っていた。ナナは困っている人には手を差し伸べずにいられない性格だからだ。
「わ、わたしは…」
ナナがためらっているのを見ていたユリーが隣から口を挟む。
「失敗するかもしれないんですけど、それでもいいんですか?」
マキはユリーを一瞥した後、にこりと微笑んだ。
「もちろんさ。失敗したものだって練習になるからね」
「マキ先輩のお役に立てるのでしたら、私は喜んで差し上げますわ」
センカが嬉々として申し出る。マキはうんうんと頷いた。
「ありがとう。助かるよ」
センカはマキと話せたことできゃっと両手を頬に当てて嬉しそうにする。ナナはユリーとセンカのやりとりを眉を下げて聞いていたが、やがてぽつりとこう言った。
「ぶ、部活で使われるだけなら…」
「ありがとう、助かるよ」
マキはそう言って、拉麺を食べ始める。ナナたちは顔を見合わせ、食事を再開する。ナナは少し困った顔のままマキを伺っているが、二人が会話をする気配はない。それを居心地が悪いなと思ったユリーは、センカに目配せをした。センカはユリーの視線を受け、茶目っ気満々で片目を閉じてを見せた。その瞬間ユリーは人選を間違えたな、と思ったがこの気まずい空気が払拭されるならもうなんでもいいとも思った。
「みなさんは先日のお休みは何をしていましたの?」
センカはたまに突拍子もないことを言うのでユリーは戦々恐々としていたが、思ったより普通の話題が出てきて胸をなでおろした。見ると、センカの視線はちらちらとマキに向いている。違うな、こいつ雑談と称して”美しいものを語る会”で話すネタを得ようとしてるな。ユリーは呆れた顔をしたが、一方ナナは少しほっとした様子でセンカの話題に乗る。
「わ、わたしは下宿先の物置の掃除をしたよ」
「え、あのぼろ屋の」
ユリーたちもナナの下宿先の古さを知っているようだ。マキはユリーに内心で同意した。
「大変だったんじゃありませんの?」
「うん、でも大家さんと…ほかの下宿の人たちと一緒にやったから、そんなに大変じゃなかったよ」
どうやらあの古い下宿先はナナ以外にも下宿している人がいるらしい。マキはそれも気になった。ナナと一つ屋根の下にいる輩はどんな奴だと。
「掃除したら使えそうなものも出てきたんだけど、その中にね逆真実の鏡が出てきたの」
「あ!それ聞いたことある。俺たちが生まれる前に流行ったおもちゃでしょ?」
ユリーが目を輝かせる。マキもその名前は知っていた。逆真実の鏡は、”絶対嘘を言う鏡”というおもちゃとして売り出されて、その独特な見た目と使い方で社会風靡した。しかしその鏡が悪用したり喧嘩などの小さな事件が増えたりしたことで、生産停止になり、今はほとんど廃棄されたという。
「本当にね、嘘を言うんだよ。今日の天気は何ですかって聞いたら、大雨の嵐ですって言われたの」
ナナが可笑しそうに笑う。なるほど、昨日は快晴だった。
「ええ~おもしろ!俺もやってみたい」
するとナナはしゅんとした顔をした。
「わたしもユリーやセンカに見せたかったんだけど、大家さんがこれは悪いものだって言って割っちゃって…」
「えー!もったいない!」
「割れたあとの鏡なら見せれるけど…」
「そんなの意味ないじゃん!」
ユリーの言葉にナナとセンカがくすくすと笑う。ナナの気を許したような柔らかい表情を見て、マキはふとこの場にマキとナナ以外がいるのがもったいないと思った。そして、どうしてその顔を自分に向けないのかというナナに対する不満も沸いた。
「そういうセンカは?何してたの」
「私は町でお買い物をしていましたわ。そうそう、ナナさんに似合いそうなリボンを見つけましたの。今度一緒に見に行きましょう?」
リボン。その単語にナナは表情を一瞬固くする。マキはそんなナナに視線を注ぐ。
「う、うん」
「先日の紫のリボンもよくお似合いでしたけど、別の色も合わせてみましょう」
「うん、そうだね」
き、気まずい。ナナはマキがすごく見てくるのに気付いていたが、そちらの方を見れずにセンカの笑顔を見続けた。
「そういえば先日からまた白のリボンに戻ってしまいましたけど、何か理由がありまして?」
センカの真っ直ぐな笑顔に、ナナは逃げ場が無くなってしまう。ナナは焦る。絶対先輩はわたしが何を言うのか気にしている。わたしはただあのリボンがなんらかの意味を持ってしまうと知ったので、つけることができなくなったのだが、それを馬鹿正直に言うのか。このユリーもセンカもいる場で?先輩の目の前で?無理でしょう。
「え、ええっと…」
ナナが言いよどむと、マキが口を開いた。
「僕もあれは似合っていたと思うけどな。紫は好みじゃなかったのかい?」
こんな場でいけしゃあしゃあと何を、ナナは信じられない気持ちでマキを見る。隣に座っていたユリーは、ナナとマキに何かがあったことを察した。
「……む、紫よりは、別の色の方が…好みというか…」
ナナはもうそう言うしか無かった。へえ、とマキが頷いた時、ナナたちに声がかかる。
「よう、マキとナナと1年坊主たち」
カズラはお盆をマキの隣に置いて座る。そして、マキとナナが発するなんともいえない空気に気付いた。
「ん?何話してたんだ?」
ナナは逃げることを選んだ。皿に残っていたリゾットを口にさっさと流し込む。そして勢いよくお盆を持って立ち上がった。
「わ、わたし!用事があるのを忘れていました!先に行きます!」
すると、ナナとセンカが話している間に食べ終わっていたマキも笑顔で立ち上がった。
「奇遇だね、僕もちょうど食べ終わったから一緒に行こうか」
「えっ」
逃げ場を失ったナナはお盆を持ってうろたえた。しかし今さら再び席につけるわけもない。
「何色のリボンがつけたいか、僕に教えてくれないか?」
「う」
「まず君は何色が好きなんだい?」
マキはナナを逃がさない。今引いてしまうと、もう二度とナナと気軽に話せないような気が”なんとなく”した。ナナはお盆を返却台に置きながら小声で答える。
「……緑、とか」
「いいね。では次に色染めの授業で緑のものを作ったら君に贈ろう」
マキも返却台にお盆を置いて、楽しそうにそう言った。ナナはそこで気づく。今のマキは怒っても悲しんでもいない。てっきり紫のリボンをつけていないことで、マキを怒らせたか傷つけてしまったかとナナは思っていた。ナナとマキは二人並んで食堂を出る。
「…」
ナナはマキの顔色を伺おうと、そっとマキを見る。すると、ナナを見ていたマキと目が合った。マキは静かにナナに語りかける。
「他意はない。”なんとなく”君に送りたいだけさ」
マキがゆったりと目を細めて微笑む。やはり、マキの目は紫水晶のようだとナナはふと思った。
「……そう、なんですね」
ナナはリボンの件はここでおしまいにしようと思った。これ以上引きずると、マキを余計に傷つけてしまう可能性だってあるから。マキがそう言うなら、そうなんだろう。ナナはそう結論づける。
「じゃあ、その時はお願いします」
ナナは少し笑いながらマキにそう返す。マキはそんなナナの態度に満足して、歩みを進めた。ナナはマキに対しての気まずさが気にならなくなったので、先ほど思ったことを伝えておくことにする。
「あと先輩、急いで食べると体に悪いですよ」
それを聞いて、マキはおかしそうに笑った。
一方食堂に残ったユリーとセンカとカズラ。ユリーは二人の後ろ姿を見送って、牛丼を口に運ぶカズラをつついた。
「カズラ先輩、わかってるんでしょ。なんとかしてくださいよアレ」
カズラは静かに首を振る。
「いや、俺は面倒事は嫌いなんだ。ああ見えてマキは面倒な奴でな」
「ああ見えてっていうか、見た目通りですよ」
ユリーはマキのナナを見る視線を思い出す。ナナに穴が開くんじゃないかとユリーは冷や冷やした。続いてユリーは満足そうにカズラと同じ牛丼を食すセンカを見る。
「てかセンカもいいの?マキ先輩狙ってるんじゃなかったの」
ユリーの言葉を聞いて、カズラはセンカを見る。顔つきが綺麗なので、マキに言い寄る生徒は少なくない。しかしナナの友人もマキ狙いとは、これは面倒なことにならないかとカズラはやや眉を潜めた。センカは微笑みを崩さず、静かにひとつ頷く。
「確かにマキ先輩のことをお慕いする気持ちはありますが、私は美しいものが好きですの」
だから何だと、ユリーとカズラはセンカを見た。
「私は思っていますの。ナナさんはとても美しいと」
そうか?とユリーとカズラは顔を見合わせる。ナナの顔つきは美人というか可愛らしい方であった。センカは瞳を閉じて、朗々と語る。
「あの謙虚さ、優しさ、そして何物にも屈しないであろう強さ、さらには秘密を抱えた魅惑的なお方」
センカはナナの中身のことを言っているのだ。ユリーとカズラは気づく。そしてユリーもセンカが言ったことには薄々気付いていた。
「とても美しいと思われませんこと?」
センカは橙の瞳を細めてうっとりと微笑んだ。
「美しいものを語る会の会員として、美しいものは手を出さずにそっと見守るのです」
なんだこいつ、カズラはセンカに対してそう思った。ユリーはこういうセンカには慣れているので、はあとため息をつく。
「その割にはさっきちょっと引っ掻き回そうとしたでしょ」
「なんのことでしょう。ナナさんに合いそうなリボンがあったのは本当ですもの」
「よく言うよ…」
ユリーとセンカの会話を聞いていたカズラはぽつりと呟く。
「ナナの周りは面倒な奴ばっかりだな…」
「俺は違うでしょう俺は」
ユリーは心外だと声を上げる。
「うちの薬学部にはいい胃薬を作る奴がいるんだ、必要だったら格安で譲るぞ」
「そこは有償なんだ」
「うふふ」
ユリーとセンカとカズラは、その後穏やかに昼を過ごした。
数日後、合成石の授業が行われた。ナナ、ユリー、センカは無事に課題の疑似宝石を作成し、良い評価を得ることができた。しかし、ナナは良い評価をもらったのに表情は明るくない。
「そんなにマキ先輩に渡すのが嫌なら止めたらいいじゃん。なくしたとか言ってさ」
そんなことで諦めるような人ではないとは思いつつ、ユリーはナナにそう言った。
「い、嫌じゃないよ…部活のためになるらしいし…………」
ナナは別に疑似宝石を渡すのが嫌なのではない。ナナが紅玉をマキに渡すことで、それが別の意味を持ってしまうのが嫌だった。他意はないとしても、形式としてはそうなる。そんなつもりはないのに。
「………」
ナナが困った顔をしている理由を、ユリーはだいたい察していた。なので、ふと思いついたことをナナに提案する。
「じゃあさ、」
マキは合成石の授業がいつあるかを把握していた。本当は授業が終わってすぐにナナのところに行ってやろうかと思っていたが、さすがにそれは格好が悪いような気がしたので、翌日朝挨拶をする体でナナのもとを訪れようとしていた。
しかし合成石の授業の翌日の朝、マキはややげっそりした顔で実験室の調合台に座っていた。昨日上級生から至急で呼び出され、翌日締切の魔法薬を調合してほしいと泣きつかれたからだった。その魔法薬を取引しているところはお得意様なので、なるべく穴を開けたくないと言う。その魔法薬は調合が難しく、部の中でそれを作れる人間は僅かしかいない。そのうちの一人がマキだった。放課後呼び出されたマキと数人はその魔法薬を一心不乱に作り、そのまま薬学部で一晩過ごした。
「…お、終わった…」
無事に魔法薬を作り終えたマキと数人が実験室の机や椅子、床に転がる。
「おはようございまーす」
そこにカズラがやってきた。カズラはその魔法薬を作ることができないので呼び出されなかった。
「おう、カズラか。朝からどうした」
「あ、先輩に渡すもんがあるんすよ」
カズラは持っていた小箱を上級生に渡しに行く。マキはぐったりと椅子にもたれかかり、炭酸水を飲みながらカズラの姿をぼんやりと追った。
「なんだこれ?お、もしかして一年の疑似宝石か?」
「そうなんですよ。この前来てた一年が集めてくれたらしくて」
どん。
「え?」
「お?」
今のは何の音だとカズラと上級生が振り返ったら、マキがちょうど立ち上がってこちらに向かってくるのが見えた。先ほどマキが座っていた椅子が床に横倒しになっている。え?もしかして今、椅子から落ちた?と二人は思ったが、その思考を非常に怖い顔をしたマキが遮る。
「今、なんて言った」
「え」
マキはカズラが持ってきた小箱を覗く。そこには、多くの種類の疑似宝石が詰め込まれていた。紅玉も、金剛石も、翡翠も。一つじゃないかなりの量だ。絶対、数人の量じゃない。おそらく一つ以上の教室分ある。
「は?」
「いや俺に凄まれても」
やられた。マキはそう思った。ナナは自分の紅玉をマキに渡すことを回避したのだ。同級生たちの石をかき集めて、自分の石を隠すことによって。
「………」
はあとマキは深いため息をついて、しゃがみこむ。ナナの作る紅玉が欲しいと思ったのは、”なんとなく”だ。しかし手に入らないとわかると、なぜか無性にむなしい気持ちになる。先ほどよりさらにぐったりとしているマキを見た上級生は、不思議そうな顔をした後に笑った。
「マキも椅子から落ちることがあるんだな」
カズラはマキがどうして椅子から落ちたのかおおよそのすべてを知っていたが、それについては何も言うつもりはない。しかし、あまりにマキが空虚の顔をしていたので、ひとつ助言をしてやることにした。
「お前らしくないな、欲しいものはちゃんと欲しいって言わないと」
カズラの言葉を聞いたマキは、少ししてからふふふと笑い始めた。それを聞いた上級生が、魔法薬の作りすぎで気が狂ってしまったのかとマキを窺う。マキは掌を額に当てて立ちあがった。
「確かに、確かにそうだね」
そうだ、欲しいものは手を尽くして手に入れようとしないと。今までだってそうだったじゃないか。マキは、自分がわざわざ遠回りしていたことに気付く。”なんとなく”ナナの顔色を窺って足踏みをしていた自分が情けない。
あ、なんか変にやる気にさせてしまったかも。ナナ、すまん。カズラは心の中でナナに合掌した。
「一年生たちにはお礼をしないとね」
マキは笑みを浮かべながらそう呟く。お礼と言うには顔がやや物騒だ。それを見た上級生がカズラを小突く。マキが暴走しそうになったら止めてやれの意だとカズラは思ったが、神妙な顔をして首を振る。
「あれは俺には無理です」
はは、と上級生が乾いた笑いを溢した。カズラは、ふふふと笑いを溢すマキを少し遠くから眺めてこう言った。
「あれがマキなので」
その日の放課後、マキはナナにお礼も兼ねて話しかけに行った。しかしマキが寝不足であろうことをカズラから聞いていたナナは、マキに帰って寝るように諭した。マキは体調のことをナナに言われると妙に弱く、さらに眠いのは事実だったので大人しく寮へと戻った。寮に戻ってきたマキから話を聞いたカズラは、ナナやるなと言って大笑いしたのだった。




