第九章 木下という男
末永に引き続き木下という新キャラはミユキにどのように接してくるのか?
ミユキの研究の行方は好転するのでしょうか?
「面白そうなことをしていると聞いてきたんだが、いったいなんだ?学会の資料は読んだが、実態はこれだけではねえな。どこまで進んでんだ?」
木下も単刀直入に聞いてくる。学会の簡単な資料だけでなぜここまでわかるのか?ミユキはあっけにとられているが、裏を返せば頼もしい人材である事もわかる。
末永が、間に入って木下を紹介した。
「彼が木下聡、年齢は今年38だよね?古都大学の理学部を主席卒業の天才よ。今は財団所属だけど、当面はここの研究室にいることは承諾してもらったから、自由に使っていいわ。」
「自由にと言われても・・・財団って何ですか?」
ミユキは人を使って仕事をした経験がないので、急に言われてもどうしてよいのかわからなかった。
「のぞみプロジェクト財団と言って、世界中のベンチャー企業や若い研究者の芽を伸ばす支援を行っている財団があり、彼はそこからいろんな研究施設に派遣されてきたわ。もっとも、彼に言わすとまだやりがいのある仕事には出会えてないらしいけど。ね、そうでしょう。」
「まあ、そういうことだな、よろしく頼むわ。」
木下はそう言いながら握手を求めてきた。雰囲気が何となく史郎さんに似ているかなとミユキは感じた。
「ところで、資料はどれだけあるの?サンプルももらえるかな?」
ミユキは史郎の資料原本を持ってきた。段ボール箱3個分はある。それに加えて、ミユキが翻訳した分はノート30冊あまり、さらにミユキ自身が行った実験ノートが5冊。
「さすがに持って帰れねえな。ここに送ってくれ。」
木下は、傍らの紙にさらさらっと住所を書いた。
「サンプルは、私が作ったものは3セットあります。あとは・・・ミド、おいで。」
奥からミニブタが走ってきた。
「この子が、実験体です。」
「さすがにこいつは連れてけねえよ。そうか、この色か。これは人間には使えねえ。少なくとも半分、いや1/3の濃さにしないと使ってもらえねえ。それでも白人さんたちからは総スカンだぜ。」
木下は、ミドを抱え上げてしげしげと眺めながらつぶやいた。
「こいつはちょっとやりがいがありそうかな・・・」
残ボールの箱を見ながら、
「とりあえず、3か月、いや2か月でいい。時間をくれ。とにかく資料を見てみる。何かわかるかもしれない。」
一か月半が経った頃、木下から電話があった。資料をすべて見たとのこと。木下は末永と一緒にミユキの研究室を訪れた。
「結構大変な作業だったぜ、かなり癖のある字だしな。先生の翻訳も見せてもらったが、かなり解釈の違うところがあったぞ。添削しておいたぜ。」
そう言って木下はミユキの翻訳したノートを渡した。ミユキは恥ずかしくて顔が熱くなった。
「それで本題だが、先生が推定した連番は概ねあっている。ここまでは三村氏が達成したところで、サンプルも遜色ない。よくできてるぜ。しかし、彼のロードマップでは、やはり無色化が課題のようだ。いろいろ計画が立てられている。そこの部分の連番がつけられてないが、何とか流れは分かった。しかし、資料にいくつかの欠落がある。肝心なところがわからねえ。これで全部だろうな。」
「はい。私が事故で遭難したところからはすべて持ってきたし。大学の研究室の資料もすべてもらったし、ほかにはないと思うわ。」
「じゃあ、そこは三村氏の頭の中だけか・・・」
そこに、末永が口をはさんだ。
「実家は?三村さんの実家はどうかしら?三村さんなら盆や正月も実家で研究していた可能性は高いと思う。その場のメモ程度の資料だからそのまま置いてきた可能性もある。」
三人は納得したような顔で互いを見た。
「確かにそうだけど・・・」
ミユキの顔が曇る。
「私はあそこにはもういけない。」
末永は、ミユキの様子を見て、理由も聞かずに
「じゃあ、私が一肌脱ぐか」
そう言って、部屋を出ていこうとした。
木下が慌てて、一枚の紙を持って末永を追いかけて手渡した。
「これを持っていけ。先生は気づいていない。」
木下は相当な切れ者のようです。ミユキにとって貴重な戦力になるでしょう。




