第八章 末永という女
謎の女末永とはいったい。
ミユキと今後どうかかわるのか?
「お話って何でしょうか?」
ミユキはロビーのソファに座りながら尋ねた。
「率直に言います。今日の発表内容ですが、本当にあなたのオリジナルですか?」
いきなり言われて、ミユキはなんて答えていいのかわからなかった。
「なぜ?どうして?」
動揺してこれしか言えなかった。
対して、末永は落ち着いている。
「私は今日の発表にかなり酷似した論文を読んだことがあるの。10年位前だったかしら、飛行機事故で無くなった東都大学の若い研究者、確か三村・・・三村史郎だった。イギリスの『Quarterly BIO』という雑誌に掲載されていたわ。」
「そんな雑誌は知らない・・・」
「そうね。かなりマイナーな季刊誌で、情報発信としては遅いから、大学で読んでいる人は少ないでしょうね。」
そう言った後、しばらくの間をおいて思い出したように、
「あ、中園ミユキさんでしたね。ちょっと待って。」
末永はそう言って、カバンから使い古した分厚いノートを取り出して、何ページかをめくって何かを探していた。
「やはりそうだ。あなたはあの事故の唯一の生存者ですね。」
何もかも見透かされている。この人には勝てない。そうミユキは悟った。
「はいそうです。」
「というと、三村さんとの接点があるのですか?」
「はい。三村さんから直接この話を聞いています。」
ミユキはそれだけ言うのが精いっぱいだった。
「あなたも東都大学ですよね。同級生でもなさそうだし、いろいろありそうね。詳しく聞かせてほしいけどここではなんだし、日本に帰ったら真っ先に訪ねるから聞かせてちょうだい。名刺いただけます?」
「あ、はい」
ミユキは末永に名刺を渡した。
末永は約束通りに、帰国の翌日には電話をかけてきて、昼過ぎには研究室にやってきた。
山崎教授に挨拶している感じでは、旧知のようである。私の部屋に案内して二人だけで話した。
「あれは、三村さんの研究ですよね。」
いきなり核心を突いてくる。この人にはごまかしは効かない。素直に話そう。そう思い、今までの経緯をすべて話した。
飛行機事故のこと。史郎さんが自分にサンプル品を使って私を助けてくれたこと。サンプルと資料を黙って持ってきたこと。そして、史郎さんの研究を完成させたいと東都大学に入りなおしたこと。史郎は全世界の食糧問題の解決を願っていたこと。とりとめもなくすべてを吐き出した。
「お願いですから、公にしないでください。この研究は未完成なんです。今公表されてしまうとせっかくの史郎さんの発明が台無しになってしまいます。人類の未来がかかっているんです。」
末永はちょっと考えて、
「わかったわ。あなたの覚悟、今までの苦労も、三村さんの思いも・・・でも、これからどうするの?三村さんを超えないと進めないでしょう。」
「確かに・・・これからは未踏の世界です。史郎さんはロードマップを作ってあったみたいなんですけど、何度も修正が入ったりして、いったいどれが最終版かすらわからない状態で、目途が立っているなんてとても言えないです。」
「この件を知っているのは誰?」
「大学関係者だけです。」
「山崎先生なら大丈夫ね。それなら今報道しても価値はないわね。完成するまで見送る。その代わりに完成した時は私の独占記事にさせてね。」
「はい、それはもちろん。」
「それなら、私も全面的に協力しますよ。」
末永はそう言って、鞄から携帯電話を取り出して電話をかけた。
「もしもし?木下君?私、末永よ。元気だった?ちょっと手伝ってほしい案件があるんだけどいつなら来られるかな? 東都大学まで? 明日でもいい? 中園先生、明日は空いていますか? いい? いいって。じゃあ、明日の13時に現地集合で、よろしくね。」
立板に水のようにしゃべって、電話を切った。
「明日、木下という者を呼びました。この人はある財団の研究機関に在籍しているけど、実際はフリーランス的に動いているの。かなりの切れ者なんだけど、曲者でね、興味のあることしかしないの。でもこの研究には向いている気がするから呼んでみた。財団と山崎先生には私から話をしておきますから、明日一度会ってみてね。」
そう言って、末永は足早に帰っていった。
ミユキはただ、ポカンとしているだけであった。
翌日、末永は木下を連れてきた。木下は長身でやせた背格好で、髪の毛はぼさぼさではあるが、眼光が鋭いことは一瞬で分かった。
末永が連れてきた木下とはどういう男か?
ミユキの研究は一気に進むのでしょうか?




