第十章 三村邸
欠落した資料も探しに史郎の実家に向かった末永に史郎の両親はどう対応するか?
資料は入手できるのか?
末永は、史郎の実家を訪れた。ミユキが訪れてから10年近くたっているが、メモの住所に「三村」の表札が確認できた。
「たんか切って出てきたけど、本当に資料は残っているのかな?」
そう呟きながら、末永はインターホンを押した。
出てきたのは年配の女性、おそらく母親だろう。
「どなた様でしょうか?」
「ジャーナリストの末永と申します。息子さん、史郎さんのことで伺いたいことがあってお尋ねしました。少し話を聞いていただけないでしょうか。」
「史郎のこと?今さら?事故の原因でもわかったのですか?」
「その件ではありませんが、史郎さんの生前の研究の件で伺いました。」
「研究?私にはさっぱりわかりませんが、まあどうぞ。」
そういわれて奥に通された。そこには史郎の父親もいた。
「ジャーナリストの末永さんですって、史郎の研究のことで聞きたいらしくって。」
母親がそう言っている間に、末永は名刺を取り出して父親に渡した。
「フリーで取材をしています。」
「私らには研究のことは聞かれてもねえ。」
父親も同じことを言った。
「宮園ミユキさんをご存じですね。」
末永は、いきなり切り出した。母親はその名前を聞いて、眉をひそめた。
「はい知っていますよ。史郎が死んだ事故の生存者ですよね。しばらくした後にうちにも来たことがあります。あの人が史郎を殺したも同然です。」
母親は少し興奮気味に言った。
「まあまあ、母さん。話は聞いてからにしよう。」
「宮園さんは、今は東都大学で助手をしていらっしゃいます。」
「え、あのお嬢さんが?そんな風には見えなかったけど。」
「今は、史郎さんの研究を引き継いでおられます。」
「へー、そうなんですか?それで私たちに何を?」
父親のほうが興味を示してきた。
「資料の一部の存在がわからなくて、もしかしたらこちらに保管されているのではと伺いました。」
「あの女にくれてやるものはありませんよ。」
母親はまだ興奮している。父親はなだめるようにしながら。
「史郎の部屋はそのままにしてありますが、果たしてそんなものがあるのかどうか。」
末永は、やはりこうなったかという感じで、声を一段階落として付けくわえた。
「訪れた理由はもう一つあります。これをお二人に渡したくて。」
そう言いながら一枚の紙を出した。研究室を出るときに木下が手渡した紙だ。
「これは、あるルートで入手した史郎さんの研究メモです。おそらく事故現場で書かれたものだと思います。」
二人は、それも見ると涙を流し始めた。
「確かに、史郎の字です。こんな・・・」
母親は言葉を詰まらせた。そこにはこのように書いてあった。
『お父さん、お母さん、これを見ているということは、私がこの世にいないということです。事故に巻き込まれてしまい、研究が続けられないのは残念ですが、これまで私を育ててくれてありがとうございました。最後に残った人が、日本の女性であったことに私は感謝しています。私がこのまま死んだとしてもそれは彼女の責任ではありません。私の選択の結果です。』
「私はあの人にひどいことを言ってしまった・・・」
母親は読み終えると泣き崩れてしまった。
「史郎の部屋に行かれますか?」
父親は冷静に末永を案内した。史郎の部屋はまさに10年前のままという感じであった。きれいに掃除はされているものの、机の上や書棚は当時のまま保管されている。
末永は、机の上にあるタイトルすらつけていない3冊のファイルに目を向けた。
「もしや、これか?」
末永の勘があたる。見覚えのあるなぐり書きの紙が無造作につづられている。
「これだわ。」
「見つかりましたか。」
父親が安どの顔で言った。
「できれば、これはお二人から中園先生に渡していただきたいですが。」
末永は提案したが、母親はそれを断った。
「私はとても顔を合わすことはできません。どうか研究が完成するように頑張ってくださいと伝えてください。」
そう言って深々と頭を下げた。
こうして、ミユキと史郎の母親との間にあった確執は消えた。そして欠落した資料はそろった。
木下の機転で、すべて解決できたようです。
これで研究が進んでいけばよいのですが。




