第十五章 新たなる課題
新しい方法でのチャレンジは果たして成功するのか?
期待が膨らみます。
ゲノムの解析には一年かかった。ミユキたちはその間にロードマップを見直し、今後の開発の準備をし、ゲノムの結果を待った。
受光周波数を選択する遺伝子情報は特定できた。受光周波数を変更するための遺伝子操作は同じ財団にある遺伝子工学の専門家に任せ、放射線照射をしてもらった。こうして、全周波数帯を受光できるほうれん草の種が手に入った。
発芽したほうれん草を使い、葉緑素を抽出する。やはり、葉も抽出液もかなり黒い。
「まずは、この抽出したクロロフィルを今まで通りに処理して、マウスで確認しましょう。」
そう言って、ミユキは実験を進めた。
薬を注入すると白いマウスは黒いマウスに変わった。
「やはり、この色では人間に使えねえな。」
木下は、まだ色にこだわっていた。
ミユキは、酵素を活性化させマウスに光を当てた。ほどなくして血液を採取し、血糖値を計る。増加していない。比較した従来の薬品のマウスと変わらない。再度測定しても変化はない。
「なぜ?」
ミユキが叫んだ。
「ちょっと解析してみます。」
マウスを持って、堀江が分析室に急いだ。
堀江が戻るまでの一時間ほどは無言の間が続いた。
「光エネルギーの取り込みと変換までは増加しています。NADPHとATPは増加が確認できました。しかし、それに応じただけの糖量になっていないです。」
堀江が結果を報告した。一同は驚愕するしかなかった。失敗なのか。
「なぜでしょう。」
ミユキの問いに木下はしばらく考えた後に言った。
「暗反応がついてこねえか。迂闊だったな。せっかく取り込んだエネルギーも使いこなせていねえ。また熱になって逃げているか・・」
「暗反応の効率を上げられないでしょうか?」
ミユキが提案したが、本田が反論した。
「そこは無理だと思います。暗反応では糖になるのは30%程度ですが、これを上げるのはプロセス自体の変換になります。カルビン・ベンソン回路とは別のプロセスを考えなければならないです。それは神の領域ですよ。」
「確かにそうね。今からそこを作り始めたら、いつ終わるかまたわからなくなる。なら、余剰のATPをそっくりお返しできないかしら?白色光にして戻してもらえれば、黒色が薄くなるよね。」
ミユキの発想に、みながあっけにとられている中、一人木下だけが何かを感じた。
「高エネルギー・・・・熱・・・・光変換・・・・」
そう呟いて、席を外した。電話をかけに行ったようだ。
「頼む。二、三日の時間をくれ。自分の目で確かめてこないと何とも言えねえ。」
戻ってきた木下はそう言ってすぐに出かけて行った。木下には何か良い解決策があるのか?ミユキは帰りを待つしかなかった。
三日後に、木下は意気揚々と帰ってきた。
「うまくいきそうだぜ、先生のアイデア通りになりそうだ。」
木下は得意げに説明した。
「アメリカのロサンゼルス大学・ケミカル・ラボラトリーで開発した光変換膜だ。ここに来る前に少し手伝ったことがあって思い出したんだが、膜の内側の高エネルギーを高効率で光に変換して外に出す薄膜だぜ。蓄積能力はないし、さらに生物的に不活性だ。これ以上の好条件はあるまい。」
「変換できるエネルギーがごく微小なため、今までは良い使い道がなくて放置されていたようだ。向こうさんには話はつけてあるから、我々で自由に使える。金は要らねえ。製法は、葉緑素の入っている原液に薄膜原料のコロイドを入れて、攪拌しながら24時間放置で薄膜がコーティングされる。ここらあたりの文献は持ってきた。あとでゆっくり読んでくれ。」
そう言って、木下は分厚い紙の束をテーブルに置いた。
なかなか一筋縄ではいきませんが、木下は良いサポートをしてくれます。




