第十二章 転機
停滞するミユキにさらに支援が加わります。
ミユキは少し焦っていた。今年は何か成果を出さないと学会で報告する内容がない。最初に小出しして報告するように分割した内容は、昨年もう使い切ってしまった。しかし、依然として緑色は消えてくれない。史郎の残したドラフトに書かれていたものはすべてやってみたが、どれも成功しなかった。
唯一の救いはミドが元気であること。そして今もちゃんと炭酸同化作用を同じレベルで行っていることだった。機能的には問題ない。
木下は相変わらず、いろんな方法を探している。堀江と真田がそれを検証する。それを何回も繰り返しているが、結果はいつも同じ。実験ノートだけがどんどん増えていく。
財団の大河内理事長が突然訪ねてきた。ミユキは支援の打ち切りも覚悟した。
「研究は行き詰っているようだね。」
「あなたにとって大学は良い環境ではないでしょう。学会報告や論文提出の義務もあるし、授業や学生の面倒を見る必要も出る。研究だけに没頭できる環境のほうがよくありませんか?よろしければ私の財団の研究施設に来ませんか?」
ミユキは驚いた。内心はうれしかった。しかしこう答えるしかなかった。
「ありがたいお話ですが、お断りします。私はまだ何も成果を出しておりません。今受けている支援だけでも過分だと思っております。これ以上の支援を受ける資格なんてありません。」
「なにを遠慮している。失敗することは成果の一つだ。成果というものは成功したものだけではない。失敗というものは成功しない選択肢を一つつぶしたという成果がある。あなたの研究は、もしかしたらあなたの代では達成できないかもしれない。もし、それを将来誰かが、ちょうどあなたが三村さんの研究を引き継いだように、再びチャレンジしようとしたときに、同じ失敗を繰り返さないという効果がある。もちろん、学会や論文は成功した成果がないと認められないが、だれでもその裏ではたくさんの失敗を重ねている。私の財団では失敗を恐れて実行ができない人はいらない。失敗を重ねてもチャレンジし続ける人を応援している。あなたはどちらのほうですか?」
大河内は持論を交えて聞いてきた。ミユキはそれを聞いて振り切れたのか間髪を入れずに答えた。
「もちろん、私は後者です。」
ミユキの迷いはなくなった。そうだ、史郎のため、人類のために完成させなければならなかったのだ。
「それでは、移籍は了解ということですね。」
大河内はニコッと笑っていった。
ミユキは大学に辞表を提出した。山崎教授は、ミユキの転籍を喜んで送りだした。
「君には大学の器は小さすぎたのかもしれない。制約のない環境でもっと活躍してほしい。私も応援するよ。いつでもここに来てもらってもいい。」
「長い間お世話になりました。」
ミユキは深くお辞儀をして謝辞をあらわした。
大河内伊理事長の言葉は染み入りますね。
大学を去ったミユキは新天地で研究を継続です。




