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莫迦の真似事ー化け物少女は、無慈悲な邪神の妻となるー  作者: 清澄 セイ


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コリン・ハウスバーグは常に沈着冷静

 リバーシュの執務室へと向かう途中、偶然コリンを見つけたデルマ。今一度ど気を取り直し、可愛らしい仕草で彼へと駆け寄った。


「ちょうどあなたに会えて嬉しいです、コリン!」

「あ、ああ。はい、光栄です」


 彼女から声をかけられるやいなや、あからさまにぎくりと肩を震わせる。理知的な瞳を彷徨わせながら、気を取り持つように眼鏡のブリッジを指で上げた。


 コリン・ハウスバーグは有能な側近だ。圧倒的な威圧と願力に物を言わせるリバーシュとは対照的に、軍や貴族たちとの腹の探り合いは彼の役目。他にも側近は数人いるものの、顔を覚える前に辞めていく者がほとんどで、ここまで長く使えているのはコリンただ一人だった。


 リバーシュは恐ろしいが、付き合い方は熟知している。常に距離感を保ち、事務的なやり取り以外はしない。彼はリバーシュの本質を知らないし、逆もまた然りだった。


 そうして今まで上手く立ち回っていたコリンに、振ってわいた災いがデルマというわけだ。彼女は確かにあらゆる面で「天使」であると認めざるを得ないが、その分タチが悪いとも思っていた。


 常に笑顔で誰にでも平等に優しく、老若男女から好かれる美しい令嬢。それに加えて、あの「邪神」を相手に一切怯まない度胸と、従者さえつけずたったひとりで元敵国へとやってきた胆力。


 デルマという人間を知れば知るほど、自分のような普通の男が敵う相手ではないと、畏怖の念さえ抱いてしまうのだ。


「リバーシュ様にお話を通してほしいのですけれど」

「……と、言いますと?」

「アレクお兄様と三人で、ぜひお喋りがしたくて」


 無邪気な彼女を眼下に、コリンは絶句した。上唇と下唇が離ればなれになるのを堪え、冷静を保とうとわざとらしく咳払いをする。


「やっぱり、お忙しいかしら」

「ええ、まぁ……。リバーシュ様は周囲からの人望も厚く、仕事熱心な方ですから」


 まったく心の込もっていない言い方に、デルマはつい噴き出してしまいそうになった。彼は戦争しか脳がないと囁かれており、今は父親の雑用ばかり。城にいないのは常だが、表向き不戦の姿勢をとっている今のトルスタン帝国にとっては、リバーシュは煙たい存在であった。


「まだここを発つ予定はないのでしょう?一度、お願いだけしてみても?」

「ですが、そういったことを嫌う方ですので」

「もちろん、無理強いはしません」


 コリンの役目は承知している。が、デルマもここで引き下がるわけにはいかなかった。なんせ、当の本人と約束したのだ。


「なんなら、私から直接お話ししますから」

「デルマ様を通さないようにと仰せつかっております」

「そんなぁ!そこをなんとか!」

「どうか、ご理解ください」


 立ちはだかる壁は手強く、彼は頑なに首を横に振るだけ。


(リバーシュ様ったら、夜の逢瀬は許してるくせに!)


 コリンにくらい説明しておいてくれてもいいのにと、気の利かない婚約者に憤慨する。それでも諦めるわけにはいかないと、デルマは次の作戦に打ってでた。


「では、お茶会の件は伏せて私が呼んでいるとだけ伝えていただけますか?火急の用だと、なるべく切羽詰まった感じで!」

「い、いや。それは……」


 再び驚愕するコリンを尻目に、彼女は可愛らしく微笑む。


「私に貸しを作ると思って、どうか手を貸してはくださいませんか?」

「デルマ様に貸しなどと、そんな」

「あ、ちなみに右足の具合はもうすっかり平気なんですよ!ご自分の目で確かめてみてください」


 純真な瞳で懇願してきたと思いきや、間髪入れずにドレスワンピースの裾を持ち上げようとするデルマに、コリンは慌てて手を伸ばした。淑女としてあるまじき行為であることは明白であるが、彼にとってはそれよりも「足の具合」という言葉の方が何倍も恐ろしい。


 デルマがこの地に来てすぐ、彼女が足を酷く痛めていると知りながら、それを放置していた。そしてあろうことか、切断一歩手前にまで悪化してしまったのだ。


 しかも医者を呼んだのは、本人ではなくあのリバーシュ。常人であれば耐え難い痛みだったろうに、まだたった十三、四の娘がそれを隠していたとは。


 本来あの一件はコリンや専属侍女の重大な過失であったのだが、デルマは誰一人責めなかった。結局処罰は下らず、奇跡的に彼女の足は完治した。


「……軽率な行動は、くれぐれもお控えください」

「えへへ、ごめんなさい。次からは気をつけますね」


 わざとらしく首を傾げながら、さも楽しそうに笑っているデルマを、コリンはなんとも言えない表情で見つめる。


 助けてほしいと口では「お願い」するくせに、今怪我の話を持ち出すとはほとんど脅しではないか、と。

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