猫歴101年その2にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。ヒーローではない。
猫耳市を巨大生物が襲っていると聞いて駆け付けてみたら、主トモの白蛇トコロテン。
町から引き離して追い返そうとしたら暴れ出したので、しっかり説明したらやっとこさ帰路に就いてくれた。
猫クラン全員でトコロテンの背に乗り、縄張りまで移動。かなり速いけど蛇に乗って移動するなんて初めてだったので、みんな「にゃ~にゃ~」楽しそうにしてた。
猫耳市からトコロテンの縄張りまでの距離は、おそらく千キロ以上。そんな距離で巨大な黒い木が無数に生えているのに、トコロテンは木をスルスル抜けて30分ほどで走破した。
「んじゃ、エルフ市について来る人は~……ナシだにゃ……」
これから行うことは皆も知っているのに、猫クランメンバーは狩りに向かった。仕方がないのでわしは1人でエルフ市に転移して、エルフでもおっちゃんっぽい見た目の市長と面会だ。
「移住ですか?」
「うんにゃ。だいぶ増えたにゃろ? まだ余裕あるみたいにゃけど、先を見越して着手しておいてもいいと思うんだけどにゃ~」
「確かにそうですが……」
ここエルフ市は、オーガに産屋を乗っ取られて子供が産めなくなった経緯がある。その期間、減る一方だったから、いまはちょうど適性人数に戻ったところだから市長の口は重い。
「もう候補地も決まってるにゃ。白い森の主が守ってくれるいい土地にゃ。わしも協力するからどうかにゃ?」
「王様がそこまで言うのでしたら……募集は掛けてみます」
いまの市長は少し頭の堅い人みたいだけど、それだけ聞けたら充分。わしも軽くスカウトしてからトコロテンの縄張りに戻るのであった。
トコロテンの縄張りに戻ったら、猫クランはまだ狩り中。ひとまずわしは村が作れそうな場所を調査だ。
縄張りの外縁を一周して平地と水場を探すと、端のほうに小川が流れていたのでここをキープ。頭の中で村の構想を考えていたら、誰かにワシャワシャされた。
「またお昼寝~? これから移住するのに何してるのよ」
いつの間にか寝ていたみたいだ。だからミテナに起こされたっぽい。
「そっちだって、移住のこと考えてないにゃ~」
「王様の仕事だからいいもん」
「みっちゃんはわしの政策秘書にゃろ~」
「いつから? そんなのになったつもりもないわよ??」
「東の国で貴族を間引きした時からにゃ。自分だけ利を得てるのは許さないにゃよ?」
「あ、アレは、新女王の贈り物みたいな物だったじゃない? 言わば、プレゼント選びを手伝ってあげただけみたいな??」
ミテナが苦し紛れの言い訳をするので「にゃ~にゃ~」喧嘩。しかしミテナは分が悪いと話じたいを変えやがる。無茶を言ってる自覚があったんだね。
「移住の候補地は決まったの?」
「まあにゃ。いまはどんにゃ形にするか考え中にゃ~。あと、ここら辺の生き物の間引きは必要だろうにゃ~」
「猫クランの出番ですね!」
「任せてニャー!」
「根刮ぎ狩る」
「ほどほどでいいからにゃ? スタンピードになるかも知れないからにゃ??」
ミテナと喋っていたら、リータ、メイバイ、イサベレも聞いていたみたいで超やる気。猫クランメンバーを煽っていたから、わしは必死に止めました。生態系変わるもん。
「え~。今回のリーダーはウロ君にやってもらおうと思いますにゃ~」
「ええぇぇ!?」
とりあえずリーダーを変えてしまえば穏便に済むかと思ったけど、ウロはめっちゃ嫌そうな顔をしてらっしゃる。
「私では無理ですよ~」
「それはそうにゃんだけど、貴重にゃ生き物がいるかも知れないにゃろ? その調査をしてほしいんにゃ。副リーダーにニナもつけるからにゃ?」
「あーしもにゃ!?」
「夫を支えるのも妻の役目にゃ~」
「「無理にゃ~~~」」
ニナも巻き込んでやったら、どちらもやる気ナシ。しかし猫クラン真のリーダーのわしの命令だ。
わしは王妃様方にスリスリ猫撫で声を出して、2人の下に就いてくれとお願いしまくるのであったとさ。
猫クランのことはどうなるかわからないけど、わしは散々撫で回されたから、もうあとのことは知らない。頑張れウロ。
猫クランの調査が始まると、わしも村の建設に着手。どれだけ移住者が集まるかはわからないけど、千人規模の村を想定しておけば如何にもなるだろう。
チョチョイと黒い木を切り倒し、次元倉庫へ。土魔法で土地を慣らして溜め池を何個か作り、井戸が作れないかもやってみる。
そしたら温泉の源泉がドバーッと噴出。運がいいんだか悪いんだかわからないと呟きながら、そこを起点に外壁の位置を決める。
温泉はやはり端っこがいいだろうとそこから外壁を作り、白い森に入る門は鳥居風。外に出る門はひとまず引き戸にして、中心に市役所予定の五重塔を建ててやった。避難用の地下シェルターもあるよ。
人数がまだわからないので、少人数なら五重塔で寝泊まりしてもらおう。それよりもわしは、冷ましておいた温泉に入りたい。
いちおう男湯と女湯に分けて脱衣所も作れば、温泉にダイブだ。
「フニャアアァァ……極楽極楽にゃ~」
ちょっと変な声が出てしまったけど、温泉はいい湯だな。1人寂しく作業していた疲れが取れるってモノだ。
そうこう鼻歌まじりに温泉を楽しんでいたら、全裸のイサベレがドボンと飛び込んで来た。
「ここ、男湯にゃんだけど……」
「わかってる。だから、いまリータが逆に変えてくれてる」
「にゃんのために?」
聞くまでもなく、わしと入るため。猫クランメンバーも匂いで温泉に気付いて、疲れを取ろうと脱ぎ脱ぎしてる最中だってさ。
「なんでシラタマ君がいるの! ここ、女湯よ!?」
続々と女性陣が入る中、ベティは常識を口走っていたけど、それはわしに言うな。
「わしが男湯を作って入っていたのに、あとから女湯に作り替えるってどう思うにゃ?」
「それは酷いと思うけど……娘にハーレム見せるのもどうなの?」
「もう諦めてるにゃ~。ベティもいい加減諦めろにゃ~」
「せめて私ぐらい常識を言わないとダメでしょ~」
確かにツッコミ役はありがたい。しかしながら我が家のモフモフ組はお母様方から無理矢理洗われるから、男と思われていないのです。
せいぜい東の国で暮らしてるシリエージョがわしと入るのを嫌がるぐらい。キアラに至っては、裸でわしを抱いても何も感じないらしいのでやめてほしい。わしは感じてしまうんじゃ……
今日のところは温泉をゆっくり楽しみ、トコロテンにも食べさせてもいい物で餌付けしてからお家に帰るわしたちであった。
翌日は、猫クランメンバーはトコロテンの縄張り付近で調査。ウロに昨日の調査結果を聞いたら「調査ではなく虐殺」とか言ってました。生き物を写真に収めるのがやっとだってさ。
そんなことだろうと思っていたわしは、今日もエルフ市にやって来てスカウトだ。
「問い合わせがあったのは3人だけにゃ~……」
いちおう王様のお願いだから市長も応募はしてくれたみたいだけど、昨日の今日だからこんなもんかも?
「皆、住み慣れた土地は離れたくないみたいです」
「そりゃそうだよにゃ~……ちょっと急ぎ過ぎたかにゃ? もっと増えてる頃にゃら、喜んで移住してくれたのににゃ~」
「ですね……いえ、長老方がそろそろ産み控えしたほうがいい頃だと仰っていましたから、さほど増えないかもしれません」
「ああ~……土地が少ないとそうなるよにゃ。風習を変えるのも難しいしにゃ~……」
エルフ族はそうやって千年生きて来たのだから、できることなら尊重したい。それにエルフ族を増やし過ぎるのも何かと問題になるしな。
「致し方にゃい。常駐できる人を借りることにするにゃ。新しい村はたまたま温泉を掘り当てたから、市民の保養地として使ってくれにゃ」
これが最適解。観光目的の温泉地として活用すれば、トコロテンにお供えをすることができる。なんだったらお供えの品は売って、トコロテンへの餌付け体験としたら経済は回りそうだ。
「いま、温泉と言いましたか?」
「うんにゃ。いま成分は調査中にゃけど、ウチの上さんのお肌がプルプルに潤っていたにゃ~。温泉も魔力が加わるとにゃんか変わるのかにゃ~……市長は興味あるにゃ?」
「はい。猫穴温泉に入った時に、こんなに気持ちがいい物があるのかと感動しました。それからたまにですが、日ノ本にも温泉旅行に行っております」
「日ノ本いいよにゃ~? いっぱいあるしにゃ。秘湯中の秘湯と言えばイスキア島にゃんだけど、今度連れてってやろうかにゃ?」
「是非!!」
移住の相談をしに来ただけなのに、温泉談義で盛り上がるわし。市長はそこまで詳しくないから、全部メモに取って行った気分になっている。
「わっかりました……」
温泉談義に満足した市長は、パタリとノートを閉じた。
「移住第一弾は、私が行きましょう!」
どうやら温泉に入りたくなったっぽい。
「いや、市長はエルフ市にいないとダメにゃろ?」
「辞職します! すぐに連れて行ってください!!」
「市長は辞めるにゃよ~~~」
それも職を投げ出す事態。わしは移住者を募りに来たのに、初めての移住希望者は断るという捻れ現象が起きてしまうのであったとさ。
温泉にいますぐ入りたいとうるさい市長は休みの日にトコロテンの縄張りに連れて行き、わしのプレゼン兼、接待兼、プロモーションビデオの作製。
市長は温泉は堪能してくれたけど、新しい村のメインの仕事、巨大白蛇トコロテンへの餌付け体験は超ビビってた。そりゃそうか。人間なんて丸呑みできるもん。プロモーションビデオも顔が引き攣っていました。
新天地は、産屋が作れて守り神のトコロテンがいるからエルフ族に取っては住み良いと編集で誤魔化してみたけど、どうなることやら。
と、思っていたけど、プロモーションビデオをエルフ市の各所で流したらけっこう移住希望者が現れた。それもジジババばっかり!
「てっきり若者が来るものだと思ってたにゃ……」
「ははは。私もです。もっと土地を愛していると思っていましたが、飽きていたのですね」
「にゃんだかにゃ~」
やはり温泉といえば老人の楽しみ。エルフ族もそれは同じだったみたい。市長も苦笑いだ。
こうして第2エルフ市は、新しい村なのに老人だけが歩いているという不思議な場所としてスタートするのであった。




