猫歴101年その1にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。キャット圏って……なんじゃそりゃ。
わしが作った核融合発電所はキャット発電所とか言われたり、東の国周辺国の呼び名がキャット圏に変わったりしたので断固反対したけど、王妃様方の発案だったのでモフられて却下。
各国の君主も賄賂を貰っていたから、わしに力を貸してくれなかった。賄賂って言葉では片付けなれない大金だもん。
それがわしのポケットマネーに入っていたと思うとゾッとしました。合わせたら小国の国家予算ぐらいあるんじゃね? 報酬で大国ふたつ分の国家予算を貰ったから端金に見えなくもないけど……
もうここはポケットマネーが増えなかったことだけを喜び、あとはふて寝。半年間キャット圏を歩き回ったこともあり、さすがにわしのお昼寝は邪魔はされなかった。
労ってくれているのだろう。毎日誰かが優しく撫でてたもん。雑な日はみっちゃんだな?
めでたい猫歴100年は、なんだかんだで忙しく働いた記憶しかなくなり、猫歴101年になってもお昼寝していたら3月となった。
王妃様方も猫クラン活動だけしていればまだ働けと言って来ないのでお昼寝三昧。そろそろ暖かくなって来たから、外でお昼寝でもしてやろうかとウトウト考えていると、わしのスマホがけたたましく鳴り響いた。
「規模は……にゃるほど。にゃ? 馬鹿デカイ生き物にゃ? わかったにゃ。すぐ行くにゃ~」
それは国に危機を伝える警報。わしは膝枕された体勢のまま話を聞いたら、膝を貸してくれていたリータが反応する。
「またスタンピードですか?」
「うんにゃ。今回のはデカイみたいにゃ~」
わしたちがあまり焦っていないのは、よくあることだから。東から来る獣の群れには猫軍が防衛線を敷いているから、ほとんどの場合はそれだけで事足りるので、手出しするほどでもないからだ。
「でも、ハンターが馬鹿デカイ白い生き物を見たとも言ってるらしいんにゃ。しかも、目の前まで近付いて来たってにゃ。それで無傷で帰って来れるものかにゃ~?」
「それは変ですね……一般的なハンターでは生きて帰ることも難しいはずです」
「酒でも飲んでたのかにゃ~? ま、そのへんも調査しようにゃ」
「ですね。私は外に出てる皆さんを集めます。シラタマさんは先行してください」
わし1人でもできることだけど、猫クランの出動。リータはスマホで猫クランメンバーに一斉連絡し、わしはキャットタワーから大ジャンプ。
外壁を越えた辺りで着地したら、そこからダッシュで新設した発電所に急ぐのであった。
「もう大丈夫そうだにゃ。ご苦労さんにゃ~」
「「「「「にゃっ!」」」」」
現場に着いたのは連絡を受けて数分後だったが、スタンピードはすでに落ち着いていたからわしは労いの言葉。そこはありがとうございますと返事してくれよ。
「しっかし、にゃんですぐ終わったんにゃろ……」
本来スタンピードとは、長時間獣と戦うことになる。最低でも2時間は警戒は必要なのに、もう止まっているのは謎だ。
「それが、第一波以降が来なかったからなんですが……我々のミスで誤報をした可能性があります。申し訳ありませんでした!」
「大量に獣が出て来たのは事実にゃろ? 謝罪は必要ないにゃ。これにビビって、次回報告が遅くなることのほうが怖いにゃ。次もすぐに上に報告するんにゃよ?」
「はっ!」
災害は誤報であっても怒るようなことではない。王様から優しく声を掛けられた司令官は感動していい返事。わしも「にゃっ!」以外の言葉が聞けて感動だ。
あとは白い生き物の情報。ハンターに会わせてもらったら、全員オバケでも見たような顔で震えているから信憑性は高い。桁違いに強い生物を見たら、恐怖で動けなくなるからだ。
「にゃあ? どんにゃ見た目だったかはわかるにゃ??」
「わ、わかりません。とにかくデカくて……」
「顔らしき物が家ぐらいあったような……」
「視界に収まらなかったです」
「にゃ~??」
ハンターたちは混乱しているのはしているが、白い生き物を見たあとに気絶したのは統一見解だったから、見たのはほんの数秒の出来事だからバラバラの答えになっているのだろう。
「他に覚えてることあるにゃ?」
「えっと、気のせいかも知れませんが、『見付けた』と頭の中でおどろおどろしい声がしました」
「念話かにゃ? 他にも聞いた人いるにゃ?」
「「「いえ……」」」
念話を聞いた者が1人では信憑性に欠ける。しかし、獲物を見て食べずにどこか行くなんて、それなりに知能のある生き物だとはわかる。
これ以上の情報は出て来そうにないと感じたわしは「助かった」と金一封渡してハンターたちと離れた。恐怖に負けてハンター辞めてほしくないからな。超喜んでたから大丈夫かな?
わしは司令官と喋りながら猫クランが集合するのを待っていたら、また緊急連絡用のスマホの着信音が「フシャー! フシャー!」と、けたたましく鳴った。
わしが設定したワケではありません。出ないことには鳴り続けるから、早く取るようにしております。
「お前もその着信音なんにゃ……」
「猫軍の緊急警笛ですので……」
「にゃんですと!?」
まさかの防災警報が、猫が喧嘩しているような声。わしは驚きと同時に司令官に詰め寄った。
「それより猫耳市に行かれなくていいのですか?」
「わかってるにゃ! リータに電話しといてくれにゃ~~~!!」
「はっ!!」
でも、緊急事態の最中。わしは司令官を怒鳴り付けてから、猫耳市に走るのであった。
時は少し戻った猫耳市。発電所付近でスタンピードの知らせがあったから、ここでも猫軍が警戒を強めていた。
すると、ネズミやウサギといった小型の獣が一斉に猫耳市に向かって走って来た。
スタンピードの合図だ。このあとオオカミや鹿、中型から大型の獣が続々と現れるのだ。
いつもの現象。猫軍は何度も勝利を収めているから、どこか緊張感に欠ける。そのことを上官が咎めていたが、次の瞬間に絶望に襲われた。
白い生き物だ。人間なんて丸呑みできるほど巨大な生き物が木を薙ぎ倒して現れたからだ。
その白い生き物の正体は、蛇。猫耳市に近付いているのは頭だけ。胴体はいつまで経っても森から出て来ない。
そんな巨大な生き物を見た猫軍は、まさに蛇に睨まれたカエル状態。外で獣を迎え撃とうとしていた兵士は逃げることもできずにその場でへたり込んでいる。
その白蛇はズルズルなんて生易し音ではなく、山崩れが起きたような騒音を出しながら進み、猫耳市の手前まで来ると七本の尾で器用に体を支えて鎌首をもたげた。
「見ぃ付けた~~~」
白蛇は舌をチロチロ出しながら念話を届けた。何人が聞こえたかわからないが、外壁の上にいる兵士、猫耳市の住人がへたり込むには充分な迫力であった。
その白蛇は鎌首を伸ばして町の中を覗き込み、獲物を物色するように頭を右に左にと動かす。その時間のおかげで、助けを求める者、逃げ惑う者、ただただ祈りを捧げる者に分かれ、猫耳市はパニックに陥った。
『わしが来たからもう大丈夫にゃ~~~!!』
そこに、小さな猫のぬいぐるみが登場。
「猫、王、様……」
「猫王様だ!」
「猫王様が助けに来てくれたぞ~~~!!」
「「「「「猫王様~~~!!」」」」」
猫のぬいぐるみとは、もちろんわしだ。わしが音声拡張魔法を使って叫ぶと、猫耳市にいる者に希望が生まれた。
なんだか猫コールに発展したから恥ずかしいけど、わしは白蛇に一番近い外壁に飛び移り、腰に下げていた刀を抜いた。
「やっと見付けたわよ~?」
すると白蛇の念話が聞こえたから殺意は薄れる。
「にゃ? ひょっとしてお前って……トコロテンにゃ??」
「そうそう。お供え物ちょうだ~~~い」
「にゃんでこんにゃところまで取りに来てるんにゃ~~~!!」
この白蛇は、わしの主トモ。100年ぐらい昔、初めて飛行機で猫の国の東部探索をした時に出会ったのだ。
その時に、白蛇が600年ぐらい前に人間と関わっていたと聞いて、戦うことはなかった。その後は、お供え物をくれくれうるさいから、2ヶ月に1度の頻度でシロップ入りの樽を大量に持って行ってお昼寝していたのだ。
ちなみに名前の由来は、メイバイたちに聞いてくれ。白蛇の尾が7本もあるからトコロテンに見えたんじゃね?
『ああ~……みにゃさん。わしの友達がご迷惑をお掛けして申し訳にゃい! すぐ縄張りに帰らせるから、普段通りの暮らしに戻ってくれにゃ~』
白蛇と世間話してる場合ではない。ひとまずわしは市民に謝罪すると、白蛇を連れて森の中に入って行くのであった。
「友達って言ってたよね?」
「じゃあ安全ってことだね」
「普通に喋って従えてたらしいぞ」
「さすが猫王様。あんな化け物を従えるなんて」
「「「「「すっご~い」」」」」
猫耳市では、恐怖よりもわしの威厳が増したらしいけど……
森の中に入ったわしは、広い所を見付けたらトコロテンにとぐろを巻かせ、そこでリータたちと合流していた。
「まさかトコロテンちゃんがこんなところまで来てるなんて……」
「にゃ~? ビックリにゃろ? ずっと探し回ってたんにゃって」
「ということは……スタンピードの原因って、トコロテンちゃん?」
「うんにゃ。傍迷惑にゃことしてくれるにゃ~……みっちゃんはわしににゃにか言うことあるよにゃ?」
「ないわ。シラタマちゃんがスタンピードの原因だったことはデータに出てるもん」
「それは1回だけにゃろ~」
ミテナに謝罪させてやりたがったが、前科があるから通じず。それでも「にゃ~にゃ~」文句言っていたら、わしはメイバイに口を塞がれた。
「それでどうするニャー? このまま帰しても、また来るんじゃないニャー??」
「ヤサはバレたもんにゃ~……」
わしの住んでいる場所を知られたからには、いまお供え物をあげてもすぐに取りに来るのは目に見えている。その都度スタンピードとパニックになっては、猫の国は大打撃だ。
「あ、そうにゃ。エルフ市って、いまの人口どうなってたにゃ?」
「増えてるのは知ってますけど、人数までは……」
「そういうのは王様が覚えてないといけないわよ? わかってる??」
「わかってますにゃ~」
リータたち王妃組もその他も知らないのだから、ミテナのツッコミはわしには響かない。エルフ市は特殊だからあまり行かないもん。
「ノルンちゃん。100年前からどれぐらい増えてるにゃ?」
「およそ倍だよ。それぐらい覚えておけなんだよ。このすっとこどっこい」
「さすがノルンちゃん様にゃ~」
ノルンの口は悪いけど、それだけ聞けたら猫クランも全員、トコロテンの対応策は頭に浮かんだ。
「人間が近くにいたら、それなりに対応はできるにゃろ。エルフ市に移住者を募りに行くにゃ~」
「「「「「にゃ~!」」」」」
単純なこと。普通の人間より遙かに強いエルフならば、トコロテンとの共同生活が可能。
わしたちは第2エルフ市を作るために、東に向かうのであった。
「イヤ~! 私もここで暮らす~~~!!」
「暴れるにゃ~~~!!」
わしたちの話についていけないトコロテンだけは、めちゃくちゃ反対するのであったとさ。




