猫歴102年その1にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。猫だけど温泉嫌いではない。
猫耳市に巨大な白蛇が現れたせいで、特に何もしていないわしの活躍が尾ヒレが付きまくって報道されて困りました。だから戦ってないと言っておろう。
その原因の巨大白蛇トコロテンはというと、縄張りの隣に作った第2エルフ市に移住したジジババエルフに世話をしてもらっている。
デカ過ぎるから満足な量は用意できないので、一日一回のお供えだけ。その点はわしが重々言い聞かせてやった。最悪、蒲焼きにしてやるつもりだ。
お供えの品は、あまり旨すぎる物を与えるとお金が掛かり過ぎるので、手軽に大量生産ができる物をチョイス。サーターアンダギー、チンスコウ、温泉饅頭をエルフたちに教えてみた。
元々トコロテンは甘い物が好みだったから、安価なお菓子でも充分だ。足りなかったらわしの教えた雪魔法とわしのあげたシロップでカキ氷を食べろ。
いくら安く作れると言っても、タダではない。作る量も多いのだから、このままでは第2エルフ市が滅んでしまう。なので資金は、トコロテンの縄張りにある白い木を売ったお金。
この白い木はキャット圏では1本も生えていないから超貴重。なんといっても、遠い場所と場所とを繋げる三ツ鳥居の材料だから、超お高く買い取ってくれるのだ。
これ1本でシロップなんて何万トンも買える。実際にはそんな大量のシロップなんて作ると砂糖が市場から消え失せてしまうから、わしは丼勘定でやってました。
白い木だけでもトコロテンの餌代は賄えるが、縄張りの中を調査したら宝の山。そこら中にトコロテンの脱皮した皮が落ちているからハンターギルドで鑑定してみたら、莫大な額が算出されたので驚きました。
そのお金を財源にしたら、100年ぐらい第2エルフ市は新しい産業はいらないだろう。ちゃんと白い森を管理したらいくらでも湧き出して来るしな。トコロテンの寿命までは余裕だ。
第1エルフ市と第2エルフ市を繋ぐ三ツ鳥居が開通して正式に村開きしたら、週末にはエルフのおっちゃんおばちゃんがちょくちょくやって来るようになった。
そこから口コミで「いい所だったわよ~」と広がったのか、エルフ族の家族連れやカップルがやって来て、次第に宿は満員御礼。若い見た目の男が大量にやって来た時には野宿させてやった。
混浴なんてやってません。誰に聞いたんじゃ。
トコロテンの餌付け体験も最初は怖がっていたエルフたちだが、念話で普通にコミュニケーションが取れるし、背中に乗って白い森を一周するアクティビティもできるから恐怖は克服。
観光客も進んでお供え物を買ってくれるから、そこそこの利益が出て来た。ただし、ここで売っている物以外は餌付け禁止。旨い物を知ったら絶対に猫の国まで取りに来るもん。
こうしてトコロテンも受け入れられ、観光業に目を付けたエルフが移住するようになり、第2エルフ市はゆっくりと人口が増えて行くのであった。
猫の国の次の100年の初年度は、巨大生物襲来という波乱の幕開けであったが、そこからは平和なモノ。猫クラン活動がない日はお昼寝三昧だ。
とか思っていたけど、時は誰にも平等に流れるのだから、猫歴102年になると我が猫家にも不幸は訪れる。
「うっうう……」
「母さん……ぐずっ」
インホワの妻の命が尽きたのだ。いつも気丈に振る舞っていたインホワとシゲオも、この日だけは涙を我慢できずにいた。
わしはインホワたちに軽く声を掛けただけで、あとはお母様方に任せる。優しく撫でてくれるから、そのうち悲しみは和らぐはずだ。
それからお葬式も済み、月命日も終わった頃にわしは、インホワを仕事部屋に呼び出して抱き締めてやった。
「オヤジにセクハラされたにゃ……」
息子を抱き締めただけでこんなことを言われる筋合いはない。
「にゃんで温泉なんにゃ~!!」
そう。わしは抱き締めた瞬間に第2エルフ市に転移して、服も引ん剥き水魔法でインホワに掛け湯してから湯船に放り込んだのだ。マナーは大事だからね。
「いにゃ~。たまには裸の付き合いをしてみようかと思ってにゃ」
「それにゃら家でもいいにゃろ。よくやってるんにゃから」
「家だとメイバイたちがいるからにゃ。今日はちょっと内緒話をにゃ」
わしがこんなことを言うと、インホワは警戒した顔になった。
「そんにゃ顔するにゃ。ちょっと褒めるだけにゃ」
「褒めるにゃ? オヤジにしては珍しいにゃ……」
「まぁ大人になってからは数えるほどだもんにゃ~」
子供の頃はしょっちゅう褒めていたけど、インホワが反抗期に入ってからは自粛していただけだ。
「インホワが奧さんの介護を率先してやっていたのは見ていたにゃ。よく、1人の女性を死ぬまで愛し抜いたにゃ。わしはそんにゃ息子を持てて、誇りに思うにゃ~」
今日呼び出したのは褒めることもそうだが、わしが嬉しかったから。わしの言葉を聞いたインホワも目が潤んで涙が零れ落ちそうだ。
「お、俺はオヤジと違うんにゃ。嫁は1人でいいんにゃ」
「うんにゃ。それでいいんにゃ。すまないにゃ、こんにゃ変な父親で、こんにゃ変な家の子供にしてしまってにゃ。それにゃのに、こんにゃに立派に育ってくれて、わしは嬉しくて仕方ないにゃ~」
「やめろにゃ~。気持ち悪いにゃ~~~」
インホワ、照れ隠しで悪口を言う。何度も顔を洗っているから、感動して涙が止まらなくなっているはずだ。
「奧さんが亡くなってからまだ日が浅いからこんにゃこと言うのはどうかと思うんにゃけど……インホワだったら大丈夫かにゃ?」
「にゃにもったいぶってるにゃ……言いたいことがあるにゃら言えにゃ~」
「怒るにゃよ? ただのアドバイスだからにゃ??」
「早く言えにゃ~」
ここはインホワを信じて言ってみよう。
「お前の寿命はまだまだ尽きないにゃ。いまはこんにゃこと考えられないだろうけど、愛する人ができたら、その時は好きにするんにゃよ? シゲオは怒るかもしれないけど、わしは必ず応援するにゃ~」
猫クランメンバーは全員エルフ化しているから、寿命は300歳オーバー。猫のハーフの場合はまだ確証はないが、200年は残っているだろうからアドバイスしているのだ。
「それ、嫁にも言われたにゃ~」
「そうにゃの?」
どうやらインホワ夫婦が2人きりになったところで「あなたは先が長いから、私のことなんて気にしなくていいのよ」と妻から言われていたみたいだ。
しかしインホワは、「悲しいことを言うな。俺はお前のことを一生忘れない」とカッコつけたんだって。
「そりゃ忘れないのは当然にゃろ。わしだって、お春もツユも忘れたことはないにゃ。先立った者は全員にゃ。その気持ちを持っているだけでいいんにゃ。インホワもいい人が現れたら、気持ちに蓋をする必要ないんにゃ。にゃ?」
「……うんにゃ」
インホワはまだ気持ちに整理ができていないから納得した顔をしてはいないが、わしと最愛の妻の言葉だ。頭の片隅には残っただろう。
これでわしの言いたいことは全て伝えたから世間話に変えようとしたけど、インホワからも言いたいことがあるらしい。
「サクラにも同じこと言ったにゃ?」
サクラも夫に先立たれたことが気になったみたい。
「サクラは~……一人でも幸せそうだからいいんじゃにゃい?」
「にゃんで娘にはにゃにも言わないんにゃ~。サクラのほうが必要にゃろ~」
「いや、だって、嫌われそうで怖いじゃにゃい?」
「父親にゃろ! たまにはビシッと言えにゃ!!」
「お前も娘を持ったらこの気持ちがわかるにゃ~」
残念ながらインホワの子供は一人っ子。娘はどれだけ扱いが難しいかを、世のお父様の代わりに気持ちを伝え続けるわしであったとさ。
インホワと話をした翌日は、今度はサクラをわしの仕事部屋に呼び出した。別にインホワにやれと言われたからではない。
お母様方にチクられて「サクラの二度目の結婚を見たくないだけでしょ」と言い当てられたからだ。そりゃ変な虫がいなくなったから当然だよね~?
「にゃに~? 私、けっこう忙しいんにゃけど~??」
呼び出しておいてわしが何も喋らないのでは、サクラもイライラしてる。
「いにゃ~……わしが言ってるんじゃないにゃよ? 本当にわしが言ってるんじゃないにゃよ??」
「にゃんなの? 用がないにゃら帰るにゃ~」
「待ってにゃ~~~」
サクラのイライラが爆発しそうでは仕方がねぇ。わしも覚悟を決める。
「王子君が死んでからけっこう経つにゃろ? サクラも、もう一度か二度、幸せが舞い込んでもいいんじゃないかにゃ~っと思ってにゃ。サクラが幸せにゃら、王子君も許してくれるにゃ~」
わしの発言にサクラは目をパチクリさせているから、めっちゃ怖い。納得したのか怒っているかサッパリわからないからだ。
「にゃ~んだ。そんにゃことにゃ~」
しかし笑顔が戻ったから、セーフっぽい。エティエンヌからも同じことを言われていたそうだ。
「てっきり彼氏がバレたのかと思ったにゃ~」
「にゃんですと?」
「にゃ……しにゃった……」
どうやらサクラ、わしに知られたくないからってお母様方にもこのことを秘密にしていたっぽい。それをわしに言ってしまったから顔を青くした。
「パパはまだ早いと思いにゃす! 別れにゃさい!!」
「さっきと言ってること違うにゃ~~~!!」
そりゃかわいい娘に変な虫が付いていたら反対しても仕方がない。わしはいつも反対してるってのは関係ないです。
「てか、私の心配よりシリエージョとキアラの心配しろにゃ~」
「にゃ? 2人にも変な虫付いてるにゃ??」
「パパがそんにゃんだから、2人とも結婚しないんにゃ」
「よかったにゃ~」
「よくないにゃ! 急がにゃいと、私たち100歳になっちゃうにゃよ? 特にキアラはシリエージョと交代して東の国に行っちゃうんにゃから、いつまで経っても結婚できなくなるにゃ~!」
「にゃ……」
サクラに怒鳴られて初めて思い出しました。そういえばシリエージョは東の国の騎士を100年ぐらいで交代するようなことを言っていた気がする。
指を折って数えてみたら、あと20年強。もしもキアラが結婚したとして、子育てが終わるギリギリの期間だ。
「もう諦めていいんじゃにゃい? あの2人は結婚に向いてないしにゃ」
「そんにゃに早く諦めてやるにゃよ~~~」
300歳まで生きるとしたら、100歳で普通の人の3分の1の年齢。つまり30代半ばなら、まだまだ適性年齢だ。
わしはサクラに諭されてやる気を見せたけど、本当はやる気がないのを見透かされて、お母様方にチクられたのであったとさ。




