第13話 賢者は中等部へ進学する②
二人が掲示板を後にし、Aクラスの教室へ向かおうとした時だった。後ろから男子生徒の声が聞こえてきたのである。
「おい、そこの二人。初等部の校舎はここじゃないぞ。今すぐ初等部の校舎へ行きなさい。おいヤン、この子たちを初等部の校舎へ連れていってあげなさい。」
「かしこまりました、パトリック様。おい二人とも私が案内してやる。すぐにきなさい。」
おそらく二人の事を勘違いしているパトリックとヤンは、善意から案内を買って出た。
しかし二人は間違いなく中等部への進学を決めていたため、パトリック達に説明をしたのだった。
「パトリック様、ヤン様。お申し出はとてもうれしく思います。ですがその心配には及びません。私たち二人は今日からこちらのAクラスでお世話になりますので。」
ジョシュアは極めて冷静に、かつ相手に不敬にならないよう慎重に言葉を選び発言したのだった。
しかし、パトリックはそれを聞いた瞬間表情を変えたのだった。
「貴様らがあの二人か…。騎士爵の息子の分際でAクラスなどおかしすぎる。大方、裏で何かしたのであろう。いい機会だ、私自ら学院に対し抗議を行ってやろう。この学院で不正などあってはならないのだ。ましてや、私より成績が優秀などありえない。騎士爵家で雇える家庭教師などたかが知れているのだからな。」
「さようでございます。ではパトリック様、私目がこれより職員を読んでまいりますのでこのままお待ちください。おいだれか、パトリック様に椅子を!!」
そういうと、パトリックの取り巻きの一人が椅子とテーブルを準備し、その場に設置した。さらにもう一人の取り巻きがお茶の用意を始めた。
さすがにエントランスで何をやってるのだと呆れたレイアス達だが、頑張って顔に出さないよう努めたのだった。
周りの生徒たちは、あぁ~またか。程度にしか思っておらず、各々のクラスへと移動していた。
取り残される形となったレイアス達は、できればこのままここを離れたかったが、相手は子爵子息であるために無碍にもできず困り果てていた。
そこへヤンから呼び出された職員が到着したのだ。職員はヤンからあらましを聞いており、対応に困惑していた。
なぜならば、レイアス達の進級とクラスについては理事会の承認を経た、正真正銘の決定事項だからである。
職員はどうして良いものかと思案していると、一人の生徒が近づいてきたのだった。
「これはどうしたのです?私はクラスの表を確認したかったのですが?」
「貴様は…ダニエルか。」
ダニエルと呼ばれた男子生徒がパトリックに話しかけた。その表情は少し困惑しており、状況の説明を求めていた。
パトリックはダニエルを見て顔を顰めていた。どうやら、あまり好んで話したい相手ではなかったことがうかがえる。
職員はまた一人増えたことに頭を抱えた。これ以上問題が増えてほしくないのだ。
「なに、貴様が関わることではない。Aクラスの首席様はとっとと教室へ向かったらどうだ?」
パトリックは、ものすごくトゲのある言い方でダニエルにクラスを伝える。職員曰く、ダニエルとパトリックは首席争いをしている二人だったらしい。
ダニエルは顎に手を当てて考え事をしていた。そして一つ手をたたくと思い出したようにパトリックに告げたのだ。
「パトリック、彼らは正式な生徒だよ?それに僕たち子爵子息程度が意見したところで変わりはしない。こんなことしている暇があれば、勉学に励んだ方が有効だと僕は思うんだよね?どう思うヤン男爵子息殿?」
ダニエルからいきなり話を振られたヤンは言葉に詰まった。ダニエルはヤンから見た場合上位の存在なため、一歩間違えば不敬罪になる可能性をはらんでいたからだ。
それを面白く思わなかったパトリックは、焦るヤンを庇うようにダニエルをにらみ返した。
「ヤンに問うたところでどうとなるまい。それに、こんな小さい子供が中等部にいること自体おかしいと貴様は思わんのか?」
「この学院は実力主義だよ?入学の際サインしたでしょう。すべての地位より実力が優先されるって。それにだよ、こんな小さい子がここにいること自体、私たちの方が恥じなければならないのではないかな?それにちゃんと表を見たの?彼ら第3席と第4席だよ?むしろ彼らの努力をほめたたえるべきじゃないのかな?それとも爵位に胡坐をかいて無駄な時間を過ごすというならそれでいいと思うよ。そうしたら彼らの首席と次席が確定するだけだからね。」
ヤンを庇うために発言したパトリックは、ダニエルの言葉に唖然としてしまった。それは自分とは相いれない考え方だからだ。パトリックは典型的な貴族主義者で、平民を導くのは貴族であると考えているのだ。そして、自分の手で爵位を上げて上位貴族へと成り上がる。それがパトリックの行動原理なのだ。
大してダニエルは使えるものはみな使えの考えを持ち合わせており、ダニエルの周囲にいる人間は貴族や平民にとらわれず、実力者が集まっていた。
パトリックからするとそれ自体面白くはなく、初等部からずっとぶつかり合っていた。
「パトリック様、ダニエル様。お話の中申し訳ございません。もうすぐ時間ですので、教室へ移動してはいかがでしょうか。僕らの処遇については僕たちでは同二にもできません。それに、正式に飛び級の通知を受け取った以上、僕たちも登校せざるを得ません。これを断った場合、不敬罪に当たる可能性もありますので、ご容赦願えればと愚考いたします。」
ジョシュアは妥協案として、ここにいる全員は悪くない。これは決定事項だからどうにもならない。という方向に話を持っていった。これ以外この場が収まるとは思えなかったのだ。
「確かにそうだな。ダニエル、貴様の発言を納得したわけではないぞ。わかったな!!行くぞ!!」
パトリックはそういうと準備された紅茶を飲み干すと、席を立ち教室へと向かった。あとに残された者たちは急いでその場を片付けて後を追っていった。
エントランスに残されたジョシュアたちは困った顔を浮かべていた。
「君はなかなか面白いことを考えるね。両者を悪者にしないように丸く収めて見せた。」
ダニエルはそういうとジョシュアに体を向け握手を求めてきた。
「改めて私はダニエル・フォン・ズビク。ズビク子爵子息だ。パトリックとのいざこざに巻き込んでしまって申し訳ない。」
「僕はジョシュア・フォン・レガスティアです。レガスティア騎士爵家長男です。」
「僕はレイアス・フォン・レガスティアといいます。」
二人はダニエルの手を取り挨拶を交わした。
ダニエルは二人を品定めでもするかのように見回し、うんと一つうなづいた。
「君たちがマルコ殿のご子息か。マルコ殿はご健勝かい?」
「父をご存じなのですか?」
ダニエルの発言に驚いたジョシュアは目を丸くしていた。まさかここで父の名が出るとは思ってもみなかったのだ。
それを見たダニエルは少し顔を緩めながら思い出を語ってくれた。
「数年前に剣の稽古をしていただいたんだよ。すでに退役しているとはいえ、それでもその剣筋はおとろえていなかった。一本も取らせてもらえなかったからね。」
そういうとダニエルは苦笑いを浮かべ肩をすくめていた。
それを聞いた二人は改めて父のすごさを感じたのだった。
「三人ともここで話してるのはいいけど、ホームルーム始まるよ?」
職員の声に慌てた三人は教室へとかけていった。
その表情はとても楽しそうだった。
ちなみに、案の定遅れた三人は仲良く担任に説教を受けたのであった。
レイアスとジョシュアはこの時思った。ダニエルとは親友になれるのではと。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
登校して速攻で巻き込まれる二人には何かが付いているとしか考えられませんね。
しかし、この出会いがこの後とんでもないことへと発展していきます。
それはレイアスの人生を大きく変える出来事です。
誤字・脱字等ございましたらご報告いただけると幸いです。
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では、次回をお楽しみください。
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