第4話:社内政治はお断りです
その直後、バタバタと慌ただしい足音が響き、息も絶え絶えに部屋に飛び込んできた者がいた。司教のカランベルンだ。
「遅かったか……!」
残された鎧と剣、そして衣服だけが転がる部屋を見て、カランベルンはすべてを察したらしい。
「そうだ、遅い。遅すぎるぞ、カランベルン」
◇
結局、俺には丸一日の「十分な休養」が与えられた。 その後、しっかりとスケジュールが再調整され、改めて教皇猊下との会談が開かれることになった。
騎士と司祭を消滅させた件は大問題になったらしいが、カランベルンが「旅の疲労で心身ともに弱っている神の使徒に対し、無理な連行を試みた教会側の不手際。あれは不敬に対する神罰である」と、教皇庁を強引に黙らせたらしい。
カランベルン、思った以上に有能な中間管理職じゃないか。
俺からしてみれば、最初から適切な休息を与え、事前に予定を通知し、対等に会談のセッティングをすれば済む話だったのだ。常に上から目線のコイツらのほうがビジネス感覚としてどうかしている。
会談の場は、大聖堂の最奥にある一室だった。 太い石柱と分厚いオーク材の扉に守られ、高所のステンドグラスからわずかな光が差し込むだけの、重々しい部屋。 中央の黒ずんだ艶のあるテーブルの奥、背もたれの高い革張りの椅子に、その男は座っていた。
きらびやかな金糸の刺繍が施された緋色の法衣を纏い、指先には権威の象徴である大きな金の指輪。彼こそが教皇だ。
教皇はにこやかな笑みを浮かべ、対面のソファーを指し示した。
「ようこそ王都教会へ、聖女様。どうぞお掛けください」
俺とカランベルンは並んでソファーに腰を下ろす。
教皇の後ろには二人の近衛騎士。両サイドには書記の司祭。さらに部屋の隅の薄暗がりにも、数人の護衛が潜んでいる。
だが、力の使い方を理解した今の俺には、彼らの『魔力の気配』がありありと視認できていた。伏兵など何の意味もなさない。こちらの索敵能力が強化されただけだ。
「それで、わざわざ呼びつけてなんの用だ? 」
すでに前科をブチ上げた後だ。今さら猫を被る気もないので、俺はぶっきらぼうに切り出した。
チャッ、と背後の騎士の剣の鍔が鳴ったが、カランベルンがコホンと咳払いをしてそれを制した。いいぞカランベルン、そのまま手綱を握っておけ。
教皇は少し苦笑し、大物の余裕を崩さずに話し始めた。
「聖女様の『これから』についてのお話です。まずは教会の作法と貴族教育を受けていただき、国王陛下への謁見の準備をしていただきます。その後、15歳になったら王国の貴族学園に入学していただき――」 「ちょっと待て」
俺は手を挙げて、教皇の言葉を遮った。
「なぜ俺が貴族教育なんて面倒なものを受けなきゃならん? 国王に会う意味も、学園とやらに行く意図も、すべてが意味不明だ」
「……は?」
部屋にいる教会連中全員が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているが、俺からすれば彼らのロードマップこそツッコミどころ満載だ。
「聖女に、なぜ教会の作法や貴族の振る舞いが必要なんだ?」
「え、いや……国王陛下に謁見するためには、最低限のマナーというものが……」
「そもそも、なぜ聖女である俺が、一国の王に会いに行く必要がある?」
「それは、国家との連携のために、しかし……」
「百歩譲って連携するとして、聖女と貴族学園に何の関係がある?」
「え……? いえ、普通は国の庇護のもと、次世代の権力者たちと交流を……」
教皇の額から汗が伝う。彼はハンカチを取り出し、困惑を隠せない様子で汗を拭った。
俺は心底呆れ果て、冷たい息を吐き出した。
「お前ら、根本的な勘違いをしてるんじゃないのか?」
「勘違い、ですか……?」
「そうだ。神の使徒であり、唯一の聖属性を持つ俺に、魔物を滅ぼしてほしいんだろ? ならば、教会や国家が全面的に俺の後方支援を担当するのは当然の義務だ。それがなぜ、プレイヤーである俺が、お前らの身内の身勝手なルール(作法・貴族教育)にリソースを割いて合わせなきゃならんのだ」
「しかし! それでは教会の権威が損なわれます!」
我慢できなくなったのか、書記の司祭が声を荒らげた。
「権威? ならば聞くが、教会とは何のために存在する組織だ?」
「神の教えを人々に伝え、神に礼拝を捧げるための場所です!」
「であれば」
俺はソファーの背もたれに深く寄りかかり、傲然と言い放った。
「なぜ、神の使徒である俺に、まずお前たちが拝礼しない? 教会は、いや教皇とやらは、神の直系たる使徒よりも偉いのか? もしそうなら今すぐ神をここに呼べ。俺が直接、人事権について文句を言ってやる」
「「「ッ……!!!!」」」
部屋が、水を打ったように静まり返った。
「俺は無理やり神の使徒にされ、お前らに聖女と祭り上げられた。そして王都の教会に足を運んでほしいと言うから、最低限のインフラ(衣食住)を保証する代わりに、こうして面談することに同意した。
今後のインフラの保証の対価として、ついでに神の使命を実行するため、教会の上役にこうして会ってやっている。
神から直々に下されたタスクは『魔物の脅威から人類を救え』だ。教会の権威を上げろだの、国王に媚びを売れだの、そんな規約は一言も聞いていない。
ならばお前たちがやるべき業務は、魔物殲滅のための情報収集と、具体的な作戦プランを俺に提出することだけだ。くだらんしきたりや社内政治に付き合うつもりは一切ない」
言いたいことをすべて吐き出した。
自由と平穏を勝ち取るためには、さっさと神に押し付けられたメインクエスト(魔物殲滅)を終わらせるのが一番の近道だ。有象無象のノイズに邪魔されている暇はない。
教会が本当に神を信仰しているというのなら、神の使徒である俺の「駒」として動くのが筋というものだ。
◇
司教のカランベルンは、聖女マリアベルの言葉を聞いて、目から鱗が落ちるような衝撃を受けていた。
確かに、王国とのパワーバランスのために貴族の振る舞いを身につけ、教会の権威を守るというのは、これまでの我々の「常識」だった。 しかし、それはあまりに人間側の傲慢な都合ではなかったか。
我々は敬虔な信者であり、神の言葉に従う者。ならば、神の使徒であり、神の代弁者であるマリアベル様が『魔物を殲滅する』とおっしゃるなら、我々教会は文字通り、その手足となって尽くすことこそが真の信仰の姿。
カランベルンの中で、何かが決定的に変わった。 この幼くも圧倒的な聖女こそ、真に仕えるべき絶対の主であると、確信したのだった。
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本作はAI(Gemini)を利用し、校正を行っています。
基本お話は完全に手作りですが、描写等のもサポートしてもらっています。




