第3話:ブラック組織(教会)への手痛い挨拶
小太りのおばさんが叫んでいたように、俺の今の名前は「マリアベル」と言うらしい。
教会に戻り、綺麗な風呂の湯で泥を洗い流され、上質な服を着せられ、温かいメシをたらふく食わしてもらい――ようやく一息ついたとき。 司教のカランベルンから「マリアベル様」と呼ばれて、初めて「ああ、それが俺の名前か」と腑に落ちた。
なにせあの農家では、2年間「オイ」とか「グズ」としか呼ばれていなかったのだ。前世の男としての記憶が強烈すぎたこともあって、自分の名前の認識が完全にすっ飛んでいた。
湯上がりの果実水を飲み干すと、カランベルン司教が今後について説明しにやってきた。 まずはここから司教の本拠地である大教会へ移動し、俺の体力を回復させる期間として一週間。その後、二泊ほど宿場町を挟みつつ、馬車で王都の本部へ移動するプランらしい。
「ああ、うん。良いんじゃねぇか」
司教の説明は合理的でわかりやすく、段取りも非常にスムーズだった。
有能な部下を持ったときのように俺の怒りはすっかり落ち着きを取り戻し、普通に了承した。美少女の見た目で返事がめちゃくちゃ荒いのは、まあご愛嬌だ。
こうして教会の手厚いケアによって身だしなみを完璧に整えられた俺は、この国の王都へと旅立ったのだった。
◇
途中の宿場町で二泊し、予定通りに王都の『大聖堂』とやらについた。
結論から言おう。移動だけで死ぬかと思った。
舗装されていない悪路を、サスペンションもクッションもない板張りの馬車で揺られる旅は、現代の快適な自動車を知っている俺にとってただの拷問だった。 途中で飽きて「乗馬に挑戦してみたい」などと言い出したのも失敗だった。股関節が激しい筋肉痛に襲われ、余計に苦しむ羽目になった。
完全に自業自得なのだが、それゆえに怒りの矛先が自分自身に向かい、ストレスは限界突破していた。
となれば、もうわかるだろ。 疲れてんだよ。休みてぇんだよ。一歩も動きたくねぇんだよ。
大聖堂内のあてがわれた客室で、悲鳴をあげる肉体をベッドに投げ出していると、ノックもなしに数人の司祭が部屋に入ってきた。
「聖女様、ご準備を。教皇様がお待ちです」
俺はベッドにうつ伏せに寝転んだまま、ピクリとも動かない。当然だ。
「聖女様? 起きてください。教皇様がお待ちなのです」
「……喧しい」
「はい? 何とおっしゃいましたか?」
「見てわかんねぇのか。休んでんだよ」
司祭たちは顔を見合わせ、「何を言っているんだ、こいつは」と珍獣を見るような目で俺を見下してきた。そのプライドの高さが透けて見える態度が、俺の逆鱗に触れる。
「あの、聖女様……すでに教皇様がお待ちなのです」
「だから?」
「だからって……いえ、お出かけになる準備を……」
俺は、枕に顔を埋めたまま深くため息をついた。
「俺は疲れてるの。アポなら別日に取ってくれ。それよりも早く風呂を用意して、専属のマッサージ師を手配してくれない? 頼むわ」
これでも、イラつきを最大限に我慢して「代替案」を提示してやったつもりだった。出掛けるとかアホか。まずは労働環境の整備とコンディショニングが先決だろ。
「いや、冗談を言っている場合ではありません! すでにお待ちになっているのです。すぐに起きて、ご準備をお願いします。シスター、手伝いなさい!」
グイッと、男の力で強引に肩を掴まれ、身体を起こされた。 自分の意志ではない暴力的な力によって、疲弊しきっていた腰や脇腹に激痛が走る。
――ブチッ、と。 俺の中で、何かが完全に切れた。
「あ――」
ドンッ!!! と、爆発的な魔力が部屋の中で炸裂した。
俺の肩を掴んでいた司祭たちの身体が真後ろに吹き飛び、教会の頑丈な石壁に叩きつけられる。部屋に入ろうとしていたシスターたちは、衝撃波で廊下まで弾き飛ばされて悲鳴を上げた。
「何事だ!襲撃か!?」
騒ぎを聞きつけた神殿騎士たちが、抜刀しながら部屋になだれ込んでくる。
そこにいたのは、ベッドの上で這いつくばり、痛む脇腹を押さえつつ、こめかみに青筋を浮かべて――怒りのあまりクックッと笑っている美少女(中身おっさん)だ。
壁にめり込み、白目を剥いて失神している司祭たちを見て、騎士たちが色めき立つ。
「おい、貴様! 何をした!」
鋭い剣先が、一斉に俺に向けられる。
ははは、笑っちまうね。 何が「聖女様」だ。そこに敬意なんてひとかけらも無いんだろうが。 前世のおっさんから見れば、今の俺はただの華奢な少女だ。ここの権力者どもにとって、子供なんて利用し尽くして当然の道具なのだろう。
だが、あいにく中身は自我の確立した大人の男だ。 この世界の常識も、価値観も、権力構造も知ったことか。俺が神の使徒で、この世を救う「聖女」だというのなら――いいだろう、その特権を最大限に振りかざしてやる。
「おい、そこの騎士。なぜ俺に剣を向けている?」
黄金に染まった瞳で、周囲の空気を物理的に軋ませるほどの魔力圧を発しながら、俺は冷徹に問いかけた。
「だ、黙れ! 誰か応援を――」
騎士たちは脂汗を流しながらも、構えを解こうとしない。
「3秒やる。3秒以内に剣を収めて部屋から出ていけ。……さもないと」
本気で排除する。 相手が明確な凶器を向けている以上、これは正当防衛だ。
3秒なんて適当に言ったが、それほど俺にとっては脅威であり、徹底的に自己防衛するしかない状況だった。その瞬間、脳内に『力』の使い方が流れ込んできた。 どのように出力すれば敵を効率的に葬れるのか、身をどう守るのか。生存本能のなせる技か、聖女のスペックの高さゆえか。
「3……2……1」
騎士たちは、最後まで剣を引かなかった。リスクマネジメントのできない無能どもめ。
「ゼロだ」
次の瞬間、部屋が目も眩むような純白の閃光に包まれた。 部屋にいた神殿騎士はもちろん、壁に打ち付けられていた司祭の姿も消えた。
跡形もない。 文字通り、一瞬で『聖属性の光』によって消滅したのだ。
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本作はAI(Gemini)を利用し、校正を行っています。
基本お話は完全に手作りですが、描写等のもサポートしてもらっています。




