第12話:ホワイト企業(帝国)へようこそ
王国の関所を通過し、しばらく進むと、前方に大きな軍団が進路上に駐屯しているのが見えた。
俺達の馬車を認識すると、その軍団から騎馬が三騎のみ、こちらに向かって駆けてくる。
馬を止めた先頭の男が、礼儀正しく一礼した。
「聖女様の御一行とお見受けいたします。私は帝国の王国方面軍所属の騎士、アルベルトと申します。ほかは、従騎士のコナンとサバエル。聖女様を帝都までご招待するよう、皇帝陛下より勅命をいただいております」
おっと、これは予想外だ。帝国からわざわざお出迎えが来ているとは。
俺は馬車から降りて、帝国騎士の前まで歩いていく。警戒にあたっていた神殿騎士とハンターたちが俺の意図に気がつき、左右に分かれて道を開けた。
「初めまして。帝国騎士のアルベルトさん。俺が聖女マリアベルだ」
俺の姿を認めた瞬間、帝国騎士たちは一斉に馬から降りて、その場に膝をついた。
「神の人であり、聖女マリアベル様。直接ご挨拶いただき感謝いたします」
「ああ、丁寧な挨拶いたみいる。ひとつ聞いても良いか?」
「は、なんなりと」
「帝国皇帝陛下は、俺になんの用があるのか聞いてる?」
アルベルトは姿勢を正したまま、澱みなく答えた。
「は。ハンター協会本部へ送られた、魔物との棲み分け案について、帝国はすでにハンター協会と情報を共有しております。すでに魔物の森と境界を接している領主とも連絡を取り、具体化に向けて連携を始めたところです。つきましては、立案者である聖女様を早急にお迎えして進めようとしていたところ、王国の情報が入りまして、急ぎお迎えにあがった次第となります」
なんだろうか、この国の境界を跨いだだけで、この違い。
「いやはや、話が早くて助かる。王国では、一歩進むごとに足に縄をかけようとする奴らばかりだったからな」
帝国騎士アルベルトは、それまでの厳しい軍人の顔を緩めて笑った。
「かの国は、阿呆の国として有名でしたからな。聖女様も運がない」
その言葉に俺も笑ってしまった。
「まったくだ。帝国では有意義に過ごせそうだ。招待をお受けしよう」
こうして、俺たちは帝都グランディアに招かれた。 帝都までの旅は、道が完璧に整備されていて馬車の揺れも少なく、毎晩一流ホテルに宿泊し、美味い飯と花の香りの風呂に入り、至福のマッサージまでついてくる。 比べるにも程がある、実に快適な旅路だった。
帝国に到着してからも、無理のないスケジュールの中で、きちんとした指示系統の責任者たちとの合意形成が進められた。さらに、決定した内容は帝国法によって「契約」として定められ、今後の保障まで明確に言及される。 長年進まなかった大仕事が、まともな取引先に変えた途端にすんなり動き出したような感覚だ。
俺たちの本拠地についての話も進み、計画の中央部にある土地に、新しい神殿と街を作ってくれることになった。 これも、王国に本部があった教会のトップが神の反逆者となったことで、「聖女マリアベルこそが教義の中心であるべきだ」と各国の教会から嘆願を受け、新たに教会本部を帝国に設置することになったためだ。
もちろん責任者はカランベルンで、役職は大司教猊下とした。前任の「教皇」という言葉のイメージが悪すぎたせいで大司教にしたのだが、本人も「実務がやりやすければ問題ない」と同意したので良しとする。
帝国側のせめてもの御礼に、俺は帝国の首都にある教会で、二週間に一回の魔法治療を行ってあげることにした。
そんな折、俺の元に帝国皇帝からの会談のスケジュールが入り、トップ会談をやることとなった。
皇帝陛下との会談場所である「小謁見の間」は、思いのほか質素な部屋だった。 金と宝石で飾られた大広間とは違い、壁には帝国の古い地図と、幾本かの旗だけが掛けられている。 部屋の中央には丸い黒檀の卓、その向かい合わせに置かれた二脚の椅子。大きなガラスの窓からは穏やかな光が差し込み、部屋は明るい。王都で教皇と会談したあの薄暗い部屋とは真逆の印象だ。 皇帝はすでに片方に腰掛け、執務用の重い外套を脱いだ姿で俺を迎えた。
年の頃は六〇歳ほどだろうか。切れ長の瞳は歳を感じさせない鋭さを持ちながらも、俺を迎え入れるために、穏やかな口調で語りかけてきた。
「ようこそ。神の代理人にして、人類の救済者である聖女よ」
「こちらこそ、お招きいただき感謝申し上げる。良き治世をなされる偉大な皇帝陛下よ」
ちょっとビビるが、俺は神の使徒だ。対等な立場であるという意志を会話に込める。 皇帝が手を挙げると、控えていた従者と侍女が素早く、お茶とお菓子をセッティングして退室した。
二人きりになると、皇帝がふっと目を細めた。
「……聖女は、まるで男のような話し方をするのだな」
「そりゃそうだ。中身は男だからな」
「……なんと」
「神とやらが俺に使命を与えて、目を開いたらこの体だったのだ。俺の意思ではないし、女になる気もないのでな」
「そのようなことがあるのだな。過去の聖女の記録にも、そのような記述はない」
「それは救いなのか、運を嘆くべきか……」
俺たちは笑い合った。 アイスブレイクは成功のようだ。
「まずは国境への迎え、その後の手厚いもてなし、そして計画実現のための迅速な調整を感謝する」
「気にするな、こちらにも確かな理があることだ。聖女なくして、この計画は実現不可能だからな。魔の森での被害、対応に係る経費、それにより遅滞する領地の発展。それらを一挙に解決するこの計画には、莫大な利益が存在する。少しでもまともな頭を持った人間ならば、協力しない方がおかしな状況だ」
そうなんだよな。やっぱり王国が特別におかしかっただけで、この帝国の行政システムとコスト感覚が普通なのだ。
「計画実現のために、今後とも協力をお願いする」
「うむ、早期に実現するために、こちらの協力は惜しまぬと約束しよう」
そうして、俺たちは握手を交わした。確かな契約の成立だ。 だが、やはり一国を率いる絶対者の欲というものは、どこの世界でも変わらないらしい。
「ところで、聖女よ」
「何か?」
「お主は、神と直接話をしたと聞いておる」
「ああ、一方的にだがな」
「……余も、神になることは可能だろうか?」
「……は?」
突然、皇帝がとんでもないことを言い出してきた。おいおい、おじいちゃんボケちゃったの?
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本作はAI(Gemini)を利用し、校正を行っています。
基本お話は完全に手作りですが、描写等のもサポートしてもらっています。




