弱った後輩は嫌な第四話
結局あの日、雨が少し弱まったタイミングで薫から傘を借り、和葉と雫は相合い傘で帰った。
雫は帰り道も和葉にべったりくっついていたのを覚えている。
そして次の日——。
雫がいない美術室。和葉はなんとなくそわそわしながら絵を描いていた。
「和葉、雫ちゃんのお見舞いはいいの?」
見かねた薫は和葉に言った。
「お見舞い? 別に……みんなが行くなら、ついでに行ってあげてもいいけど?」
(照れ隠しだな……)会話を聞いていた泉希は思った。
部活後、雫の家に美術部の和葉と薫。泉希はお見舞いに来た。
インターホンを押すと、雫に似て可愛らしい女性が出て来た。雫の母親だ。
母親は雫の部屋を案内してくれた。
「何で雫が風邪引くんだよ!」
和葉は部屋に入るなり、ベッドの横に立ち、ため息混じりに言った。
布団にくるまった雫は、鼻声になりながらもにこにこと笑っている。
「私とした事が、風邪を引くなんて……
でも、先輩が看病に来てくれたので、風邪引いて良かったかもですね♡」
「来て損した。」
和葉が即答すると、雫は「えー」と小さく抗議の声を上げた。
「ひどい……。先輩の冷たい言葉が、私の心にまで染みて熱が出そうです……」
「余計なこと言うから余計に熱出してるんだろ! ほら、ちゃんと薬飲んで」
和葉は持ってきたスポーツドリンクをストロー付きで差し出す。
雫は上目遣いに和葉を見ながら、素直に口を開けた。
「ん……おいしいです。先輩が持ってきてくれたから」
「……普通のドリンクだよ」
和葉が頰を少し赤らめながらタオルを交換していると、雫が熱っぽい声で続けた。
「っあ、先輩……すみません気が利かなくて。
一緒に布団入りたかったですよね?
はい、ここどうぞ。一緒に入ったら温かいですよ?」
「どんな気付かいだよ! 絶対に入らんわ」
「えー、でも先輩、昨日は私が後ろから抱きついて温めてあげたのに……
今度は先輩が私の温もりで治してあげてください」「自業自得だろ! 誰がわざわざ傘忘れて雨に濡れようとしたんだよ!」
雫はくすくすと笑いながら、布団の中から手を伸ばして和葉の指を掴んだ。
「先輩の手、冷たい……。
やっぱり看病してくれるの、嬉しいです。
先輩が私の額に手を当てて『熱あるね……』って心配してくれる顔、ずっと見たかったです」
「見てねーよ! 心配なんかしてねーし!」
そう言いながらも、和葉はちゃんと雫の額に手を当てて熱を確かめていた。
その様子を、部屋の外から少し扉を開けて見ていた薫と泉希が小声で話す。「完全に看病モード入ってるよね、和葉」
「和葉先輩、ツンデレ全開です……可愛い」
雫が熱で少し潤んだ目で和葉を見つめながら、最後に小さく囁いた。
「先輩……風邪が治ったら、お礼に今度は私が先輩を朝まで看病してあげますね?」
「いや、風邪引いてないから!!」
和葉の悲痛な叫びが、学生寮の部屋に響いた。
和葉は心の中でそっと思った。
(……まあ、珍しく雫が弱ってるのを見るのも、ちょっと心配だけど……嫌いじゃないかも)
もちろん、そんな本音は絶対に口には出さない。 福女美術部の、いつもの騒がしさとは少し違う、静かで少しだけ甘い午後が続いていた。
お読みくださりありがとうございました。
感想等頂けたらモチベーションアップになりますので、よろしくお願いします。
今後は1話ずつ毎週水曜日9時半と土曜日の17時半に投稿します。
全13話を予定しています。




