濡れるのは許してくれない第三話
ある日の放課後。
美術室に差し込む光が急に暗くなり、窓を何かが激しく叩く音が聞こえ始めた。
「先輩、雨ですよ」
雫がキャンバスから顔を上げて言った。
「っえ、ほんとだ。夕立かな?」
和葉が窓に近づきながら呟く。
「みたいですね。どうしよう、今日傘ないんですよね」
「私もないけど……これぐらいなら突っ切れるかな」
「いやいや、駄目ですよ」
雫が即座に首を横に振った。
「下着透けちゃいますよ。今日の先輩、黒で透けやすいんですから」
「……いや、待て。何で知ってるんだよ!?」
「そんなのどうだって良いじゃありませんか」
雫はにこにこと笑いながら近づいてくる。
「どうでも良くないだろ! しかも、いつもスカート捲って見てるんだから、透けたところ雫は困らないだろ」
「いやいや、見せたいんですか?変態さんですね先輩」少し哀れんだ顔で雫は答えた。
「また訳のわから無いことを言う口はこれかな?」
和葉は雫の頬を軽く抓った。
「わぁ痛い! ひどい、こんな乙女の頬を抓るなんて、先輩」
「誰が乙女だって?」
「あら、目の前にいるじゃ無いですか? 」
雫は続けて言う。
「それに風邪引かれたら看病しに行かなきゃいけなくなりますよ?
あー、面倒くさいなぁ……あっ、でも先輩の看病、別に嫌じゃないかも。うふふ」
「良くないでしょ! 何でお前に看病されなきゃいけないんだよ!」
「だって先輩が熱出してふらふらになったら、私がベッドまでお姫様抱っこして、額に冷たいタオル載せて、耳元で『大丈夫ですよ〜雫がずっとついてますから』って囁いて……朝まで看病してあげられますよ?」
「いらん!! そんな看病いらん!!」
「えー、先輩が『雫ちゃん……ありがとう……』って弱々しく言う姿、想像しただけで最高じゃないですか……」
「想像するな!!」
薫が遠くからため息をついた。
「もう完全に楽しんでるよね、雫ちゃん」
「和葉先輩の困り顔が大好きなんですね……」と泉希も同意する。
部長が定規を片手にため息をつきながら言った。
「……お前たち、今日はもう終わりの時間だ。帰る時間だが、雨が弱まるまで待ってていいからな」
部長が出て行った瞬間、雫が和葉の後ろからぎゅっと抱きついた。「待ってて良いそうですよ、先輩。今日の部長さんは優しいですね」そう言いながら抱きつく雫
「もぉ、熱い! 離れろってば!」
「離れません。
先輩が風邪を引いたら……本気で朝まで看病しに行きますからね?」
外の雨音が激しくなる中、和葉は暴れながらも完全に逃げ切れずにいた。
(……まあ、雫がこんなにベタベタしてくるの、嫌いじゃないけど……って、ちょっと待て私!) もちろん、そんな本音は絶対に口には出さない。
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