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42-4・本部強襲~迷いと答え

-駅裏のビジネスホテルの一室-


 ベッドの上で意識を取り戻したカリナが、苛立ちながら枕を壁に投げ付けた。


「クッソォ!あの青鬼(茨城童子)、腹立つっ!!」


 同室内では、里夢が窓の外を眺めて待機しており、今後の作戦会議の為に、スマホで別室のアトラスを呼び出した。数分の間を空けて扉がノックされ、アトラスが招き入れられる。


「先ずは、威張った青鬼(茨城童子)をブッ潰す!手を貸せっ!」

「気持ちは解るが、鬼討伐は我々の任務ではなかろう。」

「うるせー!邪魔なヤツは全部潰して良いって、退治屋のトップが言ったんだっ!

 だから、青鬼潰しも任務なんだよっ!」

「ほぉ・・・これは、異な事を。」


 アトラスの反応に対して、口を滑らせたカリナは「マズった」と口を噤み、里夢は小さく舌打ちをする。


「退治屋トップの暗殺に失敗をしたということか?」

「状況が変わったので中止したわ。」


 カリナが黙りを決め込んだままなので、仕方無く里夢が答える。


「フン!物は言い様だな。」


 里夢とカリナが東京から戻ってきた直後、理由の説明が無いまま、アトラスは退治屋反逆者に駆り出された。

 アトラスは、「今は正面から退治屋とぶつかる時ではない」「暗殺をしてもトップが変わるだけ」と考えていたので、大武の暗殺計画には荷担しなかった代わりに、「暗殺中止」と聞いても気に止めない。里夢やカリナの方針が「大魔会の為」ならば、反対をする気も無い。だが、「大武が言った」を聞き流すことはできない。


「ガルダと鬼の小娘への襲撃は、退治屋の指示?

 退治屋に抱き込まれたとういことか?」


 アトラスの目的は、退治屋との抗争ではなくスペクター計画の完成だ。里夢達に反発をする気は無いが、今回の目的が見えない襲撃には疑問を感じていた。


「妙な表現はやめて欲しいわね。」

「何故、暗殺を中止したのか、詳細を聞かせてくれ。」

「得策では無いと判断したからよ。」


 里夢は最低限しか語らない。アトラスがカリナに視線を向けると、カリナは不満そうに眼を逸らしてから口を開く。


「優れたパワースポット、優秀なマスター、念を維持できるアイテム、

 それで強いスペクターが生み出されるって、退治屋のトップが言ったんだ。

 なんか、スゲームカ付くヤツだけどさ、

 あたし達の任務の答えを教えてくれたんだから、潰す必要は無ーだろ。」


 確かに、提示された答えが正しければ、「有益な情報提供者」として生かしておく価値が有る。だが、カリナは、どことなく奥歯に何かが挟まったような物言いだ。


「質問を変えよう。暗殺を踏み止まったのか?それとも交戦はしたのか?」


 アトラスの質問は、里夢達の面子を潰さないように配慮しつつ、「敗北したのか?」を問うている。


「チィ・・・負けたんだよ!悪かったなっ!」


 見透かされていると感じたカリナが素直に答える。


「暗殺や遠距離のスキルに特化したオマエ達が?」

「退治屋のトップは、妖幻ファイターじゃねー!妖怪ってヤツだ!

 妖幻ファイターなら、変身前を狙って仕留められただろうが、

 人間の姿で人外の能力を発揮できる奴等なんて、暗殺できるわけがねーだろ!」

「なるほどな。退治屋の土台は既に崩れている・・・ということか。」


 文架市の監視をしていたアトラスは、牛木が妖怪化をしたことを含めて納得をする。今の退治屋は、妖怪達によって牛耳られているようだ。倒すべき敵に中枢を掌握された組織など、健全に機能するわけがない。わざわざトップを暗殺せずとも、自壊をするだろう。


「ならば、無駄な争いに首を突っ込む必要はあるまい。

 任務完了とみなして、帰国をするべきではないのか?」

「確かに、スペクター計画を完遂する為の情報は得られたわ。

 でも、私達は大魔会6星(幹部)なのよ。

 言われたことだけをクリアして満足するのではなく、

 要求を越える実績を求められるの。」

「それが、狩りや拉致とでも?」

「眠っている念を活性化させる退治屋の技術は、まだ手札に無いわ。」

「根古佑芽とか言う娘か。」

「素体も必要。それが葛城麻由。

 佐波木燕真君は、魔術が全く干渉しない興味深い素体よ。

 そして、彼女達を手土産にする為には、狗塚雅仁君は邪魔。

 大武の指示に関係無く、どのみち狩る対象なの。」

「ついでに、何の特徴も無いクセにバイクでアタイを轢いたヤツ(燕真)と、

 ムカ付く青鬼(茨城童子)を退治すんだよっ!」


 カリナの感情論は論外。里夢の言い分は、カリナよりは理に適っているが、所々に「お気に入り」に対する個人的な感情が見え隠れする。里夢が手土産に欲する「青年」と、カリナが退治したい「何の特徴も無い奴」が被っているが、アトラスからすれば、どうでも良い。




-夜・明治神宮を見渡せる超高層ビルの屋上-


 魍紅葉と鬼達が、退治屋の本社ビル(10階建て)を眺めている。


「金熊ドージと、ァタシの残り(『酒』メダル)ゎ、あそこだね。」


 狗塚家が討伐した妖怪の封印メダルは狗塚家が所持をするが、燕真などの退治屋が討伐した妖怪のメダルは、本部で回収をして変身アイテムや武器に調整されて、全国各地の隊員(妖幻ファイター)達に提供される。ただし、金熊童子のような鬼や、その他の上位妖怪を封印したメダルは、「人間では扱えない物」として、本社で厳重に保管される。

 闇の巨大生命体(酒呑童子の妖気)については、討伐したのは狗塚雅仁だが、雅仁自身が「所持は危険」と判断をして、セキュリティーの高い本社に預けていた。


「サッサとブッ壊して、ァタシと金熊ドージを助けてあげようっ!」


 妖怪は夜にも発生するので、勤務者が昼間よりも大幅に減ることはない。ただし、文架市への出動、大魔会離反者による被害、喜田の浪費により、現在、本部直属の妖幻ファイターは不足していた。


「いくよっ!みんなっ!」

「おうっ!」×5

「姫様、我が背にっ!」

「ぅん、お願いね、茨城ドージ!」


 茨城童子が闇霧化をして魍紅葉を乗せ、退治屋の本社ビルに向かって飛び立つ!熊童子、星熊童子、虎熊童子、天邪鬼が闇霧化をして後から続く!一定の距離まで接近したところで、熊童子&星熊童子&虎熊童子が急降下をして、予てからの打合せ通り、1階正面から本社ビルに突っ込んだ!



-退治屋本社ビル-


 その日の待機は、東東京支部の妖幻ファイターが2人と、本部直轄の妖幻ファイターが2人。そして、サポートのヘイシが10人。入口を警備していたヘイシ3人は瞬く間に倒されてしまう。ビル内に警報が鳴り渡り、上階で待機をしていた東東京支部の妖幻ファイター2人と残りのヘイシ達は1階を目指し、本部所属の妖幻ファイター2人は幹部達を守る為に、上階に上がった。



-9階・役員室-


 退治屋は一般企業とは違う。妖怪事件は、いつ発生するか解らない。「夜間は若い連中に任せて管理職は全員が帰宅」という勤務体系ではなく、本日は片布津栄里人かたぶつ えりと頑奈雁子かたくな がんこの2人が、夜勤統括の為に残っていた。

 攻撃が開始された直後は一時的に動揺をしたが、直ぐに落ち着きを取り戻し、帰宅済み、及び、非番の隊員達に、「緊急事態・即時招集」の通知を一斉送信した。直後に、役員室の扉がノックされて、護衛役の妖幻ファイター2人が部屋に入ってくる。


「襲撃者は、鬼が3体!現在、1階で交戦中!」

「俺達が護衛しますから、お二方とも、安全な場所に逃げてください!」

「慌てないで。指揮官の私達が真っ先に逃げちゃダメでしょ。

 だけど、まさか、COOが遠征に出たタイミングで仕掛けてくるとはね。」

「我々も、応戦に加わる覚悟を決めねばならんだろうな。

 援軍が来るまで、我々だけで守り切るぞ。」


 片布津と頑奈は、隊員達の前で幹部用のYフォンを取り出して、「状況次第では変身して戦うつもりだ」とアピールをした。2人は、堅物で頑固なキャリア組だが、自己保身を優先させるような小者ではない。的確、且つ、現場の気持ちを理解した言葉で、隊員達を叱咤激励する。


「偉い人のクセに命令して高みの見物をするんぢゃなくて勇敢なんだね。」

「!!!?」


 幹部2人と妖幻ファイター2人が、聞き慣れぬ声がした方を振り向くと、9階の窓にもかかわらず、外側から少女が覗き込んできた。


「なにっ!?」


 次の瞬間、窓ガラスが砕け、角の生えた少女と闇霧2つが入り込んできた!闇霧は人型を形作る!


「勇敢かもしれぬが、命の要らぬマヌケだ。」


 下階に隊員を集めて、メダル保管庫のある上階を手薄にする作戦。退治屋の中枢は、魍紅葉&茨城童子&天邪鬼の侵入を許してしまった。




-文架市・麻由のマンション-


 麻由の案内で、憔悴した燕真&雅仁&佑芽が上がり込む。退治屋から指名手配された状況で、粉木邸や燕真のアパートで休むわけにはいかない。セキュリティーが整った麻由のマンションは、身を隠して休むには都合の良い場所だった。


「キッチンや冷蔵庫に有る物は、勝手に使っていただいて構いません。」

「ああ・・・」 「すまない。」 「ありがとう。」


 一定の安堵をする燕真達だが、言葉は少ない。テレビの音で静けさを紛らわすが、見る者は誰もいない。こんな時、紅葉がいてくれれば、空気を読まずに場を賑わせてくれるのだが、紅葉はいない。皆、俯いて、どうにも成らない現実に対して、答えの出ない自問をしていた。

 その日は、コンビニ弁当を胃の中に詰め込み、麻由は自室で、佑芽は和室で、燕真と雅仁はリビングで臥床をする。


 それまでは気丈に振る舞っていた麻由だが、自室に籠もった途端に泣き出した。和室を提供された佑芽には、隣室の麻由の鳴き声が聞こえる。紅葉のことを思って悲しいのか、巻き込まれて不安になっているのか?泣きたいのは佑芽も同じだが、「歳上の私がシッカリしなきゃ」と、折れていた気持ちを奮い立たせる。


 消灯したリビングでは、燕真は床で仰向けになり、真っ暗な天井を見詰めていた。脳内では、いつもの紅葉くれはと、鬼化をした魍紅葉もみじの顔が、交互に押し寄せている。何をどう処理すれば‘いつもの紅葉’取り戻せるのか解らない。【繰り返される世界】を受け入れれば「いつもの紅葉」を失わずにすんだのだろうか?


(でも、それじゃダメなんだ。)


 燕真には、天才のスタンスは解らない。少年時代は「俺は天才だ」と思ったこともあったが、それは中二病の妄想だった。天才の類いは、前進を意識しなくても成長するのかもしれない。壁にぶつかっても、必要に応じて才能が手助けしてくれるのかもしれない。だけど、凡才は前進を意識しなければ立ち止まったままになってしまう。【繰り返される世界】は、燕真の生き方を否定する世界なのだ。


「なぁ、佐波木?」


ソファーで横になっていた雅仁が声を掛ける。


「・・・ん?どうした、狗?」

「これからどうする?」

「いくら考えても解らん。オマエはどうするつもりだ?」

「・・・解らん。俺は間違えた判断をしてしまったのか?」


 雅仁は鬼退治の血統。鬼退治の専門家が鬼討伐を妨害して、鬼王の覚醒を手助けしてしまった。「責任を取って討つ」と言葉にするのは簡単だが、紅葉を殺害することが、自分にできるのだろうか?答えは「心を殺せば可能」だが、その後に、燕真との円滑な友情を維持できるとは思えない。ならば、やるべき仕事を熟して、燕真達の前から去るべきか?「ようやく手に入れた居心地の良い場所」など、自分には不要だったのか?


「オマエが間違えたのかどうか・・・

 天才のオマエに解らないのに、俺が解るわけがないだろ。

 だけど、助けてくれて嬉しかった。サンキューな。」

「・・・ああ。」


 その後は会話が途切れたまま、互いに悩んで眠れない時間を経過させ、疲労には勝てずに、いつの間にか眠っていた。




-朝-


「私・・・紅葉さんと会って、ちゃんと話をしたいです。」


 リビングに集まり、最初に今後の方針を希望したのは麻由だった。想定外を聞いた燕真&雅仁&佑芽は驚く。


「学校で妖怪(牛鬼)に襲われた時、紅葉さんは、私を助けてくれました。

 私なんて助けなければ、紅葉さんの鬼は覚醒しなかったかもしれないのに・・・。

 そんな優しい紅葉さんが、鬼になったなんて未だに信じられないんです。」


 眼に涙を浮かべて「紅葉の性善説」を唱える麻由。燕真達は、それが、一般人視点の理想論だと知っている。だが、佑芽は「昨日は泣いていた麻由ちゃんが勇気を出した」ことに煽られ、理想論と把握した上で同意をする。


「付き合うよ、麻由ちゃん。」

「・・・根古さん。」

「紅葉ちゃんは、私が里夢さんに洗脳されているって見抜いてくれた。

 雅仁先生が、私と、お姉ちゃんの魂を救ってくれた。

 だから、今度は、私達が紅葉ちゃんを助ける番だよ。」

「私も同じです。佐波木さんと粉木さんに助けていただきました。」


 燕真は迷ったままだった。だけど、佑芽と麻由の言葉に勇気付けられる。


「そうだな。諦めて、何もせずに逃げるだけなんて嫌だ。

 試してもいないのに、ダメかどうかなんて解らない。

 俺達にできることは、全部やってみよう!悩むのは、その後だ!」


 燕真&佑芽&麻由は、同意の態度を示さない雅仁を一斉に見詰める。この状況では、さすがに反論がしにくい。全部、理想論としか思えないが、今まで何度も、未熟者の燕真が、無茶な理想論を押し通して正解に変えてきたことを、雅仁は知っている。


「未熟者、見習い、一般人・・・大した組合せだな。」

「だから、安定戦力が必要なんだろ。」

「ああ、そうだな。君達の命は俺が預かる。俺の命は君達に預ける。」


 どうせ、祖先の宿願に背き、判断ミスをして恥をかいたのだから、今更、恥の上塗りなんて怖くない。雅仁は同意で腹を括る。


「数千年の数多の記録の中では、

 稀少だが、氷柱女のように人間社会の共存を望む妖怪は存在する。

 千に一つ・・・万に一つかもしれないが、或いは紅葉ちゃんも・・・。」

「もうっ!雅仁先生、理屈っぽい!

 こ~ゆ~時は、過去のデータよりも気合いですよ!」

「ああ・・・うん・・・。そ、そうだな。」


 雅仁の説得力の有りそうな言葉を、佑芽が容赦無く掻き消す。その様子を見た燕真と麻由は、チョット笑いそうになった。


「オマエ、横柄な亭主関白タイプかと思ってたけど、尻に敷かれそうだな。」

「意外な人間関係が垣間見えましたね。」

「ん?亭主関白?尻に敷かれる?何の話だ?」

「俺達が越えなきゃならない分厚い壁の先にある‘希望ある未来’の話だよ!」

「私達だけじゃなくて、紅葉ちゃんの‘未来’もね!」


 分厚い壁は、退治屋・大魔会連合と、鬼族。こちらは、安定戦力×1、未熟者×1、見習い以下×1、一般人×1。紅葉を救い出して、大武COOの裏の顔を暴く。自信を失って悩んだが、やるべき方針は最初から決まっている。


「ああ、そうだな。俺達と紅葉の『希望ある未来』だ。」


 燕真の言葉に、雅仁、佑芽、麻由が頷く。

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