42-3・紅葉闇落~鬼達の復活~粉木と有紀の覚悟
燕真は、メダルに封印した鬼が復活するなんて、考えたこともなかった。特殊能力を見せ付けた魍紅葉は、笑みを浮かべて燕真を見詰める。
「あはははっ!褒めてよ燕真。ァタシ、スゴいでしょ?
メダルがあれば、他の奴等だって復活させてあげられるんだよ!」
「・・・バカな?」
「アレェ?もしかして、偶然できたとかって思ってる?
だったら、特別に、も~1回、見せたげるよ!」
離れて様子を見ている雅仁に向けて掌を翳す魍紅葉。また、衝撃波を発する気か?危機を感じたリンクスが、雅仁を庇って間に入る。
「あははっ!ぶっ飛ばさないから安心してイイよ。」
雅仁の周りに闇が纏わり付き、魍紅葉が掌を上げる動作に呼応して、雅仁の体も空中に浮き上がる。更に、魍紅葉が手を軽く握る動作をすると、闇が雅仁の首を締め付ける。ただの闇なので、雅仁が手で振り解こうとしても、首を絞める力は弱まらない。
「・・・くっ!ならばっ!」
雅仁はポケットから銀塊を出して、指で印を結びながら浄化の呪文を唱える。しかし、雅仁が浄化力を発揮する前に、魍紅葉は上げていた掌を素早く振り下ろした。呼応して雅仁の体が地面に叩き付けられる。
「ぐはぁっ!」
衝撃でYウォッチから数枚のYメダルが零れて、地面に散らかった。
「ま、まずいっ!」
「雅仁先生っ!」
地に這いつくばる雅仁に、リンクスが駆け寄る。
「お、俺よりもメダルの回収をっ!」
「えっ?えっ?」
指示を受けて散らばったメダルを拾い集めようとするリンクス。魍紅葉は、リンクスに向けて掌を翳した。
「まさっちと違って、ニャンニャン(佑芽)ゎ、闇防御できないよね?」
「えっ?きゃぁぁっっ!!」
紅葉が掌から発した妖気弾が、リンクスを弾き飛ばす。
「あははははっ!ぶっ飛ばさないって言ったのにウソ付いちゃってゴメンねぇ~!」
「や、やめろ、紅葉っ!」
「うるっさいなぁ~!その名前で呼ばないでって言ったぢゃん!
今、忙しいから、あっちいってて!」
魍紅葉を止める為に駆け寄る燕真!しかし、魍紅葉が放った妖気弾を浴びて弾き飛ばされ、山頭野川に墜落をする!
「茨城ドージ、天野のじいちゃん、
まさっちが『鬼』メダル持ってるから拾ってきて。」
「御意!」 「承知した!」
鬼の四天王を封印したメダルのうち、『熊』『星』『虎』は、討伐をした雅仁が所持をしていた。指示を受けた茨城童子と天邪鬼は姿を闇霧に変えて飛び上がり、倒れている雅仁の目の前で実体化をして、『熊』『星』『虎』メダルを拾い上げて、魍紅葉の所に戻る。
受け取った魍紅葉は、3枚のメダルに念を込め、天邪鬼と同様に、熊童子&星熊童子&虎熊童子を復活させてしまった。
「おぉっ!久しぶりの実体化だ!」
「新たなる肉体を与えてくださったこと、感謝いたします。」
「え~~っと・・・御館様って呼べば良いのだろうか?それとも、御姫様?」
「オヤカタサマより、オヒメサマの方が可愛くてイイな!」
「御意!」×5
魍紅葉は、眼前に傅く副首領と4匹の鬼を満足そうに眺める。
「これで、鬼の幹部、全員集合だねっ!」
「姫様、お言葉ですが、天邪鬼は四天王ではありません。」
「あと1人足りませぬ。」
「すんすん・・・金熊童子が忘れられてるぞ。」
「ガッハッハ!こりゃ、笑える!」
「あっれぇ~?なら、金熊ドージゎどこ行ったの?
拾ってきてあげなかったの?」
「閻魔の妖幻ファイターに倒されたので、保管場所が異なるのでしょう。
おそらく、姫様から分割された妖気(『酒』メダル)も、
同じ場所にあると思われます。」
「そっかぁ~!燕真ゎ持ってないから、退治屋の本部ってところかな?
なら、取りに行ってあげよっか?
金熊ドージだけ仲間ハズレとか、かわいそーだもんね。
本部、超ムカ付くから、ついでにやっつけちゃお~!」
方針が決まり、その場から去ろうとする魍紅葉を、川から這い上がってきた燕真が呼び止める。
「待ってくれ、紅葉!」
魍紅葉は、足を止めて振り返った。
「超ムカ付くから直ぐに殺してあげようと思ったけど、
チョットくらいゎお世話になったから、今だけゎ許したげる。
ァタシの家来になるなら許してもイイけど、
次に会った時に、またァタシをイライラさせたら、次ゎ殺しちゃうからね。」
「紅葉っ!」
手を伸ばして駆け寄ろうとした燕真の前に、茨城童子が立つ。
「人間如きが、いつまでも、姫様を人間の名で呼ぶな!」
「バイバイ、燕真。」
茨城童子は闇霧化をして魍紅葉を包み、空に向かって上昇。続けて、熊童子、星熊童子、虎熊童子、天邪鬼が闇霧化をして上昇。
腹の底から声を発して紅葉の名を呼ぶ燕真。しかし、5つの闇霧は止まること無く飛び去っていった。
「くっそぉぉぉっっっっっっっっっ!!!」
両拳を地面に叩き付ける燕真。目の前に落ちていた‘紅葉の御守り’を拾って握り締める。両手から血が滲んで痛いが、心の方がもっと痛い。
大魔会の3人は、いつの間にか撤退をしていた。雅仁と佑芽は、魍紅葉達が去った空を呆然と空を眺め、麻由は泣いている。
「くれはぁぁっっっっっ!!!」
どこで間違えた?なんで、こうなった?燕真は、紅葉が精神的に追い詰められていることも、泣いていたことも気付いていた。だけど、心のどこかで「ちゃんと傍にいてフォローしてやる」「紅葉なら大丈夫」と慢心していた。紅葉が鬼に墜ちるなるなんて、一欠片も想像していなかった。
燕真達の退治屋への反逆は最悪の結果をもたらし、紅葉を討伐しようとした退治屋の行動が「正解」になってしまった。
-優麗高-
生徒達が原因不明の集団暴走をした為、規制線で閉鎖をされていた。軽傷の生徒達は親に迎えに来てもらって帰宅し、意識が混濁した生徒達は救急車で搬送される。原因は妖怪の干渉だが、その事実が外部に公表されることはなく、数日の休校を経て、いつも通り「ガス漏れによる混乱」で、無理矢理に落とし処を作るのだろう。
校内は、退治屋達の集合地点となり、優麗高は、退治屋の制圧下にある。
「おい、文架支部長!どうなっているんだ!?」
「やれやれ、めんどいのが来たな。」
粉木&砂影のところに、文架支部の監視役で派遣された田井弥壱と高菱凰平が合流する。高菱は何も知らずに面子を潰されたので腹が立って仕方が無い。
「これは、文架支部長のアンタの責任だ!」
「言われんでも解っている。」
「俺はアンタ等に騙されたんだ!何も悪くない!
アンタに責任を取ってもらうからな!」
「ワシの辞表で問題が解決するんやったら、いつでも出したるで。」
高菱は、自分が事件の転換を見逃したミスを棚に上げて、全ての責任を粉木に押し付けるつもりだが、粉木は‘場違いな自己保身の塊’など、相手にする気も無い。
「統括責任者の後任が来たようやな。」
校庭の一角に時空の歪み(ワームホール)が発生して、マシン入道(輪入道が憑いた高級車)が出現。休息を取っていた退治屋達(高菱含む)が慌ただしく動いて、停車したマシン入道の周りに整列をする。粉木&砂影は1テンポ遅れて動き、集団の後方に並んだ。
最初に助手席から秘書の迫天音が降りて、後部座席のドアを開けた。既に通達はされており、戦死した牛木の後任が誰なのかは、皆が把握している。
「やぁ、ご苦労様。大変な事態になってしまったね。」
現在の退治屋トップ・大武剛COOだ。
「牛木君の訃報は聞いている。実に惜しい人材を失った。
彼ほど有能な者でも犠牲になるほど、過酷な現場だったのだ。
責任は、情勢を見極められなかった俺が負うべきだろうな。
君達にばかり苦労を掛けてしまい、すまなかった。」
労いと謝罪の言葉、素早い状況把握、責任を背負う器、大武の全てが退治屋達を心服させる。しかし、大武からすれば、これは駒を掌握する為の枕詞でしかない。真の演説は今から始まる。
「酒呑童子が目覚めてしまった!
我ら退治屋は、人々の平和な営みを守る為、総力を上げて酒呑童子を討伐する!
無論、邪魔をする者に情などは不要!容赦無く排除をしろ!
これは、我々の使命だ!」
源川紅葉が酒呑童子として覚醒したこと。佐波木燕真、根古佑芽、そして鬼退治の名門・狗塚雅仁が、酒呑覚醒に関与したこと(麻由は部外者なので除外)。彼等の討伐が最優先任務になったことを、大武が演説する。
「周辺地域の支店、及び、支部にも、招集をかけた!
一両日中に集結をする予定だが、それまでは、此処にいる君達に頼るしかない!
頼んだぞ、勇敢な同士達よ!」
大武は、危険な野犬(大魔会)を放し飼いにしていることは、あえて説明しない。説明不足の結果、退治屋と大魔会が潰し合いを始めたとしても知ったことではない。むしろ「好都合」くらいに考えている。
「燕真のアホウめ・・・嬢ちゃんを抑え切れんかったんか?」
演説を聞きながら粉木が表情を顰める。酒呑童子の出現は初耳だ。嫌な気配は感じていたが、「あれが紅葉の覚醒だったのか?」と改めて思い起こす。
「どうするの、勘平?」
隣に立つ砂影が、粉木の心情を心配して話し掛ける。
「どうもこうも無いやろ。地方閑職のジジイとはいえ、ワシは歴とした退治屋や。」
粉木は、決意を秘めた表情をしているが、眼だけは寂しそうだ。
「私情で迷走をするつもりは無い。」
砂影は、粉木が生涯で唯一尊敬した友(本条尊)を失い、共に退治屋を盛り立てた仲間(芽高勇)や巣立った弟子達を殺害され、将来を最も期待した弟子(日向信虎)を自らの手に掛けたことを、ずっと傍で見てきた。粉木の心に穴が空く度に、粉木の心が自分から離れていくことも気付いていた。
「・・・勘平。」
また、手の掛かる愛弟子であり、同時に信頼できる友、佐波木燕真を失わなければならない。砂影には、粉木の悲壮が手に取るように理解できてしまう。しかし、立場上、砂影は粉木の決意を否定することなどできない。
「本心は、何を犠牲にしてでも、燕真達の力になってあげたいんでしょうに。」
現役退治屋ではない源川有紀は、集団から離れて、大武の演説を聞いていた。その隣に白い竜巻が発生して、実体化をした氷柱女が立つ。
「オマエは?母としてどう動く?」
「粉木さんと一蓮托生よ。」
有紀は、紅葉の出生の秘密を知った上で、判断を粉木に託した。だから、粉木が紅葉の命運をどう判断しようと、従うつもりだ。
「・・・だけどね。」
粉木の方針に反発するつもりはない。だが、娘に人間性が残っていることと、過去に紅葉の人間性を呼び起こしてくれた青年を信じている。愛娘と青年が奇跡を起こしてくれるなら、自分が糧となったとしても、命など惜しくはない。




