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42-2・紅葉の懇願~繰り返される世界脱出~紅葉闇墜ち

「オマエ・・・なんでここに?」


 直ぐに異常性に気付いた。ザムシード(燕真)がYOUKAIミュージアムから飛び出した時、紅葉は店内にいた。ザムシードは単身でバイクを走らせ、ワープを使用した。移動手段が足か自転車の紅葉が追い付けるわけが無い。


「切っちゃダメだよ、燕真!」


 しかし、紅葉は急に現れた理由には答えず、「鬼印を切るな」とだけ要望をする。


「オマエ・・・同じことが繰り返される世界に気付いていたのか?」


 紅葉は、不安な表情で小さく頷く。改めて考えると、雅仁や粉木は【繰り返される世界】に疑問を感じていなかったが、紅葉だけは理解をして受け入れていたように思える。


「解っていたなら、俺が質問した時に、なんで肯定しなかった?」

「だって・・・ァタシゎ、このまま・・・ずっと同じなのがイイから・・・。」

「良いわけが無いだろう!ここは、真実から隔離された現実逃避の世界なんだぞ!」

「それでイイの。」

「俺達がこうして呑気な同じ日を繰り返している間、狗塚達は戦っているんだぞ!」

「そんなの関係無い。」

「関係が無いわけが無い!」

「イイのっ!ァタシゎ、燕真がいてくれるこの世界だけでイイのっ!」

「・・・紅葉。」


 妖気認識力の高い紅葉の言葉で理解できた。この世界に存在する現実は、燕真ザムシードと紅葉だけ。あとは全て、平穏な日常を維持する為に作られた妄想。だから燕真は、自分と紅葉だけが現実から目を背けて立ち止まっていることを本能で感じ取って、「取り残されている」と焦っていたのだ。


「ありがとな、紅葉。」

「燕真なら、わかってくれるよね?」


 ザムシードの感謝に対して、紅葉は嬉しそうに微笑む。紅葉は、燕真だけを望んでいる。紅葉から必要とされる感情は嬉しい。


「だけど違うんだ。」

「・・んぇ?」

「俺だって、争いより平穏の方が良い。でもそれは、妄想の平和じゃない。

 俺は、急激な情勢変化に付いていけるほど器用ではない。

 でも全く成長できない世界なんて嫌だ。」


 ザムシードは鬼印に向き直り、妖刀の柄に白メダルをセットして浄化力を上昇させ、再び構える。


「ダメっ!そんなの・・・イヤだっ!

 本当の世界は・・・辛いことしか無いのっ!戻りたく・・・ないのっ!」


 紅葉がザムシードの背に抱き付いて、共に【繰り返される世界】で生きることを望む。その声は、所々で、掠れ、途切れ、ザムシードには、紅葉が泣いていることが伝わる。


「解ってくれ、紅葉。俺が、オマエと過ごしたい世界は、ここじゃない。

 時々は苦しくても良いから、オマエや皆と共に前に進みたいんだ。

 思い通りにできなくて辛かったり、負けて悔しかったり、

 そういうのも全部含めて、俺の人生だと思ってるからさ。

 平凡なりに、どうにかして前に進むのが俺だからさ。」

「イヤだ!イヤだ!イヤだっ!やめて、燕真っっ!!」

「妄想の世界に閉じ籠もるんじゃなくて、

 ちゃんと主張をして、受け入れてもらって、自分の居場所を作るべきだ。」

「ァタシゎ・・・燕真と一緒に、ずっとココに・・・いたいの!

 燕真がァタシの居場所を作ってくれれば、あとゎどうでもいいのっ!!」

「俺の傍だけなんて・・・そんなのは、ただの依存。やがて、無理が生じる。

 そんなのは、オマエのいるべき本当の場所じゃない。」

「イヤだっ!」

「・・・だから、一緒に戻ろう!」


 気勢を発し、鬼印を真っ二つに叩き切るザムシード!


「燕真ぁぁっっっっっっっっっっっっ!!!!!」


 紅葉が悲鳴を上げる!



 酒呑童子の魂の復活を待つ茨城童子の眼前、闇塊に一刀の閃光が走り、内側から光が溢れ出す!


「なにっ!?そんなはずはっ!?」


 闇が掻き消され、ザムシードと紅葉が出現!茨城童子の姿を見た瞬間に、ザムシードは、怒りが沸点を超えた!


「茨城童子っ!今日ほど、オマエにムカ付いたことは無い!!」


 茨城童子が構えるよりも早く、懐に踏み込んで妖刀を振るうザムシード!刃が、茨城童子の腕に深い裂傷を作る!


「悪趣味な妄想を押し付けて、紅葉を泣かせやがってっ!!」

「ぐぅっっ・・・なんのことだっ!?」


 茨城童子が発動させたのは、「人間を消し去り、妖怪のみを残す」鬼印。退治屋如きに内側から破られただけでも想定外なのに、「悪趣味な妄想を押し付け」と言われても何のことだか解らない。


「しらばくれるなぁっっ!!オマエの言い分など、聞く気は無いっ!!」

「・・・チィッ、私は、何をしくじった?」


 鋭い爪を伸ばして、ザムシードが振り下ろした妖刀を受け止める茨城童子!しかし、爪は砕かれ胸に斬撃を喰らう!


「ぐはぁっっ!バ、バカなっ!?」


 仰向けに倒れる茨城童子!慣れない鬼印の発動で妖力を消耗したことを差し引いても、ザムシードに圧倒されるなど有り得ない!だが、まるで歯が立たない!怒りに満ちたザムシードの強さが、茨城童子を凌駕している!


「紅葉さんっ!」


 一方、戦場から離れて見守っていた麻由が、生還した紅葉に駆け寄る。麻由は、紅葉を引っ張って安全圏に退避させるつもりだったが、紅葉の様子がおかしい。麻由がいくら呼び掛けても、俯いたままで反応をしない。心配をして覗き込んでみると、瞳に光沢が無く顔色は青ざめており表情は虚ろだ。


「・・・そっか。ァタシのお願い・・・聞いてくれないんだね。」

「・・・紅葉・・・さん?」


 紅葉の気配がおかしい。麻由は、紅葉がこの世の者とは思えないような気がして、怯んで後退をする。


「これで、終わりだぁっっっ!!」


 ザムシードは、手元(柄)に白メダルがセットされていることを確認して、倒れた茨城童子に向かって、渾身の力で妖刀を振り下ろした!これで、クソのような敵が討伐されることを確信して!・・・だが。


「・・・燕真、ァタシと一緒にいるのがイヤなんだね。」


 帰還直後から俯いて動かなかった紅葉から、爆発的な妖気が発せられる。


「ァタシ、独りぼっちになっちゃったんだね。」


 妖気センサーで異常を感知したザムシードが、茨城童子に刃を突き立てる直前で動きを止めた!


「・・・紅葉?」


 退治屋に殺されかけ、母から「人間ではなく鬼」と死刑宣告をされた紅葉にとって、最後にしがみつこうとした砦が佐波木燕真だった。脱走直後、燕真に「ァタシを愛しているのか?」と聞いたのは、チャラけていたわけでも、自意識過剰だったわけでもない。気持ちに余裕が無くなって、燕真にしがみつきたくて発した言葉だった。 だけど、燕真には「そんなわけ無い」と言われてしまった。

 燕真は、紅葉が精神的に追い詰められていることを把握しながら、紅葉に安心を与えられる一言を与えることができなかった。


 【同じ日常が繰り返される世界】は、紅葉が「明日も同じ」を願いながら眠りに付くことでリセットが発生していた。紅葉の「燕真だけは傍にいて欲しい」という想いが、茨城童子の発した鬼印を利用して作った「紅葉の希望」が繁栄された世界。

 しかし、紅葉の‘一縷の望み’は燕真に拒否をされ、燕真の手で破壊された。紅葉が最後まで手放そうとしなかった燕真は、紅葉の期待に応えてくれなかった。 


 もう紅葉には、何も残っていない。


「おいっ!紅葉!!シッカリしろっ!!」


 紅葉から発せられている妖気は、茨城童子の妖気とは比較にならないほど強大で邪悪だ!ザムシードは、直感的に「拙い」と感じ、茨城童子へのトドメを中断して、紅葉に向かって手を伸ばす!


「もうイイや。」


 首にぶら下げた御守りを「目障り」と感じて外すと、紅葉の発する妖力が、鬼族のエリートのみが発することのできる鬼力に変化!激しく吹き荒れて、紅葉に接近しようとしたザムシードを押し戻す!


「・・・こんな世界、もうイラナイ。」


 今度こそは人として生きたかったのに、また否定をされた。頑張ったつもりだったけどダメだった。結局は、1100年前と同じだった。


「紅葉ぁぁっっっ!!!」


 もう、燕真ザムシードの声は、紅葉に届かない。


「全部、無くなっちゃえばイイっ!!」


 紅葉のツインテールが解けて長髪が靡き、アホ毛は今まで以上に逆立って、額に角が生え、瞳の色が紅く変色!ブレザーが千切れ飛び、全身に纏った闇が、煌びやかな着物姿に変化!鬼女・魍紅葉もみじが覚醒をしてしまう!


 その姿は、茨城童子が欲した結果ではない。茨城童子が、怒りに打ち震えながら魍紅葉を睨み付けた。


「小鬼の出る幕ではない!貴様の肝を引き摺り出して、御館様を開放するっ!」


 重傷を負っていることなどお構い無しに、魍紅葉に掴み掛かる茨城童子!


「控えよ茨城童子っ!オヌシゎ、ァタシを何と心得るっっ!!」

「こ、この妖気は・・・。」


 茨城童子が威圧をされ、数歩後退して跪く。姿は鬼女・魍紅葉。しかし、発せられる妖気と圧倒的な気配は、鬼王・酒呑童子そのもの。


「貴方こそが・・・御館様っ!!」


 忠義の対象は、鬼女・魍紅葉の姿で目覚めたのだ。茨城童子は、魍紅葉に向かって頭を垂れる。


「紅葉ちゃんが・・・」 「鬼になった?」


 雅仁とリンクスは、「紅葉は鬼」と知っている。しかし、急激な変化を受け入れることができない。


「紅葉さんっ!目を覚ましてっっ!!」


 麻由は、間近で懸命に紅葉の名を呼ぶが、魍紅葉は邪悪な妖気を発したままだ。


「全部、無くなっちゃえばイイっ!」


 麻由に向けて掌を翳す魍紅葉。青ざめる麻由。発せられた妖気の塊が麻由目掛けて飛ばされる!


「うおぉぉっっっっっっっっ!!!!」


 ザムシードは割って入って麻由を庇い、妖気弾を背中で受け止めた!痛みで、片膝を地に落とすザムシード!


「ァタシのお願いは聞いてくれないのに、マユのことゎ庇ってあげるんだ?

 へぇ・・・燕真、マユのことが大事なの?すっげームカ付く!」

「紅葉っ!!」 「紅葉さんっっ!!」

「ァタシゎ魍紅葉もみじ

 イライラするから、人間だった時の紅葉くれはって名前で呼ばないでよ!」


 魍紅葉が腕を一振りすると、闇の衝撃波が発せられて、ザムシードと麻由を弾き飛ばす!辛うじて体勢を立て直したザムシード!しかし、素早く突進をしてきた魍紅葉に懐に飛び込まれ、無防備の鳩尾に拳を喰らう!


「うぐぅっ!」


 ザムシードは、脱力をして両膝を地に落とす!魍紅葉は、片足を軸にして一回転しながら、腰に帯刀されていた小刀=邪今剣を抜刀して、遠心力を上乗せした一撃をザムシードの胸に叩き込んだ!


「ぐはぁっ!」


 プロテクターから火花を散らせて、仰向けに倒れるザムシード!変身が強制解除をされて、燕真の姿に戻ってしまう!


「燕真、大っキライ!だから死んでよねっ!」


 魍紅葉は、倒れた燕真を見下ろし、邪今剣を振り上げる。だが、振り下ろすこと無く、しばらく眺め、踵を返して燕真から離れた。


「気が変わった。直ぐに殺しちゃうのゎ、なんか面白くない。

 ねぇ、燕真!見てよ!ァタシ、こんなことができるんだよ!」


 魍紅葉が、懐から『天』の文字が描かれたメダルを取り出した。そのメダルは、雅仁ガルダが天邪鬼を倒して封印した後、紅葉に提供したメダル(第14話)。


「出番だよ、天野のじいちゃん。」


 魍紅葉は、握り締めて念を込めてから指で高く弾いた。メダルから闇が放出されて人型を作り、天邪鬼となって着地。復活をさせてくれた魍紅葉に平伏す。


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