41-2・狗塚の約定~脱走~紅葉が好き?
「あ・・・あの・・・葛城さん。」
「独り言に浸っていたことは内密にしますね。」
「いや・・・そうではなくて・・・。」
麻由が相乗りしているのを忘れていたので、安全圏で降りてもらうタイミングを失った。優麗高は目と鼻の先。燕真と紅葉と佑芽を、A班・B班・C班で分けて護送する為、正門前の路肩には3台のトレーラーが停車をしており、先頭車両から燕真(気絶から回復)と佑芽が引っ張り出されている。少し離れた所には、粉木の車と有紀のバイクも駐まっていた。
「本来なら、君をバイクから降ろしてから仕掛けるべきだが、時間が無い。
このまま仕掛ける!」
「はい、構いません!」
「巻き込んでスマナイ!・・・幻装!」
雅仁が『天』メダルをベルトのバックルに装填すると、全身が輝いて妖幻ファイターガルダに変身完了!
「先程、隊長らしい人が、護送は各車両に分けて護送すると言っていました。」
「だからこそ、分散される前に救出するのさ!」
ガルダは鳥銃・迦楼羅焔を構え、作業中の隊員達の足元に向けて光弾を連射!隊員達が周りで発生した爆発に驚いた為に、コンテナから降ろされた直後の燕真と佑芽がフリーになった!
燕真と佑芽は接近してくるガルダを見詰め、ガルダの次の行動に備えてコンテナ内によじ登る。
「遅れて、仲間のピンチに、格好良く出現するなんて、
漫画やアニメの主人公あるあるですね。」
「主人公は、格好良く登場したアイツじゃなくて、ピンチの俺な。」
その姿を見たガルダは、以心伝心を確信してマスクの下で笑みを浮かべた。
「少々手荒くなる!シッカリ掴まってろ!」
「はいっ!」
ガルダの背にしがみつく麻由!ガルダが、バイクのウイリー走行させて威嚇をしながら突っ込む!慌てて飛び退く隊員達!
「佐波木っ!」
「おうっ!」
燕真と佑芽は、没収された妖幻システムを獲得して、手早く変身!リンクスが先にコンテナから飛び出して定員達を蹴散らし、逃走路を確保する!
「逃げるぞ、紅葉っ!」
「燕真っ!」
続けて、拘束された紅葉を担いだザムシードがコンテナから脱出!
「らしくないことしてくれるじゃん、狗塚!」
「知性の欠片も無い行動ばかりをする‘誰かさん達’の影響だ!」
「こんな時までバカにすんな!」
「話はあとだ!先ずは逃げるぞ!」
ガルダ(+麻由)の先導に従って、ザムシード(+紅葉)とリンクスが逃走をする!しかし、その正面に粉木が立ち塞がった!
「何のつもりや、狗塚!?
バカ弟子とは違って、オマンは、もう少し利口だと思っていたんだがな。」
「俺は、退治屋から一線を画した陰陽師です!
貴方達の指示に従う立場ではありません!
狗塚家が、鬼退治の為に協力を求めた場合、
現地の退治屋は可能な限り受け入れることになっている!
だから俺は、たった今、佐波木に協力要請をして、佐波木は受け入れた!
何よりも、鬼退治の専門家である俺には、鬼に対する生殺与奪の権限がある!
つまり、紅葉ちゃんの命運を握る権利がある!
俺の行動に、違反は何一つありませんよ!」
「後悔は無いんやな?」
「考えた末での行動です。成り行き任せの佐波木と一緒にしないで下さい。」
「イチイチ俺をバカにするな!」
ガルダ(雅仁)が燕真を小バカにするのは、ガルダが冷静な時。つまり、ガルダは感情論で動いたわけではない。粉木は説得を諦め、ザムシード(燕真)は‘雅仁のマウント’に安堵をする。
「立ち止まっている時ではない。行くぞ、佐波木!」
「おうっ!」
ヤマハ・MT-10に乗るガルダ&麻由が粉木の脇を通過。去り際の麻由が粉木を見詰める。
「申し訳ありません、粉木さん。
私は『この件を忘れる』や『無関係』で済ませたくないんです。」
粉木は立ったまま素通りさせる。続けて、リンクスが走って通過。
「従えなくてゴメンなさい、粉木さん。」
同じく素通りさせる。最後に、紅葉を担いだザムシードが粉木の脇を通過。
「燕真・・・ワシはワシの義務を果たす。
此処まで来たら、無様な中途半端などせず、オマンはオマンの権利を貫け。」
「・・・ジイさん。」
粉木の意味深な発言が気になり、立ち止まって振り返る燕真。一方の粉木は、背を向けたまま。その向こうでは、体勢を立て直した隊員達が押し寄せてくる。
「佐波木さん、こっち!」
呼ばれて振り返ると、リンクスがホンダ・VFR1200Fに跨がって、「後ろに乗れ」と合図をしていた。リンクスのバイクは鎮守の森公園に放置されている。VFR1200Fは妖幻ファイターに標準支給をされているので、精鋭隊の誰かのバイクなのだろう。
「キーがあったのか?」
「エンジン掛けっぱなしだったよ。」
「不用心って言いたいところだが、
この状況で盗難されるなんて、全く想定していなかったんだろうな。」
ザムシードは、紅葉を担いだままタンデムシートに跨がり、リンクスがバイクをスタートさせる。ガルダの先導で路地に入り、十字路に差し掛かる度にランダムで進路変更をして、追って来た隊員達から姿をくらませた。
騒然とする優麗高正門前で、砂影が、佇んだままの粉木に近付く。
「やってくれるわね。あんたが見込んだ若者達ちゃ。
勘平が若い頃のDNAを引き継いでしもたんでないが?」
「まったく・・・どいつもこいつも。」
「・・・でぇ、勘平はどうするつもり?」
「決まっとるやろう。ワシはワシの義務を果たす。」
「・・・そう。後悔ちゃ無いのね。」
「当然や。」
粉木の「変わらぬ意思」を確認して、砂影は少し寂しそうな表情になる。
-東京・人目の無い河川敷-
「ほお・・・それは一大事だ。」
里夢達との同盟を成立させた直後の大武に、秘書(迫)経由で「捕虜が奪取された」と伝わる。
「狗塚の若造め・・・食えんヤツだ。」
狗塚家は退治屋に従う必要は無く、本部の許可を取らずに地元の退治屋に協力要請ができて、鬼退治の専門家ゆえに生殺与奪を独断で決められる。雅仁の行動は、強引だが理に適っており、退治屋には干渉しにくい案件になった。
「牛木くんの件と、隊員への狼藉では追及可能だが・・・。」
牛木CSOを殺害した燕真を罪に問うことは可能。逃亡時に隊員を蹴散らした佑芽への報復も可能。だが、肝心の紅葉は狗塚家の約定によって守られてしまい、捕獲ができない。
雅仁が命を落とせば狗塚家の約定は無効になり、紅葉討伐の障害は無くなる。しかし、大武の指示で退治屋が雅仁を討つのは政治的悪手。現場の退治屋が自己判断で雅仁を倒してくれるのが理想的だが、今回の討伐隊選出者には、勝手に動いてくれるような気の利いた者はいない。
「早速、盟友たる君達(里夢&カリナ)の出番のようだ。」
「ガルダを狩れば良いのね。お安い御用よ。」
「標的は優等生面(雅仁)だけか?
何の特徴も無いヤツ(燕真)と、里夢さんの奴隷(佑芽)はどうすんだ?」
「邪魔ならば、まとめて排除してくれて構わんよ。
思い立ったが吉日。現状に同席をしているのも縁なのだろう。
文架市まで送らせてくれ。」
大武専用の社有車には、妖怪憑依によるワープ機能がある。ただし、この場にいるのは計6人。全員が同乗をするのは不可能だ。
「君達(里夢&カリナ)が乗りたまえ。俺達は後発で良い。
先ずは、頼もしい盟友2人を、最優先で文架市まで送り届ける。」
大武&迫&大平に見送られ、里夢&カリナが後部座席に乗り込んだ。運転席の矢的がセンターコンソールの脇にある空きスロットに『輪』メダルをセットして高級車に輪入道を憑かせ、ボンネットに出現した入道フェイスが妖気弾を吐き出してワームホールを発生させる。
「異界のドライブを楽しみたまえ。」
車(マシン入道)はワームホールに飛び込み、約30分後には運転手だけを乗せて、ワームホールを通過して戻ってきた。
-文架市・山頭野川の西側河川敷-
燕真達は堤防の斜面にいた。追っ手は振り払い、一時的に休息をする。仰向けになった燕真の隣には、紅葉が座っていた。拘束具から解放されて自由になった紅葉だが、表情は浮かない。
「ねぇ・・・燕真。
ァタシ、鬼なんだって。だから捕まったんだって。・・・どうしよう?」
「どうしようって言われてもな~。」
「燕真、知ってたの?」
「聞いたばっかりだけどな。」
「ァタシ、どうなっちゃうの?」
燕真自身が、答えを出せないまま成り行き任せで動いたので、何も答えてやれない。だけど、眼に涙を浮かべている紅葉を放っておけない。
「とりあえず、助かったんだから良いんじゃね~のか?」
「ぅん・・・そ~だけど・・・」
「これからだって、オマエのことは守ってやるから安心しろ。」
「ホントーに?」
「本当だよっ!今までだって、守ってやっただろ!」
紅葉は燕真の言葉で安心をしたらしく、涙目のままだが、少し笑顔を見せる。
「ァタシだって、同じくらい、燕真を守ってあげてるもん!」
「結果的に守られたことはあるが‘同じくらい’ではない!」
「ね~ね~、ど~して、ァタシのこと、いっぱい守ってくれるの?」
「どうしてって言われても・・・」
「ァタシのことスキだから?そ~なの?ァタシをアイシテルの?」
「・・・なっ!?」
正解!だけど、すんなりと認めてしまうほど素直な性格はしていない。2人きりでも言いにくいのに、周りに雅仁&佑芽&麻由が居る状況下で「うん、好きだよ」なんて言えるわけが無い。
「そ、そ、そんなわけ無ーだろっ!!」
顔を真っ赤にして起き上がり、全力で否定をする燕真。
「んぇ?違うの?」
「ね、年齢差を考えろっ!」
「そっかぁ~・・・スキぢゃないんだ?」
燕真は、いつものノリで、紅葉が小煩く絡んでくると思っていたのだが、紅葉は露骨に元気を失って、俯いて引き下がってしまう。
「もぅ・・・イイや。」
何もかもが普通の燕真は、恋愛経験も普通。交際経験や失恋経験も普通。これまでの数えるほどしか無い経験値を考慮すると、今の空気はあきらかにヤバい。
「あの・・・え~っと・・・だからって、嫌いってワケじゃなくて・・・。」
燕真は取り繕おうとしたが、何もかもが優秀なのに恋愛経験のみ凡人以下の雅仁には、ヤバい全く空気が読めず、「燕真と紅葉の話は完了した」と解釈してしまう。
「おい、佐波木。君が、牛木という人物と戦った時の状況を聞きたいのだが。」
「えっ?今?」
「もちろんだ。今回の一件、甚だ疑問を感じてな。」
比較的空気を読める佑芽が、「雅仁先生、黙れ」と止めようとしたが、雅仁の発言を聞いて言葉を飲み込む。
「本部の判断が性急すぎるように感じられてな、
上層部が退治屋の理念とは別の思惑で動いているように思えるのだ。」
「えっ?どういうことだ?」
「葛城さんが言うには、牛木という男は、変身ではなく妖怪化をしたそうだな。」
「ああ・・うん。俺が戦ったのは妖怪だった。」
「通常の人間が妖怪化をするのは、妖怪に憑かれて乗っ取られた場合だ。」
「そ、そう言えば!」
燕真は、Yウォッチから、牛鬼を封印した『牛』メダルと、以前(番外②)に玉兎を封印した『兎』メダルを抜いて交互に眺める。玉兎を封印した時は、妖怪から解放された少年に戻った。だけど、牛鬼の依り代は存在しなかった。燕真は、牛鬼=牛木とは知らなかったので、討伐後に依り代の人間が存在しなくても疑問に思わなかったのだが、牛木が人間ならば、それは有り得ない現象だ。
「ど、どういうことだ?」
「牛木は人間ではなく、人間に化けた妖怪だった可能性があるってことだ。」
「そんなバカな!なんで、退治屋に妖怪が?」
「俺には、上層部が把握をした上で、文架に派遣したようにしか思えなくてな。
だが、情報が少なすぎて、決定的な判断ができない。
だから、牛木と戦った君の情報が欲しいんだ。」
燕真の説明は、麻由の説明と同じで「典型的な妖怪との交戦」だった。一般人(麻由)の説明だけでなく、未熟だがプロ(燕真)の説明を聞いて、雅仁の疑惑は確信に近付く。




