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41-1・紅葉は鬼~雅仁の決断

-鎮守の森公園-


 雅仁が、白い竜巻(氷の結界)を眺めている。

 鬼の殲滅が狗塚家の宿願。酒呑童子は倒すべき敵。酒呑童子が恐ろしい鬼将の姿をしていても、可愛らしい少女の姿をしていても、「討伐」という目標は変わらない。

 紅葉の異常性は今に始まったことではない。出会った当初から感じていた。だが、紅葉は仲間。宿願の為に心を殺し、少女の姿を借りた酒呑童子を討つべきか?


「俺は・・・どうする?」


 雅仁が生涯で初めて「信頼できる友人」と思えた男は、紅葉を救う為に退治屋に反逆をした。少女を討った時点で、「信頼できる友人」との絆は永遠に失うだろう。

 以前の雅仁ならば、誰に何を言われようと鬼の殲滅を優先させた。天邪鬼を討った直後の、燕真と紅葉の睨む視線を思い出す。当時は、「甘ちゃん」と認識して、彼等からの苦情など気にも止めなかった。


「俺の心は弱くなってしまったのか?」


 文架市に来て知った「居心地の良さ」を失いたくない。鬼の殲滅は宿願だが、それだけが正解とは思えない。Yウォッチのホルダから金色メダルを抜き取って眺める。




-結界の中-


 氷柱女が発動させた氷結界の中で、EXザムシードとアデスMの奥義が激突。力負けをしたEXザムシードが弾き飛ばされ、変身が強制解除をされて燕真の姿に戻り、意識を失う。


「燕真っっ!!」


 駆け寄ろうとする紅葉。しかし、母・有紀が立ち塞がる。


「ママっ!燕真がヤバいのっ!どいてっ!」

「紅葉が普通の人間ではないこと、ずっと黙っていてゴメンね。」

「んぇっ?なんでママまで、そのことを?

 だいたい、なんでママがココにいるの?」

「此処に居る理由は、私が退治屋だから。

 紅葉が人間ではないと知っているのは、

 私が退治屋をしていた頃に、酒呑童子を愛して紡いだ結果が紅葉だからよ。」

「パパが・・・酒呑童子?」

「正確には、貴女自身が、酒呑童子の魂を引き継いだ存在。」

「ァタシが・・・しゅてん・・・どうじ?

 ウソ・・・ウソだ。」


 紅葉は目の前が真っ暗になる。嘘だと思いたい。しかし、他人に言われたのと、母の告知では、言葉の重みが違いすぎる。

 夢の中で、巨大紅葉が燕真と戦っていたが、あれはただの夢ではなく、闇巨人(魂の無い酒呑童子)の記憶が、紅葉(酒呑童子の魂)に投影された現実?自分が鬼なんて信じたくない。だけど、これまでの状況や不可思議な奇跡が、紅葉=酒呑童子と示している。


「ウソだぁぁっっっっっっっっっっ!!!!」


 討伐対象なんて嫌だ。燕真と一緒にいたい。


「ママなんて大っ嫌い!みんなどっかに行っちゃえっっ!!」


 脳が飽和して忘我状態に成る紅葉。意識が曖昧に落ちたことで、「人間でいたい紅葉」が無意識の抑え込んでいた前世の鬼女・魍紅葉もみじの記憶が蘇る。



 それは、思い出したくなかった悲しい記憶。

 会津の夫婦が 第六天の魔王から遣わされたのが紅葉もみじだった。紅葉もみじは、人として生きることを望み、普通の少女と同じように育った。

 ただ1つ、普通と違ったことは、紅葉もみじが極めて美しかったこと。雅に憧れて京に上った紅葉もみじは、源氏の頭領・源経基の目にとまり、側室に見出されて経基の子供を妊娠する。紅葉もみじは、幸せの絶頂を噛みしめた。

 だが、皮肉にも、子を宿したことが紅葉もみじの落ちぶれるキッカケとなった。紅葉もみじと子は、源氏の跡目争いに巻き込まれる。紅葉もみじの本性は鬼女。子の栄達を望む紅葉もみじの意思は、呪いとなって、他の相続候補を蝕んだ。事態を重く見た主・源経基は、紅葉もみじを都から追放する。

 信州戸隠に辿り着いた紅葉は、その数年後、源氏の跡取り・満仲から「家門を乱す怖れあり」と判断されて討伐される。当時の人々にとって、妖怪とは、奇怪で畏怖する存在だった。

 紅葉は、「次こそは人として生きたい」と願いながら息絶える。


 例え生まれ変われても、無力な妖怪では自分すら守れない。また討伐をされてしまう。だから力が欲しい。その求めに応じたのが、酒呑童子の魂だった。


 もう、煌びやかで目立つ生活など要らない。普通の人間として普通に生きたい。普通とは違う才能を抑える為に、生まれ変わった紅葉くれはは感情を表には出さなかった。

 そんな幼い日の紅葉の目に映ったのが、凡人・佐波木燕真だった。「平凡なのに努力を続ける」彼の姿勢は、「普通とは違う才能が有った為に人の生活を諦めなければならなかった」紅葉には、どんな雅よりも美しく思えた。



「ァタシゎ・・・鬼女・・・なの?そんなのヤダ!」


 もう、何が何だか解らない。何を信じれば良いのか解らない。信じたいのは「紅葉は鬼」と知っても守ろうとしてくれた燕真だけ。


「んわぁぁっっっっっっっっっっっっ!!!!燕真っっ!!!」


 紅葉の全身から妖気が発せられる!ブレザー姿から、煌びやかな着物姿に変化!頭に2本角が出現!瞳が紅く染まる!

 しかし、それすら、紅葉を熟知した母親には、想定の範囲内だった。


「オーン!封印っ!」


 有紀が掌を翳して気勢を発した途端に、紅葉の首にぶら下がっている御守りが光の帯を発して、紅葉を拘束!妖気発生を封じ込められて通常の姿に戻り、光で雁字搦めにされた紅葉が地面に這いつくばる!


「助けて、燕真!!」


 だが、燕真は気絶をしている。佑芽は妖幻システムを所持しているが、正規の妖幻ファイターではなく戦いの素人。麻由に至っては無力な一般人。もう、紅葉の捕獲を妨害できる者はいない。少人数の反逆は、文架支部によって鎮圧をされた。


 氷柱女の結界が解除され、押し寄せてきた妖幻ファイター(茂部)とヘイシ達が、燕真と紅葉を囲む。


「お疲れ様でした、砂影課長、及び、粉木支部長!」

「私ちゃ見ていただけ。何もやっとらんちゃ。」

「また暴れるかもわからん。護送には、ワシ等も加わらしてもらうからな。」

「はい!鎮圧をした粉木さん達が参加をして下さるなら心強いです!」


 虎(牛木CSO)の威を借りられる状況なら、若いエリート(茂部)は、閑職の粉木を小バカにしただろう。だが、統括責任者が死亡して自分が代理の責任者になってしまったので、責任の所在を自分から少しでも遠ざける為に、ベテランの退治屋には素直に従う。


「サッサと運べ!

 B班・C班と合流後、捕獲対象と反逆者2名は、搬送車輌を分けるからな!」


 妖幻ファイター(茂部)の指示で、気絶中の燕真がコンテナに運ばれ、続けて、拘束具で自由を奪われた紅葉が運ばれ、ヘイシに銃を突き付けられた佑芽が俯きながら乗り込む。続けて麻由も自発的にコンテナに乗ろうとしたが、粉木が背後から肩を引いて止めた。


「オマンは巻き込まれただけの一般人や。護送はされん。」

「酷すぎます、粉木さん。

 アナタは、紅葉さんや佐波木さんを見殺しにするつもりなんですか!?」


 麻由は眼に涙を浮かべて、粉木を睨み付ける。好いた老人が、こんなに冷酷な人間とは思っていなかった。


「オマンには関係の無いことや。」

「無関係ではありません!紅葉さんは私の・・・・・・・」

「この件は忘れるんや。それが、麻由ちゃんの為や。」


 粉木は辛そうな表情で、麻由を見詰める。その、寂しそうな目を見た麻由は、粉木の心中を察して、何も言えなくなった。

 その場に麻由だけを残し、燕真&紅葉&佑芽を護送するトレーラーが出発。粉木と砂影が乗ったスカイラインと、有紀が駆るホンダ・CBR1000RRが後から付いていく。


「紅葉さんっ!粉木さんっ!佐波木さんっ!根古さんっ!」


 泣きながら、走ってトレーラーを追う麻由。しかし距離は離され、トレーラー&スカイライン&CBR1000RRは、文架大橋東詰の交差点を曲がって麻由の視界から外れる。


「うわぁぁぁっっっんっ!」


 燕真と佑芽は処罰される?紅葉は殺害される?もう二度と会えない?

 麻由は、人間(牛木)が妖怪(牛鬼)に変化したことを知っていた。状況を知らない燕真や佑芽に説明をしていれば、彼等が「何も知らずに粉木と接触して追い込まれる事態」は避けられたかもしれない。「自分の所為で彼等が窮地に陥った」と考えてしまい涙が止まらない。


 号泣する麻由の後方・・・エンジン音が鳴り響く。バイクが近付いて来て、麻由の横で停車をした。雅仁の駆るヤマハ・MT-10だ。


「俺の把握している情報と、君の持っている情報を合わせたい。」

「狗塚・・・さん?」

「後ろに乗ってくれるか?」

「何の為に?」

「情報を精査して、友人を救うべきかどうか・・・総合判断をする為!」


 まだ救える可能性はある?麻由は、一筋の望みに託し、迷わずにタンデムシートに跨がって、雅仁が差し出したヘルメットを受け取った。


「宜しくお願いします。」

「トラブルから解放された直後なのにスマナイ。」

「いえ・・・ありがとうございます。」


 バイクをスタートさせ、トレーラーと同じ方向に向かう。雅仁はバイクを走らせながら、「麻由が見たこと」の説明を受ける。麻由は、「牛木が妖幻ファイターのような変身ではなく、邪気を纏って妖怪に変わった」、「屋上から落ちてきた部下ヘイシ2人を容赦無く消し去った」、「妖怪が首だけで生きていた」、何のことだか解らないが「人間界を地獄界から守る封印の結界を破壊しようとしていた」を説明する。


「・・・なるほどな。」

「満足に把握していないので上手く説明できませんが、伝わりましたか?」

「整然と説明してくれて助かる。」


 雅仁は、今回の「本部が主導して文架支部を閉め出す采配」に疑問を感じていた。 そして、「紅葉の護衛」ではなく「捕獲、及び、討伐」と聞いて、疑問は更に強くなった。

 麻由の話を聞いて確信したのは、「牛木は妖幻ファイターではなく妖怪」「封印の結界の破壊を目論んだ」の2点。この一連が牛木の単独犯ならば、本部から「文架支部排除」と「紅葉討伐」の指示が出るとは思えない。退治屋の中枢に妖怪が紛れ込んでいるなど、誰かが手引きをして隠蔽しなければ考えられない。牛木の犯行は、本部の差し金と解釈した方が自然だ。つまり、本部は「牛木が妖怪」と把握をした上で、「封印結界の破壊」を指示したことになる。


「前CEO(喜田)は失脚したと聞いている。

 采配ができるのは大武CEOか?」


 まだ、本部と敵対をする決定打は無い。だが、疑問だらけの本部に、紅葉を差し出し、燕真&佑芽の命運を握らせるわけにはいかない。それが雅仁の答えだ。


「何か、裏が有るとしか思えない!」


 牛鬼討伐直後の燕真達と合流することは可能だった。だが、燕真達が本部と敵対関係になった状況では合流ができなかった。

 アデス(粉木)との交戦に割って入ることも可能だった。だが、満足に理論武装できない条件では、論破をされるのが目に見えていた(実際に燕真は論破されて戦意を喪失させた)。アデスの戦場に精鋭隊が迫っていることを知っていたので、参戦後に奇襲を受けて、戦いの主導権を握られるのは避けたかった。

 雅仁は、「自分がどう動くか?」の答えを探しながら、同時に、戦いの主導権を握れるタイミングを待っていたのだ。


「今ならば、奇襲をできるこちらが有利!」


 雅仁にとって、最大の迷いは、「紅葉の生殺与奪」。鬼退治の名門が、宿願を捨てて鬼を生かすのか?

 金色メダルを得る時に「宿命や恨みを晴らす為ではなく、自分のやりたいことをやる」と決意した。紅葉が「討伐すべき鬼」ならば、鬼退治の名門たる自分が討伐する。宿願の達成を本部に任せるつもりは無い。だが、紅葉が「守るべき仲間」ならば、自分の判断を信じ、「狗塚の宿命」よりも「やりたいこと」を優先させる。


「答えに迷う必要なんて無かった。答えは出ていたんだ。」

「あ・・・あの・・・狗塚さん?」

「ん?どうした、葛城さん?」

「さっきから、後に私がいるのを忘れて、ずっと、独り言に浸ってますよね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「独り言ではなく、私に話し掛けていたのなら、勘違いを謝罪します。

 大声で、私には理解できないことばかり一方的に発言していたので、

 興奮状態になって独り言を喋っているのかと思ってしまって・・・。」

「あ・・・ああ・・・うん。」


 正解。麻由は遠慮気味で密着をしないので、タンデムシートに麻由を乗せていることを忘れて、クールで熱い自分にチョッピリ酔って、独り言をほざいていた。


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