40-1・粉木と有紀の決意~マヌケな高菱~不死牛鬼
-鎮守の森公園-
粉木と砂影がベンチに座っている。粉木の表情は、相変わらず曇ったままだ。
「まだ決めかねているの?」
「・・・そやな。」
若い連中は、自分自身を信じて動いている。慎重な雅仁は、「後先を考えない無謀な行動」はしないだろう。正規の退治屋ではない佑芽ができる「無謀な行動」など、「子供の背伸び」の域を出ない。問題は燕真だ。彼の「紅葉の為に反発する」気持ちは理解できるが、彼の行動が「退治屋にあるまじき行為」として、問題視をされる可能性は高い。
未来ある若者を守ってやるには、どうするべきか?どう尻ぬぐいをしてやるべきか?若者達の暴走に荷担する立場では、彼等を守ることができない。
「・・・来たか。」
気配と妖気を感じたので顔を上げたら、源川有紀と氷柱女が立っていた。
「この時が来てしまったのね。」
「やれることは全てやるつもりや。
だが、ワシが守るべきは平和であり、個人的に最も守りたいのはアホ弟子や。
やれることは全てやるけど、力及ばんと、取り零してまうかもわからん。」
「避けては通れないんでしょうね。
紅葉を粉木さんに預けた日から、
どんな結果になっても、粉木さんを支持する覚悟はできているわ。」
粉木は悲痛で表情を歪ませ、有紀は寂しそうに空を見上げる。彼等が明確な言葉を発さずとも、砂影と氷柱女は、彼等が何を考えているのかを理解した。
-YOUKAIミュージアム-
店の入口には「CLAUSE」の看板が下げてあり、店内には田井弥壱と高菱凰平だけが残っている。十数分前に粉木が出て行ったが、監視役の砂影が同伴したので、問題は無いだろう。
「なぁ、高菱君。」
「なんだ、田井君。」
田井の方が歳上で退治屋歴でも先輩なのだが、エリート意識の強い高菱は、田井を見下しているので、敬語を使う気が無い。
「俺、君には期待しているからさ。手柄を稼いで、早く幹部になってくれよな。」
「おおっ!君、見る目があるな!
俺が幹部になった暁には、俺派の一角として、本部直轄に引っ張ってやるよ!」
「そりゃどうも。楽しみにしているよ。」
田井は、表面的には期待する素振りを見せて高菱をおだてているが、内心では「管理能力がザル」「コイツの部下になれば、何をやっても気付かれないだろうな」と考えていた。
田井と高菱の任務は、文架支部の監視。現在、燕真&雅仁&佑芽は、ザルの監視網から脱出をしており、店内には監視者が2人残っているだけで、監視対象は誰もいない。しかし、高菱は「そのうち戻って来る」と楽観視をしている。
何で、こんな奴が、本部に所属をしてエリート面をしているのだろうか?偉い人のコネでもあるのかな?田井は不思議で仕方が無い。
-優麗高-
EXザムシードが妖刀オニキリを構え、牛鬼と対峙。紅葉と麻由は、不安な表情で戦いを見守っている。
「燕真っ!」 「佐波木さんっ!」
「心配すんな!オマエ等は、自分の安全だけを考えてろ!」
牛鬼の武器は、六本の足爪から繰り出されるパワーと、口から発せられる大型火炎弾、そして厄介な再生能力。エクストラのパワーでも、正面からぶつかればジリ貧は確定だろう。おまけに、結界に閉じ込められて逃亡は不可能。
「出し惜しみをする余裕は無さそうだな。」
裁笏(木製ナイフ)ヤマに填めてある『斬』メダルを外して妖刀オニキリにセット。新たに、『閃』メダルを裁笏ヤマにセット。刃が鋭利に変化した妖刀と、光の刃を発した裁笏の2刀流を構え、牛鬼に向かって行く。
「ブモォォォォッッッッッッッッッッッ!!!」
牛鬼は、口から大型火炎弾を発射!EXザムシードは真正面から突っ込んだ!
「うおぉぉっっっっ!!」
火炎弾の直撃を受けるが、お構い無しに突進を続ける!回避で攻撃タイミングを狂わされるよりも、ダメージ覚悟で踏み込んで早期決着を付けた方がマシ!
EXザムシードの妖刀と、牛鬼の振り下ろした前足がぶつかる!鋭利な刃が牛鬼の右前足を切断!続けて牛鬼の左前足も切断!牛鬼が中足で応戦する為に体を持ち上げた瞬間に、裁笏から伸びた光の刃で牛鬼の腹の真ん中を貫く!
「ブモォォォォッッッッッッッッッッッ!!!」
「まだまだぁっ!!」
前足2本の切断も、腹への一撃も、次の攻撃に繋げる為の準備!牛鬼が痛みで動きを止めた一瞬を狙って、妖刀オニキリで首を斬り落とした!
「これで終わりだぁっっっ!!」
EXザムシードは素早く数歩後退して、Yウォッチから白メダルを抜き取り、ブーツのくるぶし部にある窪みにセット!EXザムシードの周りに、炎の絨毯が広がる!・・・だが!
「ブモォォォォッッッッッッッッッッッ!!!」
牛鬼の首が飛び上がって、口から大型火炎弾を発射!
「なにっ!?」
EXザムシードに火炎が着弾をして弾き飛ばす!更に、前足を再生させた牛鬼の胴体が跳び跳ねて、倒れているEXザムシードの上に降ってきた!
「マズいっ!!」
EXザムシードは、慌ててネックスプリングで飛び起き、辛うじて妖刀を振るって牛鬼の胴体を両断!真っ二つにされた牛鬼の胴体が、EXザムシードの左右に落ちた!
「・・・あ、危なく押し潰されるところだった。
首を切ったのに動くなんて有りかよ?」
溜め無しで反射的に動いた為に、息が切れて、その場に片膝を落とすEXザムシード。
「燕真っ!直ぐ離れてっっ!!ソイツ、ぜんぜん弱ってないっっ!!!」
「えっ!?」
EXザムシードの左右に転がっている割れた胴体が起き上がり、磁力でも発しているかのように引き寄せられる。慌ててヘッドスライディングで飛び退くEXザムシード。直後に、胴体が接合された。もし、紅葉が声を発していなければ、今頃は胴体に挟まれて‘牛鬼の一部’になっていたのだろうか?
「・・・あ、危なかった。」
更に、空飛ぶ首も定位置に戻ってしまう。これで、両前足切断、斬首、腹刺突、胴体両断、全部「無かったこと」にされてしまった。残ったのは、EXザムシードのダメージのみ。
「おいおい・・・無敵は反則だろ?」
「ブモォォッ!オマエの機転で俺を切ることができたワケではない!
切られても不都合が無いので、切らせてやっただけだ!」
「ムカ付くっ!」
気合いの入った攻撃を仕掛けたつもりだった。牛鬼を弱らせて、エクソシズムキックで倒して終わらせる予定だった。だが、牛鬼は、いくら切ってもノーダメージ。存分に動き回れる妖怪にエクソシズムキックを発動させても、確実に回避されるだろう。こんな奴、どうやって倒せば良いのか、見当も付かない。
「ブモォォォッッッ!!!」
たぎる牛鬼が襲いかかる!振り回される前足、燃え盛る火炎弾、ザムシードは容赦の無い攻撃を避け続ける!
先程の、攻勢で体力を消耗させてしまった為、回避以外の選択肢を見出せない。少しでも光明があれば気合いで補えるが、あれだけ攻撃してノーダメージでは、消沈気味の意気を回復させることすら難しい。
「・・・燕真、ちょっと、ヤバぃかも。」
EXザムシードの劣勢は、紅葉と麻由が見ても明らかだった。
「直ぐに治っちゃうなんてズルぃ。あんなヤツ、どーやって倒せばイイの?」
「あの・・・どこかに弱点は無いのでしょうか?・・・例えば頭とか?」
「んぉ?アタマ?弱点?ど~ゆ~こと?」
「体のダメージは直ぐに再生しました。でも、頭の場合はどうなんでしょう?」
足を切っても直ぐに次が生えてくる。胴を切っても直ぐに結合する。斬首のあと、頭は直ぐに飛び上がって火炎弾で攻撃してきた。それは、一見すれば「頭だけでも自由自在に動き回って攻撃できる」だが、見方を変えれば「頭だけが安全圏に逃げて、攻撃されないように牽制をしていた」と解釈できるのではないか?それが、麻由の考えだった。
「んぉぉっ!ありそうっ!!マユ、頭イイねっ!」
「的外れな予想かもしれませんけどね。
紅葉さんが『一理ある』と仰って下さるなら試してみます。」
「んぇっ?」
牛鬼は「消耗したザムシードを仕留めるチャンス」と考えて猛攻を仕掛けている。EXザムシードとの戦いのみに集中をしており、紅葉や麻由を眼中に入れていない。
怖いが、ただ見ているだけなんてできない。ザムシードに全てを委ね、「ザムシードが倒れたら自分達の命運も尽きる」なんて嫌だ。麻由は地面に落ちていた弓と矢を拾い、牛鬼に向けて構える。
「一矢に想いを乗せる技術ならば、誰にも負けるつもりはありません。」
深く呼吸をして気持ちを落ち着け、弓を押して弦を引き、動き回る牛鬼の頭を鏃で狙い、集中力を高める。
「・・・マユ。」
紅葉は、麻由の周りだけが静寂に包まれたような錯覚をする。ただの弓矢が妖怪に効くわけが無い。麻由は妖怪の強さを解っていない。だけど、行射の構えをする麻由が妙に格好良く見えて、「もしかしたら攻撃が効くんぢゃね?」と思えてしまう。
「よくワカンナイけど、なんかスゲー。」
麻由の手から放れた矢が、勢い良く飛んで、見事に牛鬼の頭に命中!ただし、突き抜けるとか、突き刺さるとか、そ~ゆ~のは一切無し。矢は牛鬼の硬い皮膚に弾き返されて地面に落ちた。
「ありゃ?全然効かなかったね。」
「・・・そ、そうですね。」
しかも、全然効かないならスルーしてくれれば良いのに、牛鬼は今の矢を「挑発行為」と解釈したらしく、EXザムシードへの攻撃を止めて、顔を紅葉&麻由の方に向けて巨大火炎弾を吐き出した!
「げげっ!ヤバいっっ!!」
「きゃぁぁっっっ!!」
紅葉と麻由は、標的がザムシードから自分達に変わるなんて想定していなかった。迫る火炎弾に対して立ち竦む!
「させるかぁっ!」
EXザムシードが火炎弾との間に割って入って、紅葉と麻由を庇う!EXザムシードの背中に火炎弾が着弾!弾き飛ばされるEXザムシード&麻由!爆風に煽られて地面を転がる紅葉!麻由は、地面に打ち付けられた衝撃で意識を失う!
「ブモォォォッッッ!目障りだ!潰れろっ!!」
飛び上がり、EXザムシード&麻由目掛けて落下をする牛鬼!このまま伸し掛かられたら、麻由が圧死をしてしまう!立ち上がったEXザムシードが、落ちてきた牛鬼を受け止めた!
「がはぁっ!!」
重みに耐えきれず、牛鬼を受け止めたまま、地面に片膝を付くEXザムシード!根性で持ち上げ続けるが、力尽きて諸共に潰されるのは時間の問題だ!
「紅葉っ!葛城さんを安全圏に引っ張り出してくれ!」
「燕真っ!!」
紅葉が麻由の救出に向かう。だが、助けても、その場しのぎにすらならない。結界に閉じ込められた状況では、ザムシードが力尽きた時点で、紅葉と麻由の命は終わる。麻由だけではなく、ザムシードも救わなければならない。
駆ける紅葉の視野の片隅に、麻由が使った弓道具が映る。紅葉は反射的に進行方向を変えて、弓と矢を拾った。
「紅葉・・・いったい、なにを?」
見様見真似で弓を構えて、鏃を牛鬼に向ける紅葉。妖怪に矢が効かないのは証明済み。紅葉は弓道未経験。EXザムシードには、その行動が‘焼け石に水’以下にしか見えない。
「もう保たない!サッサと葛城さんを退かしてくれ!」
「燕真が保たないんぢゃ、マユを助けても意味が無いのっ!」
「だ、だからって、押し潰されるのを待つつもりかっ!?」
紅葉自身、初めて触る弓道具で事態を打開できるなんて考えていない。だけど、無意識に拾って、本能の赴くままに構えていた。
(自分を信じるんだ。)
「んぇ?」
(弓を降ろすのぢゃ。本能に負けたら、引き返せなくなるぞよ。)
「誰の声?2人いる?」
紅葉の耳に、男性と女の子の声が聞こえる。紅葉には、その声が‘周り’ではなく‘自分の中’から発せられているように感じた。
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