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39-3・牛木の結界~高菱の暴露~佑芽&雅仁の指示無視

-中庭-


 A班によって中庭まで運ばれた紅葉は、「今までと違う空気」を感じる。


「捕獲完了しました!」


 中庭では、統括責任者の牛木義雄CSOが1人で待っていた。


「ご苦労。オマエ達は下がって良いぞ。」

「えっ?しかし・・・」

「聞こえなかったのか?下がれ。」

「この娘、見た目はか弱いですが、鬼の・・・。」

「だからこそ、中庭の外側まで下がれと言っている。

 残りカスとはいえ、鬼の頭領だ。奪い返しに来る鬼に備えろ。」


 A班隊長の妖幻ファイター(茂部)は「皆で紅葉に対処する」と思っていた。牛木の言う「奪い返しに来る鬼に備えろ」は尤もな命令だが、それならば、鬼の頭領の部下が手を出せないところに運ぶべき。何故、何処かに監禁するのではなく中庭が終点なのか、その目的を聞かされていない。


「何をグズグズしている。サッサと下がれ!」

「・・・は、はい。」


 そそくさと引き上げていく隊員達。取り残された紅葉を、牛木が見下ろす。


「フン!随分と可愛いらしい鬼の総大将だな。」

「んぇ?・・・オニ?」


 「捕獲」に続いて「鬼」というキーワードが、紅葉を不安にさせる。


「オニってなに?ホカクってなに?」

「理解力が乏しいのか?言葉通りの意味だ。」

「意味がワカンナイ!ァタシを掴まえて、ど~すんの!?」


 紅葉は、牛木の目と冷たい笑顔に、得体の知れない不気味さを感じて後退りする。

 同じ目線で接してくれる燕真、時々厳しいけど温かく見守ってくれる粉木や砂影、最初は嫌なヤツだったけど良いヤツになった雅仁。紅葉の目の前にいる牛木と名乗る男は、紅葉が知っている退治屋達と違う。クズだけど人間臭さが丸出しだった喜田御弥司とも違う。


「燕真と粉木の爺ちゃん呼んで!

 ちゃんと、解るように説明してほしいっ!」

「オマエは、本部の管轄だ。文架支部は、オマエから手を引いたんだよ。」

「そんなハズ無いもんっ!燕真ゎ、ァタシから手を引かないもんっ!」

「ヒラ(燕真)は、トップの指示には逆らえない。」

「だったら、オマエより偉いヤツ出せっ!

 オオタケゎ、ァタシに、燕真達を手伝ってイイって言ったんだもん!

 ホカクじゃなくて、守るって言ったんだもんっ!」

「フン!その大武の指示なのだよ。」

「んぇぇっっっ!!?オオタケの嘘ツキっっっっ!!!!」


 本能的に「この対峙は拙い」と感じた紅葉は、振り返って逃走をする!しかし、校舎内に飛び込もうとした直前で、牛木が呪文を唱えた!中庭が薄暗い闇に包まれ、中庭を脱出したはずの紅葉は、中庭に飛び込んでいた!



-屋上-


 妖幻ファイター(茂部)が、校舎の屋上に上がって様子を眺める。支部の連中と共に雑魚(子妖)退治をする気など一欠片も無い。彼の任務は‘真の目的’を達成させること。中庭からは閉め出されてしまったが、牛木CSOが苦戦をしてもサポートできるように準備を整えておく。

 派遣隊の表向きの任務は「紅葉の護衛」だが、真の目的は「酒呑童子の討伐」だ。これは、本部所属のエリートにしか伝えられていない。


「可愛い子だから惜しいけど、中身が鬼の頭領なんだから仕方無いよな。」


 一定の罪悪感や同情はある。だが、多数の平和の為に、情を捨てて任務を遂行するのがエリートだ。安っぽい情に流されるつもりは無い。




-YOUKAIミュージアム-


 高菱のポケットで、スマホが通知音を鳴らした。メッセージを確認して微笑を浮かべる。


「うへへっ!源川って娘を捕獲したみたいだな。」

「紅葉ちゃんが?」

「・・・どういうことだ?」


 派遣隊の任務は「紅葉の護衛」と聞いている。雅仁は「捕獲」という違和感のある言葉を聞き逃さなかった。佑芽は、「捕獲」という言葉を発した雅仁の表情が緊張で強ばったことを見逃さない。


「俺等エリートと違って、下っ端や、地方の閑職には伝えていないんだっけ?

 佑芽ちゃん、君の才能が勿体ないよ。

 いつまでも、こんなところ(文架)で遊んでないで、本部の就学に戻って来い。

 俺が偉くなったら、本部のエリートコースに引っ張り上げてやるからさ。」


 高菱が場違いな説明をしているが、佑芽は出世の世話など、どうでも良い。あえて言葉には出さないが、「オマエが偉くなっても、付いていかねーよ」くらいに思っている。


「保護じゃなくて、捕獲なの?ちゃんと教えて、高菱さん!」

「ありゃ・・・マズったかな?」


 高菱は口を滑らせたことを「どう誤魔化そうか?」と考えたが、佑芽に真剣な眼で見詰められて戸惑ってしまう。姉の礼奈も美しかったが、妹の佑芽も美しい。そんな目で見られたら決意が鈍ってしまう。


「仕方が無い。オマエ達を信用して、教えてやるよ。

 これは、派遣隊の中でも、本部直轄組にしか伝えられていない。

 だから、他の奴には絶対に言うなよ。

 地方の閑職だけでなく、東東京支部の連中だって知らないことなんだからな。」


 高菱の後のテーブル席では、地方閑職の粉木や、東東京支部所属の砂影&田井が、聞き耳を立てている・・・というか、高菱の声が大きいので、聞き耳を立てなくても聞こえる。


(やはり・・・か。)


 粉木は眉間にシワを寄せ、辛そうな表情で目を閉じた。高菱が何を言うか、粉木には予想ができる。退治屋は甘い組織ではない。数日前に、本部に紅葉の秘密を知られてしまった時点で、本部が甘い裁定をしてくれることを期待しつつ、心の何処かでは「来るべき時が来た」と感じていた。あとは、「本部の方針に対して、粉木自身がどう動くか?」なのだが、まだ決めかねている。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×たくさん


 田井は「聞こえているぞ」とツッコミを入れず、聞こえないフリをしている。佑芽がチラ見をしたら、砂影は、ばつが悪そうに目を逸らしたので、「絶対、砂影さんにも聞こえていた」と確信した。

 雅仁と佑芽に見詰められ、粉木&砂影&田井が聞き耳を立てている中で、高菱が語る。


「真の任務は、源川紅葉の中に眠っている酒呑童子が目覚める前に、

 彼女を殺害することだ。」

「・・・・・・・・・・え?」


 青ざめる佑芽。頭の中が真白になった。納得できるわけがない。不安な視線で、雅仁を見詰める。


「佐波木さん・・・間に合うよね?」

「どうだろうな?間に合ったとしても、精鋭隊を敵に廻すことになる。」

「えっ?なんで?」

「紅葉ちゃんは鬼。本部の目的は鬼の討伐。

 もし佐波木が、鬼の存命を優先させれば、本部の意向に背いたことになる。」

「そ、そんなっ!鬼ったって、紅葉ちゃんなんだよ!」

「鬼に憑かれただけなら、救う方法は幾らでもある。

 だが、紅葉ちゃんの場合は、根底が鬼なんだ。」

「そんなのおかしい!私は納得できません!」


 佑芽は、雅仁ならば「助けに行こう」と言ってくれると思っていた。しかし、雅仁の対応は、想像以上に冷淡だった。

 狗塚家にとって、酒呑一派の討伐は宿願だ。友人を殺したくない。だが、打ち損じるならともかく、「討伐を阻止して仲良くする」なんて、酒呑一派殲滅の為に命をかけた祖先達に説明できない。「枯れた家系」どころか「牙の抜けた家系」と揶揄されるだろう。紅葉の出生を知ってから、ずっと、自分のやるべきことを迷っていた。


「雅仁先生が、そんなに冷たい人とは思わなかった!」


 高菱にとって、未来の部下(可愛いので、嫁でもOK)にしたかった佑芽が、こんなに反発するとは思わなかったので、内心では動揺しつつ、クールガイのフリをして佑芽を宥める。


「俺だって辛いけど、理不尽と思っても、やらなきゃならない。」

「高菱さんは関係無いので黙っていてください!」

「佑芽ちゃんだって、子供じゃないんだから解るだろうに?」

「まだ子供なので解りません!」


 堪えきれなくなって店から飛び出していこうとする佑芽を、粉木が椅子から立ち上がって呼び止める。


「佑芽ちゃん、これがワシ等の足を踏み入れた退治屋の世界や。」

「私は、退治屋じゃなくて、まだ学生です!」

「反発したら、今度こそ、就学に戻られへんくなんねん。」

「退学で良いです!友達を殺そうとしているところに、戻る気なんてありません!」


 言い捨てると、佑芽は店を出てホンダ・VFR1200Fに跨がり、駐車場を飛び出していった。


「おい、オマエ等!ちゃんと、佑芽ちゃんを説得して連れ戻せ!」


 高菱は、「佑芽を未来の部下にしたい(嫁でもOK)」と勝手に想像している。だから、佑芽の経歴にマイナス査定が入るのは困る。自分が追って(そんな勇気も無いけど)熱い説得で止めたい。だが、高菱の任務は「佑芽のサポート」ではなく、文架支部の監視(燕真は既に反抗中)なので、監視対象外の佑芽を追うことはできない。


「職務怠慢だ!上層部には報告させてもらうからな!」


 高菱が怒鳴り散らしているが、店内に残った者達は聞いていない。

 雅仁は、Yウォッチのホルダから金色メダルを抜き取って無言で眺める。父の意思を越えて金色メダルを得る時に「宿命や恨みを晴らす為ではなく、自分のやりたいことをやる」と決意した。「やりたいこと」は決まっている。だがそれは、祖先達の道標に真っ向から反する行動だ。雅仁には、まだ、狗塚家の血統を裏切る覚悟はできていない。燕真や佑芽のように、感情で突っ走る勇気は無い。


「だが・・・ここで動かなければ、全てに対して後悔をすることになる。」


 紅葉が、倒すべき宿敵か、守るべき友人か、それは、会って話して観察して決めたい。どちらの決断にしても、自分自身で決めたい。このまま蚊帳の外にいて、「いつの間にか全てが終わっていた」は避けたい。決断はできなくても今は動く時だ。


「粉木さん・・・砂影さん・・・見届けてきます。」


 2人に一礼をして、田井にも軽く会釈をして、店から出ようとする雅仁を、高菱が呼び止めた。


「責任を持って、佑芽ちゃんを連れ戻せ!

 妖怪退治より重要な任務だからな!」


 雅仁は、佑芽を止める為に出動をするわけではない。バカの命令は無視して、店から出てヤマハ・MT-10を駆り、駐車場を飛び出していく。


「雅仁のことは止めんのね。」

「ああ、ヤツは、燕真達よりは、冷静に動くやろうからな。」


 黙って見送った粉木を、相席の砂影が見つめる。すると、粉木は、冴えない表情で目を逸らした。

 粉木は、「どう動くべきか」を迷っている。厳密には「本部の意向に服従する」のではなく、だからといって「若者達のように暴走する」のではなく、「若者達の未来を閉ざさない為に、自分がどう動くのが最適なのか」を思案している。

 砂影は、現状が正しいとは思っていないゆえに若者達を止められなかったことを含めて、粉木の苦しい心情を理解している。

 こうして、YOUKAIミュージアムは、サポートと言う名目の監視者が砂影&田井&高菱に対して、燕真&雅仁&佑芽が不在となって、監視対象が粉木だけという、凄まじく歪な状況に陥った。





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