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39-2・燕真の指示無視~紅葉の捕獲

「なぁ、爺さん。」


 燕真は、文架市で発生した事件なのに蚊帳の外に出されて不満だった。本部が動くってことは、鬼が出現した?それとも、「紅葉の護衛」に問題が生じた?せめて、「何が有ったのか?」は知りたい。だから、統括責任者がいなくなり、イケ好かない本部のエリートが席を外している隙に尋ねてみた。


「妖怪は何処に発生したんだ?

 牛木ってヤツ『対象に変化』とか言ってたけど、何のことだ?

 何で、俺達は気にしなくて良いんだ?

 紅葉は関係しているのか?」

「ああ、そうや。オマンの想像通り。

 妖怪は、お嬢の身近・・・優麗高で発生をした。

 だから、お嬢が危機に瀕している可能性を考慮して、護衛隊が動いたんや。」

「マジかよ?」

「解っているやろうな、燕真。お嬢の件はワシ等の管轄外や。

 オマンでは手出しできん。」

「解ってる・・・・解ってるけど・・・。」


 燕真は「紅葉護衛の為に本部が来る」と聞いた時から、ずっと迷っていた。頭では理解しても心が納得しない。「ただの自己満足」かもしれない。ボンクラな自分では、エリート連中のお荷物になりかねない。だが、紅葉が大変な時なら、傍にいて励ますくらいはしてやりたい。


「・・・田井さん。」


 燕真は、戸惑いを隠せない目で、田井を見つめる。


「文架市に詳しい田井さんがサポートに入ってくれたなら・・・

 しばらくは、文架支部のことは、田井さんに任せても良いですよね?」

「ん?何のことだ?」

「俺・・・紅葉の護衛に行きます。」

「おいおい、正気か?」


 燕真の発言に驚いたのは、田井だけではない。粉木と砂影も、呆気に取られる。文架支部を担当する退治屋が、文架支部の治安維持を放棄して、少女1人に執着しているのだ。こんな身勝手な自己都合は許されない。


「勝手なのは解っている!」

「オマエは平凡だが、バカではないだろう。

 オマエは通常業務で、本部が彼女の護衛に入った意図を理解しろ。

 彼女の防衛隊を希望しても、本部のエリート共に相手にされるわけが無い。

 オマエが、上層部からの評価を落とすだけだ。」

「・・・でも!」

「最悪、職務怠慢と判断されて、妖幻システムを没収されるぞ!

 妖幻ファイターの地位を失ったら、何も守れなくなるんだぞ!」

「・・・くっ!」


 田井の正論で、燕真は落ち着きを取り戻す。だが、それは一時的で、髪を掻きむしるようにして、苛立ちの気勢の一声を上げ、田井の目を真っ直ぐに見詰めた。


「ゴメン、田井さん。俺、自分でも、俺がこんなにバカとは思ってなかった。」

「おい、燕真っ!」


 田井の制止を振り切り、店から出て行こうとする燕真。今度は、粉木が燕真の進行方向を塞ぐ。

 粉木は、紅葉に出会った直後から「紅葉の異常性」を感じていた。当初は、「頭抜けた才能」と解釈していたが、やがては「人間では有り得ない能力」と考え、時として驚異を感じることもあった。だから、紅葉が「人間ではなく鬼」と知っても、直ぐに納得できた。同時に、「もっと早い段階で上層部に相談するべきだったかも」と、紅葉に対して何のアクションも起こせなかったことを後悔している。


「お嬢は、オマンに手に負える存在やない。」


 粉木では何の判断もできなかった「紅葉」が、本部管轄になるのは理に適っている。本部が下した「文架支部は紅葉の管轄から外れて通常業務」の指示は、「いじわる」ではなく、極めて丁寧な配慮だ。反発をする理由は何も無い。

 何よりも、粉木は、紅葉への情は有るが、燕真と紅葉を天秤に掛ければ、燕真への情が深い。燕真を社会不適合者に落としたくない。


「確かに、紅葉はスゲー奴だ。俺の手に負えないかもしれない。

 でも、それを決めるのは、爺さんや本部のエリートじゃない。

 決めるのは、俺と紅葉だ。」

「若造と小娘の都合では、本部の裁定は覆らんと言っておるんや。」

「そんなの、掛け合ってみなきゃ解らないだろう。

 爪弾き(つまはじき)にされてから、次のことを考えるよ。」

「お嬢が、ワシやオマンでどうにかなる存在なら、

 文架支部に人員が補強されて、お嬢の護衛を担うはずや。

 だが、文架支部は任務から切り離され、本部が管轄をしている。

 これが『オマンの手に負えるかどうか?』の答えなんや。」


 燕真は、粉木の説く理屈が理解できる。だけど、受け入れる気は無い。


「なぁ、爺さん・・・。

 皆は、アイツを天才や化け物扱いするけどさ・・・

 アイツは、つい最近まで、自分を人間だと信じていた女の子なんだぞ。」


 粉木は、燕真なりの正論を聞き、「燕真の意思は変わらない」と悟り、説得の言葉を失う。


「どうなっても知らんで。」

「うん、自分で決めたんだ。責任は自分で取る。」

「・・・・・・・・・」

「今まで散々世話になったのにさ・・・

 上手く立ち回れなくて、退治屋をクビになっちゃったらゴメンな。」


 燕真は、粉木の脇を通過して店から飛び出す。見送る気の無い粉木は、燕真に背を向けたまま。田井は、師でも止められなかったことに驚いている。

 重たい空気の中、統括責任者様を見送りを終えた高菱が、燕真と擦れ違って、店内に戻ってきた。


「ん?アイツ、何処に行くんだ?買い物か?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×たくさん

「間が悪っ。」


 状況を理解できない高菱凰平が質問をするが、佑芽が冷たいツッコミを入れただけで、回答する者は誰もいない。


「バカもんが。」


 親の心、子知らずとは、この様なことをいうのだろう?燕真の駆るバイク音が駐車場から飛び出していく音を聞きながら、粉木は小声で呟いた。燕真と同じ悩みならば、粉木は、紅葉と出会ってから今までの約9ヶ月間、ずっと持ち続けていた。散々悩んだ上で、燕真の立場を守ることを前提にして、本部の判断に委ねる選択をしたのに、燕真は、たった数日悩んだだけで、真反対の結論を出した。


「青春・・・だよね?」


 佑芽は、企業という大きな壁に竦んで、間違っていると感じながらも喜田の命令と里夢の指示に抗えなかった。だから、燕真の「自分を信じる」という勇気ある行動を応援したい。


「そんな青臭い理屈で済む問題ではない。」


 雅仁は、燕真の「定石無視」の行動を評価している。しかし、彼の行動は、社会人失格だ。今回は「未熟者以下」としか言い様が無い。


「燕真の行動ちゃ、人としては間違うとらんわ。変わっとらんね。

 でも、退治屋本部の判断も正しい。

 そしてぇ、個の意思ちゃ、集の方針に潰される。

 従うて後悔をするか、独善を通して後悔するか・・・その違いなっしゃい。」


 燕真をスカウトしたのは砂影だ。燕真に対しては一定の責任を感じている。だから「しくじっても精一杯フォローする」つもりで、粉木の面子を潰した未熟な弟子の選択を見守ろうと思っている。


「でもさ・・・本部が正しいのは解るんだけど、

 なんで、紅葉ちゃんに配慮しないんだろう?

 偉い人(牛木)が、紅葉ちゃんの要望を聞けば、

 きっと、『護衛のメンバーに佐波木さんを入れて欲しい』っていうよね?

 それなら、紅葉ちゃんは寂しくないし、佐波木さんは任務で紅葉ちゃんを守れて、

 全部、上手く収まるのにね。」


 だれも、佑芽が発した疑問に答えることができない。佑芽の疑問は、雅仁&粉木&砂影も感じていることだった。疑問に持った上で、「上層部には意図がある」と考えて黙殺した感情だった。


「オマエ等さぁ・・・さっきから、何を喋っているんだ?

 もしかして、本部所属のエリートな俺に、何か隠しごとでもしているのか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×たくさん

「空気読んでどっか行け、バカっ。」


 状況を理解できない高菱凰平が、高飛車で横柄な発言をするが、佑芽が冷たいツッコミを入れるだけで、対応をする者は誰もいない。




-同時刻・文架高校-


 伊原木鬼一が、廊下の窓から優麗高側を睨み付けた。


「これは、御館様の妖気!何が有った?」


 伊原木が優麗高から離れている時に、事件が発生してしまった。


「もう一方は牛鬼の妖気・・・。

 鬼神軍の幹部が、御館様を潜在させた小娘を狙ったのか?」


 ノラ妖怪が騒いでいる程度なら気にも止めない。鬼神軍が出現したとしても、大して興味が無いので高みの見物を決め込む。だが、主の妖気が発生したのならば話は別。最優先事項だ。


「伊原木先生!授業で解らないところがあったので、教えてくださーい!」


 主の一大事に比べれば、講師・伊原木鬼一が人外とバレることなど些細。補習を望む生徒が寄ってきたが関係無い。伊原木はお構い無しに、全身を闇霧に変えて、空に飛び上がる。


「ひぃぃっっっ!!伊原木先生っっ!!!?」


 女生徒は「イケメン教師が飛び降りた」と錯覚して、慌てて窓に近付いて下を覗き込むが、伊原木の姿は何処にも無い。




-優麗高-


 妖幻ファイター3人と、部下のヘイシトルーパー十数人が、一斉に優麗高に雪崩れ込んだ。B班とC班は生徒や先生に憑いた子妖を片っ端から祓う。


「うわっ!一体、何人が憑かれているんだ?」

「牛鬼は上級妖怪よ。

 支配力を考えれば、校内の全員が憑かれていると考えるべきね。」


 優麗高の生徒数は、700人以上。先生を含めれば、800人近くになる。放課後になった直後の全員が敷地内にいる状態で、牛鬼の支配力に汚染された。つまり、800近い子妖を祓わなければならない。

 一方、A班は、一般生徒には目もくれずにグラウンドに突入。妖幻ファイター1人(茂部園太)と複数のヘイシが、対象の紅葉を取り囲んだ。


「何なの、この人達?」


 一緒にいた麻由は、退治屋という組織を詳しく知らない為に動揺をする。


「ダイジョブ。妖怪退治の人達だよ。」

「粉木さんと同組織の方々ですか?」

「うん、そう。

 ァタシ達ゎダイジョブなので、アミや他の人を・・・。」

「一般生徒の安否は、B班とC班の任務だ。」

「えっ?目の前にたくさん転がってるのに無視?ヒドくね?」

「我々の任務は、オマエの捕獲だ。」

「ホカク?」 「捕獲?」

「牛鬼に狙われているのはオマエだ。」

「んぇっ?そうなの?」

「オマエがこの場から離れれば、他の生徒達に危険が及ぶことはなくなる。

 さぁ、我々と共に、こちらに!」


 先日、退治屋の偉い人(大武)が、「我々が全力で守る」と言ってくれた。最近、自分の周りが騒がしくなりつつあることも察している。自分が離れることで、亜美や他の生徒の安全が確保されるなら、妖幻ファイター(茂部)の指示に従うべき。


「ぅ、ぅんっ!ワカッタ!」


 ヘイシ達に護衛してもらい、妖幻ファイター(茂部)に先導をされた紅葉が、校舎に向かって歩き始める。麻由も付いて行こうとしたが、妖幻ファイター(茂部)の指示を受けたヘイシが行く手を塞いだ。


「オマエは対象ではない!ここに残れ!」

「えっ!?」


 紅葉は「麻由も一緒」と思っていたので、驚いて足を止めて振り返る。


「マユゎ、守ってあげなくてダイジョブなの?

 マユも憑かれてないんだよ。」

「他の生徒は、B班とC班が対処する。」

「でも、ァタシと一緒に連れてきてあげた方がイイんぢゃないの?」

「我々の任務は、オマエの捕獲だ。」

「・・・ホカク?」


 妖幻ファイター(茂部)が、「護衛」ではなく「捕獲」という言葉を使っているのが気になる。最初は言い間違いかと思ったが、意図的に「捕獲」という言葉を使っているように思えて、紅葉と麻由は不安を感じる。


「言ったはずだ。牛鬼に狙われているのはオマエだ。

 オマエが離れれば、他の生徒達に危険は去る。」

「・・・ん~~~~~、ワカッタ。

 ゴメン、マユ。ァタシと一緒に1ない方がイイみたいだから、付いてこないで。」

「わ、解りました。」


 その場に麻由を残し、紅葉だけが妖幻ファイター(茂部)とヘイシ達に囲まれて連れて行かれる。

 校庭や校舎のあちこちで、子妖に憑かれた生徒と退治屋が交戦をしている。祓われて、意識を失っている生徒がたくさん転がっている。校内を支配する妖力は、絡新婦(第1話)の時より濃い。先程は、逃げるのに必死で周りを確認する余裕は無かったが、落ち着いて観察すると、自分と麻由を除く校内の全員が憑かれてしまったように感じられる。


「ねぇねぇ、なんで燕真ゎ来てくれないの?」

「えんま?文架支部に所属する妖幻ファイターか?」

「ぅん、そう!それ!」

「文架支部は、別の任務に就いている。

 オマエの捕獲は、文架支部ではなく、我々の任務だ!」

「・・・・・・・・・・・・」


 燕真は来てくれないらしい。しかも、また「捕獲」と言った。明確に不安と不満を感じた紅葉は、誘導を拒否して立ち止まる。


「なんか、ホカク、ヤダ!燕真、呼んで!」

「チィ!煩わしい。自分で動く気が無いなら、オマエ等が担げ。」

「わっ!わっ!なにすんだっ!?離せヘンタイっ!!」


 妖幻ファイター(茂部)は、紅葉の要求を聞く気無し。紅葉は、指示受けた長身の部下ヘイシ達に両脇から抱え上げられ、空中で足をジタバタと振るいながら運ばれていく。時々、ジタバタさせた爪先がヘイシの足に当たるのだが、ヘイシはプロテクターを装備しているので‘膝カックン’に成りかけるだけで、時にダメージは無い。





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