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39-1・紅葉と離れる?~牛顔の子妖

-YOUKAIミュージアム-


 気心の知れた先輩・田井弥壱が派遣されたことを、燕真は心強く感じていた。やや皮肉屋な一面を持つ燕真だが、入社直後の何も解らない時期に指導してくれた田井には、素直に対応する。


「俺の任務は、オマエや粉木さんのフォローだ。」

「ありがとうございます。助かります。」

「色々と大変だな。源川紅葉さんってオマエの恋人だっけ?

 東京に来た時(枕返し事件)の時に連れていた可愛い子だろ?」

「恋人・・・ではありません。」

「そっか。なら安心だ。」

「・・・え?」

「彼女と離されても、何の問題も無いってことだよな。」

「・・・・・・・・・・・・・・」


 燕真は、「紅葉と離される」と聞いて、内心が穏やかではいられない。恋人ではないが「一緒にいる」が当たり前になりすぎた。数日前に、「本部の護衛隊が入る」と聞いてから、ずっと「紅葉が手の届かない存在になる」と感じていたが、それが現実になった今でも「離される」を上手く受け入れられない。


「彼女・・・普通の人間と少し違うからな。」


 田井は、枕返し事件(第8話)の時に、紅葉と接触をしている。死者が出なかったので黙認をしたが、紅葉が「妖怪の依り代を、敵意の対象に嗾けた」のは驚いた。依り代の気持ちに配慮したのだろうが、その豪快な行動力は、「一般的な十代の少女」とは思えなかった。担当が、燕真と馴染みのある田井以外だったら、紅葉の行動は問題視されていた可能性が高い。


「彼女の護衛は、他の隊員が担当することになってる。」

「へぇ・・・そうなんすか。」


 燕真は、田井のことは信頼している。だが、田井に与えられた任務には違和感を持った。田井の任務が「燕真達のサポート」で、「紅葉の護衛は別」ならば、燕真も紅葉の護衛から外されているのだろうか?


「俺は何をすれば良いんですかね?」

「彼女の護衛は本部に任せて、通常業務をするってことだろうな。

 ただし、彼女を狙う勢力の動き次第で、

 通常業務に支障が出る可能性があるから、俺がサポートに派遣されたんだろう。」

「ああ・・・なるほど。だから『離される』ですか。」


 田井の説明には納得ができるが、本部の采配には不満はある。燕真は、自分のことを優秀な退治屋とは思っていないが、紅葉を守るのは「自分が適任」と思っている。不安に感じるであろう紅葉の傍にいてやりたい。

 しかし、同時に、それが「ただの自己満足」とも感じている。もう、紅葉の一件は、燕真個人の手に負える状況ではないのだ。


「紅葉の護衛担当って、どんな人達なんすか?」

「1人は、俺と同じ東東京支部から狩り出された先輩の甘利亜真里さん。

 大きな活躍は無いけどミスも無い安定した隊員だ。

 他は、統括責任者の牛木さんも含めて、よく解らん。

 俺と同じ文架支部のサポートを割り当てられた高菱凰平っヤツが、

 高飛車で横柄ってことくらいは解ったけどな。

 アイツ、俺より年下なのに、エリート面して高圧的で、

 俺の役職だけじゃなく、使役妖怪や出身地まで鼻で笑って、少しムカ付くよ。」

「・・・ははははは。」


 燕真は、「なんか解る」と乾いた笑いを発しながら、カウンター席を眺めた。


「それでな、向かって来た山姥やまんばに対して、俺は勇敢に・・・。」

「そうか、よかったな」 「へぇー、すごいですね」

「はっはっは!そうだろそうだろ!君では、そんな機転は利くまい!」


 会話のキャッチボールが成り立っている燕真&田井とは違い、雅仁&佑芽は、特に何もすることが無いのに「忙しいから会話に応じられないフリ」をしながら、高菱が一方的に話す武勇伝を聞き流している。

 雅仁&佑芽が可哀想だが、きっと一番可哀想なのは、自分が可哀想ってことに気付いていない高菱本人だろう。




-優麗高-


 放課後になり、紅葉と亜美がガールズトークをしながら階段を降りる。靴を履き替えて、生徒玄関を出てた直後・・・。


「んぇ?何かが発生した?」


 紅葉が、正門付近で嫌な気配を感知。駆け付けると生徒が蹲っていた。紅葉は、直感的に「ヤバさ」を感じ取って後退りをする。


「大丈夫ですか?」


 一緒にいた亜美は、具合の悪そうな生徒に寄って行って介抱をする。しかし、亜美は、顔を上げた生徒の顔を見て、表情を引き攣らせた。生徒は、牛のような顔をしている。


「アミっ!離れてっ!!」

「ぶもぉぉぉぉっっっっっっっっっ!!!」


 牛顔の生徒の左右の肩から、長い一本爪を生やした腕が出現!亜美目掛けて振り下ろした!


「きゃぁぁっっっっっ!!!」

「アミっ!!」


 紅葉が、反射的に亜美の腕を掴んで引っ張る!2人は勢い余って尻餅をつき、牛顔の生徒が振り下ろした爪は空振りをして地面を抉った!紅葉は、腰を抜かした亜美を引っ張って立たせ、周りを見て状況が想像以上に拙いことに気付く。


「・・・子妖?」 


 牛顔で肩から一本爪の腕を生やした生徒は、1人だけではない。見渡す限り、全ての生徒が、牛顔に変化をしている。


「ど、どうなっているの?」

「よ、妖怪だよ。・・・みんな、妖怪に憑かれちゃった!」


 正門は、数人の牛顔に塞がれていて通過できそうにない。


「ど、どうしよう?」

「逃げるしかないっ!」


 逃げ回れるグラウンドに向かうべきか、隠れる場所がある校舎内に逃げるべきか?どちらにしても、正門から離れなければならない。紅葉は、亜美の腕を引っ張って逃走をする。


「きゃぁぁっっっっっっっ!!!なによ、これぇっっ!!やめてぇっっ!!」


 悲鳴を聞いて振り向いたら、非常階段付近で、麻由が牛顔2人に追い詰められていた。麻由は、紅葉ほどではないが霊力に優れている。ゆえに、霊的防御によって子妖に憑かれにくく、その才能が災いして牛顔達に「餌」と認識され、襲われる対象に成ってしまったのだ。


「ヤバぃ!助けなきゃ!!」


 麻由は、非常階段を登って逃げようとするが、紅葉視点では悪手。上の扉が施錠されていて追い込まれたり、上からも牛顔が押し寄せてきたら、確実に餌食になってしまう。


「マユっ!こっちっ!!」


 紅葉は、鞄を振り回して牛顔達の後頭部に叩き付けた!牛顔が体勢を崩した隙に、紅葉は麻由の腕を掴んで非常階段から脱出させ、亜美と合流して3人で逃げる!


「これは一体?」

「みんな、妖怪に憑かれちゃったみたいっ!

 でも、逃げながら時間を稼いでいれば、大丈夫!

 絶対に、あの時みたいに、燕真が助けに来てくれるから!」


 紅葉は、約9ヶ月前の絡新婦事件を思い出していた。怖かったけど、燕真が助けてくれた。再会をした燕真は、変身ヒーローになっていた。漠然と求めていた初恋は、時を経て本当の恋に変化した。


「あっちゎダメだ!こっちに逃げようっ!」


 生徒玄関からも牛顔が溢れ出してきた!紅葉達は、裏門があるグラウンドへと向かう!だが、グラウンドでは、野球部とサッカー部のユニフォームを着た牛顔達が集まっていた!まだ憑かれていない紅葉達を見付けて押し寄せてくる!


「アミっ!マユっ!」


 最初は固まって逃げていた3人だが、徐々に分断されていく!霊的感受性の強い(憑かれ体質)の亜美の表情が虚ろに変化!牛顔に憑依され、肩から一本爪の腕が生える!


「アミっ!」 「平山さんっ!」


 これで良かったわけではないが、亜美は憑かれたおかげで、牛顔達から同族とみなされて襲われずに済む。問題は、残された紅葉と麻由だ。霊的防御力が強い為に子妖に憑かれず、襲われる対象から外れることができない。


「きゃぁぁっっっっ!!」


 亜美の変化に動揺をして動きを止めた麻由が、牛顔達に掴まる!


「マユっ!」


 鞄を振り回して麻由の救出を試みる紅葉!数人を退けて麻由との合流はできたが、羽交い締めにされてしまう!


「んわぁぁぁっっっっっ!!触るなヘンタイっっ!!!

 燕真っ!助けてぇぇっっっ!!!」


 紅葉が絶叫をした次の瞬間、紅葉の全身から強大な妖気が放出されて、群がる牛顔達を弾き飛ばした!麻由や牛顔の亜美も、諸共に弾き飛ばされる!


「な、なんか知らないけど助かった。」


 衝撃波の中心で、脱力気味に地に両膝を落とす紅葉。だが、直ぐに我に返って周囲を見廻し、倒れている麻由に寄って行く。


「い、今のは一体?」

「ワカンネ。」


 牛顔達は蹲っている。紅葉が妖気でダメージを与えたからなのだが、紅葉は「自分の影響」と気付いていない。



〈各隊突入!B班とC班は子妖を殲滅せよ。対象は我々A班で捕獲する!〉

〈了解!〉 〈了解!〉


 優麗高の周りで待機をしていた派遣隊が、A班チーフ・茂部園太の指示で動き出す。彼等は、子妖が発生した時点で討伐に動くことが可能だったが、あえて、このタイミングまで待っていた。


「やれやれ、俺達の仕事はザコの処理だけなのね。」

「重要な任務は、本部が持って行っちゃうんだよな。」


 B班チーフの甘利亜真里と、C班チーフの七篠権兵衛には、上層部、及び、統括責任者・牛木の意向は伝えられていない。「何故、サッサと救出に行かなかったのだろう?」と疑問に感じつつ、茂部の指示に従う。




-数分前・YOUKAIミュージアム-


ピーピーピー!

 事務室内で、妖気発生の警報が鳴り響く。発生場所は優麗高。粉木は、茶店にいる燕真&雅仁に出動の指示を出そうとしたが、牛木に呼び止められた。


「慌てなくても大丈夫だ。我が精鋭が、早々に制圧します。

 彼等(燕真達)を出動させる必要はありませんよ。」

「せやけど・・・」

「言ったはずです。源川紅葉の関連は、全て俺が責任を負う。

 文架支部は、それ以外の一般事件を担当してくれれば良い。」


 警報音を聞いた燕真&雅仁&佑芽が事務室に駆け込むが、牛木は「気にしなくて良い」と制して事務室から出て行く。


「何処に行くんや?」

「俺まで、貴方達と一緒に悠長にしているわけにはいかない。」

「・・・頼むで。」

「言われるまでもありませんよ。」


 牛木は、店内で待機中の高菱と田井を眺め、高菱だけを呼び寄せた。蚊帳の外の田井は、「これが、本部所属のエリートと、支部のその他の違い」と把握しつつ、少し不満げな表情をする。


「対象に変化が生じたので、現場に向かう。」

「お疲れ様です。」

「引き続き、文架支部のフォローを頼む。」

「はい、任せて下さい。」


 高菱は、牛木の後に付いて外まで出て、牛木が乗った車が駐車場から出て見えなくなるまで、深々と頭を下げて見送った。


「おいおい、アイツ、何か勘違いしていないか?

 取引先の偉いさんや、大金を使ってくれる客じゃねーんだぞ。」

「権威主義ってヤツだな。」

「典型的な『弱い者には強く 強い者には弱いタイプ』だね。」


 燕真&雅仁&粉木&砂影は、45度の美しいお辞儀をしたまま微動だにしない高菱を、呆れ顔で眺めている。佑芽に至っては、嫌悪感丸出しだ。



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