37-3・雲外鏡討伐~雅仁の迷い~粉木と大武
-数日後-
駅前のロータリーに、身長2mくらいのタヌキの妖怪が出現!一般人達が逃げたところに、バイクに乗ったザムシード&ガルダ&リンクスが到着する!
「腹に鏡を付けた肥満気味で二足歩行のタヌキ?」
「雲外鏡ですね。」
ザムシードはバイクから降りて、妖刀を装備して突進!しかし、雲外鏡は肥満気味の見た目を裏切る俊敏さで、ザムシードの攻撃を回避する!続けて、妖槌・ネコノテを装備したリンクスが雲外鏡に仕掛けるが、これも素早く回避!
「闇雲に突っ込むのではなく、相手の動きを良く見て予測をするんだ!」
直後に、ガルダの鳥銃から放たれた光弾が飛んで来て着弾!
「クゥーーンッ!」
雲外鏡は、素早く体勢を立て直して距離を取り、腹の鏡をガルダに向けた!途端に、ガルダの全身が青白い炎に包まれる!
「なにっ!?・・・くっ!」
「雅仁先生っ!」 「狗は頼むぞ、根古さん!」
ザムシードは、雲外鏡に向かっていく!しかし、雲外鏡の腹の鏡を向けられ、ザムシードの全身から炎が上がった!
「あっ~~ちっちちちっ!」
プロテクターに守られているおかげで熱くないんだけど、見た目的に「熱い」と感じたザムシードは、慌ててロータリーにある噴水池に飛び込んだ。しかし、普通の炎とは違って、水では消火ができない。同様に、リンクスがガルダの炎を叩いて消そうとするが鎮火をしない。
「妖気の炎は、水では消せない。こうやって消すんだ。良く見ておけ。」
ガルダは、リンクスとの距離を空けてから、手で呪印を結びながら呪文を発した。途端に、ガルダの内側から発せられた霊力が、全身を覆っている炎を弾き飛ばす。
「俺の心配は無用だ。雲外鏡討伐に集中しろ。」
「はいっ!雅仁先生!」
「心配させんな!そんな簡単に消せるなら、サッサとやれよな。」
ザムシードは呪印だの呪文なんて知らないので、消火をする術は無し。全身が炎に包まれたまま、妖刀を構えて雲外鏡に突進する。
奥義連射による消耗と動揺で動きが鈍った雲外鏡に、ザムシードの一撃が叩き込まれた!弾き飛ばされた地面を転がる雲外鏡に、リンクスが接近!装備していた妖槌・ネコノテに白メダルを装填!破壊エネルギーを纏った妖槌・ネコノテのヘッドが直径2mほどに巨大化をする!
「はぁぁっっっっ!!!」
奥義・ネコパンチ発動!叩き潰される雲外鏡!
「ぎゃうぅーーーーーーーーんっっ!!」
雲外鏡は断末魔の悲鳴を上げ、闇霧になって妖槌・ネコノテにセットされた白メダル吸収された。雲外鏡が討伐された為に、ザムシードを覆っていた炎が消える。
「なんだろう?・・・やってることは、俺達と同じなんだけど、なんか残酷。」
ザムシードは、華奢なリンクス(佑芽)が、人間サイズのタヌキを容赦無く叩き潰すというアンバランスな光景をドン引きしながら眺めるつつ、変身を解除して燕真の姿に戻った。同様に、ガルダとリンクスも変身を解除して雅仁と佑芽に戻る。
「・・・なぁ、狗?」
「ん?なんだ?」
「いや、何でもない。」
「変な奴だ。」
いつものガルダ(雅仁)ならば、「簡単に消せる妖気の炎」に狼狽えたりはしない。燕真は、雅仁が本調子ではないと感じていた。
「まぁ・・・まだ気持ちの整理が付かないんだろうな。」
スペクター事件の翌日、佑芽に店番を任せ、粉木は事務室に燕真と雅仁を呼んで、紅葉の母が粉木に伝えたことを、粉木なりに取捨選択して説明した。
燕真は、「紅葉が普通の人間ではなく、妖怪から転生した半妖人間」と聞いた時は、さすがに驚いたが、「人間離れした才能」には妙に納得ができた。霊感ゼロの燕真は、紅葉の凄さを半分も理解できない。彼女が「人間として生きたい」と思っているなら人間として扱おうと考えている。
だが、幼い頃から「鬼討伐は一族の悲願」と教え込まれてきた雅仁は、紅葉の父親が宿敵の酒呑童子という事実を、直ぐに受け入れられるワケがなかった。
「会ったばかりの頃みたく、問答無用で討伐しないだけでも、かなりマシか。」
雅仁は、戦いに集中しておらず、燕真に指摘をされかけたことに気付いていた。ずっと、「自分以上の才能」と認めてきた紅葉が、討伐するべき鬼の子孫。言われてみれば、彼女の「人間よりも妖怪に近い行動」は、幾つも思い当たるフシがある。紅葉の出生を聞いて以降、「しばらくは様子を見るスタンス」を取っているつもりだが、実際には、紅葉とどう接して良いのか解らず、露骨に避けていた。
-数分後-
燕真&雅仁&佑芽がYOUKAIミュージアムに戻ると、粉木は「報告はあとで聞く」「店番を任す」と言って、慌ただしく出掛けていった。 燕真と佑芽は、粉木を見送った後に視線を合わせる。
「なんだ、あんなに慌てて・・・。デートの誘いか?
ジジイを誘うような奇特な人なんて、砂影の婆さん以外にいたっけ?」
「相手は麻由ちゃん?」
「それは無い。もう学校が始まってるからな。」
「でも、恋は盲目って言いますし!」
「紅葉はともかく、葛城さんが授業をサボるなんて考えられない。」
新学期が始まった為、紅葉がYOUKAIミュージアムに来るのは夕方以降。弓道部に所属をしている麻由は、土日にしか顔を出さない。燕真&佑芽は、からかい半分に粉木×麻由の進展を応援しているが、真面目な麻由が学業よりも色恋を優先させることは無いだろう。
「君達は、下世話な想像しかできないのか?」
色恋の話題(というか雑談全般)が苦手な雅仁が、蚊帳の外で呆れ顔をする。
-駅西・レストランの個室-
粉木がウェイターに案内で個室に通される。テーブルでは既に、大武剛COOと、秘書の迫天音、そして繋ぎ役の砂影滋子が、コーヒーを飲みながら待っていた。
「遅なってすんまへんな。」
粉木は、砂影の隣の席に腰を降ろした。向かい合わせには大武COOが座っている。斜向かいの迫天音が、「既にメニューは決めてある」と、ウェイターにコース料理の準備を依頼する。
「いえいえ、こちらこそ、忙しい最中に呼び出してしまって申し訳ない。
アルコールはどうですか?」
「飲む言いたいんやけどな、さすがに上役の目の前で昼間からは飲めん。
茶で構わんよ。」
大武剛COOは、叩き上げで幹部の地位を掴んだ男。政治優先の喜田御弥司とは違って現場の気持ちを理解できるので、砂影からの信頼は厚い。
「大武さんが、代表に就任することになったそうやな。おめでとさん。」
「いえいえ、私のCEO兼務は、一時的な処置です。」
紅葉拉致事件の当日、喜田御弥司は本部から派遣された隊員に引き渡されて護送をされた。
そして、翌日には臨時役員会が開かれ、喜田御弥司はCEO(最高経営責任者)を解任され、臨時で大武剛がCOO(最高執行責任者)と兼務をすることが決まった。あくまでも「一時的」なので、人望のある大武の就任を反対する者はいなかったが、あきらかに「権力の集中」になってしまう。次の総会では、幹部クラスのうちから適任者を引っ張り上げて、一役一人の正常な状態に戻す予定だ。
「まぁ、次期代表には、大武副代表を推す声が多いみたいだけどね。」
「期待があるなら応えますが、それとて、あくまでも中継ぎですよ。」
前菜が運ばれてきたので、一時的に話を中断して配膳を待ち、ウェイターが退室してから会話を再開する。
「前CEO(喜田御弥司)は解任され、後継(栄太郎)は失われてしまいましたが、
退治屋のトップには、喜田一族が収まるのが最もバランスが良い。
やがては、前CEOの親族を招き入れて、トップに収まっていただくつもりだ。」
「初代(御弥司の祖父)やオマン(大武)のような叩き上げなら良いが、
前社長みたいな自己保身の塊がトップに収まるんは、勘弁願いたいのう。」
粉木と喜田御弥司は犬猿の仲だった。喜田は粉木の失態を突いてクビにするつもりだったが、粉木を擁護する意見が多くて解雇ができず、粉木は文架支部に就任することになった。つまり、退治屋にとって功労者とも言える粉木を、地方の閑職に追いやった張本人が喜田御弥司だ。喜田の方が、退職間近の粉木より先に離職をしたのは、皮肉としか言い様が無い。
「これを期に、砂影さんと共に本部に上がって、
管理職として私をサポートしてもらえませんかね?」
「その話はパスや。ワシは現場から離れるつもりはない。
滋子だけ上に引っ張れや。」
「それは残念。
砂影さんからも、上がる気は無いと言われています。」
コース料理が運ばれてくる度に会話は中断され、配膳の終了を待って話を続ける。
「なんや、オマン(滋子)もか?」
「一日中、尻で椅子を暖め続ける仕事ちゃ苦手なんでね。」
その後、迫天音が好条件を提示して粉木と砂影を勧誘したが、粉木は応じる素振りを見せなかった。砂影は、粉木が「うん」と言えば考慮をするつもりだが、粉木が地位に興味を持つ人間ではないことを知っている。
「そこまで頑なとは・・・。
なにか、文架支部から離れたくない理由でもあるんですか?」
かなりの好待遇にもかかわらず、前線で戦うには歳を取りすぎたベテランが現場から離れようとしない理由を、大武には理解ができない。
「些か信じがたい話とは思っていましたが・・・
前CEOの主張が事実ということだろうか?」
「なんや、何の話や?あのボンボンが何を言った?」
今まで、大武と迫の話に全く興味を持たなかった粉木の目付きが変わる。
「文架市に、妖怪としか思えない少女がいる。
しかも、その少女は、文架支部に出入りをしている。
前CEOは、そう言っていました。」
役員会で追求された喜田御弥司は、「隊員の安全を守る為にスペクター計画に協力した」と説明をした。だが、就学生(佑芽)と無関係の一般人(麻由)の正気を失わせ、且つ、「隊員の安全を守る」どころか、部下2人(茂面と日部)は落命している。これでは話にならない。ペナルティーしか無い喜田を擁護する者など誰もいなかった。
追い詰められた喜田は、「自分以上にペナルティーを受けるべき人物がいる」と粉木の名を上げて、「粉木が半妖の存在を隠している」と、粉木の糾弾を求めたのだ。
「前CEOの暴挙の目的は、文架支部の隠蔽を暴く為・・・らしいです。」
「・・・あのクズ、余計なことを。」
「尤も、その場しのぎとしか思えない言い分など、誰も信じませんがね。」
喜田の言い分は理論破綻と解釈された。正確には、「喜田は、いい加減な言い訳で、責任逃れをしている」と解釈されるように、大武が仕向けていた。
「ですが、粉木さんが、そこまで頑なに現状を守ろうとするなら、
前CEOが適当なことを言っていたとは思えなくなってしまいます。
説明をしていただけますよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
常々老獪に言葉を選ぶ粉木だが、大武に対しては誤魔化しきれないと感じた。彼(大武)は、これまでの文架市での出来事を結び、一定の仮説を立てて、全てを把握した上で、質問を投げかけているような錯覚に陥る。どうにか、紅葉の異常性を隠蔽したいが、隠すことで、自分ではなく、燕真や紅葉の立場が悪くなるのは避けたい。




