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37-2・喜田を守る~喜田逃走と捕縛~帰路は佑芽の後

-山麓の広場-


 何も聞かされずに腹心の部下2人を失った喜田CEOは、スペクターの敗北を呆然と眺めていた。


「・・・なんてことだ。」


 面子は丸潰れ。起死回生が失敗に終わり、他に奥の手が無い状況では、次の役員会で糾弾をされるどころか、更迭は確実だろう。


「もう・・・利用価値は無さそうね。」


 喜田の背後に立つリリスも、「喜田は終わった」と感じていた。それならば、スペクタープロジェクトについて余計なことを言いふらされる前に、口を封じるべき。

 リリスは、喜田の背を眺めながら、魂狩りの効果を発動させたデスサイズ・キスキルを振り上げる。


「汚れた魂なんてコレクションには不要だけど・・・目障りだから消えなさい。」


 リリスが、刃が揺らぐ死神の大鎌を振り下ろす!振り返り、顔面蒼白になる喜田!だが、リリスの動きを警戒していたザムシードが跳び込んで、妖刀で受け止めた!喜田は、驚いた表情で見詰める。


「た、助けてくれるのか?」

「勘違いすんな!俺はアンタ(喜田)が嫌いだ!

 だけど、ムカ付くから死んでも良いとは思っていない!

 それに、アンタ以上に、このリリスが許せないんでね!

 アンタには、生きて罪を償って・・・」


 ザムシードが喋っている途中にもかかわらず、喜田は逃走をする。高級車に乗り込んで、サッサと現場を離れてしまった。


「・・・あっ、おいっ!」

「CEOは俺に任せろ!」

「ああ・・・頼んだ!」

「君のバイクを借りるぞ。」

「ああ・・・うん・・・貸しても良いけど、壊すなよ。」


 リリスと刃を交えているザムシードを尻目に、ガルダがマシンOBOROに乗って、喜田の運転する高級車を追う。助けてやったのに無視されたザムシードは、虚しくて仕方が無い。


「アイツ(喜田)・・・マジでクズだな。」

「相変わらずお人好しね、燕真君。」


 しかも、喜田を狩ろうとしていたリリムに同情をされる有り様だ。


「よ、余計なお世話だ。」


 リリスの目的は、ザムシードとの戦闘ではない。スペクターが鎮圧され、「ついで」扱いで口を封じようとした喜田に去られた現状で、これ以上、争う理由は無い。


「今回の失敗は、スペクターが安定する前に、

 部外者(ザムシード&ガルダ)に入り込まれてしまった所為。

 責任は、満足に足止めをできなかったアトラス君とカリナさんね。」


 リリスはデスサイズを引いて数歩後退。ザムシードは警戒を崩さずに妖刀を構える。


「燕真君。私はアナタを気に入っているの。

 あんなクズ(喜田)の部下なんてやめて、私と手を組まない?」

「そのつもりは無い!」

「それは残念ね。でも、心変わりをして大魔会に来るなら、いつでも歓迎するわ。」


 軽やかにジャンプをしてから、漆黒の翼を広げて浮遊するリリス。空から見廻して、駆けてくるギガントとハーピーを発見した。


「与えられた仕事も満足に熟せずに何をしていたのやら?」


 リリスは、ギガント達の方向へ低空で飛び、撤退の合図をしてから、空高く飛び去っていった。


「くそっ・・・逃げやがった。」


 飛ぶことができず、愛車をガルダに貸してしまったので追う術が無い。ザムシードは、去って行くリリスを見詰めたあと、変身を解除して、紅葉に駆け寄る。


「おい、紅葉、大丈夫か?」


 燕真が、紅葉の頬を軽く叩きながら名を呼ぶと、紅葉は気怠そうに目を開いた。


「んん?・・・燕真?助けてくれてアリガトウ。」


 紅葉に息があることは知っていた燕真だが、目を開けて喋ってくれたのを確認して、安堵の溜息をもらす。


「ムチャばかりすんな、アホ!」

「・・・ゴメ~ン。

 アタシが囮になって、燕真に悪い奴を全部やっつけてもらおうと思ったのに、

 失敗しちゃった。」

「オマエ・・・覚えていないのか?」

「んぇ?」


 燕真は、紅葉の無謀な行動には腹を立てているが、紅葉の囮作戦が失敗したとは思っていない。リリス(夜野里夢)には逃げられたが、喜田の悪意を暴いて社会的地位を挫き、部下達(茂面&日部)は倒れ、3体のスペクターは討伐された。紅葉の思惑は、7割以上の成功をしている。


「燕真が助けに来てくれたクセに、悪い奴等にボッコボコにされてたね。

 そのあと、どうなったの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


 森長可の霊を滅したのは紅葉だ。紅葉が戦闘に参加しなければ、燕真は敗北をしていた可能性が高い。だけど、紅葉は覚えていないらしい。


「まぁ、いいさ。ややこしいことは悩んでも解らん。

 あとで、爺さんに相談して考えよう。

 ・・・さぁ、帰るぞ。」


 燕真は、仰向けの紅葉の手を引っ張って上半身を起こしてやり、あとは自力で立ち上がって歩いてくれる期待して、踵を返して歩き出した・・・が。


「燕真~!オンブっ!」

「はぁ?」

「体がバラバラになったみたいに超ダルいから、歩けないよぉ~。」

「俺だって、戦いで疲れてるし、攻撃喰らいまくって体中が痛いんだぞ!」

「オンブがダメなら、お姫様抱っこでもイイよ。」

「背負った方がマシだ!」


 ガルダにバイクを貸した所為で、移動手段は徒歩のみ。そのうち、返しに戻ってきてくれることを期待して、疲労困憊の燕真が、紅葉を背負ってトボトボと歩く。




-広場手前の公道-


 喜田が運転する高級車が逃げ、ガルダが駆るマシンOBOROが追う!前方からは粉木と有紀が乗るスカイラインと、佑芽が駆るホンダVFR1200Fが迫る!


「どうなっとるんや?」

「後を走るのは狗塚君ガルダね。

 前を走るのは退治屋の社有車かしら?」


 粉木達は、現状を全く把握していない。知っているのは、紅葉が退治屋上層部に連れ去られたことと、高級車の後をガルダの駆るバイクが走っていること。誰が高級車を運転しているのかは解らないが、「擦れ違う」という選択肢は無い。


「粉木さん、止めるわよ!」


 真っ直ぐに続く一般道で、こちらに向かって走る高級車との距離は200m弱。有紀は、粉木の答えを待たずにサイドブレーキを思いっ切り引いた!タイヤに強制ロックが掛かり、スカイラインは尻を振って横滑りをして、道路を塞ぐように停まる!


「無茶すんな・・・有紀ちゃん。」

「咄嗟の判断と言ってほしいわね。」


 愛着のあるスカイラインをバリケードにして追突されたくはないが、これが現状での最善。佑芽は道路脇にバイクを停め、粉木と有紀は車内から退避をする。

 これで、迫ってくる高級車は、この道を通過できない。正面を塞がれた喜田は、粉木の姿を見て、ハンドルを握りながら舌打ちをした。


「ジジイめ・・・それで、俺を追い詰めたつもりか?」


 喜田の乗る車にはワープ機能がある。粉木の車の手前に、ワームホールを発生させて飛び込めば逃げ切れる。ただし、来る時は助手席にいた日部がワープの段取りをしたが、今は自分でやらなければならない。喜田は、『輪』と書かれたメダルを、センターコンソールの脇にある空きスロットにセットする。だが、この一連で、運転よりもワープ準備に意識を集中させた為、走行速度が減速をした。


「チャンスだ!」


 アクセルを全開にして走っていたマシンOBOROと、高級車の距離が詰まる!ガルダは、タイミングを合わせてウィリー走行で、前輪を高級車のトランクに乗せ、そのままの勢いでルーフまで乗り上げた!

一方、高級車に輪入道が車に取り憑いて、ボンネットに入道フェイスが出現!だが、妖気弾を吐き出して、正面にワームホールを吐き出した直後に、ガルダは、妖槍ハヤカセの穂先をボンネットに突き立てた!妖槍の柄が伸びて、エンジンルームを突き破り、アスファルト舗装に突き刺さる!


「なにぃぃっっっっ!!!?」


 衝撃でエアバッグが開いて、喜田の視界を塞ぐ!駆動系を破壊されて走行能力を失い、槍によって地面と繋がった高級車は、ワームホールに飛び込む直前で強制停車!時間の経過により、ワームホールが消滅をする!


「雅仁先生が攻撃したってことは車に乗っていたのは敵?」

「紅葉を連れ去った連中でしょうね。」

「どいつもこいつも無茶しおって。」


 粉木&有紀&佑芽が駆け寄ってきた。


「悪あがきもここまでだ!」


 エアバッグとシートに挟まって動けなくなった喜田を、ガルダが車内から引き摺り出す。喜田はガルダに腕を拘束されたまま、佑芽を睨み付けた。


「俺を裏切り、姉の名誉挽回を放棄して、閑職のジジイと仲間ごっこか?

 これで君は、退治屋での出世は、もう望めまい。」


 威嚇をされて戸惑う佑芽を庇って粉木が間に立つ。


「追い詰められて、2廻り以上も年下の娘に八つ当たりかいな?

 オマンも、落ちぶれたのう。」

「ジジイ!俺はまだ終わっていない!

 退治屋の発展の為の尽力したのに、アンタが妨害を・・・」

「その苦し紛れの言い分は、ワシやのうて、本部の役員会で説明せいや。

 ここまで暴挙をしたオマンを、他の幹部達が支持するかどうかは解らんがのう。」

「・・・くそっ!」


 項垂れる喜田御弥司。粉木達だけでなく、喜田本人も「トップから転がり落ちた」「もう、社会的に終わった」と悟っていた。覇気を失った喜田を見て、ガルダは変身を解除して雅仁に戻る。


「狗塚が破壊した社有車は、砂影に連絡をして任せよか。」


 喜田の両手を拘束してスカイラインの後部座席に乗せ、運転席に粉木、助手席に有紀が乗り込む。その気になれば逃走は可能だろうが、逃げたところで権力を失った喜田には何もできないので、警戒をするつもりは無い。


「俺は、佐波木に借りたバイクを返さなければならないので、奥の広場に戻ります。

 紅葉ちゃんは無事なので安心してください。」

「そう、良かった。あとで、キッチリとお説教しなきゃならないわね。」

「ワシ等は、先にミュージアムに戻るで。」


 有紀は、紅葉の救出を聞いて安堵の表情を浮かべる。粉木は、戦地となった広場に向かうつもりだったが、「事件は解決した」と聞いて、一足先に戻る決断をする。「有紀は退治屋の関係者」という説明の準備を何もしていない状況で、紅葉と有紀を会わせない為の配慮だ。


「有紀ちゃん。もう、いつまでも隠してはおけん。

 お嬢に出生の秘密を告げて、運命を受け入れさせる頃合いやで。」

「・・・そうね。」


 紅葉は「ただの人間ではない」と知れば辛い思いをするだろう。だけど、もう隠し通せない。


「え~~~っと・・・私は・・・。」


 佑芽は、雅仁と粉木を交互に眺めたあと、雅仁と一緒に燕真達と合流をする選択をして、バイクで広場へと向かう。


「何故、君までこっちに?」

「何故って言われましても・・・そうしないと・・・。」


 燕真が紅葉を背負って、疲れ果てた表情と重い足取りで歩いていると、前方から、雅仁と佑芽が、バイクで向かってくるのが見えた。


「んぉ~~~い!まさっちっ!ニャンニャン!ここだよぉ~!!」


 背負われている紅葉が大声を張り上げ、元気良く手を振って合図する。


「おいおい、超ダルいんじゃないのか?

 大声を出す元気があるなら、自分で歩け!」

「まだ疲れてるっ!」

「嘘を付くな!」


 燕真は紅葉を降ろそうとするが、紅葉は「ここゎァタシ専用の場所だ!」と言わんばかりに、ギュ~ッとしがみついて、背中から降りる気配無し。


「こんだけ力一杯しがみつく力が有るなら、どう考えても歩けるだろ?」

「歩けないっ!」


 燕真は、ちょっとイラッとしたが、「紅葉が力一杯しがみついた時に背中で感じる胸の感触」という欲望に負けて、「まぁいいや」と考える。

 合流後、雅仁が燕真にホンダNC750Xを明け渡すと、燕真の背中から降りた紅葉が、「ァタシ専用の場所!」と真っ先にタンデムに飛び乗って、「早く乗れ」と燕真に合図をする。


「やっぱ、もう元気じゃん。」


 燕真は、溜息を付きつつ、愛車のシートに跨がる。


「・・・あっ」


 その光景を見た雅仁は、初めて「往路は燕真に乗せてもらったけど、復路は乗せてもらえない」と気付いた。


「紅葉ちゃんが無事なんだから、こうなるって気付かなかったんですか?」

「あ・・・ああ・・・・・うん・・・・・・・・。」

「雅仁先生って、もしかして、若干、天然入ってます?」

「狗は、頭が良いクセに、変なところで抜けてるからな。」

「燕真の後は譲らないからねっ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 佑芽は、雅仁が燕真にバイクを返した時点で、雅仁のアシが無くなることを気付いていた。だから、雅仁に付いてきたのだ。


「私の後・・・乗ります?」

「ああ・・・うん・・・すまない。」


 雅仁は、恥ずかしそうに礼を言って、佑芽の後のタンデムに跨がった。眺めていた燕真と紅葉は、「彼女はVFRに乗って1ヶ月弱だぞ」「そこは、俺が運転するって言えよ」と思うのだが、雅仁は、その類いの気は利かない。



 広場に立つ大木の太枝で、闇霧から実体化をした茨城童子が、去って行く紅葉の背を睨み付ける。


「間違いない。御館様の妖気だ。」


 退治屋と行動を共にする小娘が、酒呑童子の妖気を発していた。全盛期の酒呑童子に比べると微弱だったが、「約4ヶ月前に、復活に失敗をした巨大な闇の怪物」よりも、純度の高い「御館様の妖気」だ。

 主の気配を間違えるはずがない。大嶽丸は、「酒呑童子の魂は別の何か転生をした」と言っていた。


「それが・・・あの小娘?」


 茨城童子は、人間社会に身を隠す為に、伊原木鬼一という名の人間に化けて、優麗高で教壇に立っている。人間に興味の無い茨城は、生徒達の顔など覚えておらず、優麗高に通う紅葉のことも、特に気にすることも無かった。


「あの小娘が御館様なのか?

 それとも、小娘を引き裂けば御館様を取り戻せるのか?」


 人間の姿を借りた妖怪は幾らでも存在するが、人間に転生した妖怪の話など聞いたことが無い。今後の紅葉の動向には注視が必要だ。





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