33-3・使魔は2匹~リリス出現~佑芽の暴走
-夕方-
放課後になり、病院に呼び出された紅葉が、燕真&粉木&砂影と合流する。
「ちぃ~す!なんで病院?
んぉ?なんで、粉木の婆ちゃんがいるの?」
「粉木ちゃうくて砂影や。」
「あれぇ?爺ちゃんと結婚したんぢゃなかったっけ?」
「してへん!」 「しとらんわちゃ!」
「燕真、なんで濡れてんの?この辺、雨降った?」
呼び出された紅葉が合流をするなり、燕真の服が濡れている理由を質問する。
「降ってねーよ!狗の所為だよ!」
「なんでなんで、まだ寒いのに水遊びしたの?」
「まぁ、似たようなもんやな。」
「バカなの!?」
「うるせーなぁ。」
「水を浴びせようと思ったら返り討ちに合った」とは言いにくいので、適当に誤魔化しておく。
「ところでさ、紅葉。里夢さんの使い魔、感じるか?」
「んぇ?ナマコのオバサン?いるよ。」
「何匹?」
「え~~っと・・・2人。あっちのカラスの中と、そっちのカラスの中だね。」
「そっか。2匹な。」
魔力干渉を受けている2羽のカラスを指さす紅葉。
「朝は学校にもいたけど、途中でいなくなっちゃった。」
「何時頃おれへんようになってん?」
「え~っと、2限の時だから、10時から11時の間くらい。」
YOUKAIミュージアムで戦闘が行われていた時間帯だ。里夢が使い魔を維持する余裕が無くなったということだろうか?
「よし、YOUKAIミュージアムに戻ろう。」
「んぇっ?もう、お店行くの?ァタシ、なんで病院に呼ばれたの?
スゲー遠回りぢゃん!」
「寄り道にはなったけど、それほど遠回りにはなってねーよ。」
「バイクの後ろに乗せてって!」
「オマエの自転車はどうすんだよ?」
「爺ちゃんが乗ってけばイイぢゃん。」
「ワシの車はどうすんねん?」
「置いてけばイイぢゃん。」
「オマエはバカなのか?」 「オマンはアホなんか!」
紅葉を呼び出した理由は、「現時点で何匹の使い魔がいて、誰が監視対象か」を確かめる為。帰路で紅葉に確認をしたら、「1匹が付いてきている」らしい。裏を返せば、残る1匹は病院に残っている。つまり、退治屋文架支部は、いつも通りに監視されており、それとは別で根古佑芽も監視対象になっている。
「あれ?そーいえば、まさっちゎ?お休み?」
「チョット嫌味言ったら、イジケてどっかに行った。」
「いつもイヂケてるぢゃん。」
「その評価は狗が可哀想だ。」
YOUKAIミュージアムに帰り、店を開けて、燕真と紅葉はいつも通りに営業をして、粉木と砂影は事務室でに隠る。
紅葉に再確認をしたら、離れた電線に止まっているカラス以外からは、魔力を感じないようだ。動きは里夢に筒抜けだが、会話は聞かれずに済む。
-遠目に病院が見える喫茶店-
雅仁がコーヒーを飲みながら待機をしていたら、テーブルの上に置かれていたスマホがLINEの着信音を鳴らす。確認をしたら、粉木から、「使い魔 こちらに1 病院に1」とメッセージが入っていた。
「やはり、彼女にも監視が付いているか。」
雅仁は、病院で感じていた監視のプレッシャーを、今は感じない。
-夜・文架総合病院-
個室の出入口には、【根古佑芽】のプレートが表示されており、ベッドでは患者が寝息を立てている。
消灯後の暗い室内に、翼を広げて大鎌を構えた影が立った。
「素直で、それなりに使いやすい駒だったから、手放すのは惜しいんだけど・・・」
マスクドウォーリア・リリスが複眼を輝かせ、ベッドで眠る患者を見詰めながら、『Lc』と書かれたメダルを抜き取ってデスサイズ・キルキスのグリップにある窪みに装填する。
文架の退治屋に張り付いている使い魔から、「彼等がYOUKAIミュージアムから動いていない」という情報は得ている。根古佑芽の付き添いは誰もいない。
「全ての罪を被ってもらうつもりだから、余計なことを喋られると困るのよね。」
マスクの下で冷笑を浮かべ、振り上げたデスサイズを振り降ろす!しかし、標的が突然起き上がり、毛布が捲れ上がってリリスに被さった!
「彼女には別の病室に移ってもらった!
君が接触をして来るのが解りきっていたからな!」
リリスは反射的に毛布を切断!すると今度は、毛布の後から槍の穂先が伸びてきた!リリスはデスサイズの柄で弾きながら数歩後退をする!
「・・・アナタは。」
毛布が落ちて、開けた視界の先では、妖槍を構えたガルダが立っていた!
「ゴチャゴチャと苦しい言い訳で誤魔化そうとしていたようだが、
ようやく、悪女の本性を見せたな!」
「バカな・・・。退治屋は店にいるはず・・・。」
「粉木さんと、砂影さんと、佐波木は・・・な。
粉木さん達のことは警戒をしたのだろうが、
俺が別行動をした目的までは考えなかったようだな。」
「文架支部の連中から離れる為に、・・・わざと喧嘩をするフリを?」
雅仁達は、「里夢への疑惑」を前提にしていた。だから、食堂で燕真が「分散したら誰に使い魔が付くか?」と意味深な質問をした時点で、雅仁&粉木は作戦に気付いて受け入れ、里夢が尻尾を出しやすい隙を画策したのだ。
「そう言うことさ。ワザワザ、使い魔に見えるように派手な喧嘩を・・・な。」
燕真の言い掛かりで雅仁が離れる演技をして、且つ、正確に感知できる紅葉を呼び、誰に使い魔が付き、誰がフリーになるかを確かめた。里夢は、文架支部が一枚岩ではないと錯覚して、仲違いをした雅仁を眼中には入れず、粉木達が佑芽を無防備にしたので、アサシンの仕事をするチャンスと判断して、罠に嵌まったのである。
「隙を見せてやれば、必ず動くと思っていた。」
病室のカーテンは閉められているので、室内で何をしても外のカラスからは見えない。
「小賢しい君が、彼女(佑芽)を、このまま放置するとは考えられないからな。」
粉木と砂影は、燕真と雅仁の仲違いが、あまりにも急で、しかも雑すぎたので、「演技と見抜かれるのではないか?」と心配したが、使い魔経由では、ワザとらしい雰囲気までは伝わらなかった。
ちなみに、燕真の予定では「燕真が雅仁に水を浴びせて、怒った雅仁が立ち去る」だったのに、行動を読まれて自分の水を封じられてカウンターの水を喰らい、最後だけはガチで怒っていた。
「話してもらうぞ!嘘で塗り固めた言葉ではなく、真の目的をな!」
リリスは「狭い病室内では、巨大鎌をを振るえない」と判断して、窓を抜けて屋外へ飛び出した!ガルダは、気勢を上げて妖気を発した後、リリスを追って屋外へと飛び出す!
今の妖気放出でセンサーが反応して、YOUKAIミュージアムで待機中の燕真達も、手はず通りに出動するだろう。
「はぁっ!!」
突進をして妖槍の突きを放つガルダ!リリスはデスサイズで防御をするが、ガルダは素早く妖槍を回転させて、石突きをリリスに叩き付けた!
リリスはデスサイズを振るうが、ガルダは素早く退いて回避しつつ、デスサイズの柄に妖槍の柄を当てて弾き、一気合いを発して妖槍の穂先の伸ばし、リリスに突きを入れる!
「くっ!」
リリスは数歩下がって間合いを取り、デスサイズのグリップから『Lc』メダルを外して、『Kr』メダルを装填!刃が深藍色に変化をする!
「・・・大鎌の雰囲気が変わった。」
武器にメダルを装填して攻撃力を上げるのは妖幻システムと同じ。ガルダは、初見殺しを警戒して構える。
「はぁっ!」
気勢を発して突進をするリリス!ガルダは、妖槍を伸ばし、横薙ぎに振り回して牽制をするが、リリスはジャンプで回避をしながら、まだ距離が開いているにもかかわらず、デスサイズを振りかぶった!
「真空波かっ!?」
リリスの攻撃を予想して、後退で回避をするガルダ!しかし、デスサイズの刃から発せられた真空波は1つではなかった!奥義・アーキテウシス発動!クラーケンの力を得たデスサイズ・キルキスから、一振りで十の真空波が発生して、ガルダを襲う!
ガルダは、6発目までは回避と防御で凌いだが、残り4発が着弾して、プロテクターから火花を散らせながら弾き飛ばされる!次の真空波を放つ為に、再びデスサイズを振り上げるリリス!倒れたガルダでは、回避は不可能だ!
「だがっ!反撃の術はある!!」
ガルダは、妖槍を両手で強く握り、石突きで地面を突き、穂先をリリス側に向けて気勢を発した!妖槍が伸びて、ガルダが握っている側がリリスに向かって伸び、ガルダを押し上げる!
「なにっ!?」
デスサイズを振り下ろす直前のリリスに、妖槍の伸びを推進力にしたガルダの飛び蹴りが炸裂!弾き飛ばされて地面を転がるリリス!ガルダは、着地と同時に、妖槍の穂先をリリスの喉元に突き付ける!
「・・・くっ!」
「アサシンの名に相応しく、得意なのは小賢しい暗躍だけ。
真っ向勝負は苦手らしいな!
抵抗をやめて武装解除をしろ!さもなくば、これで終わりだ!」
「ま、待って!私は、アナタ達の敵ではないわ!
佑芽さんが、アナタ達を利用して、私を裏切ったから始末をしようとしたのよ!」
「仮に、それが事実だとしても、暗殺を見過ごすつもりは無い!」
「私達が争う必要も無いはずよ!」
「それは、君を拘束してから、ゆっくりと糾弾するさ!」
「そう・・・信じてもらえないの?穏やかに済ませたかったのに残念ね。
佑芽さん!ソイツを取り押さえなさいっ!!」
リリスが命令を発した直後、病室で安静にしていたはずの根古佑芽がガルダにしがみついて、ガルダを抑え付けようとする。その眼は、光沢無く濁っている。
「なにっ!?離せっ!正気か!?」
動揺をするガルダ。変身をして仕掛けてくるなら容赦無く叩くが、重傷を負った女性が生身のまま妨害をしてくるとは思わなかった。
「アナタは‘彼女には別の病室に移した’と丁寧に教えてくれた。
私が、病院内の何処かにいる佑芽さんを呼び出して、此処に来るまでの間、
真っ向勝負のフリをして、時間稼ぎをしていることに気付かなかったのかしら?」
「貴様!一体どうやって!?」
リリスが佑芽を呼び出す素振りなど無かった。佑芽のスマホの電源は切ってあるし、大声で呼ぶ程度で、佑芽のいた病室に届くわけが無い。
「魔力で呼び寄せたのか?」
「ふふふ・・・バカ正直な真っ向勝負は得意かもしれないけど、
搦め手からの根回しは苦手なのね。」
力任せに振り解くのは簡単だが、手当をしたばかり腹の傷が開いてしまう可能性が高い。ガルダが迷っている隙に、リリスはデスサイズを振り上げて、容赦無く振り下ろした!佑芽にしがみつかれた状態で喰らったら、ガルダは大ダメージで済むかもしれないが、佑芽は無数に切断されてしまう!
「くそっ!」
リリスのデスサイズに背を向け、佑芽を抱きしめて庇う!直後に一振りで十の真空波がガルダに着弾!
悲鳴を上げ、脱力して地面に両膝を落とすガルダ!無傷で済んだ佑芽は、ガルダの腕の中から脱して、ガルダを抑え付けようとする!
「き、君自身が斬り捨てられようとしているんだぞ。解っているのか?」
佑芽は、自分自身が殺されかけたことなど気にする様子もなく、ガルダの言葉に聞く耳を持たない。
「・・・そういうことか。」
ガルダは理解をした。佑芽は魔法の類いで正気を失い、リリスに操られている。だから、言葉や文字による指示が無くても、リリスの念に命令されて、ガルダの妨害をする為に此処に来たのだ。
「そう考えると、昼間の急激な暴走も説明が付く。」
だが気付くのが遅かった。大ダメージで満足に動けず、佑芽は相変わらず、ガルダにしがみついてガルダの妨害をしている。佑芽を庇いながら、次の一撃を凌ぐ余力は無い。
「イケメンの惨殺は、あまり趣味じゃないの。美しく死んでくれた方が素敵よね。」
デスサイズのグリップのメダルを、『Kr』から『Lc』に入れ替えるリリス。刃がボンヤリと揺らめく。
「ふふふっ、アナタ達の魂・・・纏めて私のコレクションに加えてあげる。」
振り上げたデスサイズを、ガルダ&佑芽に向かって振り下ろした!ガルダは、佑芽にしがみつかれたまま妖槍を翳して防御をするが、物理を無視するデスサイズの刃が妖槍を擦り抜け、ガルダと佑芽を襲う!
「なにっ!?」
ガルダを抑え付けていた佑芽の体が闇に包まれ、佑芽を支配して、別の女性に変化をする。
〈狗塚君っ!!〉
女性に突き飛ばされて尻餅をつくガルダ。ガルダの耳には佑芽とは別の声が聞こえ、ガルダの眼には自分と同世代くらいの見覚えのある女性に見えた。
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