31-3・麻由の祖父~未練喪失~平和を託す
-50年前-
悪の結社との最終決戦で、アポロ(本条尊)は人間の限界を超えた力を発動させ、悪の首領の討伐と引き替えに、その命を使い果たした。
粉木が、倒れた本条を揺さぶりながら懸命に呼びかける。
「粉木・・・首領は?」
「安心せい、オマンが倒した。」
「そうか・・・・」
「胸を張れ。オマンは世界を救った英雄や。」
「・・・あぁ」
「しっかりしいや!英雄は死んだらあかんのや!美琴が待ってるで!」
粉木は瀕死の尊を抱きかかえて神殿を脱出すると、外で待機をしていた葛城昭兵衛が寄って来た。
「良かった。・・・おやっさんも無事だったんだな。」
「本条は、サマナーの力を暴走させたんや。首領を倒す為に。」
「首領は滅んだ・・・お、俺達は・・・平和を勝ち取ったんだ。
こ、これで・・・今日からは・・・ゆっくりの眠れる。」
昭兵衛の顔を見た時点で、本条は安堵して緊張の糸は切れていた。目を閉じて垂れ、2度と眼を開くことは無かった。
「こ、これはっ!?」
本条の体が灰になって崩れ、風に流されて舞い散っていく。これが、人間の限界を遥かに超える力を使ってしまった代償。本条の何もかもが朽ちていく。粉木と昭兵衛は、骨1つ残らない英雄の終わり方を眺めることしかできなかった。黒焦げになったサマナーホルダと、粉木と昭兵衛が握り締めた灰だけを残して、本条はこの世から消え去った。
悪の結社は壊滅をしたが、世界が平和になったわけではない。人間社会を害する妖怪がいて、奴等と戦う陰陽師が存在している。本条の死の数日後、粉木は、本条が命を賭して残してくれた平和を守り続ける為に、陰陽師と合流する選択をした。
だが、粉木の「戦いに身を置き続ける」という選択は、仲間を失って戦いに嫌気が差した葛城昭兵衛には理解をされなかった。昭兵衛は粉木に「もう、戦いで仲間を失いたくない」「サマナーホルダを捨てろ」と説得をしたが、粉木は頑なに受け入れず、最終的には絶縁をされた。
だから、その先の話は、昭兵衛のところに残った砂影滋子からの報告でしか知らない。
本条の死から半年が経過をした頃、長期休みになって県外の短大から帰省をした本条の恋人・須郷美琴が、本条の死を知らずに、葛城昭兵衛を尋ねてきた。
彼女は、本条と「一生寄り添う」約束をしており、本条の子供を腹に宿していた。
昭兵衛は「話すことが残酷」と承知の上で、知らずに待ち続ける残酷よりはマシだと判断して、本条の最後を説明した。そして、泣き崩れる美琴と、本条の落とし胤を引き取って、自分の子として育てる覚悟をした。それが、亡き友人の為に昭兵衛が選んだ最後の仕事だった。
親子ほど歳の離れた葛城夫妻だったが、夫は妻を大切の扱い、妻は夫を慕った。葛城美琴は決して長寿ではなかったが、夫の昭兵衛に見取られ「支えてもらって幸せだった」と笑顔で天に旅立ったらしい。
-今に至る-
「オヤッサンが・・・美琴と俺の子を?」
「せや。オマンの未練は、全て、オヤッサンが解消さした。
やさかい、この世に迷い出ても、オマンがやるべき事は、なんもあれへん。
オマンがやるべき事は、あの世で、オヤッサンに礼を言うことくらいや。」
アデスの作戦は、「美琴を守る」という思念で凝り固まって聞く耳を持たなかったアポロを、浄化の結界と攻撃で和らげ、「依り代が美琴ではない」と「美琴のその後」を伝えることだった。
その後に美琴が、見ず知らずの男の物になったなら、アポロは後悔をしたかもしれない。美琴が不幸になっていたら、アポロは憤っただろう。だが、「信頼できる恩人によって、恋人が守られた」と知ったアポロの念は未練を失った。
実体を維持できなくなり、全身が激しく粒子化をして蒸発していくアポロ。アデスは、「あとは、過去の友人を見送るだけ」と思っていた。
「いや・・・まだだ!まだ終われん!・・・ハァァッ!!」
だが、アポロは気勢を発して、気合いで消滅現象を止める!
「確かに、美琴を守る必要は無くなった!
だが、俺が守り抜いた平和を、今の連中に託せるか確認したい!
安心して任せられる者に託すまでは・・・消えるわけにはいかん!!
粉木よ、あの若者は貴様のツレか?」
「燕真はワシの弟子や。それがどうした?」
「・・・あの若者のこと、少々気に入ってな。」
アポロは知っていた。ザムシードが、依り代が傷付くことを避けて、念のみを切る剣を使い、銃の破壊力を高める機能を使わず、且つ、「性能のおかげで勝った」と言われることを嫌って、得意な戦法ではなくあえてアポロと同じ土俵で戦っていたことを。
「平和を託す・・・か?
ちいと過大評価の気もするが、
ヤツ(ザムシード)を見出した滋子が聞いたら喜びそうやの。」
「確かめさせてくれ!」
「何をするつもりや?」
「決まっているだろう。がさつな、昭和の戦後生まれらしく拳で語り合う!」
「解っているやろうが、ヤツは未熟もんやで。」
「だが・・・彼は強い。」
「ああ・・・燕真は強い。」
向き直ってザムシードを睨み付け、ヴァルカンのカードを翳すアポロ!全身が炎に包まれ、アポロVにフォームチェンジをする!
「青年!亡霊の成仏際の願い、聞いてもらうぞ!」
「燕真!状況が変わった!ご指名や!
コイツ(アポロ)の気が済むように相手をしてやれ!」
「・・・はぁ?」
空中が歪んでバッタ型モンスター=ホッパーサイクロンが出現!一廻り大きいヴァルカンサイクロンにパワーアップをして、アポロVの脇に着地した後、カウルがバッタの頭部を模したバイクに変形!アポロVが跨がり、アクセルを捻ってエンジンを空吹かしさせて、ザムシードを威嚇する!
「なんか良く解んねーけど・・・」
ザムシードは、「アデスがアポロに勝利をした」と思っていたのだが、まだ戦いは終わっていないらしい。
「結局、俺が戦うってことか?」
マシンOBOROを呼び寄せて跨がった!ザムシードとアポロVが河川敷で向かい合う!
「燕真青年!俺が取り憑いた麻由を、俺から奪い取り、守り抜いて見ろ!」
「ハナっからそのつもりだよ!」
クラッチを繋いでヴァルカンサイクロンをロケットスタートさせるアポロV!
ザムシードは、Yウォッチから、属性メダル『炎』『斬』『閃』の3枚を引き抜いて握り締めてから、マシンOBOROをスタートさせた!どのメダルをバイクのハンドルにあるスロットに装填するかは、アポロの出方を見てから決めるつもりだ!
「フン!後手に回って倒せるほど、俺は脆弱では無いぞ!」
「優柔不断で悪かったな!・・・だけどっ!」
アポロVの奥義・ホッパー・バーニングアタック発動!バッタ顔のカウルから火炎弾を吐き出しながら突進をしてくる!
炎には『炎』メダルで対応するべきか、それとも、『斬』メダルで炎ごと斬るか、『閃』メダルで炎を無視して貫くか?ザムシードは、3枚のメダルを握った拳をチラ見して一瞬迷った後に腹を括る!
「OBORO!頼むぞ!」
マシンOBOROを駆るザムシードが、飛んで来た火炎弾に向かって突っ込んだ!OBOROが炎に開けたワームホールを通過して、アポロVが駆るヴァルカンサイクロンの斜め前方に出現!
「なにっ!?ワープだと!?」
「俺の目的はアンタを倒すことじゃない!」
ザムシードの目的は、できる限り無傷で依り代を取り戻すこと。つまり、3枚の属性メダルの、どれを使う必要も無い!
「アンタをバイクから引きずり降ろして、このバイク勝負に勝てば良いだけだ!」
ザムシードのラリアットがアポロVの胸に炸裂!腕でアポロVを掴んで、勢い任せに投げ飛ばした!
ちなみに、ラリアット=クローズラインの語源は、道に洗濯物を干す縄などを張って、オートバイで通過する人間の首に引っ掛ける罠のこと。ある意味、腕を障害物にしてアポロをバイクから落としたザムシードの、「ラリアット」使用方法は正しい。
「ぐははぁっっっっ!!!」
悲鳴を上げ、バイク後方に転がり落ちるアポロVと、搭乗者を失ってしばらく自走した後に転倒するヴァルカンサイクロン!ザムシードは、タイヤを横滑りさせて、マシンOBOROを急停車する!
「中身は女の子なのに、ラリアットで叩き落とすってのも心が痛むが、
飛び道具で攻撃するよりはマシなはず。
それに、アンタ(アポロ)なら、外側だけで何とか耐えられるだろ?」
大の字に倒れたアポロVは、変身が強制解除をされて本条尊の霊体に戻り、全身からは、粒子の蒸発化現象が激しく発生している。生前の本条は、バイクレースで世界チャンプになることを夢見ていた。バイクスキルには絶対的な自信があるからこそ、バイク勝負を挑んだ。
「驚いたな。・・・この俺が、バイクから落とされるなんて・・・。
甚大なダメージを受けるよりも残酷だ。」
バイクから叩き落とされるという終焉は、最も想定をしていなかった。ザムシードは、意図せずに最も効果的なダメージを与えたのだ。
「悪いけど、俺の目的は、アンタの夢を叶えてやることじゃない。
でも、思いっ切りやらなきゃ、ジジイの盟友に失礼だと思ったんだ。」
「フン・・・尤もな話だ。俺の見立ては過大評価ではなさそうだな。」
「過大評価?何の話だ?」
「オマエは、惚れた女はいるか?」
「はぁ?急に何の話だよ!?」
「オマエは俺のようにはならず、惚れた女を死ぬ気で守り抜けって話だ。」
本条尊は、最後の力を振り絞って上半身を起こし、アデスに視線を向ける。
「美琴の忘れ形見を・・・麻由を頼んだぞ、粉木。」
「ああ・・・任せとき。」
粉木の言葉を聞いた本条の霊体は、穏やかな笑顔を見せて消滅。その場には、仰向けに倒れた麻由と、黒焦げのサマナーホルダが残った。
変身を解除した燕真は、麻由に寄ってしゃがみ、麻由の方を軽く叩いて、意識の有無を確認する。少女の体中を弄くり廻すわけにはいかないので怪我の有無は解らないが、とりあえず息はありそうだ。
「燕真っ!セートカイチョーさんは!?」
紅葉が駆け寄ってきた。
「多分、大丈夫だ。」
「爺ちゃんに戦いの大変なところ押し付けて、
ちゃっかり最後の美味しいところだけ、燕真が持ってったんだね。」
「結果的にそうなったのは認めるけど、俺がセコいみたいな言い方はやめろ!」
粉木が歩み寄ってきて、黒焦げのサマナーホルダを拾い上げた。もう、ホルダの中に残留思念は残っていない。
「本条は天に還った。ご苦労やったな、燕真。」
「紅葉にダメ出しされた通り、苦労をしたのは爺さんだ。
俺は大して頑張ってねーよ。」
麻由の介抱は紅葉に、本条の遺品は粉木に任せ、燕真は空を見上げる。「本条は天に還った」と言われても、天のどの辺に還ったのか、燕真には想像ができない。ぶっちゃけ、「消えただけだろ」としか思っていない。だけど、感傷に浸って、何気なく空に語りかけた。
「アンタに言われなくても、ちゃんと守るつもりだ。」
視線を下げ、紅葉を見つめる燕真。「惚れた女」が誰なのかという自覚はある。もちろん、本条尊のような悲恋で終わらせるつもりも、死後に信頼できる仲間に託すつもりも無い。
-文架大橋-
夜野里夢と根古佑芽が一連の成り行きを観察していた。
「倒されちゃいましたね。私の‘念の活性’が足りなかったんでしょうか?」
「フフッ・・・何を言ってるの?実験は成功よ。」
異獣サマナーアポロを復活させた目的は、文架支部の退治屋を叩き潰す為ではなく、死者復活のプロジェクトを前進させること。
「相性の良い生贄(依り代)があれば、スペクターの戦闘能力は強化される。
これは、今回の実験では想定していなかった素晴らしい情報よ。」
「そ、そうなんですか?」
「貴女の優秀さは、キチンと喜田CEOに報告させてもらうわね。」
「・・・は、はい。宜しくお願いします。」
佑芽は強ばった微笑みを浮かべる。会社の役に立って評価をされるのは嬉しいが、死者復活の外法や、自分が手掛け死者が、同僚(文架の退治屋)と戦うのは、仲間やモラルを裏切っているように思えて、あまり良い気分ではない。
「さぁ、次の実験計画を立案したら呼ぶわね。
それまでは、自由にしていて良いわよ。」
踵を返して立ち去る里夢。佑芽は、しばらく遠目に河川敷の燕真達を眺めた後、謝罪を込めて頭を下げたが、言うまでも無く、離れた場所からの謝罪など、無意味な戦いに巻き込まれた彼等に届くわけがない。




