31-1・麻由融合~肉弾のプロ~ザムシードの意地
粉木は、妖気センサーの履歴を確認しながら、スカイラインで西側堤防の民地側路地を走っていた。妖気は消えたが、嫌な予感は消えていない。
「んんっ?なんやっ!?」
堤防斜面からブレザー姿の少女が駆け降りて道路に飛び出してきたので、慌てて急ブレーキを踏んでスカイラインを止めた。
「こらっ!急に飛び出したら危な・・・・・・・」
窓を開けて叱り付けようとした粉木だったが、ロングヘアの少女を見て声を失う。
「申し訳ありません。チョット、急いでいたので・・・。」
「美琴・・・ちゃん?」
「・・・え?」
「スマン。人違いや。50年前の少女のわけがあれへんよな。」
少女の顔は、あきらかに、盟友・本条尊と、彼の恋人のDNAを引き継いでいる。粉木は、車から降りて、改めて、麻由の顔を眺めた。
「オマンが・・・葛城麻由ちゃん・・・やな?」
「ど、どうして私の名を?」
麻由は不思議そうに首を傾げて粉木を見詰める。
「優麗高に通ってる友人に、オマンの噂を聞いとってな。」
粉木は、麻由が向かおうとしていた方向から嫌な気配を感じる。
「この先の喧騒に興味があるんやろうけど、子供は踏み込んだらあかん領域や。
大人に任せて、オマンは、事態が収まるまで此処で待機をしとれ。」
「あの・・・アナタは?」
「オマンの爺さん、葛城昭兵衛の古い友人や。」
聞き分けてくれた麻由を残し、粉木は車に乗って嫌な気配がする西側に向かう。 しばらく生活道を進むと、正面から猛スピードで接近してくる‘嫌な気配’を感知。黒焦げのサマナーホルダが飛び、粉木の乗るスカイラインの真横を通過する。
「なんやっ!?今のは、まさか本条の!?」
窓から顔を出して振り返り、飛び去った‘嫌な気配’をしばらく眺めた後、視線を正面に戻したら、今度はマシンOBOROを駆るザムシードが接近してきて、真横を通過した。いつもの粉木なら呼び止めるのだが、飛ぶサマナーホルダに気を取られすぎて声を掛けそびれた。
「今度はなんや?」
ザムシードから大幅に遅れて、ツインテールを振り乱しながら突っ走ってくる紅葉を発見。車から降りて状況確認をする為に紅葉を呼び止める。
「何があったんや、お嬢?」
「燕真に置いてかれたのっ!」
「そら説明されんでも、見たら解る。何と交戦中なのかて聞いてるんや。」
「赤いバッタ人間!多分、爺ちゃんの友達っ!」
「なんやて?」
にわかには信じられないが、死者の復活はブロンドの前例がある。「黒焦げのサマナーホルダ」「赤いバッタ人間」「友達」から導き出される人物を、粉木は1人しか思い付かない。
「追うねん!隣に乗らんかい!」
「ぅんっ!」
助手席に紅葉を乗せ、スカイラインをUターンをして飛ぶサマナーホルダとザムシードを追う。黒焦げのサマナーホルダが向かった先には‘彼の血を引いた孫’がいる。彼女を単身で残してしまった判断ミスを、粉木はハッキリと感じていた。
-河川敷-
黒焦げのサマナーホルダは、麻由の目の前で「手に取れ」と言わんばかりに浮遊をしている。麻由は、理解を超えた現状に恐怖を感じているが、妖怪から自分を守ってくれたサマナーホルダからは、敵意ではなく親しみの気配を感じており、 恐る恐るサマナーホルダに触れる。
〈美琴は・・・〉
「また、ミコト?一体・・・?」
サマナーホルダが纏っていた念と魔力が流れ込んで、青い霧で麻由の全身を覆い、一廻り大きくなって別の姿へと変化をする。
〈俺が・・・守る。〉
「きゃぁぁっっっ!!」
〈君は、俺の中で永遠に守る。〉
「くそっ!なんてこった!!」
時既に遅し!ザムシードが到着した時には、人型の青霧が麻由の体を乗っ取り、異獣サマナーアポロへと姿を変えた直後だった!
「アイツ、女の子を乗っ取りやがった。
だけど、戦う手段はある!・・・オーン!!」
妖刀ホエマルを握って呪文を唱えると、その切っ先が鈍く揺らぐ!これで、物理的な切断をせずに憑いている邪気のみに致命傷を与えられる!
「邪気祓いは専門職だ!」
突進をして妖刀を振り下ろすザムシード!
「それがどうした!?」
アポロは、半歩退いて構え、振り下ろされる妖刀の軌道を読んで、手刀を平地(刀の横)に当てて弾いた!ザムシードは刃を返して振り切るが、再び手刀で弾かれる!
「なにっ?」
「俺は、守るべき者を得て、本来の力を取り戻した!
先程までの俺と同じと思うなよ!」
ザムシードは幾度も妖刀を振るうが、全て手刀を当てられて捌かれてしまう!
「如何に研ぎ澄まされた名刀でも、当たらなければどうと言うことはない!」
「くそっ!」
丸腰の相手に剣が全く届かないなんて初めての経験だ!アポロの徒手空拳スキルが高すぎる!まるで、剣術ド素人の子供が、大人の玄人に稽古を付けてもらっているような錯覚に陥り、苛立ちながら妖刀を大振りする!
「武器を携えてその程度か!脆弱!!」
刀身を白羽取りで抑え込むアポロ!ザムシードは妖刀を左手で維持したまま、腰に帯刀してある裁笏ヤマ(木製ナイフ)を右手で握って振るった!しかし、アポロは慌てることなく、ザムシードの右手首に膝打ちを当てて弾き、そのまま足を伸ばしてザムシードの腹に蹴りを叩き込んだ!
「・・・くっ!マジで強くなりやがった!」
ザムシードは蹴られた勢いを利用して大きく後退!『鵺』メダルをYウォッチに装填して弓銃カサガケを装備!一方のアポロは、気勢を発して念の障壁を発しながら突進をしてきた!ザムシードの放つ光弾は、障壁に阻まれてアポロに届かない!
「ならばっ!」
ザムシードは弓銃の弓身を展開して強弩モードに切り替える!だが、乗っ取られた麻由の顔が脳内に過ぎって、銃口を向ける動作を戸惑った!アポロは、その数秒の隙を見逃さず突進力を加速!
「なにっ!?速いっ!!」
「飛び道具などという‘物の力’に頼るから、己の肉体が疎かになる!」
ザムシードが照準を定めるよりも先に、アポロがザムシードの懐に飛び込み、渾身の拳を叩き込んだ!
「ぐはぁっ!!」
弾き飛ばされて地面を転がるザムシード!素早く立ち上がって体勢を立て直すが、アポロは追い撃ちをかけようとはせず、「余裕」を見せて構えている!
「剣が研ぎ澄まされているのは、貴様の才能ではない!
銃の性能が高いのは、貴様の努力の結晶ではない!
それを実力と勘違いする愚か者に負ける気はしない!」
アポロに指摘をされる前から、ザムシードは自分が性能依存をしていることを承知している。
「さっきのバイク勝負で、性能に頼った俺への嫌味かよ!?
腹立つっ!・・・だったら、今度はオマエの土俵で戦ってやるよ!」
ザムシードは弓銃を放棄して、Yウォッチから『炎』メダルを抜く。属性メダルをセットすれば、拳や蹴りが属性効果を帯びて攻撃力を上げられるのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
だが、ザムシードは『炎』メダルを見詰めた後、Yウォッチのメダルホルダに戻し、片手の拳を、もう一方の手の平に当てて打ち鳴らした。
「どうせ、これも、実力じゃなくて性能って言われんだろ。
だったら、こっちも丸腰で戦ってやる!」
拳を握り締めて突進をするザムシード!勢い良くパンチを繰り出すが、アポロにアッサリと見切られ、掌を当てて上に弾かれ、ガラ空きになったザムシードの腹に拳が叩き込まれる!ザムシードは1歩後退して耐えて蹴りを放った!だが、受け止められて押し戻され、仰向けに転倒!倒されたまま足払いをかけるが、アポロは軽やかに飛び上がって回避!その間に立ち上がったザムシードは再び殴りかかるが、拳を弾かれ、腕を掴まれて一本背負いで地面に叩き付けられた!
「くそっ!」
アポロは追い撃ちをかけようとするが、ザムシードがジタバタと足を振り回して無様に牽制するので、突進を止める!
「フン!見るに耐えられん。サッサと立ち上がれ。」
立ち上がって構えるザムシード。無格好ってことくらい、言われなくても解っている。
「がさつな、昭和の戦後生まれと違って、
奥ゆかしい平成生まれは、喧嘩なんてロクにしたことが無ーんだ!」
元々予想はしていたが、僅か数手の激突で、肉弾戦スキルには雲泥の差があることが確認できた。
「だけど・・・俺にだって意地がある!」
再び突進をするザムシード!構えるアポロに対して、低い姿勢で飛び込み、両足を刈りに行く!しかし、読まれて半歩退かれ、両手で背中を押さえ込まれ、タックルを潰されてしまった!
「至極読みやすい!この程度が、貴様の意地か!?」
「意地は・・・これからだっ!うおぉぉっっ!!」
瞬発的に、足を踏ん張らせて起き上がるザムシード!
「なにっ!?」
プロレス技など知らないが、力業でアポロを担ぎ上げて強引にファイヤーマンズキャリーの体勢になり、歪なデスバレーボムで地面に叩き付ける! ようやく、肉弾戦で鉄壁を誇るアポロに、一撃を喰らわせた!
「ぐはぁっっ!!」
だが、一撃だけで終わらせるつもりは無い!仰向けに倒れたアポロに対してマウントポジションを取り、ダブルスレッジハンマーを叩き込む!
「これが俺の意地だっ!!」
「偶発的に俺を担げる体勢に成っただけだろうに!
この程度で勝ち誇るなど、やはり小僧だなっ!」
ザムシードの背後の空間が歪み、バッタ型モンスター=ホッパーサイクロンが出現!マウントを取っていたザムシードの背中に体当たりをして弾き飛ばず!直ぐさま体勢を直して立ち上がろうとするが、ホッパーサイクロンに再び体当たりをされて地面を転がる!
「くそっ!」
その間に、アポロは立ち上がって体勢を整えてしまった!
「お遊びは此処までだ!」
怒りの念を発してザムシードを睨み付けるアポロ!ザムシードの偶発的な反撃は、アポロの神経を逆撫でしてしまった!




