30-3・生徒会~麻由と老教師~アポロ
-16時頃・一文寺-
麻由のマンションから200m程度離れた場所に、葛城家の菩提寺がある。狭い駐車場に車を駐めた粉木が、買い物袋を持って墓地を訪れていた。葛城家と書かれた墓の前で腰を降ろし、袋から出したロウソクと線香とワンカップの日本酒を供えて合掌礼拝をする。
「オヤッサン・・・麻由っちゅう名の孫娘はオヤッサンの?それとも?」
しばらく葛城家の墓石を眺めたあと、粉木は、直ぐ隣に立っている無名の小さな墓の前に移動して、ロウソクと線香とワンカップを供えた。この無名の墓に、納骨はされていない。本条尊の一握りの灰だけが納められている。
「本条・・・オマンとの50年前の腐れ縁は、まだ続いとるんか?」
盟友・本条尊の亡き後、彼の恋人と腹に宿った子を、恩人・葛城昭兵衛が引き取ったことは、砂影滋子から聞いている。昭兵衛が、親子ほど歳の離れた‘尊の恋人’との間に子孫を残したのかどうかは解らないが、尊の子が「葛城姓」でこの世に生まれたのは事実。そして、尊の孫が紅葉と同い年だったとしても、不思議なことは何も無い。
「んんっ?なんや?」
墓を見詰めながら思い出に浸っていた粉木だったが、漠然とした不安に駆られ、麻由のマンションが建つ方向を眺める。
-優麗高・放課後-
休み時間になる度に、紅葉は麻由の様子を見に行ったが、結局、何も変化を感じられないまま今に至る。
「ん~~~・・・な~んか、スッキリしないなぁ~。」
さすがに、ずっと張り付いているわけにはいかないので、生徒会室に向かう麻由を眺め、今日の観察を終えることにして亜美と一緒に下校をする。
一方、麻由が生徒会室のある3階に上がると、対面側から教頭先生が寄ってきた。
「葛城さん。地治井先生(老教師)に襲われそうになったというのは本当かね?」
「えっ?何処でそのお話を?」
「見た人がいて、学校に連絡があったんだ。教職員の間で噂になっている。
だから、こうして君に確認をしようと思って・・・」
「・・・そ、そうですか。」
麻由は、地治井ではなく、地治井から発せられた煙に襲われたと認識しているが、それが何なのかは解っていない。昨日の一件は怖かったが、地治井には、それなりに世話になって信頼をしており大ごとにはしたくない。何かの間違いと信じ、今日、学校で訪ねるつもりだったが、地治井は欠勤をしていた。
「申し訳ありません。生徒会の打合せがあるので、今はちょっと・・・。」
「なら、打合せが終わったら校長室に来てくれ。」
「打合せが終わったら部活動が・・・。」
「時間は取らせない。だから、必ず来てくれ。」
「わ、わかりました。」
麻由は、教頭に押し切られて同意をする。説明できるほど事態を把握していないが、襲われたことと、地治井に悪い噂が立っているのは事実なのだから、事情聴取を無視をすることはできない。
「では、後ほど校長室にうかがいます。」
「校長先生と一緒に待っているからね。」
教頭が小さく微笑んだ瞬間、麻由には、それが邪悪な笑みで、一瞬だけ教頭の全身から闇が発せられたような気がしたが、それが何なのか解らず「気のせい」と解釈する。昨日の一件があるので、誰かと2人きりになるのは怖いが、他の先生も同席するなら大丈夫だろう。
-校庭-
「・・・んぇ?」
亜美と一緒に帰宅するつもりだった紅葉が、嫌な気配を感じて足を止め、校舎の方を振り返った。
「なんかいるっ!」
「どうしたの、クレハ?」
「ゴメン、アミ!1人で帰って!」
「忘れもの?」
「チガウっ!多分、ヨーカイ!!」
「1人で先走らないで、佐波木さんに連絡するんだよ!」
「ぅんっ!」
紅葉は、亜美に見送られながら出てきたばかりの生徒玄関へと駆け込んでいく。外履きを脱ぎ散らかし、内履きの踵を踏んだまま穿いて、廊下を駆けながらスマホを取り出して、燕真に電話をする。
〈どうした、紅葉?妖怪か!?〉
「ワカンナイっ!」
〈はぁ?〉
「呼ぶかもしれないから、遊びに行かないで待機しててっ!」
〈はぁぁっ!!?〉
紅葉は、一方的に指示をして通話を切り、嫌な気配が発せられていた3階に到着。だが、その場に、嫌な気配は何も無い。
-YOUKAIミュージアム-
「おい、紅葉!呼ぶかもって、一体!?」
カウンターに立っていた燕真は、スマホに向かって詳細を聞こうとしたが、既に通話は切れていた。
「・・・あんにゃろう。」
アシが無い時は迎えに来させるクセして、事件が発生する可能性がある時は「待機しろ」ってのは、どういう了見なんだろうか?無人の事務室(粉木は外出中)に行って、妖気センサーの反応を確認するが履歴は無し。だけど、紅葉が突発的に動く時は、たいてい妖怪事件が発生する予兆だ。
「あのバカ、どこから電話してきたんだ?」
時計を確認すると放課後になったばかりの時間だ。学校絡みと判断した燕真は、土蔵に隠っている雅仁に店番を任せて、優麗高の様子を見に行くことにした。
-優麗高・生徒会室-
生徒会の目安箱(生徒からの投書メール)が来たので役員が集まったのだが、議論をする価値も無いような投書だった。
「生徒総会で、バイク通学を認める意見を・・・かよ?無理だろ。」
「生徒会で決める問題ではありませんね。」
「無記名投書だから、ただの冷やかしじゃね?」
バイク通学は学校の規則であり、生徒が勝手にルール変更をするのは不可能。優麗高に入学した学力があれば、他の学校への編入は可能だろうから、「どうぞ、バイク通学許可の学校に行ってください」としか言い様が無い。
「打合せは終了ですね。
教頭先生に呼ばれているので退席させていただきます。」
「お疲れさん。」
生徒会室から出たら、彷徨いていた紅葉が麻由を見付けて寄ってきた。
「あら、源川さん。この様なところで、何をなさっているのですか?」
「セートカイチョーさ~ん、15分くらい前に、ココでなんかあった?」
15分前だと、麻由と教頭が会話をしたくらいで、騒ぎの類いは何も起きていない。
「いえ、特に何も・・・。」
「そっかぁ~・・・気のせいだったかな?」
紅葉は、気付かないフリをして麻由を見送る。だが、ここ数日の事件が麻由の周りで発生しており、今回も‘嫌な気配’の近くに麻由がいた為、一定の確信を持って尾行をした。
麻由は階段を降りて校長室の前まで来たところで、振り返って背後を確認する。妙な気配に見られている感触があるが気のせいだろうか?周りに誰もいないことを確認してから、ノックと一礼をして校長室に入った。
-校長室-
校長と教頭と学年主任と数学老講師が待っていた。麻由が入室をした途端に彼等の目付きが変わる。
「あ・・・あの・・・こんなに沢山の先生が集まって、何事ですか?」
「とりあえずソファーに座りなさい。」
「昨日の一件で、確認したいことがあってね。」
「・・・はい。」
麻由は違和感を持ちながら、勧められるまソファーに腰を降ろす。
「地治井先生に何をされたのかね?」
「・・・と、特に何も。」
「嘘を付くな。」
「嘘を付く悪い子はオシオキが必要だな。」
「我々も、地治井先生と同じ事をしよう。」
校長から目配せをされた教頭が、校長室を施錠した。
「・・・え?」
驚いた麻由が周囲を見廻す。老教師達は一様に青ざめた顔色をして目が虚ろだ。麻由は、その異様さに戸惑い、ソファーから立ち上がろうとする。しかし、学年主任に立ち塞がられ、数学老講師に老人とは思えない力で抑え付けられてしまう。
「せ、先生っ!なにをっ!?」
校長と教頭と学年主任と数学老講師から闇が発せられ、妖怪・ベトベトさん、妖怪・アカナメ、妖怪・天井サガリ、妖怪・片耳豚が出現!
〈麻由チャン・・・欲シイ〉
〈我々モ同ジ事ヲ シヨウ〉
〈麻由チャン・・・皆デ1ツニ成ロウ〉
〈死ンデ ワシダケノ モノニ ナッテクレ〉
現代では、「先生と生徒の行為」は事件になるが、老教師達が若かった頃は珍しくはなかった。彼等は、その間違った価値観を「古き良き時代」と勘違いして、未だに引き摺っている。
麻由は、祖父から大切に育てられた影響でグランドファザコン気味の面があり、老教師達には全面的な信頼を寄せて接するクセがある。その結果、老教師は「日常的には張り詰めた態度を崩さない麻由が、自分の前では甘えた表情を見せる」「麻由に好かれている」と勘違いをしていた。
2ヶ月前の集団昏睡事件で淫らな邪気が誘発され、時の経過によって彼等に憑いた妖怪が育ったのだ。
-廊下-
「ヤバいっ!」
妖気発生を感知した紅葉が、校長室に踏み込もうとするが、施錠をされている。
「コーチョーセンセー!セートカイチョーさん!開けてっっ!!」
必死に扉を叩く紅葉に、室内の麻由の悲鳴が聞こえる。
-穂登華町・麻由のマンション-
〈助けを求めている・・・行かねば。〉
佑芽によって念を増幅され、里夢によって魔力を宿した黒焦げのサマナーホルダが、窓を突き破って優麗高の方角に飛んでいく。
-校長室-
「や、やめっ・・・」
パニックになり、涙目で抵抗をする麻由。しかし、妖怪化をした老人達によって、ソファーの上で仰向けに抑え付けられてしまう。妖怪達の手が、麻由に伸びてきた。
〈俺がやり残したこと・・・美琴を幸せにすること。
汚い手で美琴に触れるな。〉
声が響いた次の瞬間、窓が割れて、青い光に覆われた黒焦げのサマナーホルダが飛び込んできた!サマナーホルダは、飛び回って妖怪達を蹴散らす!
〈美琴は俺が守る。〉
美琴とは、本条尊の恋人・須郷美琴のこと。サマナーホルダに憑いた念は、麻由に美琴の面影を見て、麻由を美琴と錯覚しているのだ。
黒焦げのサマナーホルダから青霧が放出され、人型を作って麻由を庇うように立ち、サマナーホルダを握り締めて窓ガラスに向けて翳した!
「変身!」
男の声を発し、窓から発せられた乳白色の歪みに覆われ、バッタを模したマスクと真紅の西洋甲冑に身を包んだ騎士に変化をする!
〈邪魔ダ〉 〈麻由チャンヲ渡セ〉
ベトベトさん&アカナメ&天井サガリ&片耳豚が真紅の騎士を囲む!真紅の騎士は、油断無く構えて4体の妖怪を見廻した!
パワー系の片耳豚が突進!真紅の騎士が受け流すと、反対側からアカナメが襲ってきた!更に、天井に張り付いた天井サガリが真紅の騎士を掴み、足裏だけで動き回るベトベトさんが壁走りで助走を付けて、真紅の騎士に蹴りを叩き込んだ!
「・・・くっ!」
狭い校長室では存分に戦えないと判断した真紅の騎士は、飛び掛かってきたアカナメを窓側に蹴飛ばした!アカナメは窓を突き破って外に放り出され、続けて、麻由を抱きかかえた真紅の騎士が割れた窓から飛び出す!軽やかに着地をして見上げると、ベトベトさん&天井サガリ&片耳豚が窓から飛び出して降下をしてきたので、タイミングを図って、着地直前の片耳豚を蹴り飛ばした!




