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29-4・サトリの待伏せ~魂脱の嘶き

-川西の文架警察署-


 地治井じじい先生が、ようやく聴取から解放された。彼は、優麗高の近くで教え子(麻由)を車に乗せて家まで送ろうとしたところまでは覚えているが、その後の記憶が無い。気が付いたら、彼の乗った車は駅北の空き地にあって、車の屋根には風穴が空いていた。

 警察は、「老教師が、意識を喪失させたまま運転をして事故を起こした」と予想しており、周辺の防犯カメラを取り寄せている。少なからず事情を知っているであろう同乗者を突き止めようとしたが、彼女に淫らな感情を持っていた地治井は、「生徒の個人情報は話せない」と口を割らなかった。


「ん?なんだ?」


 警察の敷地から出て歩道を歩く地治井の前に、人影が待ち伏せていた。


「・・・先生。」

「おお、君は?」


 待っていたのは冨久海跳。老教師は、生徒会で世話をした教え子に歩み寄ろうとしたが、凄んで睨み付ける表情に気付いて後退る。


「先生・・・僕の警告、聞いていただけなくて残念です。」


 海跳の全身が闇に包まれ、中から身長180センチほどの、全身に毛の生えた猿顔の人外=上級妖怪・サトリが出現をする。


「オ、オマエが、ワシの邪魔をっ!おのれ、生徒の分際で!!」


 地治井の全身から煙が発せられて、妖怪エンエンラに姿を変える!


「知らぬ仲ではない。

 最初に煙に触れた時から、依り代が貴方と気付いていた。

 貴方の葛城への汚れた思いには虫唾が走るが、

 それなりに世話になった恩があるから、最初は警告で済ませた。」


 サトリが、大きく嘶いて鋭い爪を振るうと、エンエンラはアッサリと引き裂かれて消え、老教師の姿に戻ってしまう!


「ひぃぃっっ!!化け物っ!!」


 歯が立たないと判断して、振り返って逃走をする地治井。


「次は命は無いと、警告はしたはずだ!」


 サトリは敵意の目をギラつかせ、鋭い爪を立てて地治井に飛び掛かった!しかし、直後に光弾が飛んで来て、サトリの背中に着弾!


「ヌゥゥッ!?」


 発射元には鳥銃・迦楼羅焔を構えたガルダが立っており、老教師を庇うようにしてザムシードが立つ!


「教員を張り込んでいれば、何らかの情報が得られるとは思っていたけど、

 まさか、いきなり妖怪に出くわすとは思ってなかったな!

 コイツを倒せば、事件解決か!」

「気を付けろ、佐波木!ヤツは上級妖怪!鬼と同等の戦力を持っているはずだ!」

「任せろっ!」


 ザムシードは妖刀ホエマルを装備してサトリに突進!切っ先の乱打を振るうが、全て鋭い爪で弾かれ、腹に掌底打ちを喰らって弾き飛ばされ、転がりながらガルダの足元に戻ってきた!


「気を付けろ、狗!ヤツは強いぞ!」

「つい先ほど、俺がそう言ったはずだ!

 何が『任せろ』だ!?俺の話を聞いていなかったのか!?」


 ガルダが、溜息を付きつつ、光弾を連射してサトリを牽制。しかし、サトリは、たまに半歩後退して、足元に着弾する光弾を避ける以外は、殆ど動かない。


「ヤツ(サトリ)め・・・俺の魂胆を把握しているのか?」


 サトリから30mほど離れた真後ろには、地治井が立っている。サトリが回避をすれば、光弾は地治井に当たってしまう為、ガルダは直撃を避ける為の牽制しかできないのだ。


「退治屋か?僕は、貴方達と敵対する意思も、世を乱すつもりも無いのだがな。」

「老人を襲っておいて、よく言えたな!」

「それは、ヤツが醜い欲の塊だからだ!」

「妖怪の価値観に付き合うつもりは無い!」


 サトリがガルダに対応をしている間に、粉木と紅葉が地治井に駆け寄って、安全圏まで誘導する。


「センセー、こっちに逃げて!」

「おお、源川さんか?何故、君が此処に?」

「説明はあとや!先ずは退避せい。」


 見届けたガルダは、改めて、照準をサトリに向けて連射をする。サトリは、「今からは直撃を狙ってくる」と把握して、フットワークを使って回避する。


「銃口の僅かな角度と引き金を引くタイミング、

 そして、僕の体の何処を狙うかという思惑・・・

 それさえ解れば、銃など怖くはない。」


 サトリは、全ての光弾を体に当たるギリギリで回避している。それは、回避が間一髪になっているからではなく、「この程度の回避で充分」と見破られているからだ。


「チィ・・・コイツ。」

「手の内を読まれているみたいだけど、何度も戦っている敵なのか?」

「いいや、初対峙だ!」


 鬼ですら、ガルダの光弾は大きく動いて回避をしていた。僅かな回避だけで攻略をする妖怪など初めて。ガルダの隣で様子を見るザムシードには、サトリがガルダの戦法を熟知しているようにしか見えない。


「文献で読んだ情報だが、ヤツは、読心を使う!

 俺の意図が読まれているってことだ!」

「そ、そうか!だから俺の攻撃も全て受け流されて・・・」

「君の攻撃は、雑すぎて読心などせずとも攻略可能だ!未熟者め!」

「えっ!?マジで!?」


 ガルダの光弾は一発もサトリに当たらない。手の内を把握したサトリは、回避をしながら息を大きく吸い込んだ。


「ケーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!」


 雄叫びを上げるサトリ!途端に、ガルダ、粉木、紅葉の3人は、一瞬だけ、体から魂が剥がされるような錯覚に陥り、ガルダは動きを止め、粉木は脱力して片膝を付き、紅葉は足元をフラつかせて近くの塀に凭れ掛かる!


「拙い!粉木さん!紅葉ちゃんを連れて、雄叫びの干渉外まで離れて下さい!」


 ガルダは「遠距離攻撃でサトリに隙を与えるのは拙い」と判断して、武器を妖槍に持ち変えて突進をする!その間に粉木は、脱力した腰を奮い立たせて、老教師と、意識を朦朧とさせた紅葉を連れて、現場から大きく離れた。


「ジイチャン、アイツ何なの?

 泣き声を聞いた途端に気絶しそうに・・・」

「ヤツは、サトリ!魂の狩人や!雄叫びを聞くと、肉体から魂が抜けてしまう!」

「抜けちゃうと、どうなるの?」

「一定期間、戻れないままだと、死んでまう!」

「戻れないの?」

「陰陽を学んだワシや狗塚なら、他人の‘魂戻し’はできるが、

 自力で、自分の魂を戻すんは無理や!」

「んぇぇっっ!?

 なら、ジイチャンとまさっちがやられちゃったらヤバいぢゃん!!」

「妖幻システムで守られてる奴等は、ある程度の耐性があるが、

 ワシや嬢ちゃんでは、ヤツの傍にいるだけでも危険ちゅうこっちゃ!」


 退避をしながら、不安な表情で振り返る紅葉。ガルダの妖槍と、サトリの爪がぶつかる!


「抜けかけたことで、読みやすくなったぞ!」

「なにっ!?」

「背負っているのは・・・

 家族の無念・・・父の生きた証し・・・血統の繁栄・・・」

「き、貴様っ!!」

「背負いきれない重み・・・自分自身の才能の限界・・・焦りと虚勢・・・

 ほぉ・・・そして、身近にいる類い希な才能への嫉妬・・・」

「お、俺の・・・心を・・・」

「誰にも頼らずに生きてきた自負と、仲間意識という居心地の良さの矛盾・・・」

「いい加減なことを言うな!」


 心も攻撃も読まれている!動揺をしたガルダの大振りな攻撃では、サトリには全く当たらない!妖槍を弾かれ、サトリの爪がガルダに着弾!体勢を崩したところに、拳の乱打が叩き込まれる!


「僕の言い分がいい加減かどうかは、オマエが一番解っている。」

「くっ!」

「天才と認めてしまった身近な者に、

 オマエ一人では背負いきれない重みを、半分、背負って欲しい・・・

 邪ではないが、逃げの心・・・。その弱さを認めたくない迷い・・・。」

「だ、黙れ!」

「オマエが認めた天才が、全くオマエの方を向いていない苛立ち・・・。」

「だ、黙れっ!!」

「天才には、一途に慕う男がいる。

 オマエは、その男に友情を感じ、天才を略奪できず、全てが手詰まり・・・。」

「だ、黙れぇぇっっ!!!」


 ガルダは、サトリの口撃を浴びるたびに、意識が朦朧として、次第に単調な反論しかできなくなる。咆吼で魂の防御力を下げ、本人が認めたくない劣等意識を見透かして「勝てない」と言う意識を植え付け魂を無防備にする。それが、上級妖怪サトリの特殊奥義・魂脱術。

 プライドの高いガルダ(雅仁)は、認めたくない劣等と葛藤を徹底的に突かれ、心の中が飽和状態。サトリには、ガルダの肉体から、雅仁の魂が外れかけているのが見える。あとは、妖気を込めた掌底を叩き付ければ、肉体から魂を弾き飛ばせる。


「もう一度言う。僕は、世を乱すつもりも無い。 

 僕の標的を差し出して去れ。そうすれば、退治屋と敵対をする気は無い。

 だが、邪魔をするならば容赦はしない。これは警告だ。」

「うるさいっ!オマエのような危険な妖怪を野放しにはできない!」

「そうか・・・ならば!」


 サトリは、ガラ空きになったガルダの腹に蹴りを叩き込んで退かせ、大きく息を吸い込む!


「ケーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!」

「くっ!拙いっっ!!」


 至近距離から咆吼を喰らったガルダは、意識が朦朧とする!妖幻システムには耐性があり、雅仁自身は魂防衛術を身に着けているが、それでも、肉体だけを残して、魂だけが弾き飛ばされそうになる!

 大きく退避をしている紅葉と粉木ですら、咆哮を聞いていると寒気がして、気分が悪くなる。


「はぁぁぁっっっっっっ!!!」


 気勢が発せられ、飛び込んできたザムシードが、振り上げていた妖刀を、サトリの頭に叩き付けた!


「なにっ!?」


 妖刀の直撃を喰らったサトリが両膝を地面に落とす!咆吼が止まり、魂脱術から解放されたガルダが脱力をして片膝を付く!


「オマエ等、俺を忘れすぎだろう!

 心を読むみたいだけど、何で俺が、攻撃をするって予想すらしないんだ!?」

「グゥゥ・・・バカな?」


 サトリは、ザムシードの攻撃が未熟とは把握していたが、舐めていたわけでも、存在を忘れていたわけでもなかった。読心のテリトリーを張っていたにもかかわらず、ザムシードの攻撃意思が読めなかったのだ。


「佐波木・・・平気なのか?」

「何が?」

「雄叫びを聞いて、気分は悪くないのか?」

「雄叫び?うるさいとは思うけど、それが何だってんだ?」

「うるさい・・だけ?」

「尤も‘うるさい度’で言ったら、サトリより紅葉の方がうるさいぞ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 霊感ゼロのザムシード(燕真)には、霊感を圧迫する魂脱の咆吼が効かない?それとも、霊感ゼロなので、効いているけど気付いていない?


「俺には、サトリって妖怪が強いようには思えないんだけど、

 オマエ(雅仁)がそんだけ苦戦するってことは、かなり強いんだろうな。」


 ザムシードが、Yウォッチから水晶メダルを抜き取ると、メダルが虹色に輝き、ベルトが反応をして一回り大きくなり、和船バックルの左脇に、メダルを装填する窪みとフリッパーが出現。


「だから、全力で戦う!」


 ベルト脇の投入口にセットしたメダルを、フリッパーで軽く弾くと、軌道の光を残しながら、ベルトの中を一周して和船バックルの中に装填される。


《LIMITER CUT!!EXTRA!!》 


 ベルトの周りで輪を作っていた虹色メダルの軌跡の光が、幾つもの輪になってザムシードの全身を覆って、妖幻ファイターEXTRAザムシード登場!


「なんだ?姿が変化した?」


 妖力の絶対値が急上昇をしたザムシードに対して、サトリが警戒をして構える!

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