Ⅱ-5・源川有紀~芽高死す~銀色メダルの反乱
-数ヶ月後・文架市-
勘平は、滋子が進めてくれた敷地と家を安く譲ってもらって移り住んでいた。本部勤務の時代は、基本給はともかく、妖怪退治の歩合で得たボーナスは殆ど使わなかった為、それなりに蓄えはある。隣の空き家も安々と買い上げ、敷地を繋げて隣の建物を改装して、文架市民に妖怪を学んでもらう為に、「妖怪博物館」を開館するつもりだ。かなりの出費になったが、名ばかりとは言え‘支部長’の給料があれば、生活に困窮せずに済むだろう。
ピーピーピー
「ん?妖怪出現か?」
本部から支給されて市街地にセットした妖気センサーが感知をして、警報音を鳴らす。
「場所は・・・鎮守の森公園か?」
当時の鎮守の森公園は、鬱蒼としており昼間でもあまりひとけが無い。
文架市は、龍脈と龍穴が整っている。大きな龍穴の一つが鎮守の森公園に有り、妖気が溜まりやすい日は、霊感の強い者が無意識に寄ってしまい、且つ、妖怪が発生しやすいのだ。
「午後7時・・・全く、迷惑な話やのう。
こんな危ない日に、公園をウロチョロするなんて何処の何奴や?」
公園に駆け付けた勘平は、女子高生を襲う妖怪・笑地蔵を発見。異獣サマナーアデスに変身をして戦い、笑地蔵を弱体化させ、陰陽道を駆使して浄化する。
妖怪討伐を終え、女子高生に2~3言葉を掛けて落ち着かせ、勘平は現場から去って行く。この時の勘平は、襲われた女子高生との遭遇は、ただの偶然だと思っていた。だが、この出会いは必然だった。
-3週間後-
勘平が帰宅した直後の妖怪博物館に押し掛けてきた少女がいた。笑地蔵事件で救出した女子高生だ。勘平は内心で動揺をしたが、そんな素振りは見せずに少女に対応をする。
「お嬢ちゃん?お客さんか?
こない博物館、お嬢ちゃんが見て楽しいところではないで。」
「駅前の商店街で見付けて、尾行してきました!」
「何や、ワシになんか用か?一目惚れでもしよったんなら諦めや。
ワシはりょうさんモテるよって、お嬢ちゃん1人の物にはならへんで。」
「この前、動くお地蔵さんをやっつけた変な鎧の人・・・おじさんですよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
普通ならば、妖怪に襲われた怖い記憶など早く忘れたいので、望んで退治屋に接触してくる一般人などいない。
何よりも、ただでさえ鬱蒼とした公園に、日が暮れてから近付く物好きな一般人などいない。あの日、あの時間帯に、龍穴に引き寄せられるのは、強い霊力の持ち主しかいない。
「ワシは粉木勘平。嬢ちゃん・・・名は?」
「源川有紀です。」
「何で、此処に来た?」
「おじさんのやっていることに興味があるからです。
私、子供の頃から、人ではない物が見えるんですが、
それを退治できる人がいることを初めて知りました。」
勘平は、源川有紀が高校を卒業してから本部で学べるように推薦状を送った。だが、本部(人事担当は喜田常務)からの回答は「全て文架支部長の責任で為せ」という突き放したものだった。今更、勘平の息の掛かった者を受け入れる気は無く、ハナから見捨てている文架支部は、「自己責任で対応しろ」と言われたのだ。
「有紀ちゃん、ワシの弟子になる気はあるか?」
「はい。妖怪から友達を守る力が欲しいです。」
勘平は、本部に掛け合って(芽高への直談判&滋子へ根回し依頼込み)、どうにか1人分のパート代を確保して、新しい弟子を育てる決意をする。妖幻システムは、勘平が本部から離れる時に「粉木用」として提供されたまま未使用の物が一つある。
「お氷・・・頼めるか?」
「娘のことは気に入った。協力してやろう。」
氷柱女は、未使用の妖幻システムの媒体となることを受け入れてくれた。
芽高と滋子に頼み、氷柱女を封印妖怪にして、妖幻システムに付加する。後に伝説となる妖幻ファイターハーゲンの誕生。
師が落ち目の勘平でなければ、有紀はもっと出世をできたかもしれない。だがその反面、しがらみを降ろした勘平でなければ、有紀の才能は見出せなかったかもしれない。そのifの先の未来は、誰にも解らない。
-東京本部-
試作品として増産された銀色メダルは、本部勤務のエリート隊員に支給され、引き続き性能把握が通達された。全ての試供メダルで戦果が確認されれば、銀色メダルは量産体制に入る予定だった。
勘平を庇い続けた滋子ですら、銀色メダルは画期的と考え、この件に関しては「勘平の主張は愚かしい」と感じていた。
しかし、画期的だったはずの発明は、量産を待たずに重たい影を落とす。最初は皆が有効性ばかりに眼を奪われ、リスクは些細なこととして眼を逸らしていた。銀色メダル所持者の戦果は目覚ましく、誰もが羨み、誰もが手軽に力を得られる銀色メダルを欲した。銀色メダル所持者は自分を選ばれしエリートと誇示するようになる。羨みも誇示も、銀色メダルが存在する以前には無かった負の感情だった。
「退治屋は、有能な俺達が維持してやっているんだ!」
勘平が去った今、元々傲慢だった日向信虎を抑えられる者など誰もいない。喜田常務の甘言で付け上がり、且つ、銀色メダルの闇に捕らわれた信虎は、「自分こそが退治屋の歴史を作る」と、上層部すら蔑ろに扱うようになっていた。
「信虎さんの言う通りだ!」
銀色メダルの所持者達が、信虎の意見に賛同をする。その中には、滋子の弟子・夜野圭子の姿もあった。銀色メダルの使用を続けることで、変身者の精神は、次第に封印妖怪の影響を受けて、力に溺れ、闇に染まっていった。
異獣サマナーのような対等な‘契約’ではなく、妖幻ファイターの場合は、支配下に置く‘封印’ゆえに利害の一致は無い。妖怪は、解放された力で、変身者に力を貸す代わりに、支配をしようとする。その支配力を、変身者は霊力で抑え込む。銀色メダルは、戦闘能力を上げる代償で、封印妖怪が使用者を支配しようとする力を増幅させていた。
異獣サマナーのパワーアップと同じシステムを、現行妖幻ファイターで再現することは不可能だった。
「力が無ければ正義は貫けない!」
「力の絶対性こそが正義!」
「封印によって妖怪の力を弱める必要は無い!」
「選ばれた我々ならば、妖怪の力を、ありのままで使いこなせる!」
封印妖怪に精神を汚染された者達は、妖怪の力の解放を求め始める。魂の半分が妖怪化をしているのだから、当然の成り行きだ。銀色のメダルは存在させてはならない代物だった。
「これ以上の銀色メダルの使用は危険だ!回収して処分をするべきだ!」
芽高社長が、全ての銀色メダルの回収と、プロジェクト・シルバーメダルの凍結を決断する。銀色メダル所持者を集め、謝罪をして、話し合い、プロジェクト失敗の責任を取るつもりだった。しかし、時は既に遅かった。
「上層部は、俺達から力を奪うつもりだ!」
「何もせずに命令しかしない上層部は邪魔だ!」
「力の有効性を判断できない無能は要らない!」
「身を削って妖怪と戦ってる我々こそが頂点に相応しい!」
上層部の意向は、銀色メダル所持者達に洩れていた。闇に心を染められた者達には、力を取り上げられることを受け入れない。
「よーし、オマエ等!無能共を粛正して、俺達が退治屋の新しい導になるんだ!」
信虎が上げた声で、銀色メダル所持者達が一斉に決起をする!真っ先に襲われたのが、話し合いによる解決を望んだ芽高社長だった!
「悪いのは君達ではない!君達を蝕む銀色メダルだ!
返却してくれれば、これまでの無礼は、全て不問にすると約束しよう!」
「無能は去れ!・・・この世から!!」
「ぐわぁぁぁっっっ!!!」
芽高は、反乱を主導した妖幻ファイターブロントに一太刀で切り捨てられる!
「ゆ、許せ・・・粉木・・・。オマエの判断は・・・正し・・・かった。」
何人かの参加者はリーダーの問答無用な対応に驚いたが、社長が生贄にされたことで、もう止まれない!
-文架市-
安穏と暮らしていた勘平の携帯電話に、滋子からの緊急連絡が入った。
「どうしたんや!?落ち着いて話や!!」
〈早う来て、勘平!圭子達がおかしい!
銀色メダルの所持者達が一斉に反乱をっ!!〉
「なんやて!?」
勘平は、銀色メダルに対して感じた不安を大幅に超える事態が勃発したことを知り、まだ半人前の有紀には何も告げず、単身で本部へと向かう。
-本部-
「反乱の首謀者は、粉木さんの弟子だ!」
勘平から巣立った過去の兄弟子達は、弟弟子を止める為に、真っ先に戦渦に飛び込んだ。
「尊敬する粉木さんに恥をかかせてはならない!」
「俺達で止めるんだ!」
弟弟子に一縷の情を通わせようとする兄弟子達と、闇に捕らわれ、兄弟子達に一切の情を持たない弟弟子。結果は凄惨たる物だった。粉木勘平の弟子は、闇に支配された信虎を除いて全て絶えた。
「フン!老害の育てた遺物など要らぬ!」
ブロンドの雷を媒体とした奥義によって各所が引火をして、木造3階建ての社屋が炎に包まれる。
凶行を止める為に挑んだ妖幻ファイターやヘイシ達は、銀色メダルで戦闘力が上がった反逆者に容赦無く倒された。
「日向君。逃げ遅れた子供達を保護したわ。」
「連れてこい。」
将来の妖幻ファイターを夢見て学んでいた子供達が、夜野圭子のよって一ヶ所に集められ、変身を解除した信虎に、冷たい目で見下ろされた。
「さ~て・・・
賢い君達は、優秀な俺達と、無能な上層部の、どちらから学びたい?」
「あ・・・あの・・・日向さんは、何でこんなことを?」
「俺が正しいからに決まっているんだろう?」
「仲間を容赦無く殺害することが正しいんですか?」
「処分をしているのは、仲間ではなく廃棄物だ。
下らない質問をする愚か者は要らない。」
一人の少年が見せしめにされた。怯える少年少女。反逆者に賛同しない「悪い子」は殺されるだけと把握する。生きる為の答えは1つしかない。
「信虎!!・・・オマン、何をやっとるんや!?」
「・・・ん!?」
選別を続けようとする信虎を呼び止めたのは、勘平だった。かつての弟子は、師弟関係が円滑だった頃とは別人のような、闇に憑かれた顔をしている。
「お久しぶりですね・・・粉木さん。
聞き分けの悪いバカばかりで困っていたところです。
アナタは俺達に賛同しますよね?」
「するわけないやろが!!」
「・・・・フン!残念です!」
「何や、オマエ、その顔は!?人間を辞めたんか!?」
「俺は、人間を越える素晴らしい力を得たんだ!
臆病者のアンタには一生解るまい!」
「愚か者!!それの何処が素晴らしい力や!!?」
「素晴らしい力ですよ!
その証拠に、沢山の仲間が俺に賛同し、俺に歯向かえる者は誰もいない!!
兄弟子達なんて、今の俺にしてみれば、全員、取るに足らないザコでしたよ!!
アナタの愛弟子は、誰よりも一番強くなったんです!!」
「大馬鹿者めっ!!妖怪に心を奪われおってっ!!」
離別からたった数ヶ月しか経過していないのに、「主君殺しの反逆者」は、もはや勘平が知っている弟子ではなかった。会話は必要無い。互いに、言葉が通じないことを把握した。
「オマンのような怪物を生み出してしまった責任を取る!」
「やれるモンならやってみろよ・・・老いぼれ!」
サマナーホルダを翳す勘平。Yケータイを構える信虎。2人は睨み合いながら、同時に変身ポーズを決める。
「変身!!」
「幻装!!」 《BRONTO!!》
異獣サマナーアデス、妖幻ファイターブロント登場!アデスはサーベルを、ブロントは大太刀を構えて突進!幾つもの剣閃を交える!
「へぇ・・・年寄りのクセに俺の剣技に付いてこれるんですね?
アンタが育てた兄弟子達よりも強いんじゃないのか?」
「弟子の技術くらい読めるわい!」
「・・・それは厄介だ。」
侮りがたいと感じたブロントは、3歩後退して構え直し、大振りの一撃を振るう! アデスは仰け反って回避をして、すかさずサーベルを水平に振り切る!ブロントは、バク転で回避して、着地と同時にアデスに突進!再び、サーベルと大太刀がぶつかる!
パワーはブロンドが上!交えた刃を、力任せにアデスに押し込む!一方のアデスは、「ブロントが剣のみに集中してる」と見切って、足払いを仕掛ける!更に、体勢の崩したブロントの腹目掛けて蹴りを放つ!ブロントは半歩退いて、大太刀を盾にしてアデスの蹴りを受け止めた!
「まだや!」
アデスは、素早く足を戻し、2発目の蹴りを上段に放った!顔面に一撃を喰らったブロントが仰向けに倒れる!しかし、倒れ込みながら足で床を蹴って真後ろに飛び、大太刀を手放して両掌で床を掴み、開脚回転蹴りを放つ!追い撃ちの突進中だったアデスは、両腕でガードをして押し戻されてしまう!
ブロントが立ち上がって大太刀を拾い、アデスを睨み付ける!互いに突進をして、再び刃がぶつかる!
「オマン等、今のうちに逃げい!」
アデスは、「ブロンドが自分に集中している」と判断して、捕らえられていた子供達に逃走を呼び掛けた!活路を確保された子供達が一斉に逃げ出す!
「圭子!ソイツ等を捕まえろ!殺しても構わん!」
「させんわい!」
ブロンドの指示を受けた夜野圭子が、子供達の行く手を遮りながらYケータイを翳す!だが、アデスが召喚をしたヤイバット(蝙蝠型モンスター)に体当たりをされた圭子は、窓を突き破って外に弾き飛ばされた!
「へぇ・・・容赦無いんだな、粉木さん!」
「血迷ったオマン等から子供達を救う為や!容赦なんてしてられん!」
刃を交えながら睨み合うアデスとブロント!
-社屋の外-
3階の窓が破れて圭子が墜落。地面に全身を強く打ち付けて意識を失う。
「圭子っ!」
討伐隊再編成の為に外で待機をしていた滋子が、圭子の駆け寄る。他の退治屋達も寄ってくる。そのうちの1人が圭子のYケータイと銀色メダルを回収。他のモブ数人が、抵抗できない圭子を後ろ手に拘束する。
「何が始まったの?反乱軍の仲間割れ?」
破れた3階窓を見上げる滋子。鎮圧部隊はまだ編成されていない。ならば、誰が圭子を社屋から排除した?滋子は、アデスがケジメを付ける為に、燃え盛る社屋に潜入していることを知らない。




