Ⅱ-4・壊れた師弟~文架へ
-昼休み-
「勘平、えらい評判を落といとるらしいけど、どういうつもりなの?」
「なんや?もう、オマンの耳にも入ったんか?」
滋子が、1人で仕出し弁当を食べている勘平の前に立って問い質す。
「なぁ、滋子
・・・オマンは、葛城のオヤッサンから、本条のことはどう聞いとる?」
「今更、20年以上も前の話を持ち出いて、なんなの?
勇敢に戦うて、首領と相打ちになったとしか聞いとらんわ。
尊さんが亡くなって以降、昭兵衛さんは、あまり話したがらなんださかい。」
「そっか・・・なら良い。」
勘平の亡き盟友の悲惨な終焉は、滋子にも伝えられていない。粉木は滋子に「安易に手に入る力は人を勘違いさせる」とだけ説明をして、以降の説得を取り合わなかった。
-数日後-
上層部に警戒をしていた勘平だったが、弟子の生理現象にまで付いていくわけにはいかない。勘平では話にならないと判断した喜田常務は、意図的に通路で信虎とすれ違い、名指しをして呼び止める。
「師が頑固者だと、弟子は困るね。」
「は?何の話ですか?」
「彼は、優秀な君が、自分の功績を越えることを嫌っているんだろうか?」
「粉木さんが・・・いったい何を?」
「その様子だと、何も聞かされていないんだね。
粉木さんは、いったい何を考えているのやら?」
喜田は信虎を人目に付かない小会議室に呼び出して、銀色のメダルを提示する。
「これは?」
「君の芳しい評判は頻繁に耳にする。
君は、間違いなく、我が社に勇名を残す英雄になる。
だがね・・・それを拒む者が、君の身近に居るのだよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「この銀色メダルは、妖幻ファイターの戦闘能力を格段に上昇させる。
しかし、粉木さんは君に渡すことを拒否したんだ。」
「え?・・・粉木さんが?」
「彼は、どういうつもりなんだろうね?」
信虎の表情が曇る。それは、「師の判断に間違いは無いと全面的に信頼する表情」ではなく、「以前から持っていた不満が表面に現れる表情」だ。喜田は、その機微を見逃さない。
「力を持つ資格がある者に、正統な力が与えられないのは憐れだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「師の意向を無視する行為は避けたいが、
君が望むなら、俺は禁忌を破っても良いと思っている。
君はどうしたい?」
「・・・お、俺は。」
信虎は一瞬躊躇ったが、力を求めて銀色メダルに手を伸ばす。
「これで、俺と君は共犯だ。
尤も、君が銀色メダルの有効性を示して、粉木さんの考えを覆せば、
頑固な君の師匠は、何も口出しできなくなるだろうがね。」
信虎は、受け取った銀色メダルを握り締めて深く頷く。優秀な師に恥をかかせたいとは思っていない。才能ある自分が新技術の有効を示して、師が考えを変えてくれるのが、信虎の望みだった。
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中級妖怪発生。ベテランでも簡単には倒せない事案に、勘平師弟と、単独の妖幻ファイター2人が鎮圧に宛てられる。妖怪と対峙をして、討伐の段取りを打ち合わせる勘平。しかし、信虎は勘平の指示を無視して、妖幻ファイターブロントに変身。単身で妖怪に突進をしながら、銀色メダルを使った。
「なにっ?なんで、信虎がそのメダルを!?」
サポートの妖幻ファイターは見取れ、勘平は驚く。ブロントの元々の強さ+銀色メダルによる攻撃力のアップにより、中級妖怪は瞬殺をされた。銀色メダルは鮮烈のデビューを果たしたのだ。
「信虎!そのメダルはアカン!」
「大丈夫ですよ。後遺症は何もありません。粉木さんは心配性だな~。
俺が使い熟せないと思っていたんですか?
もう少し、自分の弟子を信用してくださいよ。」
妖幻システムは、時代のテクノロジーを駆使して、「封印妖怪が可能な限り力を発揮する」と「装着者が妖怪に支配されない為に力を抑える」のギリギリのラインで製作されていた。つまり、既存妖幻システムの戦力を上廻ると言うことは、「装着者が妖怪に支配される」可能性が高くなることを意味している。
「アカン、信虎!安易な力なんて、必ずシワ寄せが来る!!
そのメダルは棄てろ!過ぎたる力は持つべきではないんや!」
弟子は賛辞して、師は全否定をする。絶対に交われない平行線は、次第に両者の声を荒げさせる。
「俺を侮るな!俺は使い熟します!
ずっと思っていました!!師匠は甘いんです!!
悪を淘汰する力なんて、いくらあっても足りないくらいです!!」
「・・・信虎っ!」
勘平の弟子は、新たなる力を得て、命を失うことなく華々しい戦果を上げたのだ。その後、勘平が何度止めても、信虎は師を侮り、自惚れ、アドバイスに耳を傾けず、喜田常務の称賛と、同僚達の羨望しか受け入れなかった。
それまで円滑に見えた師弟に入った亀裂は、日増しに大きな物になっていく。
「使ってはならん!」
「師は臆病者だ!俺は師を越えたんです!」
「物の力で越えることに、何の意味も無い!!」
「持たない者の僻みですか?ご不満なら、貴方も銀色メダルを使えば良いんです。
尤も、貴方のサマナーシステムでは互換しませんがね。」
信虎の良好な戦績により、上層部は「銀色メダルの開発は成功した」と判断して、更に数枚の試作品の増産を決定する。
「芽高!社長権限で開発を止めてくれ!過ぎたる力をバラ蒔くな!」
「そう言われても、弊害が確認できず、実績のあるシステムを止める理由が無い。
凍結をするには、相応の説得力を持ったデータが必要だ。
今の方針を覆す根拠はあるのか?」
「・・・根拠は・・・ワシの勘や。」
「それでは、いくら粉木の頼みでも、通すことはできない。」
勘平と気心の知れた芽高でも、勘平の言い分を納得しなかった。勘平は、再三に渡り、開発の中止を求めたが、上層部は勘平のことを、次第に腫れ物のように扱うようになる。
「勘平、いい加減にして!
これ以上ちゃ、私や芽高君でも、アンタを庇いきれんくなる!」
「庇えなんて誰も頼んでへん。」
芽高や滋子も、銀色メダルの有効性は認めていた。滋子の説得も勘平には届かない。
師弟で出動をしても、信虎は銀色メダルばかりを頼り、勘平がいくら指示をしても相手にしない。その光景は、「粉木は現場で何もしていない」「優秀な弟子の邪魔をしているだけ」と見られるようになり、徐々に「役に立たない老害」の解雇を望む意見が上がり始める。
「権力を嫌うワシが、平穏の為に権力下に勤めて20年強。
・・・そろそろ頃合いかの?」
もはや、組織に勘平の居場所は無くなっていた。彼自身、上層部に辞表を叩き付ける覚悟をしていた。そんな某日、芽高に呼び出され、勘平は「最後通知が来る」と覚悟を決めて辞表を持って社長室に赴いた。同室には、何故か滋子も同席している。
「なんでオマンまでおるんや?」
「アンタが引導を渡される瞬間を見たくてね。」
「フン!勝手にせい。」
「粉木・・・。もう庇えない。銀色メダルの被験補佐と左遷、どちらを選ぶ?」
「芽高・・・オマンなら聞かずとも解ってるやろ?
せやけど、クビちゃうくて、左遷なのか?」
「ああ・・・君には、本部から離れ、新しい地域の支部長になってもらいたい。」
「・・・ん?」
文架市が妖怪の発生しやすい特殊な地域ということは、報告書で上がっていた。ただし、他の支店や支部と違って、店舗の類いは何も無い。部下も一切付かない。文架支部長とは名ばかりの、何一つ整っていない地域への左遷である。
これは、「社長の片腕」とまで評価され、異獣サマナーシステムの提供によって退治屋の技術を飛躍的に向上させ、管理職を望まれながら現場に身を置き続け、複数の弟子を独り立ちに導いた勘平に対して、芽高ができる精一杯だった。
「また、文架・・・かいな。」
退治屋創世の功労者から、お荷物の老害に転がり落ちた勘平にとって、若い頃は意図的に避けた文架市に土着することは、自分を見つめ直す良い機会なのかもしれない。
「解った。ワシは文架に行く。
薄皮1枚かもわからんが、首を繋げてくれたオマン等には感謝するで。」
この辞令を断れば、今まで世話になった芽高と滋子に、後ろ足で砂をかける行為になってしまう。勘平は、辞表を叩き付ける決意を寸前で留め、彼等の気持ちを汲むことにした。
正式な辞令が通達されて、勘平が本部から去る日が来た。多くの重役が、「地方に飛ばされてしまえば、彼はもう本部の方針に口出しはできない」と安堵をした。喜田常務は、敵対派閥の中核が自滅を選んだことを喜ぶ。
創世の功労者を見送りに出たのは、滋子と、彼女の弟子の夜野圭子だけだった。芽高社長ですら、立場上、「厄介払いされた老害」を見送ることができず、社長室で友を思うことしかしてやれなかった。
「そのうち遊びに行くわね。」
「来んでええ。」
「あっ!そや!
そう言や、大学時代の知人が、新しゅう開発された地区に引っ越しするさかい、
今までの家を売るって聞いてね、壊さんで残いてもろうたが。
開発から取り残された町外れのボロ屋なんやけど、一度見に行ってみて。
まさか、車中生活したり、葛城さんの家に転がり込むつもりじゃ無いでしょうし、
どうせ、行った先で何処に住むかも、満足に決めとらんがやろ?」
滋子が押しつけがましく差し出したメモ紙を受け取る勘平。指定された売り家の住所と、所有者の連絡先が記されている。
「・・・文架市陽快町か。解った、訪ねてみる。」
荷物を積み込んだスカイラインGT-Rに乗って去って行く勘平。見えなくなるまで見送り続ける滋子に、夜野圭子が話しかける。
「本当は、一緒に行きたいんじゃないですか?」
「ダラなこと言わんの。アイツとはただの腐れ縁。ようやく切れて清々しとるが。
そもそも、アンタ、私を何歳やて思うとるが?
恋に恋する乙女じゃあるまいし、私には私で、やるべき事が山積みなのちゃ。」
圭子は滋子の動揺ぶりと矛盾した言葉を聞いて、彼女に気持ちを察しつつ、あえて、それ以上の追及はしなかった。
「だったら、銀色メダルで成果を上げまくって、
粉木さんが『自分が間違っていた』と泣いて謝るように仕向けちゃいましょう。」
「おっ!それ良いわね!泣いて土下座したら許いてやることにしよう!」
一度目(退治屋就職)は、滋子が勘平を追いかけた。だから次は、また追うのではなく、勘平のプライドを踏み壊して、全面降伏をしてもらう。彼が切った腐れ縁は、彼に繋ぎ直してもらう。圭子の言葉を聞いた滋子は、彼女らしく前向き(+横柄)な希望を持つ。
「・・・フン。ようやく去ったか、ジジイ。
もう、アンタの時代は終わった。これからは。若い俺達の時代なんだよ。」
勘平の弟子・日向信虎は、2階の窓から冷ややかな眼で、出世コースから脱落して去る師を眺めていた。誰よりも優秀な弟子は、師の独り立ちのお墨付きを得られないまま師の元を離れ、2人の心が交わることは二度と無く、数ヶ月後に最悪の再会をすることになる。




