Ⅱ-3・弟子の昇進~氷柱女~銀色メダル
弟子入りから数ヶ月、着々と経験を重ねた日向信虎は、才能と実績を認められて妖幻システムを与えられた。これは、前線に出て、独自の判断で、妖怪と戦えることを意味している。
「今まで、よう頑張ったな!」
「師が良いんですよ!」
「封印妖怪はなんじゃ?」
「雷獣です!」
「名は?」
「妖幻ファイターブロント!
太古に生息したブロントテリウム(雷の獣)という哺乳類に因んで決めました!」
「強そうな名やないけ!」
弟子の晴れ姿を喜ぶ勘平。特殊な家系の狗塚家を除けば、妖幻システムの獲得時期として、師弟制度が定着して以来で最速の出世だった。
日向信虎は、師の勘平から見ても、過大評価抜きで「数百年に1人の逸材」だった。ただし、優秀すぎて過信する若き弟子を、勘平は危惧していた。
「愛弟子が昇進した記念日ながに、祝賀会じゃのうて独り酒?えらい寂しいわね。」
滋子が、居酒屋のカウンターで1人酒を飲む勘平を見付けて、隣に座った。
「なんや、滋子か?呼んだ覚えは無いで。」
「呼ばっしゃいま。何か悩みがあるんやろ?
おめでたい日ながに、弟子と朝まで騒がんなんて、勘平らしくないわ。」
「・・・やれやれ、面倒臭い女に絡まれてしもうたな。」
勘平は、コップに入った日本酒を半分ほど飲んで溜息をつく。
「オマンの弟子・・・夜野圭子は順調か?」
「誰に物を聞いとるが?もちろん順調ちゃ。
ちょっこし迷いやすいクセがあるけど、
素直で良い子やさかい飲み込みも早いわ。」
「・・・そうか。素直か。」
「その言い方やと・・・信虎君ちゃ素直でないが?」
「才能はある。やがては退治屋の歴史のど真ん中に名を刻む男や。」
今の時点で、「退治屋の最大の功労者(管理職を除く)は粉木勘平」というのが大多数の評価だった。勘平は、「信虎は自分を越える」と言っているのだ。
「あらあら、越えられるのが不満?」
「アホ言うな。ワシは功労者なんて評価は要らん。
若い奴が越えてくれるのは、嬉しいばかりや。
そやけどな・・・・。」
「・・・ん?」
「奴は傲慢すぎるんや。
ワシの弟子から離れて目が届かんくなったら、どうなるか解らん。」
通常であれば、弟子入りをしてから妖幻システムを選るまでに1~2年。そして、妖幻システムを得た弟子は、2年~3年程度で師を離れて独り立ちをする。だが、優秀すぎる弟子は、勘平の元を離れたら誰も抑えられなくなる。勘平が師として、できるだけ長い間、抑えてやりたいのだが、上層部は、信虎の独り立ちを急ぐだろう。
「芽高(社長)には、ワシの元から遠ざけないように頼んであるがな。」
「私からも根回しをしとくわ。」
「・・・そやけど、問題は喜田のバカ息子や。」
将来の社長席が約束されている喜田御弥司常務は、好き勝手にさせてくれない芽高勇社長を「目の上のタンコブ」と嫌っていた。
今の退治屋中枢を担うのは、芽高と共に今の体制を気付き上げた勘平や滋子などの‘芽高派閥’だ。喜田御弥司は、現状で社長に権力闘争を仕掛けるほど愚かではない。だが、自分の派閥が力を付け、芽高派閥の力を削ぐ根回しは怠らない。「実績や功労」ではなく、「政治力」では、現場上がりの芽高より、帝王学を学んだ喜田の方が優れていた。
「奴は、将来の退治屋中枢を担う信虎を抱き込みたくてしゃーないんや。」
喜田常務は、頻繁に信虎に声を掛けて褒めちぎり、食事に誘い出そうとする。
勘平は、優秀すぎて傲慢に流されがちな弟子の行く末と、彼を権力闘争に巻き込もうとする常務の魂胆が不安だった。
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数十年の周期で、鬼族の活動が活性化をする。鬼の討伐は、退治屋ではなく、鬼の専門家・狗塚家の宿命なのだが、当主・狗塚宗仁からの依頼で、サポート、及び、鬼と呼応する妖怪を牽制する為に、特別班が編制されることに成り、妖怪退治部2課が割り当てられた。
チームリーダーは、課長で、勘平より年配のベテラン退治屋(芽高派閥)。大武剛という若くて優秀な弟子が付いている。勘平と信虎、滋子と弟子の夜野圭子が、補佐をする。
「勘平!未確認だが、鬼の出現情報だ。早速、確認に向かってくれ!」
文架市は、全国平均と比較をすると、妖怪が発生しやすい地域。しかし、所詮は田舎の一地域で人口密度が低い為に、当時はまだ支部を設けられていない。鬼出現の情報を確認する為、勘平に文架市の調査が命じられる。
「あまり行きとうはあれへん場所やな。」
「私達が変わりましょうけ?」
「いや、任務は任務や。選り好みはでけへん。」
旅立ちから20年以上。勘平は文架市を意図的に避け、一度も足を踏み入れていない。亡き盟友を思い出すことを嫌い、退治屋の業務に没頭を続けてきた。滋子からは気遣われたが、「あの頃とはもう違う」と自負する勘平は、これを文架市入りの機会と決意をする。
-文架市-
二十数年ぶりの文架市は、勘平の知る面影は残すものの、大きく様変わりをしていた。一級河川・山頭野川に文架大橋が架かって、文架駅から真っ直ぐに川東に来られるようになり、二十数年前には田畑だった地域を住宅地や商業地にする為の都市計画が急ピッチで進められている。田舎ゆえに秘密結社の根城に選ばれ町は、数年後には人口の増加が約束された都市になっていた。
「へぇ・・・あの田舎町がのう。」
川西に在る恩人の工場がどうなったのか?亡き盟友の恋人と子を引き取ったらしいが、今はどうしているのだろうか?関心はあるが、喧嘩別れをした恩人に合わせる顔が無いので、あえて避ける。
「さて・・・文架に詳しい知り合いを尋ねてみるかいな。」
「そんな知人がいるんですか?」
「知人ちゃうくて知り合いだ。」
「・・・?同じ意味では?」
信虎は「知り合い」と「知人」の違いが解らないまま、勘平と共に文架市の西にある羽里野山を登る。
「お氷・・・いるんやろ、顔見せい!」
勘平が呼び掛けた途端に、冷たい妖気が場を支配して、吹雪が吹き荒れ、白い着物を着て、青髪で、白い肌をした妖怪が出現をする。
「妖怪!雪女か!?」
「氷柱女のお氷や。人害はあれへんさかい安心せんかい。」
構える信虎を勘平が手で遮って制する。
「この地に鬼がおるらしいが、オマンは把握してるか?」
「もちろんだ。数日前まで、麓の町に天邪鬼がいた。だが今はいない。」
「何処へ行ったんや?」
「そこまでは知らぬ。いつの間にやら気配が消えていた。
おそらく、他の鬼に呼ばれて、鬼の軍団に加わる為に行ったのだろうな。」
「・・・そうか。もうおれへんか。
来たついでに、もう一つ教えてや。
文架市街の全域に妖気が立ち込めてるのは鬼の仕業か?」
「それは鬼とは関係無い。」
文架市は、元々、妖気溜まりに成りやすい地域。且つ、都市の形状と川の位置が風水に理想的で、龍脈と龍穴が整っている。だから、鬼の活性化に関係無く、妖怪が頻発しやすい。過去の勘平は陰陽道を学んでいなかった為に、この事実を「気のせい」程度にしか感じていなかった。
「なるほどな。おおきに。」
「鬼族の繁忙か・・・嫌な時期だ。」
「オマンはどうするんや?例によって、傍観かいな?」
「もちろんだ。要らぬ争いに首を突っ込む気は無い。
鬼共が止むまで、せいぜい、温和しくしているさ。」
「あぁ、そうしてもらえると助かるわい。」
一定の情報を得て、且つ、氷柱女の今後の動向を確認した勘平は、信虎を連れて羽里野山を下山する。
「粉木さん・・・なんで、あの妖怪は始末しないんですか?」
信虎は、師が、氷柱女に対して何もしないことに驚いた。
「始末する必要がないからや。」
「でも・・・妖怪は討伐対象ですよね?」
「害を為さんうちは放っておけ。」
「粉木さんにとって、氷柱女とは一体?」
「話とうない。」
勘平にとって氷柱女は、過去に滅んだ秘密結社との抗争時の思い出。亡き盟友との同意で、氷柱女の放置を決めた。その記憶を掘り起こしたくはない。
一方、却下をされ、足を止めて不満そうに山頂を見上げる信虎。この齟齬が最初の擦れ違いだった。
「害を出さないから倒さなくて良いのではなく、
害を出す前に倒すべきではないのか?」
本部に戻って数日が経過。非番の某日、信虎は、氷柱女を退治する為に、単身で文架市に赴き羽里野山を登った。単純に、妖怪は全て倒したいという潔癖な思惑もある。強い妖怪ほど強い武器になるから、封印したいという渇望もある。だが、氷柱女は、初対面の時点で、信虎の潔癖な攻撃性を見抜いていた。氷柱女は山頂から離れ、信虎が何処を探しても発見することはできなかった。
時を同じくして、都内で妖怪事件が発生する。いくら非番日でも、鬼が出現をしたら、休日を返上しなければならない。しかし、信虎は電波の圏外にいた為、勘平が携帯電話に何度連絡を入れても繋がらなかった。
「あのアホ、何処で何やってるんや?」
事件は、勘平の変身した異獣サマナーアデスが、被害が拡大する前に解決した。
「バカもんがぁぁっっ!
任務中に単独行動をして事件に間に合わないとは、どういうつもりだぁっ!!」
勘平は、初めて信虎を怒鳴った。これまで、注意をすることはあっても、怒鳴ったことはなかった。
「申し訳ありませんでした。」
信虎は素直に謝罪をしたが、心に片隅で「サッサと氷柱女を倒していれば、こんな事にはならなかった」と、考えの甘い勘平を批難する。
一方、勘平は、今回の一件を上層部には報告しなかったが、自分の意見を無視して「氷柱女を倒そうとした」信虎に、一抹の不安を感じるようになる。
師は「弟子は危険な思想を持っているが、まだ若いから、徐々に矯正すれば良い」と考えていた。
弟子は「師は考えが甘い部分を除けば、尊敬すべきところはいくらでもある。師の教えに従っていれば間違った行動は無い」と考えていた。
2人の間にある僅かな軋轢は表面化をすることはなく、しばらくは円滑な師弟関係が続く。
この時期、異獣サマナーのパワーアップシステムを解明した開発部は、制御可能な状態で制限時間を設けて、封印妖怪の力を発現させ、妖幻ファイターの性能を3割程度向上させるシステムの開発に着手をする。
プロジェクトのコードネームはシルバーメダル。この計画が、有能な師弟に大きな楔を打ち込むことを、勘平と信虎は、まだ知らない。
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勘平は、喜田常務に呼び出され、銀色のメダルを提示される。
「これは?」
「話くらいは聞いていますよね?
妖幻ファイターの性能を3割ほど向上させるアイテムです。」
「噂くらいには・・・な。
そいで?これをどうしろと?」
「最前線に立つ日向君に使わせてください。メリットは保証します。
・・・が、まだ試作の段階なので、デメリットが解りません。
有能な粉木さんが銀色メダルの使用状況を観察して、
恩恵と弊害をフィードバックしてください。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
最初の被験者に選ばれたのは日向信虎だった。喜田常務は、才気溢れる若者に使わせる為ではなく、実戦経験が豊富な勘平に観察をさせる為に、勘平の弟子に白羽の矢を立てたのだ。
「話にならん。聞かなかったことにする。」
勘平は、銀色メダルの受領を断った。愛弟子はモルモットではない。弊害の有無が解らないものを、信虎に与えるわけにはいかない。
しかし、話は、これで終わりにはならなかった。次は、社長室に呼び出され、芽高社長や、副社長&重役達が同席する中で、喜田常務は勘平に説得を試みる。
「そんな、危険なシステムを、弟子に使わすわけにはいけへん。」
だが、それでも、勘平の意思は変わらなかった。勘平は、人間が過ぎたる力を得た末路を知っている。銀色メダルの危険性と、弟子の危険思想。勘平は、2つを交わらせることに大きな危険と感じていた。
「開発部が心血を注いだシステムなんですよ。
使っただけで強くなれるんです。
ダメならばダメなりにフィードバックをして改良すれば良いんです。」
「なら言わせてもらうが、銀色メダルなるプロジェクトは、直ぐに凍結しろ。
人は、苦労をして力を手に入れなければならんのや。
安易すぎる力は、ロクな結果にならん。」
開発部の苦労を全否定する辛辣な言葉だ。勘平に好意的な芽高社長でも、さすがに聞き流せなかった。喜田による一連の説得工作が、芽高派閥の結束力を崩す為の画策と言うことに気付かずに・・・。




