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Ⅱ-2・師弟制度~上司滋子~逸材の弟子

-5年後(現代の約35年前)-


 退治屋の主力は、ヘイシシステムがマイナーチェンジを繰り返して強化されたヘイシⅡシステムに移り変わっていた。ヘイシⅡは装着者が封印妖怪に食われる危険性は無かったが、代わりに装着者の才能を必要とするシステムだった。陰陽道を習っただけでは装着をしても満足に稼動できない。霊力の高い者しか満足に扱えないという理由で、装着者の負担を強いた。

 ヘイシⅡの台頭により、年功序列ではなく、才能の高い者がヘイシⅡを装着してミッションのチーフとなり、ベテランでも霊力の低い者はサポート役のヘイシ(初期型)しか装着できないという、実力主義の線引きが為された。


「粉木くん、すまないが、皆の模範になってくれ。」


 若くて人生経験が未熟でも、才能が有れば即戦力でチーフに成れてしまう歪さに憂慮をした上層部は、ベテラン退治屋が次期主力を育てる「師弟制度」を導入した。師として真っ先に白羽の矢が立ったのが、既に古参の域に達し、自他共に認める退治屋の功労者・粉木勘平だった。


「ガラじゃ無いんだけどなぁ。・・・まぁ、しゃーないか。」


 勘平が師を引き受けたことがキッカケになり、芽高などの他のベテラン退治屋達も、「師弟制度」を受け入れる。


・退治屋候補生は、本部に就学をして、2年~3年程度、陰陽道を学ぶ。

・本学終業後、ベテランの退治屋の弟子と成る。

・弟子の育成を優先する為、師弟には、下級妖怪事件、

 もしくは、他の者が担当する妖怪事件の補佐を割り当てる。

・弟子は、師の元で、1~2年の実務を経て、妖幻システムが支給される。

・師の役割はあくまでも弟子の育成なので、妖怪討伐の中核は弟子に任せ、

 師はアドバイスとサポートに専念をする。

 (要は、弟子が余程の危機に陥らない限り、師は全力では戦わない)

・妖幻システム取得後、更に2~3年の実務を経て独り立ちをして、

 主任の役職を与えられる。(弟子のうちは、どんなに活躍をしても平社員)

・役職取得後は、単独、もしくは、グループで妖怪事件を担当する。

 事件の規模に応じて、ヘイシ(一般隊員)の指揮を任されるようになる。

・平均で二十年程度の実績を得た後、指導者の才覚を認められた者は「師」となる。

・師は、弟子が独り立ちをした後、新たなる弟子を取る。


「粉木さんは、ヘイシⅡを使う気は無いのですか?」


 未だにサマナーシステムを使っている勘平に対して、当時の弟子が質問をする。


「サマナーの方が慣れとるんや。」


 攻撃力だけならば、妖怪退治に特化したヘイシⅡの方が優れていた。だが、テクニックを駆使した多様性ならば、未だに総合力ではサマナーシステムの方が上。勘平は、使いやすい異獣サマナーアデスで戦い続けた。


 同時期、サマナーシステムの解析を続け、「封印した妖怪を装甲の形で実体化をする」という方式で、退治屋は「無」からプロテクターを出現させる技術を獲得した。

 話を聞きつけて開発室に顔を出した勘平と滋子を、技術責任者の芽高が笑顔で迎え入れ、ハイタッチで貢献を祝う。


「ようやく、此処まで来たな!」

「もう、サマナーシステムの方が優れているなんて言わせないぞ!」

「新しいシステムが完成したら、勘平もそっちに乗り換えるが?」

「完成品を見てみーへんと、何とも言われへんがな。

 ワシは後回しでええ。次世代の若いヤツらに支給するのが先や!」


 このプロジェクトはコードネーム・妖幻システム呼ばれ、本格的な生産ラインを確保する為に、社屋の隣に大きな開発工場が新築された。

 ただし、まだ開発段階であり、妖幻システムの実装には、更に数年の歳月が必要になる。




-10年後(現代の25年前)-


 通信網インターネットの発達により、退治屋の活動範囲は全国各地に広がる。組織の規模は膨れあがり、東京の本部と支部の他に、各政令指定都市に支店、各県に1~2の支部が設けられていた。


 芽高勇は、妖怪退治の実績、ヘイシシステム~妖幻システム開発の実績、勘平を勧誘して退治屋の在り方を変えた実績で、数年前に社長職に就任をした。

 滋子は、東京支部・妖怪退治2課の課長代理。勘平は2課のチーフの業務に就いていた。芽高は、気心の知れた勘平と滋子に本部での社長補佐を求めたのだが、勘平は「現場での弟子の育成」を希望し、滋子は「勘平が現場ならば私も」と支部に留まる。


「なんやて?またかいな?1週間前に弟子が独り立ちしたばかりやで!」


 師弟関係がマニュアル化されて以降、勘平は3人の弟子を一人前に育てていた。将来有望な若者が師に従事して独り立ちをするまでの期間は3~5年程度。既に3人を巣立たせていた勘平は、師としても優秀なことを証明していた。


「1週間も気楽に凄したんやさかい、もう良いやろう。」

「たった1週間や!ちっとは休ませいや、滋子!」


 事務所では、上司の砂影滋子と部下の粉木勘平が、「次の弟子」について低レベルな議論をしている。


「仕方ないやろ!

 いくら手を抜くフリをしたって、

 アナタの実績ちゃ、上がそんぐり把握しとるが!」

「オマンが細々と報告するからやろが!ちっとは隠せや!!」

「そうはいかんわ!

 アナタの下に付いた弟子ちゃ、その後も皆、順調に活躍しとるのちゃ!」


 2人がどうでも良い議論をするのは、今に始まったことではない。日常茶飯事な光景なので、特に誰も気にしていない。それどころか、滋子の弟子の夜野圭子は「相変わらず仲が良い中年バカップル」と茶化す。


「やれやれ・・・面倒臭い女を上司にしてもうたわ!」

「芽高君、直々の指示ちゃ!」

「やれやれ・・・面倒臭い男が社長になってもうたわ!」


 滋子と勘平の腐れ縁は25年を経過していた。彼等が若い頃は、周りの人間は「息が合う2人は、やがて結婚するだろう」と思っていた。だが、今に至るまで、2人が所帯を持つことは無かった。

 勘平は若い頃から、心の片隅で「死」と向かい合っていた。だから、新しい家族を背負う気が無い。滋子は、勘平の心に傷を把握した上で、彼の一番の理解者、兼、管理者を続けている。


「今回の子ちゃ、これまで就学してきた子の中で、

 いっちゃん優秀な成績を修めとるわ。

 上層部では『狗塚家と同等の潜在能力』とか、

 『数百年に1人の逸材』と評価しとる人もおるくらいちゃ。」

「だったら、評価しとるヤツに付ければええやろが!」

「へぇ~~~・・それで良いが?

 『弟子にしたい』っていっちゃん熱望しとるのは、喜田常務なんやけどね。」

「・・・あの、自己保身ばかりの、頭でっかち・・・か。

 有能な若者を自分の駒にする魂胆が見え見えやな。」


 喜田御弥司は、実力ではなく血縁で幹部になった男。彼の父(前社長)や、祖父の喜田仙蔵(勘平が退治屋に参加した時の社長)には恩義を感じている勘平だが、彼のことは嫌っている。


「政治と自己保身に労力を割いとるヤツに、『数百年に1人の逸材』は預けられん。

 しゃ~ない、ワシが面倒を見よう。なんちゅう名前の子や?」

「日向信虎、20歳!・・・頼んだわよ、勘平師匠!」


 滋子が差し出した「新しい弟子」の履歴書を、勘平は面倒臭そうに受け取って、目も通さずに脇の机に置く。その光景を見た同僚達は、「また始まるぞ」と必死で笑いを堪えた。次の瞬間、滋子のカミナリが勘平を直撃。置き去りにされた履歴書を掴んだ滋子が、勘平の顔面に押し当て、勘平が悲鳴を上げてギブアップするまでアイアンクローを続ける。



 勘平の了承から3日後、まだ少年の面影を残した20歳の若者が、勘平の弟子として配属をされた。


「日向信虎です。宜しくお願いします。」

「聞いてんねん。めっちゃ優秀なんやってな。」


 退治屋を目指す若者は、本部で2~3年の就学をしてから、師の元に配属されて実務経験を積む。つまり、2年で就学を終えた信虎は、優秀な部類に属すのだ。


「はい!文武共に首席です!」

「謙遜する気は無いんか?」


 まだ、「自分には何だってできる」と自信&希望に満ちた若者だ。勘平は、第一印象で「自信過剰な部分は、上手く導かなければ」と感じた。その日から、有能な師と、逸材な弟子の、退治屋業務が始まる。


「銀塊への霊力封入と護符作りは習うてるな?」

「はい、習いました。」

「なら早速やってみぃ。」


 最初の任務では、別師弟の担当する妖怪退治に加わり、銀塊&護符作りや情報収集でサポートをした。信虎は与えられた仕事を着実に熟し、「妖幻ファイターによる妖怪退治」を間近で観察する。

 2度目の任務も、別師弟のサポートだった。信虎は特に不平を言うことはなく、仕事を熟す。だが、3度目の同じような任務に就いた時、彼の様子が違った。


「粉木さん・・・。」

「なんや?サポートばっかりで飽いたとでも言うんちゃうやろうな?

 他人のやり方を学ぶのは、大切な事やで。」

「それは解っています。

 ・・・が、粉木さんは彼等の戦い方どう思っているんですか?」

「ん?何が言いたい?」

「粉木さんと俺なら・・・

 いえ、俺が粉木さんをサポートすれば、一般人に迷惑を掛けず、

 もっと早期解決をするように思えて。」

「・・・・・・・・・・・・・」


 勘平は驚いた。信虎の指摘は勘平自身が感じていたことと同じ。別師弟の要領の悪い戦い方を眺め、勘平は「自分が主導権を握ればもっと上手くできる」と感じならが、信虎の研修を優先させて黙って見守っていた。


「たかが下級妖怪相手に、こんなに沢山の銀塊とか護符なんて必要ありませんよね。

 あの人達(別師弟)、戦い方が下手くそすぎませんか?」


 別師弟のやり方に不満を感じた信虎は、与えられた役割を放棄して、単独で妖怪を誘き出して対峙をする。当時の信虎は、妖幻システムを所有していなかった為、最終的には別師弟の妖幻ファイターが妖怪を討伐したが、結果的には早期解決に繋がった。


「君、凄いな。さすがは粉木さんの愛弟子だ。」

「いえ、たまたま上手く行っただけですよ。」

「君の実績は、上層部に報告しておくよ。」

「宜しくお願いします!」


 勘平は、独断専行をした弟子を怒鳴りつけたかったが、別師弟が彼を高評価するので、受け入れるしかなかった。

 報告を受けた上層部は、優秀な師弟に難易度の高い現場を宛がう。討伐対象は中級妖怪。ベテランクラスの退治屋が複数班で対処する案件に、戦力の一角として加えられたのだ。さすがに、前回のような勝手な行動はできなかったが、優秀な師弟は、期待された以上の働きをして、妖怪討伐に貢献する。




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