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Ⅱ-1・都会~退治屋芽高~ヘイシ~滋子退治屋へ

※外伝は、本編に奥行きを持たせる目的のストーリーです。読み飛ばしても後の展開に影響はありません。

-約50年前-


 若き日の粉木勘平は、「心の師とも言える親友」の貴い犠牲と引き替えに、悪の組織から平和を守り抜いた。


「オマンのやりたかったことは、ワシが引き継ぐ。」


 まだ、世界が平和になったわけではない。人間社会を害する妖怪がいて、奴等と戦う陰陽師が存在する。陰陽師は、勘平の戦闘経験と、異獣サマナーの技術を欲していた。勘平は友の意思を継ぎ、陰陽師と合流をするために、旅立つ決意をする。


「行くのね、勘平。」

「ああ、世話んなったな。」


 旅立ちの日、共に戦った滋子が勘平を見送る。勘平は滋子を好いていたが、気持ちを伝えるつもりは無い。親友を失った勘平は、自分だけが幸せになることが許せなかった。そして、戦い続けることを選んだ勘平は、滋子と寄り添うのではなく、遠ざけることを選んだ。


「大学を卒業したら、私も妖怪の退治屋に就職するつもりやさかい、

 その時ちゃ宜しゅうね。」

「来んでいい。」

「尊さんの意思を継ぎたいのは、勘平だけでない。私もおんなじなの。」


 滋子の本心は、勘平の傍にいること。それは、勘平への好意と、粉木を放っておけない母性本能から発せられた想い。


「勝手にせい。」


 遠ざけたつもりなのに、数年後には、また交わるらしい。これを腐れ縁というのだろうか?


「そやけど、今度はワシの方が先輩。オマンはワシの部下やからな。」

「そっちゃどうかしら?

 就職は勘平に先を越されるけど、勘平ちゃ高卒で、私ちゃ大卒ちゃ。

 私の方が昇進が早いんでないのかしら?」

「・・・フン!」


 勘平は、滋子と再会の約束をして、新天地に向けて愛車のドリームCB250を走らせる。しばらく走っていると、不意に気配を感じたので周囲を見廻した。しかし、この田舎道では、怪しい奴どころか、通行人すら満足に居ない。


「気のせいか?」


 何気なくバイクミラーに視線を移した勘平は、気配の主を把握する。鏡の中だけにローブ姿の男いて、勘平を見詰めていた。勘平にサマナーホルダを提供した異世界人だ。勘平は、些か面倒臭そうな表情をして、バイクを路肩に停車させる。


「もう、ワシには用が無いはずや。」

〈あえて修羅道を選んだ愚か者を眺めに来た。〉

「ならもう気は済んだな?」

〈ワルキューレの次は妖怪か?〉

「それがどないした?サマナーホルダを返せとでも言うつもりか?」

〈いや、それは貴様にくれてやった。好きに使うが良い。〉

「なら、なんの用や?」

〈どう使おうが貴様の勝手だが、人間には過ぎたる力と言うことを忘れるな。〉

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ローブ男はバイクミラーから去り、同時に気配は消える。ローブ男に指摘をされた勘平は、「親友の最後」を思い出して、しばらくは動けなかった。




-東京・渋谷区-


 渋谷駅前の路肩にバイクを止めた勘平が、地図を広げて周辺を確認する。


「退治屋は何処や?」


 都会は雑然としていてよく解らない。昨日まで生活していた「適当に走っていれば何とかなる地域」とは大違いだ。


「しゃーない、聞くかの。」


 勘平は通行人を物色する。美人でオシャレな服を着た女性だらけ。多種多様な服装の人々が行き交う。


「田舎の女子大生とは別物やな。」


 勘平の視点では時代遅れと感じるスリーピーススーツが目に付くが、都会では流行っている?ツインセーターやプリントシャツドレスやトレンチコートやポックリ靴なんて言葉を勘平は知らない。昨日まで生活していた地域ならば、とりあえず、男はラッパズボン(ベルボトム)、女はミニスカ(膝上)を着用しておけばNOWだったが、都会は大違いだ。


「なぁ、そこのベッピンさん!」


 目に付いた派手なワンピース(プリントシャツドレス)美しい女性を呼び止めて、地図を見せながら目的地を聞く。


「1キロくらい北に行ってください。

 大きな公園があるので、行けば解ると思います。」

「1キロも?駅の近くって聞いたんやけど・・・。」

「あははっ!東京は初めてですか?

 ここは渋谷駅です。貴方が行きたいところは、原宿駅の近くですよ。」


 可能ならばお近付きになりたかったのだが、田舎者丸出しがバレて笑われてしまった。


「ありゃ?違う駅かいな?」


 東京は駅が沢山在ることは把握していたが、1キロ圏内で駅が在るとは思わなかった。勘平は女性に礼を言ってバイクを発車させる。言われた通りに北に直進すると、目の前に、緑で覆われた大きな公園が見えてきた。


「あれが、明治神宮っちゅ~所かいな?」


 明治神宮の一角の広い敷地に、木造3階建ての施設が建っていた。誰が見ても解る看板は掲げていないが、この施設が怪士対策陰陽道組織(退治屋)だ。日本の何処かで妖怪事件が発生すると、陰陽道を学んだ隊員が、調査、及び、妖怪討伐の為に出動をする。


「さすがは、政府お抱えの組織やな。」


 施設の前に到着をした勘平が、バイクに跨がりながら施設を見上げる。


「オヤッサンの工場を基地にして、

 モグリで戦うとったワシ等とは規模がちゃうってか。」


 怪士対策陰陽道組織(退治屋)は、20世紀の初め頃、大日本帝国時代の内閣参与が、人外から帝都(首都)を中心とした内地(日本列島)を守る為に、非公開で立ち上げた組織。


「芽高のヤツ・・・おるかのう?」


 まだスマホどころか初期型の携帯電話も無い時代。一応、ポケベルの黎明期だが、勘平は、そんな最新のテクノロジーを知らない。目当ての人物と合うには、固定電話で呼び出して待ち合わせるか、直接会いに行くしか手段が無い。勘平は、バイクを駐車場の隅に駐めて建物に入った。

 やや熱気の籠もった広い事務室に幾つもの木の机が並んでおり、綺麗に整理された机と、書類が雑然と山積みにされた机がある。勘平は、入口脇のカウンターに凭れ掛かって、近くの事務員を手招きで呼び寄せた。


「粉木っちゅ~モンやけど、芽高くんはおるか?」

「粉木様ですね。少々お待ちください。」


 事務員は、内線を使って勘平の目当ての人物を呼び出す。


「ほぉ~・・・さすがは都会。内線があるなんてNOWやのう。」

※「NOWな」は1970年代に使われ始めた言葉。

 後に「ナウい」に変換されて流行語になる。


 粉木は、化粧栄えした事務員で目の保養をしながら、目当ての人物を待つ。3分ほどの後、騒がしく階段を駆け下りる足音が聞こえて、勘平と同世代の顔見知りが駆け付けてきた。


「やぁ、粉木さん!来てくれて嬉しいよ!」

「おう、芽高!元気にしとったか?」


 芽高と呼ばれた青年は、勘平の手を取って再会を喜ぶ。勘平が芽高勇と会ったのは、妖怪と戦った時だった。厳密には、妖怪とは知らずに交戦状態に成り、妖怪退治専門の芽高と共闘をして討伐に成功をした。


「粉木さんのことは、社長に報告済みです。早速、社長に会ってください。」

「いきなりかいな?落ち着いて、茶くらい飲ませろや。」

「社長室で飲んでください。

 社長も、粉木さんに会うのを楽しみにしてますよ。」

「しゃーないのう。」


 勘平は、芽高青年に案内されて、3階の社長室へと向かう。社長は、勘平の訪問を喜び、挨拶を交わした後、応接のソファーを進めてくれた。勘平と社長が向かい合わせに座り、芽高は社長の隣に腰を降ろす。


(へぇ・・・気さくな社長さんやな。)


 社交辞令的な世間話から始まり、喜田社長は、怪士対策陰陽道組織(退治屋)の活動内容を説明してくれた。

 勘平は、深くか語らない範囲で、自分が異獣サマナーとして怪物と戦い続けたことを説明して、芽高が、「粉木に助けられたこと」と「粉木の有能ぶり」を補足説明する。


「まぁ・・・元々、手ぇ貸すつもりで此処に来たさかいね。

 給料泥棒と言われへんくらいの仕事はするつもりでっせ。」

「はっはっは・・・心強い言葉だ。

 国の公僕だから高給と言うわけにはいかないが、

 最低限の生活をできる基本給と、妖怪退治に伴う歩合のボーナスは約束しよう。」

「・・・公僕・・・か。」


 勘平は、権力に縛られることを嫌ってフリーを生業とした。それが、数年を経て国の役人である。我ながら「変われば変わるもの」と感じてしまう。


「早速だが、君には、芽高君と同じ妖怪討伐班に加わってもらいたい。」

「椅子をケツで暖めて、事務仕事をするのは苦手やさかい、

 ワシとしても、その方がありがたい。」


 やがては、サマナーシステムを分析して、退治屋が扱える装備を開発するつもりだが、その為には国から資金を引っ張り出さなければならない。だから、先ずは異獣サマナーを実戦投入して実績を上げ、国を説得するデータを作る。理にかなったアプローチだ。

 勘平は本日付の辞令で退治屋の社員になり、芽高と共に一礼をして社長室から退出する。


「なぁ、芽高?」

「なんですか?」

「退治屋は官庁なんやろ?」

「官庁ではないけど・・・まぁ、国の機関ですね。」

「せやのに、社長さんは世襲制なのか?」


 社長室に飾ってあった歴代社長の肖像のうちの数枚が現社長と似た面影を持っていたので、疑問に感じた勘平が尋ねる。


「その辺は、政治家と同じ・・・と考えてください。

 そのお陰で、国と太いパイプがあって、一定の資金を引っ張れるみたいですよ。

 俺には政治のことはよく解りませんが・・・。」

「なるほどな。」


 怪士対策陰陽道組織(退治屋)の初代の代表には、組織を開闢させた内閣参与の血族が宛てられた。それが、現代表・喜田仙蔵きた せんぞうの先祖になる。退治屋は個人企業や世襲制ではないのだが、創始以降、院政で従えられる他者で中継をしながら、代々の喜田家がトップに君臨をしていた。今の退治屋も、現代表の後任は、副代表が一時的にトップに収まり、数十年後には、喜田仙蔵の子、そして孫の御弥司に引き継がれることになるのが暗黙の方針だ。

 ただし、この当時は、50年後の規模が拡大した退治屋とは違い、組織を盛り立てて日本の平和を守る為に、社長と社員が一丸となっていた。


「まぁ・・・あの社長さんなら、好きになれそうやさかい文句はあれへんがな。」


 勘平の退治屋としての活動が始まる。尤も「退治屋の守備範囲は全国各地」とは言うものの、21世紀ほど通信網が発達をしていない時代なので、地方での神隠しは、余程の大規模にならなければ本部には伝わらない。関東圏、及び、東海~関西圏が、退治屋の活動の中心だった。


 異獣サマナーアデスが妖怪を弱らせ、陰陽道を扱える隊員が浄化をする。その様子を映像に記録して、報告書と共に国に提出をする。最初は、ひたすら実績を作り続けた。

 唯一戦える勘平は、妖怪事件が発生すれば最優先で現地に向かい、妖怪事件が無い時は本部で陰陽道を学んだ。異獣サマナーのおかげで妖怪退治の実績は大幅に改善され、1年が経過をする。


「喜んでくれ、粉木君!」


 遠征から戻ってきた勘平を、社長自ら会社の前で待機をして出迎えてくれた。彼の笑顔を見た勘平は、一定の手応えを感じる。


「開発資金が下ったか?」

「その通りだ!

 サマナーシステムを分析して、試作装備を開発する許可が下りたぞ!」


 異獣サマナーをプロトタイプにした新装備があれば、勘平以外も妖怪と互角に戦えるようになる。妖怪討伐が加速して、且つ、隊員の安全性が高まることは喜ばしいことだった。


「そやけど社長・・・

 分析のためにサマナーシステムを貸すには、一つ条件があるんや。」


 勘平は、サマナーシステムの『人命を無視した性能』に疑念を持っており、人体に負担をかけないシステムの開発を、サマナーシステム提供の前提条件にした。


「君の友人に起きた不幸な事故は承知しているよ。

 私は、大切な従業員を同じ目に合わせたくはない!」

「頼んまっせ。」


 退治屋の戦闘強化服=コードネーム・ヘイシの開発がスタートする。



 サマナーシステムがモンスターとの契約で戦闘能力を上げるように、ヘイシシステムは妖怪の力を戦闘力に変換することが決まった。しかし、当時の退治屋は、妖怪を浄化する能力のみで、封印したり使役する技術は持ち合わせていなかった為、鬼退治の名門・狗塚家に技術協力を依頼した。


「いいだろう。妖幻システム完成の暁には、提供をしてもらえるなら協力をする。」


 当時の当主・狗塚善仁は、陰陽道による鬼退治に限界を感じていた為、喜田社長の申し出を快く引き受けた。

 ただし、サマナーシステムのように、「無」からプロテクターを出現させる技術など無いので、霊力を溜め込みやすい材質で作られたプロテクターに、妖怪を封印して使役するシステムを目指した。


 プロトタイプは、使役妖怪の能力をそのまま戦闘力として扱う為、装着者の霊力が使役妖怪の妖力に負けた時点で魂を食われ、装着者が死ぬまで暴走を続ける。名門の狗塚ですら、装着により体力を大幅に消耗させた。それでも、当時の退治屋達は、激しい戦いに勝つ為に、命を媒体にするしかなかった。


「これでは、友の命を奪ったサマナーシステムと変わらないではないか!」


 事態を重く見た開発局は、プロトタイプ・ヘイシに封印された妖怪に、大幅なリミッターをかけた。それでは、戦力として脆弱だったので、ヘイシ装着者の数や、サポートをする一般隊員で補う。


 一定の手応えと失敗を重ね、必要に駆られ、退治屋は従業員数が増えていく。



「芽高くん!声、まだ籠もっとるわちゃ!」


 勘平から2年遅れで就職をした砂影滋子が、ヘイシプロテクターに妖怪を封印する際の「妖怪の声」を聞いて、技術責任者の芽高勇にダメ出しをする。


「そうか?俺には、いつもと変わらないように聞こえるんだがな。」


 ヘイシプロテクターの精度と、妖怪の質によって、リミッターの割合が変わる。同種の妖怪でも、発生条件や地域に差があり、リミッターは一様にはならず、戦闘能力が弱すぎたり、妖怪の使役力が低下して上手く扱えなくなる。滋子には、それらの「ちょうど良い」声を聞き分ける才能が有った。


「滋子が言うんや。やり直してや。」


 勘平が口添えをして、芽高は部下に「やり直し」の指示を出す。

 滋子が「新入社員の初々しい事務員さん」として、勘平にとって「可愛い後輩」だった期間は短かった。当時はまだ、女性の社会進出率が低い時代で、滋子には現場ではなく、お茶汲み係、兼、事務員の職務が与えられたのだが、時間を持て余して、勝手に開発部に遊びに行き、声を聞き分ける才能を発揮した。

 大学では英語を必修していた為、外国の技術を読み込む語学力があり、古典を選択していた為、古い文献を読んで妖怪の性質を把握することができた。

 滋子の入社から3年。彼女は、お茶汲み係、兼、事務員とは名ばかりの、開発部のアドバイザーになっていた。そして、男女の区別をしない喜田社長の意向で、更に2年後には、勘平よりも昇進をしていた。


「ほらね、勘平。言うた通り、私の方が昇進が早かったやろ。」

「じゃかましいっ!」


 勘平の昇進が遅いのは、未だに現場は勘平に頼ることが多く、且つ、勘平が現場を望むからなのだが、彼は昇進を喜ぶ滋子に、あえてそれは言わない。

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