28-3・燕真の結論~見守る崇
-YOUKAIミュージアム駐車場-
立ち上がり、燕真を睨み付けるブロント!燕真は、『閻』のYメダルを握り締めて構える!
「アンタ、なんでジジイを恨んでんだ!?」
燕真は今更、なんでこんな質問をするのだろうか?
粉木に殺されたから粉木を恨んでいる。それは、ここにいる誰もが把握済み。粉木と砂影は驚き、ガルダは呆れ、ブロントは苛立ちを募らせる。
「だってさ、アンタ、正々堂々と戦って負けたんだろ!?
ジジイがスゲー嫌なヤツで、何もしていないのに、
いきなり殺されたワケじゃないんだろ!?
もっと言えば、命を掛けて反乱したんだろ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それとも、オマエみたいな優秀な奴って、命なんて掛けないのか?
プライドとかそんなのを掛けちゃうのか?
俺、命の他に、掛けるもん何も持ってないからさ・・・
天才の考え方が解らないんだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だいたいさ、25年前の事件で一番悪い奴って誰なんだ!?
ジジイなのか?アンタなのか?その時の社長なのか?銀のメダル作った人なのか?
俺には全部違う気がするんだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いくら考えても解らないんだよ!
俺がアンタの立場だったらどうなんだろう?って・・・。
やっぱりジジイを恨むのかな?
事件の話は、ジジイからしか聞いていないから、
俺にはアンタの言い分は解らない。
でも、ジジイが、一方的に恨みを買うような極悪人じゃないのは知っている。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ジジイは反省ばかり、狗塚は否定ばかり、ババアは心配ばかり、
そしてオマエは恨みばかり、
利口なヤツの考え方は俺には理解できない!だから、教えてくれ!!」
「下らない事をゴチャゴチャと・・・」
苛立ちが最高潮に達したブロントが大太刀を構え、燕真目掛けて突進をする!
「・・・・・・・・え?こんだけ話したのに全部スルー!??マジでっ!!?
1個くらい答えろ!!」
慌てて後退する燕真!ガルダが銃を連射してブロントを足止めする!
「このバカ!サッサと変身をしろ!!
・・・と言うか、生身でブロントを殴る余裕があったら、その前に変身をしろ!」
「悪ぃ!体が勝手に動いてた!」
燕真は、左手のYウォッチから『閻』メダルを抜き取って和船バックルに嵌む!
「幻装っ!!」
妖刀を召還して構えるザムシード!ブロントは大太刀を頭上に構えて、ザムシード目掛けて突進!ザムシードは振り切られた大太刀の刀身を受け止めるが、衝撃を受け流しきれず、バランスを崩して数歩後退をする!刀身を返して、2撃目を振るブロント!ザムシードは慌てて妖刀で防御するが、やはり力負けをして、衝撃を抑えきれずに後退をする!すると今度は、電撃を帯びたブロント蹴り飛んで来て、ザムシードの腹に炸裂!更に、ブロントの掌から放たれた雷球が、全身が痺れて動けないザムシードを弾き飛ばす!この戦いで何度目だろうか!?またも、無様に地面を転がる!
力の差は歴然。いくら仕切り直しても、最も無能な弟子が、最も優秀な弟子に適う術など見当たらない。だが、ガルダも粉木も、戦いを眺めたまま、動けなくなっていた。
「のう、狗塚・・・さっき燕真がヤツ(ブロント)に聞いたこと、理解できたか?」
「・・・え!?」
「ワシには理解できた。・・・だが、直ぐに答えてやる事ができんかった。
多分、アイツ(ブロント)も同じや。
理解しながら、苛立ちで答えを誤魔化しておるんや。」
「実は俺も・・・」
「おそらく、あのバカ(燕真)は、未だに何一つ解っておらん。
だが潜在的には解っておる。
何故なら・・・ヤツの質問その物が答えだからや!!」
砂影が寄って来て、粉木と肩を並べる。
「さっきまでは、信虎ちゃ、燕真の事をなーん相手にしとらんかったわ。
粉木の弟子やさかい、粉木のついでに殺す程度しか考えとらんかったはずちゃ。
でも今ちゃ違う・・・燕真に対する明確な攻撃意思を持っとる。
信虎ちゃ気付いしもたのちゃ。
いっちゃん優秀を自負する弟子が、いっちゃん無能を理解しとる弟子に、
根底を覆されしもた事を!」
ブロントは「粉木への強い憎しみ」を持ち続けている!だが、その根底にある物が何なのか解らなくなっていた。苛立ちの原因は、「燕真の下らない質問」ではなく、「質問の答え」だった。有能な者が無能な者に八つ当たりをするように、ブロントはザムシードへの攻撃をしていた。
有能な者は1を聞けば10を理解する。自分なりの10を見付けて行動する。其処に意見をぶつけ合うなどという無駄な行動は無い。
無能な者は1だけを聞いても動く事が出来ない。10を聞いても5も理解できない。だから何度も聞き返す。20を行動して、間違いを否定され、やっと10を理解する。無駄な意見のぶつけ合いを何度も繰り返す。そうしなければ、何も理解ができないからだ。
「何故、恥も外聞もなく、その様な下らない質問を並べられるのだ!?」
1を聞いて10を理解する能力は素晴らしい。皆が賞賛する。だが、「1を言った者が求める10」と、「1を聞いた者が実行する10」は、本当に同じ答えなのだろうか?全く同じゴールを目指していたとしても、同じ答えにならないこともあるのではないか?求めるゴールがズレていたならばどうなる?
その連続が、20年前の事件に繋がったのではないのか?
もっと聞くことができれば・・・もっと踏み込み、自分の考えをぶつけていれば・・・擦れ違いは起こらなかったのではないか?
其処にいるのが日向信虎本人ならば、燕真の質問に耳を傾け、立ち止まったかもしれない。だが、其処にあるのは恨みの思念だ。恨みが、恨むことを止めるなど有り得ない。
何故、この男は、こんなに下らないことを聞ける!?何故、自分は、それを下らないと決めつけて聞かない!?
ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・
「選ばれし者と凡百を一緒にするなっ!!」
何故、話し合おうとした社長を、問答無用で切り捨てた!?
ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・
「無能な老害に何を言っても時間の無駄だっ!!」
あの日、憎かったのは、本当に粉木勘平なのか!?
ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・
「ヤツがいなければ、俺は頂点に立っていたっ!!」
頂点の先には何がある?何を求めていた?
ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・
「有能な者がトップに君臨する!それが道理!!
無能ごときが、対等な面をして、ほざくなぁぁぁっっ!!!」
渾身の雷撃を込めた大太刀が、ザムシードの脳天目掛けて振り下ろされる!ザムシードは、『炎』メダルを装填した妖鞘から妖刀を抜刀し、ブロント目掛けて振り上げる!2つの刃は交わることなく、互いの胸プロテクターに叩き込まれた!
「オマエ・・・相打ち狙いっ!!?」
「どうせ、受け止めたって痺れるんだろ!!?
だったら、受け止める意味が無いだろうにっ!!」
同時に爆発が起こり、ザムシードは弾き飛ばされて地面を転がり、ブロントは数歩後退をする!ブロントの武器の方がリーチが長い分、攻撃がクリーンヒットをしたのだ!
ザムシードの劣勢は変わらない。何をやっても、ブロントには数歩及ばない。だがそれでも、粉木もガルダも、戦いの傍観から動けなくなっていた。
「・・・佐波木。」
雅仁は、日向信虎と似た気質を持っている。無駄話が苦手で、最小の会話で、最大の理解をしようとする。
文架市の退治屋を頼って、度々、紅葉と口論を繰り返すようになった。今でも煩わしく感じることがある。何故、紅葉は、自分の理路整然とした意見を理解しないのか、文架市に来た当時の雅仁には解らなかった。だが、粉木や燕真と過ごし、会話を重ねるうちに、色々な意見が有り、正しい意見だけが全てではないと認めるようになる。
燕真は、紅葉に対して、時として意見を押し切られ、時として受け流し、時として真正面から受け止める。自分の意見だけで理論武装をして、相手の意見を受け入れない雅仁とは違った。主体性が無く、他人に流されやすい性格とも取れるが、天才肌の紅葉が、そんな燕真に居場所を見付けて心を開いている。
いや、紅葉だけではない。いつの間にか、雅仁も佐波木燕真と共にいることを楽しむようになっている。
「・・・燕真。」
粉木は、無能な弟子に対して何度も呆れてしまった。何度も怒鳴りつけ、意見をぶつけ合った。これまで、これほど理解力の乏しい弟子はいなかった。正真正銘の最も出来の悪い弟子だ。
だが、だからこそ、燕真の考えていることは手に取るように解る。燕真の危なっかしい部分は事前にフォローできる。
何故、燕真以外の弟子には、それができなかったのか?答えは、それを必要とされなかったからだ。だが、それで良かったのか?もっと手を差し伸べ、意見を聞き、信念を戦わせる必要があったのではないか?
かつての弟子達に、技術を教えることはあっても、道徳は教えなかった。佐波木燕真は、退治屋としては最も劣っている。だが、心は誰よりも温かい。
「燕真ゎ大丈夫だょ・・・
だって、足が痛くてビリなのに、最後まで走ったんだもん。
スーパーヒーローゎ、どんなに痛くても、最後には勝つんだょ!」
合流をしてきた紅葉が、ガルダと粉木に肩を並べて呟いた。続けて、砂影が口を開く。
「天才は『出来ないこと』を理解できない。
秀才は『努力が実を結ばないことを手抜き』と判断する。
どちらも、自分と同等の者以外を置き去りにしてしまう。
だけど、あの子は違う!・・・何もできないから、何も置き去りにはしない!」
妖刀を杖代わりにして、立ち上がるザムシード。あちこちから煙が上がっており、蓄積されたダメージで体が重たい。
粉木は「燕真に託そう」と考えていた。有能な師が有能な弟子を育て、失敗をして、最後に行き着いた答えが無能に託すこと。燕真が負ければ、自分も25年前の恨みに殺されることを受け入れるつもりだ。
ガルダは、ザムシードが負けた時点で、彼が殺される前に、戦いに割って入るつもりだが、今は「凡人中の凡人が示す答えを見たい」と考えていた。
「ジジイを殺されちゃ困るんだ!まだ、習わなきゃならないことが沢山ある!」
粉木&ガルダ&砂影は気付いていた。ザムシードは、この戦いに最も有効な手段を使おうとしない。
妖刀ホエマルには、物質を通過して妖力のみを切る性能がある。ホエマルに白メダルを装填すれば、その機能は発動される。斬り合いならば、数太刀でブロントを弱らせるだろう。同様に、エクソシズムキック時に召還される地獄の炎は、物質には干渉せずに妖力を焼く。
「ヤツをちゃんと納得させる!
いくらムカ付くヤツだって、容赦なく地獄行きじゃ俺が納得できないんだよ!」
ザムシードは、土壇場まで有効な手段を使う気は無かった。妖力斬りも、地獄の炎も、念に直接ダメージを与える。それでは、本当の意味で、念を晴らしてやれない。以前、鵺に手も足も出ず、依り代の霊体少年を切ることでしか解決できなかった(第6話)。悔しくて仕方がなかった。もうあんな思いはしたくない。
「俺ができることは、全部試す!!」
紅葉の手の中で、水晶メダルが‘ドクン’と脈打つ。手を広げると、透明だったはずのメダルが虹色の光に包まれ、ザムシードと同じ妖気を放っている。ザムシードに共鳴をしながら、更なる霊力を求めている。これまで、紅葉は水晶メダルに2回の霊封を行ったが、メダルが満たされることは無かった。次の霊封で満たされるのか解らない。だがそれでも、劣勢のザムシードを助ける為に、一切の迷いは無かった。
「うにゃぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
紅葉は奇声を発し、燕真を黒いザムシードから救った時のように、限界を超えた霊力を水晶メダルに注ぎ込む!
-喫茶店内-
「さて、そろそろ行くか。」
「あぁ、準備は整ったようだ。」
カウンター席から立ち上がる司録と司命。テーブル席に闇霧が発生して人影を作る。それは、穏やかな表情の青年の姿になり、司録&司命を見詰めた。
「彼を頼むよ。」
「安心しろ。」
「宿敵の貴公に言われるまでも無い。」
司録&司命の姿が徐々に透明になり、やがて、飲みかけのコーヒーカップだけをカウンター上に残して消えた。
「エクストラに必要な物・・・
もう1つは、倒す為や、成り上がる為の渇望ではなく、守ろうとする強い意志。
ザムシードの力と同じ・・・
力を当然と考える天才の類には使いこなす資格は無い。
力の有難味を知る凡人でなければ、危険な力は預けらない。
・・・つまり、彼は、最初から、どちらの答えも手にしていた。
その価値に気付いていなかっただけ。」
青年は闇霧へと姿を変え、その場から消える。




